GOES 10 GOES 08
2000/07/15
‑10 0
10
‑10 0 10
Y (RE) X (RE)
太陽
G O E S 8
GOES 10
図8‑9 (上)静止衛星 GOES 8、および 10 による磁場南 北成分。(下)静止軌道(点線:黄道面に投影)。19:00−
22:00 間の GOES 8 、および GOES 10(太線)の位置。
細い一点鎖線は平均的な磁気圏境界面、太い鎖線は 衝撃波によって圧縮された磁気圏境界面を示す。
14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
‑50 0 50
UT B
Z(nT)
2000/07/15 (Wind)
面の位置を推定したものである(一点鎖線)。平均 的な位置(細い鎖線)と比較すると、このとき磁 気圏境界面(太い鎖線)は強く圧縮されたことが 分かる。
前章で述べたように、惑星間空間磁場が南向き の成分を持つと、太陽風のエネルギーが磁気圏に 侵入して磁気圏尾に蓄えられる。そのエネルギー が解放されるとき、極地方に大規模なオーロラが 出現する。7 月 15 日から 16 日にかけてのオーロ ラ活動は極めて広範囲に及び、北海道でも観測さ れたという報告がある。このような磁気圏の大規 模な変動を、地上で常時監視するために、Dst と 呼ばれる地磁気指数が用いられる。(Dst 指数は、
地磁気赤道付近の磁場の減少を表す。より詳しく は、章末の囲み記事を参照。)図 8‑11 は、2000 年 7 月の Dst 指数の変化である。Dst 値が ?300 nT を下回るほど大規模な磁気嵐は、太陽の活動期に おいても、年に一、二回程度である。これ以前に は、同年 4 月 6〜7 日、以後には翌年の 3 月 31 日 に同規模の磁気嵐が起きている。
本章の冒頭で述べた通信障害は、フレアによる X線の増加、およびその後の磁気嵐に伴う磁場変 動によって電離圏の電子分布に大きな変化が生じ て起こった、と解釈される。地球が、太陽の作り 出す環境の中にある惑星の一つであることを示す 格好の例として、ここに紹介した。衛星通信が用 いる周波数の高い電波は、電離圏を貫通するため、
磁気嵐の影響を被ることは少ない。また、通信衛 星が飛航する静止軌道は磁気圏内にあるため、普 段は太陽からの強い放射線からは守られている。
しかし、この例のように強いフレアが発生すると、
高エネルギー粒子は静止軌道にまで侵入すること がある(図 8‑12)。そして、被曝によって電子機 器が障害を受けて、衛星自身が機能を失うことが ある。1997 年 1 月 6 日に通信衛星の一つが機能を 失った事故は、同日に発生したコロナ爆発が原因 と見られている。被害を受けるのは電子機器だけ ではない。宇宙飛行士が船外活動をしているとき に、同程度に被曝すると、致死量を超えると予想 されている。また、宇宙船内に居ても、現在の宇 宙船の構造では、甚大な被曝は免れ得ない。
人類の宇宙における活動が、今後より活発化す る事態に備えて、宇宙天気予報の可能性が現在探 られている。1820 年、史上最初の天気図(気圧分 布図)が描かれた。ドイツ人のブランデスは、こ の天気図を見て、時折ドイツを襲う嵐が、広範囲 に渡る気圧配置の変化が原因で起こることに気づ いた。その後、天気予報というものが可能になり、
今日では、地上と宇宙からの立体的な観測によっ て、信頼性の高い予報が可能になっている。現時 点における、宇宙天気予報は、1820 年における天 気予報と似たような状況にあると言えるだろう。
我々が、毎朝、その日の天気予報に注意を向ける ように、将来、宇宙ステーション内で、あるいは 月面基地で、宇宙天気予報が話題になるかもしれ ない。
5 10 15 20 25 30
-300 -200 -100 0
Dst (nT)
2000/07
日 7/1
図 8‑11 2000 年 7 月の Dst 指数(京都大学地磁気資料セ ンター)。
14 15 16 17
10‑2 10‑1 100 101 102 103
日 陽子束(/keV cm2 ster sec)
1.2 - 5.0 MeV
図 8‑12 静止衛星( LANL1989)が記録した高エネルギー 陽子束の増加。
Dst 指数
前節で述べたように、一様な磁場中を運動する 荷電粒子は、ローレンツ力によって円運動をする が、場所によって磁場の強さに違いがあると、そ の運動は非常に複雑なものになる。例えば磁気的 な赤道面では、円運動の半径は磁場が強い地球の 近くでは小さく、遠くでは大きくなる。その結果、
