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RPGN の維持療法として免疫抑制薬は腎機能予後および生命予後を改善するか?

結語

CQ 19 RPGN の維持療法として免疫抑制薬は腎機能予後および生命予後を改善するか?

 RPGN の維持療法は,再燃予防および日和見感染の合併症対策を加味して行う必要がある.再燃およ び日和見感染症は予後に深く関与するため,副腎皮質ステロイド薬の投与期間や投与量に加えて,併用 する免疫抑制薬を検討する必要がある.ANCA 型 RPGN ではアザチオプリン(AZA)やミゾリビン

(MZR)(保険適用外)などの,免疫複合体型 RPGN(ループス腎炎)ではミコフェノール酸モフェチル

(MMF)(保険適用外)やアザチオプリン(AZA)の有用性が報告されている.

要 約

解説

2  診断・治療に関するCQ と同等の再発予防効果が示されている.これらのエ

ビデンスを基に EULAR recommendations では AZA(2 mg/kg/日)を CY よりも安全で再発予防効 果は同等として,寛解維持療法として推奨している.

B.‌ミゾリビン(MZR)(治療抵抗性ネフローゼ症 候群およびループス腎炎以外は保険適用外)

 AZA に加え,わが国における維持療法中の免疫 抑制薬として MZR の使用頻度が増加傾向にある.

MZR は腎機能低下時の蓄積の問題があり,投与間 隔や投与量の調節に血中濃度モニタリングなどを行 うことが勧められる2).現在,国内で MZR 使用の有 無による血清 ANCA 値再上昇,再燃率への効果の 検討が開始されている(MPO—ANCA 関連血管炎の 寛解維持療法における MZR の有効性・安全性およ び血中濃度の関連性に関する多施設共同研究,

UMIN000000708,登録日 2007 年 5 月 6 日).

C.‌メトトレキサート(MTX)(保険適用外)

 1999 年および 2003 年に Langford らが,GPA/WG の寛解維持療法における MTX の有効性を報告して いる(非比較試験)3,4).血清クレアチニン 1.5 mg/dL 未満の GPA/WG を対象として,副腎皮質ステロイ ド薬および CY による寛解導入後に経口 MTX(0.3 mg/kg/週あるいは 15 mg/週で開始し,その後週 2.5 mg ずつ増量)に切り替えて寛解維持療法が行われ ている.2003 年の報告では,平均 32 カ月の観察期 間中に 52%が再燃したが,そのなかで重症再燃は認 めなかったことが報告されている3).これらのエビ デンスを基に EULAR recommendations は,MTX を寛解維持療法に使用する免疫抑制薬として推奨し ている.

 なお,GPA/WG に比して MPA に対する MTX の 寛解維持療法のエビデンスは乏しい.また,進行性 の腎障害を呈する RPGN 例で高度の腎機能障害を 有する例(Ccr<30 mL/分)においては,MTX が使 用不可である.

D.‌ミコフェノール酸モフェチル(MMF)(保険適 用外)

 2010 年に Hiemstra らは,ANCA 関連血管炎の寛 解維持療法における AZA と MMF のランダム化比 較試験(IMPROVE 試験)を報告した5).本試験では,

副腎皮質ステロイド薬および CY による寛解維持療

法後に,AZA 群(開始量 2 mg/kg/日)または MMF 群(開始量 2,000 mg/日)に無作為に割り付けられ,

平均 39 カ月間の観察期間で再燃率および有害事象 の発生率を検討した.再燃率は,AZA 群 47.5%に比 較して MMF 群 55.2%と高く,そのハザード比は 1.69(95%CI,1.06—2.70;p=0.03)であった.重篤な 有害事象の発生には群間の差はみられなかった.副 次的評価項目である血管炎障害スコア(VDI),

eGFR および蛋白尿についても群間の差はみられな かった.このため ANCA 関連血管炎における寛解 維持療法において,MMF は AZA に比較して有用 性が小さいと考えられる.

 上記に示す治療ガイドラインはランダム化比較対 照試験(RCT)を中心としたデータに基づいて作成 されているため対象症例は80歳未満である.また多 くの研究で PR3—ANCA 陽性症例,GPA/WG 症例の 割合が多い.わが国では疾患比率として GPA/WG よりも MPA が圧倒的に多く,また 80 歳以上の高齢 者での発症がまれではないこともあり,これらのガ イドラインのわが国の患者への適用については慎重 な配慮を要する.

