第 4 章 プロトタイプ実験とその解析 · 結果
4.4 イベントセレクション
4.4.2 Timing Window
Timing Windowの範囲は,プロンプト崩壊を含まないことが条件である. 図4.13にあるように, 今回の実験で得られたタイミングスペクトラムは100 ns程度までノイズがのっており, 信頼性が 低く使用出来ない. そこで, 150 nsから320 nsでTiming Windowをとった.
今回の実験の条件である,入力周波数約202.9 GHz, Cavity内蓄積パワー10 kWの場合の,直接
図4.16: back-to-backの崩壊トポロジー. 一つのLaBr3に注目すると, back-to-backとなる配置の LaBr3は2つある.
遷移確率を時間に対してプロットしたのが図4.18である. 遷移確率は指数関数的に減っていくた め, 100 ns以下の領域がとれないと遷移確率が半分以下になってしまう. このTiming Windowを 使用した場合,o-Psからp-Psへと遷移する確率は積分して0.5%以下であり,今回の実験で直接遷 移を観測することは難しい. しかもまだ見つかっていないノイズがTiming Window内部に存在す る可能性もある.
Timing Windowの問題点と改善案
100 ns付近までに発生しているノイズの原因は, LaBr3からくるシグナルのダブルパルスである
と考えられる. これは図3.18の9をTDCのスタートとしているため, アクシデンタルにLaBr3 シグナルのダブルパルスがTDCスタートタイミングとなってしまう場合があるからである. そこ で,次回からはTDCのスタートを4とし,9のMain Triggerが開かなかった場合にTDCにfast
clearをかけるように改造する. これでダブルパルスの影響はなくなる.
4.4.3 LaBr3に同期したプラスチックシンチレータのシグナル(PsOnTime)に対する カット
PsOnTimeシグナルに対し, あるTHR以下のイベントのみを選び出すことで,パイルアップが
除去される. このTHRは以下のようにして決定した.
両側読み出しのプラスチックシンチレータの信号であるPsOnTimeの両方でTHRを超えたも のが,熱電子等では無い真のパイルアップである. しかしこのイベントは必然的にプロンプト崩壊 を含んでいるため,まず初めにTiming Window 100-320 nsをとり,プロンプト崩壊の影響をなく す. 除去すべきパイルアップレートRpileupは以下の式から予測出来る.
Rpileup=Tc×Rp×RL×Rt (4.10)
-1 [keV]
LaBr3
100 200 300 400 500 600 -3 [keV] 3LaBr
100 200 300 400 500 600
10-3
10-2
10-1
σ
図 4.17: 2次元でみたEnergy Cutの範囲. back-to-backの配置にある2つのLaBr3に対して, 511 keV±3σを要求する.
ここで,Tcはプラスチックシンチレータ信号とLaBr3信号のコインシデンス幅で,図3.15のBと
Cに対応し1220 ns. Rpは同図Bの両側プラスチックシンチレータのコインシデンスレートで,
187 kHzであった3. RLは同図CのLaBr3の任意の2つが鳴るレートで, 722 Hzであった. Rtは
Timing Windowの全体に対する割合であり,パイルアップが平らだとするとタイミングスペクト
ラムの全幅1130 nsとの比をとってRt = 1130 ns220 ns = 0.195. これらから予想されるパイルアップは
Rpileup = 32.2 Hzだと分かる. そして, THRの値を変えたときPsOnTimeでカットされるイベン
トレートを調べて予想とあうTHRを探す. カットされるイベントレートを表4.3にまとめた. 表 からは, THR=0.1から0.05程度が予想値に近い.
図4.4をみると,確かにTHR=0.1ととるとペデスタルピーク以外を良く分けることが出来ると
読み取れる. 以上,レートとスペクトラムの形状から判断して, 2つのPsOnTime双方でTHR=0.1 以上となるイベントがパイルアップであり,除去すべきであるとわかった.
PsOnTimeシグナルにおける問題点と改善案
このPsOnTimeのイベントセレクションにはタイミングスペクトラムを歪ませる効果があった.
それを示したのが図4.19である. この図は共振の無いときの全データに対し, Timing Window以 外の全てのイベントセレクションをかけたときのタイミングスペクトラムである. 赤いスペクト ラムがジャイロトロンON,黒がOFFである. このスペクトラムに対してTiming Window積分を とると欲しい結果となる.
この図4.19は,イベントセレクションを通過した以下のイベントを含む.
3両側読み出しのプラスチックシンチレータのコインシデンスレートは280 kHzであったが,自身が1200 nsの幅を 広げてLaBr3とコインシデンスをとるため, 0.33程度は消えてしまう.
γ
図4.18: 2光子崩壊率の時間依存性. 縦軸は2光子崩壊率,横軸はポジトロニウム生成時刻を0と
したときの時刻である.
1. o-Ps→p-Ps直接遷移シグナル
2. o-Psの3光子崩壊のバックグラウンド 3. o-Psのpick-off崩壊バックグラウンド
4. PsOnTimeで取り除けない(プラスチックシンチレータでタグされない)パイルアップイベ
ントのバックグラウンド
初めの3つは寿命構造を持ち,最後のパイルアップイベントは時間によらないバックグラウンドで ある. よって理想的には0 nsから指数関数的な減衰が始まり,途中で一定となるタイミングスペク トラムが期待される.
しかし,図4.19はそうなっていない. これは, PsOnTimeのチャージを取得しているQDC-1が LaBr3シグナルのタイミングでgateを開いていることに由来する. PsOnTimeはLaBr3シグナル に同期したプラスチックシンチレータのシグナルであるため,パイルアップだけでなく通常のプロ ンプト崩壊を含む. 今回のようにLaBr3シグナルで開いたgateでチャージを測った場合,さらにプ ラスチックシンチレータのシグナル幅だけLaBr3シグナルが遅れるようなイベントもPsOnTime には含まれる. これは正しいイベントであるが, チャージ量によってはPsOnTimeのCutで除去 されることになる. この効果により, 大体100 ns程度までタイミングスペクトルにバイアスがか かっているのが図4.19である. 図4.18にあるように, Timing Windowはなるべく早い時刻からと りたいのにも関わらず,このバイアスがあると大いに損をしてしまう.
表4.3: PsOnTimeのTHR THR[A.U.] pileup rate [Hz]
0.7 21.0
0.6 22.7
0.5 24.3
0.4 25.8
0.3 27.1
0.2 28.6
0.1 30.7
0.08 31.5
0.05 33.7
以上からPsOnTimeの取り方には改善の余地があると分かった. チャージADCをもう一つ用
意し, LaBr3シグナルに同期して,かつプラスチックシンチレータのアナログ信号の幅に合わせた
ゲートを使用することで対処する.
time [ns]
200 400 600 800 1000
counts / 5 ns / sec
0 0.0005 0.001 0.0015
0.002 0.0025 0.003 0.0035 0.004 0.0045
図4.19: PsOnTime Cutがタイミングスペクトラムに与えるバイアス. Timing Window以外の全 てのイベントセレクションを加え,独立なイベントに対して各検出器のシグナルの和をとったタイ ミングスペクトラムである. 共振無しの全データを用いている. 赤いスペクトラムがジャイロトロ ンON,黒がOFFである.