図 8‑13 のように,正の電荷は西回りに、負の電荷 は東回りに地球の周りを回転する。電荷が磁力線 と平行な速度成分を持つ場合、さらに複雑な運動 をする。
このような荷電粒子は、磁気圏に閉じ込められ 地球の周りに放射線帯を作る。粒子の密度は、地 球の中心から半径の 3‑4 倍のところが最も高い。
密度のピークの外側では、より内側の粒子が多い ため、地球を取り巻く西向きの電流が流れる。逆 に密度ピークの内側では、東向きの電流が流れる
(図 8‑14)。このような地球を取り巻く電流を冠 電流(リング・カレント)と呼ぶ。西向きの電流 は、地表付近の磁場を弱め、東向きの電流は強め る。両方の効果が合わさるが、結果的には、西向 き電流の効果が勝って磁場を弱めることになる。
この磁場の変化量を低緯度に分布する4つの観測 所で測定して算出しているのが、Dst 指数である。
極端にエネルギーの高い粒子は地球磁場に関係 なく、ほとんど直進する。また、エネルギーが低 すぎても、円運動の半径が小さすぎて、密度差の 効果が出ない。最も効率よくリング・カレントを 作れる粒子は、数十〜数百 keV の陽子である。
(1eV=1.6×10?19 J、電子または陽子を 1V の電圧 で加速したときに得られるエネルギー。)太陽風の エネルギーが磁気圏に流入してくると、大量の低 エネルギー粒子が加速され、リング・カレントを 作る粒子が増加する。このようなとき、Dst 指数 は、図 8‑11 のように負のピークを示す。
4.まとめ
この分野の解説には電流と磁場の関係、ローレ ンツ力等の電磁気学の少なくとも定性的な知識が 必要である。教師は、演示実験(できれば生徒実 験)を行って、生徒の理解を助ける必要がある。
宇宙空間で起こっている現象が、実験室で確かめ られる物理法則を用いて説明できることを知って、
生徒は自分の認識領域の広がりを実感するであろ う。
第2節の各項目で取り上げられる内容の多くは、
すでに明らかにされたものであるが、その内のい くつかは、現在でもまだ決着が付いていない。例 えば、温暖化と太陽活動の因果関係など、これら は近い将来に解かれるべき課題である。未解決の 問題をそのまま示すことによって、現在も活発に 研究されている分野であることを生徒に印象付け
地球
地球磁場
図 8‑13 地球の周りの正電荷の軌跡(模式図)。
図 8‑14
るとともに、生徒自らが研究への意欲を持つこと を期待したい。
本稿の第3節では、現象を典型的に示す例を精 選し、観測された多くのデータから比較的理解が 容易なものを選んで示した。叙述に当たっては、
身近な現象から始めて、それを引き起こす源を探 求するという構成を心がけた。中には重要な項目 ではあっても、割愛せざるを得なかった項目があ る。例えば、第3節では、内容的にはサブストー ムの説明を行ったが、あえてその用語は用いな かった。それは、電流系の説明無しにサブストー ムの概念を紹介しても、あまり意味がないと考え たからである。そして、サブストームの電流系に ついてはまだ不確定な要素が多すぎると判断した。
また、バウショックについても説明しなかった。
これは、全体を理解する上で支障を来さない、と 考えたからである。教師が図 7‑7 を、読み解く過 程でバウショックについても触れてもらいたい。
このように割愛したところは多々あるが、全体の 流れは把握できるように工夫した積もりである。
読者が、この原稿を読むことによって、様々な観 測データを積み重ねて一つの描像を描いていく作 業を追体験し、地球惑星科学の醍醐味を味わうこ とができたとしたら、それは、著者達にとってこ の上ない喜びである。
謝辞:SGEPSS の多くの会員諸氏から、有意義な助言と暖かい 励ましをいただきました。厚く御礼申し上げます。
参照文献
宇宙空間物理学, 大林辰蔵, 裳華房(1970)
超高層大気の物理学, 永田武, 等松隆夫, 裳華房(1973)
太陽, ケネス・R・ラング (渡辺堯, 桜井邦訳),シュプリン ガー・フェアクラーク東京(1997)
宇宙環境科学, 恩藤忠典, 丸橋克英, オーム社(2000)
Pioneers of Space Physics, edited by Tamas I. Gonbosi, Bengt Hultqvist, and Yosuke Kamide, J. Geophys. Res., 99, A10, 19,099 ‑ 19,212, 1994