2. 免疫複合体型 RPGN(ループス腎炎)

 欧米では,病理所見にて半月体形成や壊死性病変 を伴い臨床的に RPGN を呈するループス腎炎にお いては,副腎皮質ステロイド薬に免疫抑制薬〔CY あるいは MMF(わが国では保険適用外)〕を併用し た初期治療が推奨されているe,f).さらに維持療法に ついても低用量の副腎皮質ステロイド薬に加えて免 疫抑制薬の併用により,再燃率の軽減,腎機能予後 および生命予後を改善することが報告されている.

 従来から使用されていた CY は副作用の観点から 総投与量や投与期間が限られているため,寛解維持 療法においては MMF および AZA にて再燃予防効 果が検討されてきた.2010 年に欧州の MAINTAIN Nephritis Trial Group から,WHO 分類Ⅲ型,Ⅳ型 および増殖性変化を伴うⅤ型(Vc,Vd)と病理診断 され,副腎皮質ステロイド薬と IVCY で寛解導入さ れた 105 例を対象としたランダム化比較試験が報告 されている6).本試験では,AZA(2 mg/kg/日)と MMF(2 g/日)の投与群に割り付け,48 カ月の観察 期間で再燃の発生率を検討している.AZA 群およ

び MMF 群の再燃率はおのおの 25%,19%であり,

両群で差を認めなかった.さらに副次的評価項目で ある治療開始後 3 年目の尿蛋白量,血清 Cr 値,血 清アルブミン値,血清 C3 値や SLE の活動性も両群 で差を認めなかった.有害事象の発生率では,AZA 群で白血球減少の頻度が高いことが示されている.

 さらに 2011 年に ALMS group から,WHO 分類

Ⅲ型,Ⅳ型およびⅤ型と病理診断され寛解導入され た 227 例を対象としたランダム化比較試験が報告さ れ て い る7). 本 試 験 で は,AZA(2 mg/kg/日 )と MMF(2 g/日)の投与群に割り付け,36 カ月の観察 期間で死亡,末期腎不全,血清 Cr の倍加,再燃お よびこれらに伴う免疫抑制薬の追加で定義される treatment failure の発生率を検討した.MMF 群お よび AZA 群の treatment failure 率はおのおの 16.4%,32.4%であり,MMF 群におけるハザード比 は 0.44(95%CI,0.25—0.77)と 低 値 で あ っ た(p=

0.003).重篤な有害事象の発生率は,両群で差を認 めなかった.

 以上のエビデンスから,低用量副腎皮質ステロイ ド薬に加えて ACR guidelinee)では MMF(わが国で は保険適用外)あるいは AZA による寛解維持療法 を,EULAR/ERA—EDTA recommendationsf)では MMF(わが国では保険適用外)による寛解維持療法 を推奨している.

3. 抗 GBM 抗体型 RPGN

 現時点で抗 GBM 型 RPGN に対する初期(抗 GBM 抗体消失)後の維持療法のエビデンスはきわめて乏 しいのが現状である.抗 GBM 抗体の産生が 6~9 カ 月で自然消失することから,毒性の低い免疫抑制薬

(AZA など)の使用を 6~9 カ月以上継続することが 多い.一方で,初期治療により抗 GBM 抗体が消失 すれば再発がまれであることから,抗 GBM 抗体が 消失している限り維持療法は必要でないとの考えも ある.

 2001 年に Hammersmith Hospital から,抗 GBM 抗体型腎炎または Goodpasture 症候群 85 例の 25 年 にわたる長期予後が報告されている8).このうち 71 例は経口 PSL〔1 mg/体重(kg)/日あるいは 60 mg/

日〕,CY(2~3 mg/kg/日,55 歳以上は適宜減量,

2~3 カ月間)および血漿交換(50 mg/kg/回,最大 4

L/回,14 日間)を併用する寛解導入療法が行われて いる.さらに寛解後は経口 PSL を徐々に減量し,

6~9 カ月で中止されている.このうち 19 例では,

維持療法で AZA(1~2 mg/kg/日)が併用されてい る.本治療プロトコールにより副腎皮質ステロイド 薬や免疫抑制薬を中止しても 1 年目以降の腎および 個体生存率は大きく変化しないことが示されている.

 このため抗 GBM 抗体型 RPGN の維持療法では,

抗 GBM 抗体の消失や血管炎症候の再燃がないこと を確認しながら 6~12 カ月間は副腎皮質ステロイド 薬や免疫抑制薬を継続し,それ以降は中止を検討す るd,g)

文献検索

 文献は PubMed(キーワード:GBM,ANCA,

renal vasculitis,SLE,lupus nephritis,immunosup-pressive therapy,immunosupnephritis,immunosup-pressive treatment,

clinical trial,meta—analysis)で対象期間を指定せず に検索した.

