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オレンジの栽培管理作業の特徴と収量規定要因の分析

第1節 はじめに

前章では、ネパールのオレンジの主要な産地を調査対象に選定し、一般的なオレンジ 栽培農家の経営構造(家族構成、農家の収入構造、農地の保有状況、圃場条件等)を明 らかにした。また、オレンジ栽培にかかるコストや収益性等の分析を行った。その結果、

調査対象とした3村のオレンジ栽培では、3村間や農家間の収益性格差が発生している ことが確認できた。さらに、その主要な要因として、オレンジの単収差とオレンジの 1kg当たり販売価格差が存在することが確認できた。

このため、ネパールにおけるオレンジ栽培の収益性を高めるためには、単収差に影響 を及ぼしている要因を明らかにし、それを踏まえた単収向上対策を実施する必要がある。

また、販売価格が産地によって異なる要因を明らかにし、それを踏まえ、農家のオレン ジ販売価格を高めるための具体策を明らかにすることが重要である。そこで本章では、

前者のオレンジ単収差の発生メカニズムを明らかにするため、第 2 章で取り上げた G 村、M村、R村の3村の26戸の農家を対象に、オレンジの栽培環境や栽培管理方法等 を含む収量規定要因について詳しく分析する注1)

具体的には、第2節で、調査対象とした3村の農家のオレンジ単収を規定する要因(カ ンキツグリーニング病も含む諸要因)を数量的に把握するため、オレンジ単収を被説明 変数とし、成木数、病害被害木割合、投下労働時間、投入資材等を説明変数とする重回 帰分析を行う。これにより、各説明変数が農家間に発生しているオレンジ単収差をどの 程度説明できるか、検討する。

続く第3節では、第2節の分析結果を踏まえ、重回帰分析で明らかになった要因が、

オレンジの栽培環境や栽培管理方法との関係で具体的にオレンジ単収にどのような影 響を及ぼしているのか、3村におけるオレンジ単収差に注目して明らかにする。

さらに第4節では、第3節で行った分析を、自然環境条件がほぼ同じとみなせる同一 村内における3農家を対象に検証する。すなわち、同一村内でオレンジ単収水準が大き く異なるなる3農家を選定し、主に栽培管理作業の内容と作業時間に注目することによ り、それらの差異が農家間のオレンジ単収差にどのように結びついているかを分析する。

第5節では、本章のまとめを行う。

第2節 オレンジ単収の規定要因

本節では、前章で確認した3村間の収量差および農家間の収量差がどのような要因に よって発生しているか、検討する。

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調査対象農家の成園10a当たり収量(以下「単収」)に影響を及ぼしている可能性のある 基本要因としては、前章での分析結果を踏まえるならば、10a当たりの①オレンジの成木数

(以下「成木数」)、②オレンジの病害発生木割合(以下「病害割合」)、③オレンジ栽培へ の投下労働時間(収穫作業は除く、(以下「労働時間」))、④投入資材費(肥料、農薬等(以 下「資材費」))の4つが挙げられる。

そこで、オレンジ単収と上記①~④の基本要因との相関関係の有無を検討した(表3-1)。 これから、オレンジ単収と②病害割合、③労働時間、④資材費との間には0.58~0.78の高 い負と正の相関があること、②病害割合と③労働時間との間にも高い負の相関が見られる ことがわかる。なお、①の成木数と単収との間の単純相関係数の値は0.23となっており、

それほど高くない。単純相関係数の値からすると、10a当たりオレンジ単収には、病害割合、

労働時間、資材費が影響を及ぼしている可能性が高いと判断できる。ただし、これらの変 数間相互に、相関関係が見られるものも多いため、独立変数間相互の影響を除去した形で 従属変数への影響力を計測できる重回帰分析を用い、①成木数~④資材費の要因が成園10a 当たり収量に及ぼしている影響の程度を検討する。①成木数、③労働時間、④資材費は正 の影響、②病害割合は負の影響が予想される。

ところで、一般に、農作物の生産関数は土地、労働時間、機械利用、投入資材の 3 要素 にかかわる変数で構成されるが、ネパールにおけるオレンジ生産の 10a 当たり収量を説明 する関数式を推計する場合も同様の変数の使用が可能である。ただし、ネパールでのオレ ンジ栽培においては、現在のところ機械利用は行われていないので、機械利用にかかわる 変数は考慮する必要はない。また、ここでは収量全体を目的変数とする生産関数ではなく、

単位面積当たり収量を説明する関数であることから、各説明変数には 10a 当たりのデータ が使用される。このため、土地に関する変数は関数式には入ってこない。

これらの点を考慮すると、計測すべき重回帰式は次のA式のようになる。

Y=a0+a1X1+a2X2+a3X3+a4X4+a5X5+a6X6 (A式)

A式では、10a当たり単収を被説明変数(Y)とし、①成木数(X1)、②病害割合(X2)、

③労働時間(X3)、④資材費(X4)を説明変数としている。また、分析に使用するデー

表3-1 10a当たり収量に影響しているとみられる要因の相関関係

<収量> ①成木数 ②病害割合 ③労働時間 ④資材費

①成木数 0.23 1.00

②病害割合 -0.71 -0.04 1.00

③労働時間 0.78 0.29 -0.76 1.00

④資材費 0.58 0.47 -0.49 0.54 1.00

出所:筆者作成

注:農家数は26戸で、2012年度(2012年~2013年)のデータである。

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タを収集した26農家はG村、M村、R村の異なった村々に位置するため、地域が違う ことによって生じた収量差が発生している可能性も予想されるため、説明変数には地域 差を示すダミー変数も加えてある(M村のダミー変数(X5)とR村のダミー変数(X6))。

