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RPGN の初期治療として免疫抑制薬は腎機能予後および生命予後を改善するか?

解説

CQ 10 RPGN の初期治療として免疫抑制薬は腎機能予後および生命予後を改善するか?

ア. ANCA 型 RPGN

 血管炎の初期治療として,1970 年代より副腎皮質 ステロイド薬とシクロホスファミド(CY)の併用療 法が標準的な初期治療として用いられてきた.1996 年に Nachman らは,ANCA 型 RPGN に対する副腎 皮質ステロイド薬単独と副腎皮質ステロイド薬+

CY 併用療法の非ランダム化比較試験を報告した1). 初期治療に対する寛解率は,単独群で 55%に比して 併用群で 85%と有意に高いことが示されている.ま た再燃率においても単独群に比して併用群では 0.31 倍と低値であった.さらに 1996 年の Hogan らの後 ろ向き観察研究においても,副腎皮質ステロイド薬 単独群に比して CY 併用群において生命予後が改善 することが報告されている(併用群では死亡率が

0.18 倍)2).2011 年のわが国からの報告においても,

ANCA 関連血管炎において CY の投与により腎予後 を有意に改善させることが示されている〔CY 投与

(対照:非投与)HR 0.683(95%CI,0.474—0.986;p=

0.042)〕a)

 CY の有効性が示されている一方で,CY の副作用 による重篤な合併症も問題となっている.このため CY に代わる免疫抑制薬を用いた初期治療も検討さ れている.2005 年に Groot らが,ANCA 関連血管 炎の寛解導入療法における CY とメソトレキセート

(MTX)の ラ ン ダ ム 化 比 較 試 験 を 報 告 し て い る

(NORAM 研究)3).ANCA 関連血管炎 100 例を対象 とし,CY 群(経口 CY 2 mg/kg/日)または MTX 群

(経口 MTX 20~25 mg/週)に割り付け,治療開始後 6 カ月目の寛解率を検討した(非劣性試験).さらに  わが国では,疾患に対する理解や「急速進行性腎炎症候群診療指針」の刊行により,症例に合わせた 治療法の選択が行われるようになっている.そのなかで,ステロイドパルス療法+経口副腎皮質ステロ イド薬に加えて免疫抑制薬を投与する強力な免疫抑制療法が選択される患者も増加している.その際 は,治療開始時の臨床重症度,年齢,透析施行の有無などを考慮したうえで経口シクロホスファミド

(CY)(25~100mg/日)またはシクロホスファミド大量静注療法(IVCY)(250~750mg/m2/ 日/月)

を併用する.

要 約

解説

2  診断・治療に関するCQ 両薬剤とも治療開始後12カ月までに減量・中止する

治療プロトコールにて再燃率を比較検討した(観察 期間 18 カ月).MTX 群の寛解率は 89.8%であり,

CY 群の 93.5%に比して劣ってはいなかった(p=

0.041).再燃率は,MTX 群 69.5%,CY 群 46.5%で あり,MTX 群で高かった〔HR 1.85(95%CI,1.06—

3.25)〕.MTX においても高い寛解率が示される一 方で,CY の有用性が示される結果でもあった.

 これらをエビデンスとして,KDIGO,英国(BSR—

BHPR),欧州(EULAR),オーストラリア(CARI)の いずれのガイドラインにおいても,寛解導入療法と して副腎皮質ステロイド薬に加えて経口 CY(2 mg/

kg/日)またはシクロホスファミド大量静注療法

(IVCY)(15 mg/kg を 2~3 週ごと)の併用が推奨さ れている.わが国の ANCA 型 RPGN の診療指針に おいては,治療開始時の臨床重症度(グレード),年 齢,透析施行の有無により,4 群に分類して治療法 が示されている.その中で,グレードⅠまたはⅡ群 の患者において副腎皮質ステロイド薬単独治療で疾 患活動性が持続する場合や,70 歳未満でグレードⅢ またはⅣ群の患者では経口 CY(25~100 mg/日)ま たは IVCY(250~750 mg/m2/ 日/月)を考慮するこ とが示されている.

 CY は肝臓で代謝を受けるが,その活性代謝物の 尿中排泄率は約 50%と報告されているa).腎機能の 低下により CY クリアランスが低下するため,経口 CY および IVCY の投与量は腎機能により調整する 必要がある.さらに CY 投与の際は,血球減少に対 して特に注意を要する.経口 CY および IVCY の投 与量調整について以下に示す.

1. 経口 CY

 2007 年の BSR/BHPR ガイドラインでは,寛解導 入として経口 CY 2 mg/kg/日を最低 3 カ月継続する ことが推奨されているが,好中球減少症を避けるた め,年齢 60 歳以上は 25%,75 歳以上は 50%減量す べきである.血球数の確認を最初の 1 カ月は毎週,

2 カ月目と 3 カ月目は 2 週間ごと,その後は毎月実 施する.白血球 4,000/

μ

L 未満,好中球 2,000/μL 未 満に減少した場合は経口 CY を一時的に中止する.

白血球数が回復したら少なくとも 1 日投与量を 25 mg 減量して再開し,その後 4 週間は毎週検査する.

重篤な白血球減少,好中球減少(白血球 1,000/

μ

L 未 満,好中球 500/μL 未満)あるいは遷延する白血球減 少, 好 中 球 減 少( 白 血 球 4,000/

μ

L 未 満, 好 中 球 2,000/μL 未満が 2 週間以上)をきたした場合には経 口 CY を中止し,白血球数回復後に 50 mg/日で再開 して,白血球数が許容範囲内であれば,1 週間ごと に目標量まで増量する.白血球 6,000/

μ

L 未満でか つ以前に比して 2,000/μL 以上低下した場合には 25%減量する.

