6.1 まえがき
ゲート長をサブミクロン領域まで微細化し、デバイス性能の向上を行なうと、デバ イスを通常のバイアス条件で動作させても、デバイス内部は非常に高電界になる。この 高電界下においては、インパクトイオン化が生じ易く、その結果デバイスは発光する。
直接遷移、間接遷移を問わず半導体デバイスは、高電界下に曝されると発光する可能性 がある。この発光スペクトルを解析することで、高電界となるゲート電極のドレイン端 におけるホットキャリアについての有効な情報を引出すことができ、デバイスの劣化や ブレイクダウンの解析にも有効である。これまで、様々な半導体デバイス、例えば、
Si-MOSFET[1,2]、GaAs-MESFET[3-9]、HEMT[10-15]などにおいて高電界下での発光スペク トル観測が行なわれ、発光機構の解析が行なわれている。しかし、発光を引き起こす主 な機構についてのコンセンサスは未だ得られていない。GaAs-MESFETの発光機構に関して は、Herzogら[3]がGaAsバンド端エネルギ以下の発光スペクトルを測定し、そのエネルギ 分布が指数関数で近似できることから、主な機構はBremsstrahlungであると結論してい る。Zappeら[5]はGaAsバンド端エネルギにおけるピークを観測したことから、発光の主 な機構はバンド端の電子と正孔の再結合と、Bremsstrahlungまたはバンド内遷移との重 ね合せであるとしている。さらに、NevianiやZanoniら[6,7]は、ゲート負電圧において、
発光強度がゲート電流とドレイン電流との積に比例することから、発光の主な機構は電 子と正孔の再結合であると結論付けている。ここで彼等は、ゲートリーク電流は高電界 下のインパクトイオン化で発生する正孔に比例するとのHuiの説を仮定している[16]。
本章では、ゲート長0.1μmのフルイオン注入GaAs-MESFETの発光スペクトル解析につ いて述べる。これまでの発光スペクトル観測は、商用されているGaAs-MESFETに対する結 果であった。ゲート長0.5μm程度、高耐圧構造でチャネルのキャリア濃度は比較的低く、
5x1017~1x1017cm-3程度であった。さらに準ブレイクダウン状態での観測であり発光強度 も弱い。そこで、超高速、超高周波動作を目指して設計されているフルイオン注入 GaAs-MESFETの準ブレイクダウン状態ではなく、ドレイン電流も急激に上昇するブレイク ダウン状態での測定を行った。6.3節ではエレクトロルミネッセンス解析を行うデバイス の構造およびブレイクダウン状態までのdc特性について述べる。超高速動作用のデバイ スでは、以下の3つ特徴があり、高強度発光が可能であり、デバイス内発光現象に関する 様々な情報が得やすく、新たな知見が得られる可能性が有る。
(1)ゲート長0.1μmと微細化されており、チャネル内が高電界となっている、
(2)2x1018cm-3程度の高濃度限界に近い高濃度薄層チャネルである、
(3)チャネル層下には中性領域を含む埋込p層を有する。
6.4節ではエレクトロルミネッセンス測定および解析結果について述べる。測定エネルギ 領域は、GaAsバンド端エネルギおよびそれ以上である1.4~2.5eVである。また、広いド レイン電圧およびゲート電圧において詳細に発光スペクトルを観測し、デバイス内電子 温度の抽出、ルミネッセンスの空間分布について解析した結果について述べる。
162
6.2 高電界下での現象 6.2.1 ルミネッセンス機構
図6.1に示すように、一般的に、半導体における2つの重要なルミネッセンス機構と して、2種類のキャリアが関与する放射再結合(radiative recombination)と1種類のキャ リアが関与する放射遷移(radiative transition)がある。放射再結合は伝導帯から価電 子帯への放射(c-v)、放射遷移は伝導帯間または価電子帯間の放射(c-c、v-v)である。ま た、これらの放射過程は、フォトンが介在してエネルギ保存および運動量保存を行う直 接遷移と、フォトンが介在してエネルギ保存を、補助的な相互作用が介在して運動量保 存を行う間接遷移がある。GaAsにおける2つの重要な間接遷移放射過程は、フォノン(特 に光学フォノン)を介した放射過程(PA)とイオン化不純物(IA)を介した放射過程である。
1)フォトンおよび補助的な相互作用を介した放射過程 1.1 フォノンを介した放射過程(PA) -光学フォノン散乱-
1.2 イオン化不純物を介した放射過程(IA) -イオン化不純物散乱- (a) 放射遷移(c-c、v-v)、(b) 放射再結合(c-v)
