4.1 まえがき
ミリ波/マイクロ波帯における低雑音デバイスとして、2次元電子ガスを利用してい るヘテロ接合電界効果トランジスタ、HEMT、が注目され、研究開発が盛んに行われてい る。MESFETに比較すると、HEMTのゲート誘起雑音電流はドレイン雑音電流と強い相関が あり、このためHEMTの方が雑音特性上有利と考えられているためである[1]。例えば、 P.
C. Chaoらは、0.15μmゲートInAlAs/InGaAs HEMTにおいて、18GHzで、雑音指数0.3dBを 報告している[2]。また、川崎らは、0.10μmゲートAlGaAs/GaAs HEMTにおいて、18GHz で雑音指数0.51dBを報告している[3]。HEMTのこのような最先端のマイクロ波/ミリ波特 性が示されているが、その製作プロセスはGaAs MESFETに比較すると、均一性・再現性の 面で未熟であり、エピタキシアル成長層においては多くの未解決の問題が残っている [4-6]。さらに、全てのHEMTにおいて用いられているリセスゲート構造は、チャネル層の 表面空乏層に起因する悪影響を減少させる利点を持っているが[7,8]、リセスゲート作製 のエッチングプロセスは制御性に乏しく、エピタキシアル成長チャネル層とともに、不 均一なデバイス特性の原因になっている。これに対し、イオン注入技術は、高い均一性、
再現性、また低コストを達成することができ、異なる閾値のデバイスを同一チップ上に 作製可能な選択ドーピングの点でも非常に魅力的である。これまで、GaAs基板上HEMTと 同等の雑音指数を有する低雑音GaAs MESFET[9,14]が数件報告されている。これらの結果 は、GaAs MESFET技術の低雑音IC用途のための高い可能性を明確に示している。M. Feng らは、HEMTチャネル中の2次元電子ガスは、低雑音特性に関係ないことを示している [15,16]。もし、低雑音特性を有するデバイスが、デジタル用途の超高速デバイスと、同 一チップ上に作製する技術が確立したならば、GaAs集積回路のコスト/性能比は、著し く下がるに違いない。
高集積度、多機能、アナログ/デジタル混載回路などの要求に対しては、殆ど同じ 製作プロセスでアナログおよびデジタル回路用途のデバイスを供給可能な、プレーナ構 造を有するフルイオン注入n+自己整合型GaAs-MESFET技術が有望であると考えられる [17]。しかし、高集積MMIC用途のためにプレーナ構造を有するGaAs MESFETが数件報告さ れているが[18-20]、それらの雑音特性はHEMTやリセスゲート構造を有するGaAs-MESFET ほど良くない[21,22]。表面効果による表面空乏層は、プレーナ構造のGaAs MESFETにと って、デバイス特性上大きな影響を与える、いわゆる、表面デバイスと言われる所以で ある。表面空乏層は、デバイスの相互コンダクタンスを低下させ、寄生抵抗を増加させ、
また、ブレイクダウン電圧を低下させる。その上、周波数性能は、マイクロ波/ミリ波 帯で大きく劣化してしまう。表面効果を最小限に抑止する方法が、これまで数件提案さ れている[23-26]。表面効果を抑制して高性能化を達成する最も基本的で効果的な方法は、
高いキャリア濃度を有し、高品質で、非常に薄いチャネル層を形成することである [27,28]。このようなチャネル層を形成する方法としては、第2章で述べた、活性化アニ ール時のアニールキャップとして、ショットキ接合ゲート電極と同じ耐熱性金属WSiNを 用いることが有効である。また、良質なチャネル層表面を得るためには、耐熱ゲート電 極のエッチング損傷を抑える技術が必要である。
本章では、WSiNゲート電極の加工プロセスおよび電極設計の改良によるGaAs-MESFET 雑音特性の高性能化について述べる。ゲート電極加工方法として、垂直かつ極微細加工
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が可能で、チャネル層表面に対する損傷が少ない電子サイクロトロン共鳴プラズマ(ECR) イオン流エッチングを検討した。4.2節では、高精度、低損傷なWSiNゲート電極加工プロ セスへのECRプラズマエッチング条件の検討について述べる。4.3節では、(1)ECRプラズ マエッチングを用いたゲート加工、(2)チャネル層に対して最適な温度を用いた活性化ア ニールプロセス、を適用した製造法を用いたデバイスの雑音特性について述べる。4.4 節ではT型Au/WSiNゲート構造のAuを極太化する製造プロセスおよびゲート抵抗の見積も りについて述べる。4.5節ではAu/WSiNゲート構造を有するデバイスの雑音特性について 述べる。耐熱性金属を適用したデバイスは、本質的に、リフトオフゲートを適用したデ バイスよりもゲート抵抗が高くなってしまう。ゲート抵抗の増大を抑えるために、WSiN ゲート電極上に極太化したAuを形成するプロセスを開発した。また、ゲート抵抗とゲー ト寄生容量の間にトレードオフの関係があるため、雑音指数性能に最適なWSiNゲート電 極上Auの幅を検討した。
