第5章 オレンジ生産・流通支援組織の活動と機能の評価
③ SRCAMP-NEPAL
郡のオレンジ生産に果たした役割を整理しておきたい(表5-15)。
① JICA
日本独立行政法人・国際協力機構(以下「JICA」)JICAは、ネパールの農業の発展 に様々な形で協力しているが、SINDHULI郡では、これまでオレンジ栽培の技術指導 を通じてオレンジ栽培普及に様々な貢献をしてきた。具体的には、JICAは1970年代 に JANAKPUR 県で農産物生産にかかわる技術支援を始めた。SINDHULI 郡では、
1984 年からオレンジの生産に技術支援行い、オレンジの栽培技術(苗木、栽培管理、
病虫害など)にかかわる情報提供と技術指導、オレンジ協同組合の設立・運営にかかわ る助言・支援(協同組合の規模拡大支援、トレーニング支援、組合員農家を対象にした 国内外の優良事例視察)、生産したオレンジの市場出荷を円滑に行うためのインフラ整 備(舗装道路整備)などである。
② District Micro-Entrepreneurs' Group Association (DMEGA)
District Micro-Entrepreneurs' Group Association (DMEGA)は、国連開発計画
(United Nations Development Program、UNDP)とネパール政府の共同貧困削 減のために作られたプロジェクトであり、郡レベルで活動行っているのはDMEGA で ある。DMEGAはSINDHULI郡でオレンジの産地までの道路整備と協同組合加工セン ター建設にかかわる支援を行っている。
③ SRCAMP-NEPAL
SRCAMP-NEPALは、SINDHULI道路沿線高価値農業普及促進マスタープラン作成 プロジェクト(The Project for the Master Plan Study on High Value Agriculture Extension and Promotion in Sindhuli Road Corridor)である。SRCAMP-NEPALの 活動内容は、農業、特に(野菜、オレンジ、ヤギ、牛やバッファローのミルク)に関す る支援を行っている。オレンジ産地では、農家の農地を借りて、肥料や農薬の実験調査 を行っている。効果的な肥料や農薬の散布量、散布時期などについて農家に情報提供を
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行い、オレンジ収量の向上に貢献している。また、オレンジ栽培農家に農薬や肥料の効 果を実感してもらうために、それらの配布事業も実施している。
上記の3組織以外にも、SINDHULI郡のオレンジ生産の振興にかかわっている組織 として次の3つがある。
①District Development Committees (DDC)は、郡開発のために作られた委員会であ る。農業、工業、教育、サビース、インフラなどの計画を作成している。オレンジ産地 においても道路の建設計画、海外支援組織の紹介などの活動を行っている。
②Federation of Nepalese Chambers of Commerce and Industries (FNCCI)はネパ ールのプライベートセクタの組織であり、農業を工業にするために支援している。オレ ンジ産地であるSINDHULI郡でオレンジ加工工場を設置し、農家からオレンジを購入 し、ジュースに加工している。
③Nepalese Farming Institute(NFI)は、ネパールの貧しい農家、発展の遅れた地域 に対して支援を行う非営利組織である。SINDHULI郡のオレンジ産地では農家に肥料、
農薬や農作業道具を配布している。
表5-15 SINDHULI郡オレンジ産地で行っている支援活動内容
出所:聞き取り調査をもとに筆者作成
注:1)JICAは、Japan International Cooperation Agencyである。
2)JOCVは、Japan Overseas Cooperation Volunteersである。
3)SVは、Senior Volunteersである。
4)DMEGAは、District Micro-Entrepreneurs' Group Associationである。
5)SRCAMP―NEPALは、The Project for the Master Plan Study on High Value Agriculture Extension and Promotion in Sindhuli Road Corridorである。
6)DDCは、District Development Committees である。