2)フォトンを介した放射過程
(c) 放射遷移(c-c、v-v)、(d) 放射再結合(c-v)
※このうち、イオン化不純物を介した放射遷移(c-c、v-v)は、イオン化不純物のク ーロン力による電子の加速に起因するBremsstrahlung放射の古典論の類似性から、
Bremsstrahlung放射と言われる。
c d
Valence Band b a
Band Gap Conduction Bands
c d
Valence Band b a
Band Gap Conduction Bands
図6.1 ルミネッセンス機構
(a) Indirect c-c、(b) Direct c-c、(c) Indirect c-v、(d) Direct c-v
163
以上のように半導体内から得られるルミネッセンスは、バンド構造を反映したもの となる。図6.2にGaAsのバンド図を示す。GaAsはΓ点が直接遷移(direct bandgap)となり、
バンドギャップは1.43eVである。伝導帯には、この他にL点、X点で価電子帯の極小点が あり、それぞれ、価電子帯端から、1.72eV、1.89eVである。
図6.2 GaAsのバンド構造
6.2.2 インパクトイオン化
デバイスの微細化にともない、デバイス内部が高電界化する。例えば、ゲート長が 0.1μmのデバイスに、通常動作バイアス条件であるドレイン電圧1Vを印加した場合、ゲ ート電極下0.1μmの長さに電圧1Vがかかる。平均電界は、
( )
( )
(
kV cm)
E .
m
V 100
1 0
1 =
=
µ
(6.1) となる。GaAsで負性抵抗が観測されるのが約5kV/cm以上であるから、遥かに高電界とな る。したがって、サブミクロンデバイスにおいては、通常動作状態でもホットキャリア 効果の解析が重要となる。また、極微細デバイス(サブクウォータミクロン、サブ0.1ミ クロン)領域では、キャリア輸送が拡散領域から準バリスティック領域へと移行する。キ ャリアは高エネルギ領域まで広く分布するため、マクロな輸送特性も高エネルギキャリ アに大きく依存する。
半導体に高電界が印加されると、電子のエネルギはエネルギ・ギャップ以上になり、
価電子帯の電子に衝突して伝導帯に叩き上げ、自らは低エネルギ状態に遷移する。典型 的なインパクトイオン過程を図6.3に示す。エネルギおよび運動量の保存則から次式が成 立している。
164
G k k k
k
2−
1+
4−
3=
(6.2a)3
0
4 1
2
− ε + ε − ε =
ε
(6.2b)十分高い電界ではこのインパクトイオン化が連続的に生じ、電子正孔対が雪崩のように 発生する。このため高強度ルミネッセンスが生じる。イオン化確率は、2電子に対するイ オン化過程の遷移行列要素とFermiの黄金律から求めることができる。ここでは、現象論 的なShottkeyのLucky Electronモデルについて述べる。このモデルは以下の仮定を行う。
1)キャリアはイオン化が可能となるエネルギEionまで電界で加速される。
2)キャリアがエネルギEionに達する前に散乱した場合、エネルギ0から出直しとなる。
3)散乱には平均自由行程λを導入する。
位置xにあるキャリアが位置x+Δxまで散乱を受けない確率p(x+Δx)は、位置xまで散 乱を受けない確率p(x)と位置Δxを無散乱で走行する確率Λの積で表わされる。
( x x ) p ( ) x
p + ∆ = Λ
(6.3)キャリアが距離Δxを走行する間に散乱を受ける確率はΔx/λとなるから、逆に無散乱で 走行する確率Λは、次のように表わされる。
λ
∆x
−
=
Λ 1 (6.4)
Valence Band
Band Gap
(κ ,ε ) 1 1
(κ ,ε ) 2 2 (κ ,ε ) 3 3
(κ ,ε ) 4 4
Conduction Band
Valence Band
Band Gap
(κ ,ε ) 1 1 (κ ,ε ) 1 1
(κ ,ε ) 2 2 (κ ,ε ) 2 2 (κ ,ε ) 3 3
(κ ,ε ) 3 3
(κ ,ε ) 4 4 (κ ,ε ) 4 4
Conduction Band
図6.3 典型的なインパクトイオン化過程 電子の始状態は1と4、終状態は2と3
165
したがって、キャリアの確率分布関数p(x)について、次の微分方程式が成立する。
( ) ( ) ( ) ( )
λ
x p dxx dp x
x p x
x
p ≡ =−
∆ Λ
−
∆
+ (6.5)
規格化条件
∫
0∞p( )