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4.2 微細ゲート形成
4.2.1 ECRプラズマエッチング装置
通常、WSiNはフッ素ラジカルでドライエッチングが可能であるため、SF6ガスを導入 して平行平板間に高周波放電でプラズマを発生させる反応性イオンエッチングを用いて 加工する。しかし、WSiNは重金属のタングステンを含み、金属シリサイドと窒化物の性 質を合わせ持っているため、垂直微細加工エッチングの条件を得るのは難しい。SF6ガス を用いたWSiNエッチングでは、等方的にエッチングされ易く、垂直微細加工を行うため には、化学反応的なエッチング性能を弱め、指向性の強い物理的エッチング性能を引き 出す必要がある。その方法としては、(1)化学反応を弱めるために、エッチング対象であ る基板を低温にする。(2)ガス圧力を低くし、プラズマイオンの平均自由行程を長くして 指向性を強める。がある。しかし、反応性イオンエッチングでは、低ガス圧力での放電 維持が困難であり、ガス圧力1x10-2Torr以上が必要である。
Sample holder 3"
wafer
Vaccume system streamIon
plasmaECR
Etching chamber Plasma
chamber
Upper-main coil Lower-main coil Gases
Microwave mode teransducer
Rectangular waveguide
Quartz window
Microwave (2.45GHz)
Sample holder 3"
wafer
Vaccume system streamIon
plasmaECR
Etching chamber Plasma
chamber
Upper-main coil Lower-main coil Gases
Microwave mode teransducer
Rectangular waveguide
Quartz window
Microwave (2.45GHz)
図4.1 ECRプラズマエッチング装置の構成図
一方、電子サイクロトロン共鳴法(ECR)によるプラズマは10-3Torr以下のガス圧力で の放電が可能である[29,30]。ECRエッチング法は、低ガス圧で高活性プラズマを生成で き、イオンを低エネルギで試料基板に輸送できることから高選択比、低損傷な異方性エ ッチングが可能である。ECR放電の簡単な原理を以下に述べる。静磁場中に垂直に速度v で運動する電子はローレンツ力を受け、次の半径rで円運動を行う。
eB
r = mv (4.1)
ここで、mは電子質量、eは電子の電荷、Bは磁束密度である。この時、電子の周波数をω とすると、ωは次式で与えられる。
ω
= eBm (4.2)
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電磁波が磁場に印加されたプラズマ中を伝搬するとき、電磁波の周波数がこの電子の周 波数に等しいと電子サイクロトロン共鳴が生じる。今、電磁波として、2.45GHzのマイク ロ波を考えると、電子サイクロトロン共鳴を起こす磁界強度は875Gである。このECR条件 によって得られたプラズマは、低圧力での放電が可能であると同時に、イオン化率が他 の放電形態よりも1桁大きいなどの特徴を有する。
ECRプラズマエッチング装置の概略を図4.1に示す。試料室は、大きく分けて、プラ ズマ生成室(Plasma Chamber)とエッチング室(Etching Chamber)から構成される。2室が 分かれているため、低ガス圧力のエッチングが可能。プラズマ室にはプラズマ生成磁気 コイルがある。エッチング室には3インチウエハ対応の試料台がある。エッチングガスは、
マスフローコントローラを介してプラズマ生成室に導入される。マイクロ波は矩形導波 管とマイクロ波モード変換器を通り、マイクロ波導入窓がら導入される。排気系では、
到達真空度として10-7Torr程度までの高真空を保っている。ECR条件の2.45GHzのマイクロ 波と875Gの磁束密度でプラズマ生成室内に生成されたプラズマは、イオン流としてエッ チング室に引き出され、3インチ基板が設置される試料台に照射される。生成室の構成素 材であるステンレスとエッチングガスの反応による装置汚染と装置損傷と防止する目的 でチャンバー壁に石英カバーを施している。