次に、26戸の農家から得られたデータとA式を使用し、変数減少法を用いて回帰係 数a0~a6を推計したところ、初期解(ステップ1)は、表3-2のようになった。これ によると、全体的に偏回帰係数のt値が低く、統計的に有意な係数が得られていないこ とがわかる。これは、説明変数のX2、X3、X5、X6の間に多重共線性(表中のVIF値)

が発生していることが影響しているためと見られる。

このため、ステップ2では影響力が小さくt値も低い(X5)が除かれ、残りの5つの変 数で再計算された。ステップ2の計算結果は、労働時間(X3)が、病害割合(X2)との間で 負の相関が高いことやダミー変数(X6)との相関も高いことから、偏回帰係数の値が有意 とならなかった。

そこで次のステップ3では労働時間(X3)が除外されている。さらに、ステップ4では成 木数(X1)が除外され注2)、次のB式が、26戸のオレンジ農家の収量差を説明する重回帰 式として求まった。B式の偏回帰係数の計測結果は表3-3 に示すとおりである(AIC の値も改善されている)。

Y=a0+a2X2+a4X4+a6X6 (B式)

ところで、上記の回帰係数の推計ステップでは、労働時間の係数が有意な値となら ず、説明変数から除外されてしまった。そこで、労働時間については総投下労働時間(収

出所:筆者作成

注:2012年度(2012年~2013年)のデータである。*は5%,**は1%有意水準を示す。

表3-2 10a当たり収量を規定する要因(重回帰分析)

ステップ1 変 数 偏回帰

係数

標準偏回

帰係数 t 値 p値 VIF

X1: 成木数 -2.87 -0.06 -0.80 0.43 1.55

X2: 病害割合 -3.01 -0.23 -0.43 0.67 72.08

X3: 労働時間 -0.82 -0.09 -0.70 0.49 4.10

X4: 資材費 0.06 0.24 2.89 0.01 ** 1.88

X5: M村ダミー 87 0.08 0.16 0.87 65.25 X6: R村のダミー 1041 0.81 1.72 0.10 57.92

263 0.43 0.67

定数項 サンプル数

自由度調整済みR2

F 値 41.1

26 0.91 272.99 AIC

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表3-3 10a当たり収量を規定する要因(重回帰分析)

ステップ4

出所:筆者作成

注:2012年度(2012年~2013年)のデータ。*は5%,**は1%有意水準を示す。

変 数 偏回帰 係数

標準偏回

帰係数 t 値 p値 VIF X2: 病害割合 -3.83 -0.29 -3.88 0.00 ** 1.55

X4: 資材費 0.05 0.20 2.84 0.01 ** 1.32

X6: R村のダミー 880 0.68 9.94 0.00 ** 1.34

261 2.30 0.03 *

定数項

サンプル数 26

自由度調整済みR2

AIC F 値

268.94 87.77

0.91

穫を除く)ではなく、最も収量に影響を及ぼしている可能性のある作業の労働時間を説 明変数として選定し、再推計してみた。具体的には、(第 2 章表 2-5)に示した 10a 当たり作業別労働時間と10a当たり単収との相関係数を計算し、農薬散布時間が 0.87 と最も高い値であることを確認した上で(総投下労働時間との相関も0.73 と比較的高 い)、A 式の X3を農薬散布時間で置き換えた。変数減少法を用いて偏回帰係数 a0~a6

を推計したところ、最終的に、C式と(表3-4)のような推計結果が得られた注3)。 Y=a0+a2X2+a3X3+a4X4+a6X6 (C式)

表 3-4 によれば、各変数の回帰係数の t 値は高く、自由度調整済みの決定係数 R は0.92、F値68.80、AICは268.76となっており、調査対象とした農家の10a当たり 単収変動の約9割が、病害割合(X2)、農薬散布時間(X3)、資材費(X4)、R村のダミ ー変数(X6)の4つの要因を用いてほぼ説明できている。

病害割合の標準偏回帰係数は-0.27 で、被害木割合の増大がオレンジ収量の低下を もたらしている主要因であることが確認できる。一方、資材費の標準偏回帰係数は0.17 であり、農家による資材投入量の違いもオレンジの収量に差異をもたらしている。また、

労働時間(農薬散布作業)の標準偏回帰係数も0.17 で、収量に影響を及ぼしている。

このことは、粗放的な栽培が中心で肥料や農薬などの資材が十分に投入されていないネ パールでは、資材や労働の投入量が多い農家ほどオレンジ単収が増加することを示して いる。

このように、3村の調査対象農家26戸の10a当たり単収差(特にG村の単収が、M 村や R 村に比べてかなり低くなっている点)は、カンキツグリーニング病による被害 が主要因であるが、その一方で栽培管理(施肥や防除)のあり方も一因となっているこ