x dxを考慮することで、キャリアの確率分布関数p(x)は、次のようにな る。( )
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝⎛−
=
λ λ
exp x x
p 1
(6.6) デバイス内の電界Eが一定であると仮定すると、キャリアのイオン化が可能なエネルギEI に達する距離はdion=Eion/qEである。したがって、イオン化確率は次式となる。
( )
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛−
=
=
λ λ
α
qEexp E d
p ion 1 ion
(6.7) 高電界の極限(E→∞)では、α→qE/Eionであるから、イオン化確率は次のように表わされ る。
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝⎛−
⎟⎟=
⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛−
= E
exp E E
qE qE
exp E E
qE o
ion ion
ion
λ
α
(6.8)ここで、Eo=Eion/qλである。
インパクトイオン化過程で重要な物理量の1つが、イオン化閾値エネルギEionである。
閾値エネルギはイオン化遷移を起すのに必要な最低エネルギで、バンド構造とエネルギ および運動量保存則から求めることができる。伝導帯と価電子帯のバンド構造を放物線 型で近似すると、イオン化閾値エネルギは3/2則で与えられる。つまり、イオン化閾値エ ネルギはバンドギャップエネルギをEgとしたとき、
g
ion E
E 2
= 3 (6.9)
となる。
166
6.3 デバイス構造
デバイスは、3インチの半絶縁GaAs板上に作製した。作製したGaAs-MESFETの断面構 造を図6.4に示す。作製したデバイスのゲート長は0.13μmから0.58μmである。デバイス のイオン注入条件を表6.1に示す。基板におけるリーク電流を抑止するため、2ステップ 埋込P層を有するBP-LDD構造である。第1の埋込み層は50keVのBeイオン注入で、第2の埋 込p層は90keVのBeイオン注入で形成した。ドーズ量は完全空乏化に要する量の2倍であり、
埋込p層内に中性領域が存在する[17]。チャネルの2次元効果に基づくショートチャネル 効果を抑制するために、高濃度薄層チャネルを10keVのSiと40keVのPイオン共注入で形成 した。チャネルの実効的な厚さはC-V測定から45nmである。チャネル層は、オーミック電 極リフトオフとゲートAu載せ平坦化用のSiO2膜で覆われている。合計厚さは450nmである。
このSiO2膜は、SiH4およびN2Oガスを用いたプラズマCVD(PECVD)法で、基板温度は270℃
で堆積した。
デバイスの幾何学寸法はゲート幅100μm、ゲート-ソース間隔(Lgs )およびゲート-ドレイン間隔(Lgd)は1.0μmである。デバイスは通常2層配線を採用している。第1層配 線は上記のSiO2上に直接形成し、第2層配線は150nm厚のPECVD-SiO2と2.5μm厚のポリイミ ド上に形成した[18]。したがって、最終的にチャネル層は550nm厚のPECVD-SiO2と2.5μm 厚のポリイミドで覆われている構造となっている。
作製したGaAs-MESFETの断面SEM写真を図6.5に示す。写真から、ゲート-ソース間隔、
ゲート-ドレイン間隔はほぼ1μmで設計通りに作製されているのが分かる。チャネル層も 550nmのSiO2で覆われている。WSiNゲート上にはゲート低抵抗化のためにAuを載せている が、チャネルからの発光を遮らないようにAuは小さな体積とした。また、発光を効果的 に測定するために、チャネル上の2.5μm厚のポリイミドはRIEで除去した。チャネルは露 出しておらず、550nmのSiO2で覆われているので、この余分なプロセスによる特性への影 響はなかった。デバイス内で発生したルミネッセンスは、このパッシベーション膜を通 して検出される。
n+
n’
Bp2
n+ n’
Bp2 Bp
n AuGeNi
Au WSiN
S.I.GaAs
0.25 0.25
0.75 0.75
0.02 Lg 0.02
unit: µm n+
n’
Bp2
n+ n’
Bp2 Bp
n AuGeNi
Au WSiN
S.I.GaAs
0.25 0.25
0.75 0.75
0.02 Lg 0.02
unit: µm
図6.4 ホットキャリアのルミネッセンスを測定したGaAs MESFETの断面図