Pioneers of Space Physics 2, edited by Tamas I. Gonbosi, Bengt Hultqvist, and Yosuke Kamide, J. Geophys. Res., 101, A5, 10,477 ‑ 10,586, 1996
Sun‑Earth Plasma Connections, edited by James L. Burch, Robert L. Carovillano, and Soiro K. Antiochos, Geophysical Monograph, 109, American Geophysical Union, Washington, DC, 1999
A Millennium of Geomagnetism, David P. Stern, Review of Geophys., 40, NO.3, 1 ‑ 30, 2002
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中井仁:[email protected] 荻島智子:[email protected] 森尻理恵:[email protected]
新しい地学教育の試み ? 日本地学教育学会
地学教材の特性と開発の視点
林 慶一゜(甲南大学理工学部)
要約:地学では物理・化学・生物とは異なり,生 徒に実際の事物・現象と直接対峙させて観察・実 験をさせることが難しい場合が少なくない.この ため,実際の事物・現象の代わりに,モデルを用 いたり,専門家が収集した既存のデータから出発 するという,他分野にはあまり見られない教材が 多い.これら地学に特徴的な教材について,それ らの利点・欠点と利用・開発に当たっての視点を 述べる.
はじめに
本特別公開セッションでは,所属学会に対して 従来の議論をふまえて新しい教材の具体的な提案 が求められている.本論でも,筆者の専門である 地質・古生物分野の教材を提案することも可能で ある.しかし,他の専門学会とは異なる性格の日 本地学教育学会を代表する立場での発表内容とし ては適切ではないように思われた.そこで,他学 会から新教材の提案が予定されていることをふま えて,日本地学教育学会としてのふさわしい関わ り方として,地学教材の特性およびその利用・開 発の視点について議論したい.
1.地学教育議論の問題点
まず最初に,地学教材について議論をする前に,
地学(地球科学・宇宙科学)がどのような特性を 持った学問分野であるかを考えたい.その理由は,
地学教育の議論には次のような問題があるからで ある.
(1)広すぎる地学のとらえ方
一つ目の問題は,物理・化学・生物と比べたと
き,「地学」はその概念自体に,地学の研究者・教 師の間でも,背景とする専門分野や個人的経験な どによって大きな幅があるということである.こ のことは,それぞれの分野内での研究に止まる限 りはそれほど問題にならないかも知れないが,地 学全般にわたる教育のあり方を考えた時,地学の 存立自体を危うくするからである.たとえば,地 震など物理学に近い領域は物理教育の中に,岩石 など化学に近い領域は化学教育に,古生物など生 物学に近い領域は生物教育に,地形・地質など地 理と関連のある領域は地理教育にそれぞれ分割編 入すればよいという考え方はこれまでに何度も提 案されている.実際にもこのような分割は可能で あり,地学設立の機会が無かった国々では,この ような分割状態が現在でも続いている.しかし,
このような形では地学の特性が出せないばかりか,
物理・化学・生物・地理の間で地学の重要な内容 が欠落したり,扱われても軽視されて質的に貧弱 になりやすい.地球をシステムとして統一的に考 えることが将来に向かってますます必要になって きている現在,将来の教育の目指すべき方向では ない.このような逆戻りの議論を防ぐためにも,
「地学」の存立を保証する独自の基本概念が地学 教育では必要である.
「地学」の概念は,歴史的に見た場合にも大き な幅と変化があった.それは,地学関連の科学の めざましい発展を教育にいかに反映させるかとい う地学教育の努力の歴史でもあった.そこからは 学ぶべきものがたくさんあると考えられ,「地学」
の基本概念の考察には,歴史的な視点も欠かすこ とはできない.