7)FNCCIは、Federation of Nepalese Chambers of Commerce and Industriesである 8)NFIは、Nepalese Farming Instituteである。
支援組織名 活動内容
<海外>
JICA 日本の海外協力ボランティア(JOCV)、シニア海外ボラ ンティア(SV)、技術指導、財政支援など
DMEGA 冷蔵倉庫、農作業道具配布など
SRCAMP-NEPAL
農業特に(野菜、オレンジ、ヤギ、ミルク)関係で支 援、オレンジ産地で肥料や農薬散布の実験調査、農薬、
肥料を配布など
<国内>
DDC 農業、工業、教育、サビース、インフラなどの計画など
FNCCI 農業を工業にするために支援、オレンジ工場設立など
NFI 貧しい農家、発展に遅れた地域に支援など 農業組合 情報交換、資金収集、生活資金の貸し付けなど 農業組織 情報交換、資金収集、生活資金の貸し付けなど
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第6節 むすび
本章では、ネパールにオレンジの生産・流通にかかわる各種支援組織の活動内容と機 能について検討してきた。得られた成果は次のように整理できる。
第1に、オレンジの栽培管理に関する技術情報の提供で普及組織が果たしている役割 は小さくない。オレンジの栽培管理にかかわる情報入手や相談相手としては、普及員や 農業試験場研究員よりも農家仲間や先進農家を挙げる農家も多いが、農家仲間や先進農 家の保有する情報も、もとをただせば普及組織から提供されていると見てよい。このこ とを考慮するならば、普及組織の果たしている役割を軽視すべきでない。ただし、普及 組織の農家に対する指導活動は十分ではない。各普及所には、2~5 名の普及員しか配 置されておらず、普及員1人あたりの平均担当農家数は1,580戸にもなっている。しか も、普及所によって、配置される作目別の担当者数には偏りが見られる。例えば,
GORKHA郡のMK普及所では、担当農家数が多い上に、オレンジ担当の普及員がおら
ず野菜担当普及員しかいなかったり、普及員の欠員があったりしていたのに対し、
SINDHULI郡のRC普及所ではオレンジ担当普及員が2名確保され、しかも若い農業 者の普及支援員12名の協力が得られていた。
第2に、上記のような状況下にあるため、普及所によって農家に対する情報提供や指 導態勢に差が見られ、その結果、農家のオレンジ栽培管理にも差異が出ている。調査対 象とした3村のうち、G村やM村に比べてR村の農家の技術力や経営対応力が高くな っていたが、その背景には普及所の指導態勢の違いがあることが確認できた。普及員の 指導力については、R村の多くの農家が高く評価し満足していたが、M村やG村では 普及員に対する評価は概して低かった。そうした評価結果は、普及員自身が自らに対し て行った評価結果とも概ね一致していた。
第3に、普及組織が実施している栽培管理トレーニングや農園マネジメントトレーニ ングはオレンジ農家の栽培管理を改善するのに有効に機能している。トレーニング受講 農家の研修内容に対する評価は高い。トレーニングを受けている農家は受けていない農 家に比べ、農薬散布、肥料散布、剪定にかける労働時間が多く、また、肥料投入量や農 薬使用量も多い。R村でのオレンジの基本的栽培管理がG村やM村に比べてきちっと 実践されていたのは、調査対象農家のすべてが普及組織のトレーニングを受講していた ことが影響していると見てよかろう。
第4に、ネパールでは今後、農業協同組合の果たす役割が重要になる。本章で取り上 げたSINDHULI郡のオレンジ協同組合は、日本のJICAや普及組織と連携協力しなが ら、オレンジの栽培カレンダーを作成することで組合員農家のオレンジにかかわる基本 的栽培管理の徹底を支援している。生産面でのこうした支援活動は、予算や人員が制約 されている普及組織の活動を補完するものとなっている。
122 注
1) 普及支援員は、R村の中で普及員を支援するために組織された農家のボランティア グループである。
引用・参考文献
1) Food and Agriculture Organization (FAO) (2010): Agriculture Extension Service Delivery System in Nepal. Food and Agriculture Organization of the United Nations. UN Complex, Pulchowk, Nepal.
2) Annual Report (2012/13): Communication, Publication and Documentation Division (CPDD) Lalitpur, Nepal Agriculture Research Council.