2. IVCY

 腎機能は IVCY 当日あるいは前日に測定し用量を 調整する.年齢,腎機能による減量方法を表 1に示 すb).高度の腎機能低下例や透析導入例においても,

IVCY 投与量を 20~30%減量することにより適切な AUC となることが報告されている.また透析例で は透析療法により CY が除去されるため,CY 投与 12 時間は透析療法を避けることが望ましい.一方,

透析を導入して 3 カ月以上経過した症例では腎機能 の回復がまれであるため,KDIGO ガイドラインで は CY の投与中止が推奨されているc)

 さらに血球数も IVCY の当日あるいは前日に確認 する.IVCY 施行前に白血球 4,000/μL 未満,好中球 2,000/

μ

L 未満である場合には,IVCY を延期し,毎 週血球数を確認して,白血球 4,000/μL 以上でかつ 好中球 2,000/μL 以上になったら 25%減量して再開 する.その後に白血球減少,好中球減少をきたした 場合には,同様な方法で減量する.最初の IVCY 10 日後から次の IVCY までの間に血球数を確認する.

白血球 nadir 3,000/

μ

L 未満,好中球 nadir 1,500/μL 未満の場合には,次の IVCY 直前の白血球数 4,000/

μ

L 以上でかつ好中球 2,000/μL 以上であっても以下 にように減量をする.

①白血球 nadir 1,000~2,000/μL あるいは好中球 表 1 年齢と腎機能による IVCY 用量調節

年齢 血清 Cr

1.7~3.4 mg/dL

血清 Cr 3.4~5.7 mg/dL 60 歳未満 15 mg/kg/回 12.5 mg/kg/回 60 歳以上 70 歳未満 12.5 mg/kg/回 10 mg/kg/回 70 歳以上 10 mg/kg/回 7.5 mg/kg/回

(二次資料 b より引用)

500~1,000/μL では,前回量の 40%減量する.

②白血球 nadir 2,000~3,000/μL あるいは好中球

1,000~1,500/μL では,前回量の 20%減量する.

イ. 免疫複合体型(SLE)RPGN

 ループス腎炎はさまざまな臨床像・組織像を呈 し,それぞれ適する治療も異なる.このため腎生検 を行ったうえで治療法を決定する必要がある.ルー プス腎炎の組織分類は 2004 年に報告された Interna-tional Society of Nephrology/Renal Pathology Soci-ety(ISN/RPS)分類を用いることが多い.本分類の なかで class ⅢおよびⅣが増殖性腎炎である.なか でも class Ⅳは全糸球体の 50%以上に病変を認める びまん性ループス腎炎と定義される.ループス腎炎 において最も重症な class であり,臨床的に RPGN を呈することがある.わが国の RPGN 統計調査で は,ループス腎炎が RPGN の 3.7%を占めている.

 通常 class ⅢおよびⅣの増殖性腎炎では,初期量 として PSL 0.8~1.0 mg/kg/日の投与を行い,臨床 所見および検査所見の改善をみながら漸減する.病 理所見にて半月体形成や壊死性病変を認める例で は,副腎皮質ステロイドパルス療法や免疫抑制薬を 併用する.併用する免疫抑制剤としては,1970 年代 より CY の有効性を示す論文が数多く報告されてい る.1991 年に Steinberg らは,経口 PSL,CY,ア ザチオプリン(AZP)を用いた治療プロトコールの ランダム化比較試験を報告した4).本試験では,CY の使用により腎予後の改善を認め,それ以降の重症 型ループス腎炎の治療選択に大きな影響を与えてい る.

 さらに CY の投与方法に関する検討も行われてい る.2002 年に Houssiau らは,高用量シクロホスファ ミド静注療法(IVCY)(0.5 g/m2,6 カ月間は毎月投 与,以後は 3 カ月ごとに 2 回投与)と低用量 IVCY

〔一律 0.5 g/日,2 週間ごとに 3 カ月間投与(計 6 回)〕

の 2 群に分けたランダム化比較試験を報告した5). 本試験では,両群で寛解率および再燃率に差を認め なかった.さらに2010年に長期予後の結果が報告さ れているが,低用量と高用量 IVCY で腎機能および 生命予後に差を認めないことが示されている6).こ れらのエビデンスから ACR のガイドラインでは,

class ⅢあるいはⅣのループス腎炎に対して,経口 副腎皮質ステロイド薬(PSL 0.5~1 mg/kg/日)およ びステロイドパルス療法に加えて低用量あるいは高 用量 IVCY による寛解導入療法が推奨されている.

 一方で CY は,感染症や卵巣機能不全,発癌など の副作用もあることから,より安全性の高い免疫抑 制薬による治療が検討されてきた.2000 年に Chan らは,WHO 分類Ⅳ型の活動性ループス腎炎 42 例を 対象として,①CY 内服(2.5 mg/kg/日)と PSL 内服

(0.8 mg/kg/日)を 6 カ月,その後 AZP(1.5 mg/kg/

日)に変更して6カ月継続と,②ミコフェノール酸モ フェチル(MMF)(2 g/日)と PSL 内服(0.8 mg/kg/

日)を 6 カ月,その後 MMF を半量として 6 カ月継 続の 2 群に分けて検討した7).本試験では,両群で 尿蛋白,腎機能,寛解率に差を認めず,感染症,無 月経,脱毛などの副作用は MMF 群で少ないことが  病理所見にて半月体形成や壊死性病変を伴い臨床的に RPGN を呈するループス腎炎においては,副 腎皮質ステロイド薬に免疫抑制薬〔シクロホスファミド(CY)あるいはミコフェノール酸モフェチル

(MMF)(保険適用外)〕を併用した初期治療を推奨する.

要 約

解説