参考にした二次資料

a. Lapraik C, et al. BSR and BHPR guidelines for the manage-ment of adults with ANCA associated vasculitis. Rheuma-tology(Oxford) 2007;46:1615—6.

b. Mukhtyar C, et al. EULAR recommendations for the man-agement of primary small and medium vessel vasculitis.

Ann Rheum Dis 2009;68:310—7.

c. Pauci—immune focal and segmental necrotizing glomerulo-nephritis in KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomeru-lonephritis. Kidney Int 2012(Suppl);2:233—9.

d. 急速進行性糸球体腎炎診療指針作成合同委員会.急速進行 性腎炎症候群の診療指針第 2 版.日腎会誌 2011;53:509—

55.

e. Hahn BH, et al. American College of Rheumatology Guide-lines for screening, treatment, and management of lupus nephritis. Arthritis Care Res 2012;64:797—808.

f. Lupus nephritis in KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomerulonephritis. Kidney Int 2012(Suppl);2:221—32.

g. Anti—glomerular basement membrane antibody glomerulo-nephritis in KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomeru-lonephritis. Kidney Int 2012(Suppl);2:240—2.

引用文献

1. Jayne D, et al. N Engl J Med 2003;349:36—44.(レベル 2)

2. Hirayama K, et al. Am J Kidney Dis 2004;44:57—63.(レベ ル 5)

3. Langford CA, et al. Arthritis Rheum 1999;42:2666—73.(レ ベル 4)

2  診断・治療に関するCQ 4. Langford CA, et al. Am J Med 2003;114:463—9.(レベル 4)

5. Hiemstra TF, et al. JAMA 2010;304:2381—8.(レベル 2)

6. Houssiau FA, et al. Ann Rheum Dis 2010;69:2083—9.(レベ ル 2)

7. Dooley MA, et al. N Engl J Med 2011;365:1886—95.(レベ ル 2)

8. Levy JB, et al. Ann Intern Med 2001;134:1033—42.(レベル 4)

 ST 合剤は,RPGN の治療薬である副腎皮質ステ ロイド薬・免疫抑制薬によって生じる免疫抑制状態 に対して,PCP への予防を目的として使用される.

他方 GPA では寛解維持療法として適用されること がある.ここでは ST 合剤に関して,PCP 予防と原 疾患の治療薬としてのおのおのの有効性を紹介し,

生命予後および腎予後との関連に関して解説する.

1. ニューモシスチス肺炎(PCP)の予防投与  血管炎治療における PCP の発症率について,国内 では 2 年の観察期間で 4.0%(発症例はいずれも ST 合剤非投与)1),18 カ月の観察期間で ST 合剤非投与 17.6%,ST 合剤投与 0%2),海外では中央観察期間 7 年で 1%3),GPA 発症 1 年以内に 3.3%,3~14 年で

2.8%4),パルス CY 群 30.6±16.7 カ月の観察期間で 11.1%,経口 CY 群 24.9±18.8 カ月の観察期間で 30.4%5)であったと報告されており,その発症率に 影響する因子として副腎皮質ステロイド薬や CY 投 与量が関連する可能性がある.PCP 発症後の死亡率 は 9~60%2~4)と報告されている.非 HIV 感染の免 疫不全患者に対する PCP 予防の有効性についての システマティックレビューとメタ解析では,ST 合 剤予防投与により PCP 発症率は 91%減少し,PCP 関連死亡率が有意に低下することが示されてい る6).国内では,2011 年に発行された「急速進行性 腎炎症候群の診療指針第 2 版」a)や「ANCA 関連血管 炎の診療ガイドライン」b)において,PCP 予防のた めの ST 合剤予防投与の徹底が推奨されている.世 界的に BSR/BHPRc)と EULARd)のいずれにおいて も ST 合剤の使用が推奨されており,ST 合剤にアレ ルギーがある場合にはペンタミジン吸入 300 mg 1 カ月 1 回が推奨されているb).ST 合剤投与方法につ 推奨グレード A ST 合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)は RPGN の生命予後を改善す る.このため RPGN に対して免疫抑制療法を行う場合には ST 合剤の併用を推奨する.

推奨グレード なし ST 合剤の腎予後への効果は明らかではない.