特に、今回使用したECRプラズマエッチング装置は、基板を設置する試料台に高周波 バイアスは印加しない構造となっている。プラズマ生成室内で生成されたプラズマは、
発散磁界によってイオン流としてエッチング室に導入されるため、基板への損傷は最小 限に抑えることが可能である。
4.2.2 実験方法
発散磁界型ECRプラズマエッチング装置を用いて、SF6ガスを用いたWSiN微細加工エッ チングの評価を行った。WSiNエッチング速度、横方向エッチングに影響を与えると考え られる、以下の設定パラメータのエッチング特性依存性について検討した。
1)マイクロ波電力:200~500W 2)SF6ガス流量:1~10sccm 3)ガス圧力:1x10-4~1x10-2Torr 4)コイル電流:15~18A
図4.2にエッチング試料の層構成を示す。GaAs基板上に、エッチング対象である WSiN(400nm)、エッチングマスクSiO2(200nm)、レジストを順に積層した構成である。試 料の作製プロセスは、次の通りである。
1)GaAs基板に有機洗浄(トリクレンボイル洗浄5分、3回)、無期洗浄(HClエッチング 1 分)を行う。
2)スパッタリング装置内で、GaAs基板に、マイクロ波電力50Wの逆スパッタリング・
エッチングを行った後、W5Si3をスパッタターゲットとし、マイクロ波電力300W、Arガ ス流量34sccm、N2ガス流量5sccmの条件でWSiNを400nm堆積する。
3)連続してスパッタリング装置内で、マイクロ波電力300Wの逆スパッタリング・エッ チングを行った後、SiO2をスパッタターゲットとし、マイクロ波電力900W、Arガス流 量20sccmの条件でSiO2を200nm堆積する。
4)東京応化製のAZレジスト1.4μmをスピンコーティング後、g線ステッパを用いて細 線パターンを作製する。
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5)RIE(反応性イオンエッチング装置)を用いて、レジスト細線パターンをマスクにSiO2 膜をエッチングする。エッチング条件は、マイクロ波電力60W、CF4ガス流量14.1sccm、
H2流量5sccm、ガス圧力0.02Torr。SiO2膜エッチング終了後に、アセトン洗浄、O2ガス を用いたアッシャーでレジストを除去する。
AZ Resist 1.4μm
SiO2200 nm
WSiN 400 nm S. I. GaAs AZ Resist
1.4μm
SiO2200 nm
WSiN 400 nm S. I. GaAs 図4.2 WSiNエッチング試料の層構成
WSiNおよびSiO2のエッチング速度は、一定時間エッチングを行った後、αステップ(段 差計)を用いて膜厚を測定し、そのエッチング時間から導いた。WSiNエッチング後の試料 の膜厚とフッ酸エッチング液を用いてSiO2を除去した後の試料の膜厚から、WSiNとSiO2 とのエッチング量を切り分けた。GaAsのエッチング速度は、GaAs基板上にレジストパタ ーンを用いて求めた。レジストマスクを用いてGaAsエッチングを行い、レジスト除去後 にGaAs上に形成された段差とエッチング時間から導いた。また、WSiNのエッチング形状 およびサイドエッチング量は、エッチング後の試料断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察 して評価した。
4.2.3 実験結果
A. マイクロ波電力依存性
図4.3にWSiNおよびGaAsエッチング速度のマイクロ波電力依存性を示す。SF6ガス流量 は2.2sccm、ガス圧力は1x10-3Torr、磁界発生のためのメインコイル電流は16.5Aとした。
WSiNとGaAsのエッチング速度は、マイクロ波電力とともに単調に増加した。WSiN/GaAs のエッチング選択比は40以上であり、一定となっている。GaAsのエッチング速度は1~
2nm/minと小さく、汎用されている平行平板型RIE(反応性イオンエッチング)と比較して 半分以下であった。平行平板型の場合には、マイクロ波電極の一方にGaAsウエハを配置 してエッチングを行う。マイクロ波周波数は一般的に13.56MHzである。電子はイオンよ りも速度が速いため、高周波を印加したGaAs基板が負に帯電してイオンシースを形成す るとともに負の電位を形成する。この負電位によりイオンを加速するため、スパッタリ ング効果によるGaAs基板への損傷が発生する。これに対し、ECRマイクロ波エッチング装 置では、発散磁界で抽出されたイオン流のみでエッチングされ、高活性化であるがイオ ンエネルギが低く、物理的スパッタリング効果が回避されているため、エッチング損傷 が少ないものと考えられる。GaAs表面へのプラズマダメージが大変小さいため、表面損 傷のないチャネルの形成が可能である。