3) 鈴木俊(2006):「国際協力の農業普及-途上国の農業・農村開発普及入門-」、東京農業 大学出版会、pp.189-210.
4) Pradhan, R.B. (2006): Methodology for the Assessment of Training Need of Front Line Extension Workers of Nepal, Agriculture Development Journal, Vol.6, pp.49-69.
5) Ministry of Agriculture and Cooperatives (2009/10): Annual Agriculture Development Program and Statistical Information. Gorkha, Nepal. pp.21-22.
6) Sweet Orange Cropping Annual Book (2012/13): One Village One Product Implementation Committee, Sindhuli, Nepal.
7) Ministry of Agriculture and Cooperatives (2012/13): Annual Agriculture Development Program and Statistical Information. Sindhuli, Nepal. pp.16-22.
8) Sweet Orange Sahajkarta (2013/14): Ministry of Agriculture Development, Agriculture Department, District Agriculture Development Office, Sindhuli, Nepal.
9) Citrus Development Program (2012): Annual Report of Citrus Development Program, Ministry of Agriculture Development Kirtipur, Kathmandu, Nepal, pp.7-8.
10) Statistic of Cooperative Enterprises (2014): Ministry of Cooperatives and Poverty Alleviation, Cooperative Department, Naya Baneshwor, Kathmandu, Nepal, pp.17-18.
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終章 結語
第1節 本研究で得られた主要研究成果
本論文では、ネパールにおける柑橘(主にオレンジ)の生産・流通システムに焦点を 当て、オレンジ栽培農家の生産・技術構造の特徴と課題、収益性の現状と問題点、オレ ンジ流通システムの特徴と課題を検討するとともに、それとの関係でオレンジ生産の振 興に果たす支援組織の役割とその有効性について検討した。
分析では、上記課題にアプローチするため、まず、既往文献および統計データを用い、
ネパールにおける柑橘生産の概要を把握するとともに、全国的視点からみた柑橘の生 産・流通システムの特徴と課題を明らかにし、それらを踏まえた上で、ネパールの主要 オレンジ生産地である、①GANDAKI県GORKHA郡GHAIRUNG村、②GANDAKI 県GORKHA郡MANAKAMANA村、③JANAKPUR県SINDHULI郡RATANCHURA 村の3地域を調査対象地として選定した。そして、これらの3村で展開するオレンジ栽 培農家26戸の栽培管理技術や収益性の実態と問題点を聞き取りデータや記帳データ等 に基づいて詳細に分析し、オレンジ生産を拡大するための課題と対策について検討した。
また、調査対象とした農家で生産されたオレンジの流通ルートをトレースし、産地仲 買人・卸売業者・小売業者の各段階におけるオレンジ売買価格と流通マージンを明らか にし、オレンジ栽培農家にとって望ましい流通システムのあり方について考察した。
さらに、3村を管轄する普及組織やSINDHULI郡に設立されているオレンジ農業協 同組合に焦点を当て、それらの支援組織がオレンジ栽培農家の技術力向上やオレンジの 流通・販売面でどのような役割を果たし、どのような効果をもたらしているか、オレン ジ栽培農家や関係者への聞き取り調査等によって分析した。
各章の分析を通じて得られた新知見を、序章に示した4つの研究課題に即して整理す ると以下のようになる。
1. オレンジ生産の実態解明と収益性の評価
まず、既往文献と統計データの整理・分析を通じて明らかになったネパール全体のオ レンジ生産の実態は次のとおりである。
ネパールでは、オレンジを中心とする柑橘類は昔から栽培されていたが、販売目的の 栽培が行われるようになったのは20世紀に入ってからであり、柑橘類の苗木供給等に かかわる政府の各種支援策が実施されるようになってから栽培面積が次第に増加し、
1990年代以降は年平均約6%の増加率で拡大していった。2014年度におけるネパール 全体の柑橘類の栽培面積は39,035haとなっており、そのうちの約8割をオレンジ(マ