7.2.1 フラット蒸着したa-Se薄膜の体積変化
図 7-4に,Si基板にフラット蒸着したa-Se薄膜のPVE時間変化のグラフを示す.
緑色532 nm (強度91 mW/cm2) の半導体レーザによる光照射開始後,薄膜表面高さ変 化はすばやく約2.5 nmに達し,その後平衡状態を保った.光照射開始後約800秒で光 遮断すると,表面高さは,ただちに光遮断直前と比較して約 2 nm減少し,この後さ らにゆっくりと減少して,約400秒後に光照射開始前の表面高さに戻った.
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 -1
0 1 2 3 4
Height (nm)
Time (s) Light on
Light off
図 7-4:a-Se薄膜の光誘起体積変化 励起光波長532 nm,パワー密度91 mW/cm2
図 7-4 のように,Si 基板にフラット蒸着した a-Se 薄膜におけるこれらの変化は,
7.1.1で説明したフラット蒸着したa-As2Se3薄膜の体積変化と似ている.しかし,a-Se 薄膜の過渡的PVEはa-As2Se3薄膜と比較して非常に大きい.これは,a-Se薄膜の過渡 的PDが,非常に大きいという報告[4]と一致する.また,光遮断後で過渡的PVEがな くなった後,残された高さ増加分(準安定PVE成分)が,ゆっくりと減少し,消失す る.これはa-Se薄膜が室温でアニールされた結果であると推測することができる.
7.2.2 光照射による温度上昇に起因する体積変化
すでに第6章で少し述べたが,ここで温度上昇に起因する体積変化をもう少し議論 しておきたい.図 7-5は,Corning 7059ガラス基板にフラット蒸着したa-Se薄膜の表 面高さの時間変化示す.緑色532 nm(強度91 mW/cm2)の半導体レーザによる光照射 開始後,直ちに表面高さ変化は約11 nmに増加し,しばらくは平衡状態を保ち,光照 射から約400 秒後に表面高さが減少し始め,光照射から約 3600 秒後には平衡状態の 表面高さと比較して約15 nmの減少となった.ここで光を遮断すると表面高さは光遮 断直前と比較して,直ちに約7 nm減少した.
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 -15
-10 -5 0 5 10
15 Light on
Height (nm)
Time (s)
Light off
図 7-5:a-Se薄膜の温度上昇に起因する体積変化 励起光波長532 nm,パワー密度91 mW/cm2
光照射前 t = 0 s
光照射オン直後 t = 10 s
表面高さ減少開始後 t = 1500 s
光照射オフ直後 t = 3650 s
図 7-6:a-Se薄膜の温度上昇に起因する体積変化の高さプロファイルの変化 励起光波長532 nm,パワー密度91 mW/cm2
図 7-5に示すように,Corning 7059ガラス基板にフラット蒸着したa-Se薄膜におい て,光照射オン直後の急激な表面高さの増加は,明らかに光誘起体積変化のそれとは 異なる.これは,ガラス基板の熱伝導率が小さいために,光照射により試料が吸収す る光エネルギーが熱エネルギーに変わり,光照射領域近くのガラス基板に局在するた め,ガラス基板の光照射領域付近の熱膨張がその周囲の熱膨張と比較して大きいため
に発生する,ガラス基板の表面高さ変化であると説明することができる.これは,6.1.2 に示す有限要素法による熱解析で行ったシミュレーションとよく一致している.
図 7-6は,上記変化が発生したときの,高さマップの変化を示す.光照射前
(
t=0)
はフラットであった表面は,光照射オン後 10 秒の高さマップでは光照射領域にピー クをもつ大きな膨らみが観測される.表面高さが減少し続けている光照射から 1500 秒後の高さマップでは,膨らみは残されているが光照射領域が陥没していることが確 認できる.光遮断直後
(
t=3650s)
の高さマップでは,膨らみが消えて光照射領域の大 きな凹みだけが残されている.この現象は,光照射で発生したa-Se薄膜の熱エネルギーがガラス基板に十分伝導す ることができず,薄膜の温度が上昇し,a-Seのガラス転移温度に達し,a-Seの構造が 変化したため,もしくは蒸発などのその他の要因により,体積減少を起こしたものと 考えられる.この原因については,本研究の目的の範疇ではないので議論しない.