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副腎皮質ステロイド薬単独治療による初期治療は,RPGN の腎予 後および生命予後の改善のために推奨されるか?

解説

CQ 8 副腎皮質ステロイド薬単独治療による初期治療は,RPGN の腎予 後および生命予後の改善のために推奨されるか?

  ANCA 陽性 RPGN に対する初期療法は,副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬の併用が原則であり,

これまで副腎皮質ステロイド薬使用群と非使用群を直接比較した RCT は見当たらない.したがって,

副腎皮質ステロイド薬単独治療は,積極的治療の適応があり,かつ免疫抑制薬の使用が好ましくない以 下の場合に考慮する.

① 感染症が存在するか,その存在が否定できず,免疫抑制薬の併用により重篤な感染症リスクがより高 まると考えられる症例

②透析患者

③高齢者(特に 70 歳以上)

④白血球減少・肝機能障害など,免疫抑制薬の禁忌事項がある症例

 最終的には,感染症の種類と程度,年齢などを考慮し,副腎皮質ステロイド薬単独治療の有益性がこ れを用いない場合よりも大きいと予想される場合にのみ投与する.

 免疫複合体型 RPGN(SLE)(ループス腎炎Ⅳ型とⅢ型の一部)に対する療法は,副腎皮質ステロイド 薬と免疫抑制薬(シクロホスファミド)の併用が原則であり,副腎皮質ステロイド薬単独治療は,RPGN の回復が期待できるかあるいは全身のSLE症状が強いために積極的治療の適応があり,かつ免疫抑制薬 の使用が好ましくない場合(上述)に限り考慮する.

 抗 GBM 抗体型 RPGN の腎予後は RPGN のなかでも最も悪く,肺出血を伴えば生命予後も著しく不

要 約

2  診断・治療に関するCQ  RPGN に対する初期治療としての,副腎皮質ステ

ロイド薬単独治療の適応と推奨度を,ANCA 関連糸 球体腎炎,ループス腎炎,抗 GBM 抗体型糸球体腎 炎に分けて検証する.免疫複合体型 RPGN には,

ループス腎炎のほか,IgA 腎症,Shonlein—Henoch 紫斑病腎炎,膜性増殖性糸球体腎炎,感染症による 腎炎の一部(C 型肝炎など)などが含まれるが,ルー プス腎炎以外ではエビデンスは乏しいため,ここで は RPGN の経過をたどる増殖型のループス腎炎(Ⅳ 型とⅢ型の一部)についてのみ述べる.

1. ANCA 陽性 RPGN

 ANCA 関連糸球体腎炎による RPGN において,

副腎皮質ステロイド薬単独による初期治療を考慮す べき場合は,RPGN の回復が期待できるか全身の血 管炎症状が強いため積極的治療の適応があり,かつ 免疫抑制薬の併用が好ましくない以下の場合である.

 ①重篤な感染症や活動性の結核が存在するか,そ の存在が否定できず,免疫抑制薬の併用により悪化 の危険性が高いと考えられる症例

 ②透析患者

 ③高齢者(特に 70 歳以上)

 ④白血球減少・肝機能障害など,免疫抑制薬の禁 忌事項がある症例

 最終的には,感染症の種類と程度,年齢などを考 慮し,副腎皮質ステロイド薬単独治療の有益性がこ れを用いない場合よりも大きいと予想される場合に 投与する.

A. 副腎皮質ステロイド薬単独治療の有用性  これまで,ANCA 陽性 RPGN を対象とし,副腎

皮質ステロイド薬使用群と非使用群を直接比較した RCT は見当たらない.しかしながら,ANCA 関連 血管炎を含む血管炎において,古くから副腎皮質ス テロイド薬の有効性が認識され,初期治療として使 用されてきた.血管炎に対する副腎皮質ステロイド 薬の有効性を指摘したのは 1967 年 Frohnert らの報 告に遡る1).彼らは,結節性動脈周囲炎 150 例につ いて無治療群と副腎皮質ステロイド薬使用群を比較 し,生存率,腎機能,尿所見いずれも後者がより良 好であることを示した.RPGN を対象としたものと しては,1979 年 Bolton らの報告がある2).彼らは,

pauci—immune 型,抗 GBM 抗体型,免疫複合体沈着 型を含む 9 例の RPGN にステロイドパルス療法と経 口副腎皮質ステロイド薬投与を行い 6 例で腎機能の 改善を認めた.1982 年 Couser は,この報告を含む 58 例の RPGN 症例(うち 38 例が特発性 RPGN)を検 討し,副腎皮質ステロイド薬により45例(78%)で腎 機能の改善を認めている3).わが国では,厚生労働 省の RPGN 分科会アンケート調査があり,副腎皮質 ステロイド薬を含む治療により 24 カ月の時点で 70%以上の腎生存率を観察している.以上のよう に,直接の比較試験はないものの,RPGN の多くは 未治療では腎生存を期待できないことから,ANCA 陽性 RPGN に対する副腎皮質ステロイド療法の有 効性は疑いない.

B. 副腎皮質ステロイド薬単独療法と副腎皮質ス テロイド薬/免疫抑制薬併用のいずれを選択する か

 1996 年 Nachman らは,ANCA 関連糸球体腎炎を 対象に,副腎皮質ステロイド薬単独とシクロホス ファミド併用の非ランダム化比較試験の成績を報告 している.結果は,副腎皮質ステロイド薬単独でも 50%以上で効果を認めたが4),併用群のほうで腎予 後はよかった.このように,治療効果は副腎皮質ス 良となる.したがって,腎予後に対する効果の期待できる症例(透析を要さず,腎生検上,半月体形成の 程度が重篤でない場合)や肺出血を伴う症例(Goodpasture 症候群)では,原則的に大量副腎皮質ステロ イド療法,免疫抑制薬(シクロホスファミド),血漿交換の併用が考慮される.したがって,副腎皮質ス テロイド薬単独治療は,免疫抑制薬の使用が好ましくない場合に限り,血漿交換との併用が推奨される.

背景・目的

解説

テロイド薬と免疫抑制薬の併用には劣っている.実 際,近年 RPGN を多く含む ANCA 関連血管炎に関 する多数の RCT が行われているが,初期治療とし て,すべての報告で副腎皮質ステロイド薬が,そし てそのほとんどでシクロホスファミドが併用されて おり5,6,a),ANCA 関連血管炎や pauci—immune 型半 月体形成性腎炎を対象とした海外のガイドラインで も副腎皮質ステロイド薬とシクロホスファミドの併 用が標準治療となっているb~e).一方,わが国の診 療指針では,初期治療方針として,年齢と透析の有 無による治療法の選択基準が示されているf,g).すな わち,高齢者(70 歳以上)や透析患者では,感染症の リスクが高くなるため,まず副腎皮質ステロイド薬 単独で開始し,その後,副腎皮質ステロイド薬の初 期治療から減量を進めた段階で免疫抑制薬を併用 し,維持療法へとつなげる治療を考慮するとしてい る7,f,g)

 免疫抑制薬を回避すべき場合として,免疫抑制薬 に対しアレルギーや重篤な副作用の既往がある場 合,血球減少(白血球,血小板,高度の貧血)や中等 度以上の肝機能障害がある場合,妊婦および妊娠可 能年齢の女性,重篤な感染症や活動性結核がある場 合,などがあげられる.

C. 治療反応性と予後の予測(全身症状と感染も 含む)

 治療開始にあたっては,まずは治療反応性ないし 腎予後の予測が重要となる.腎生検上,活動性病変 がある場合は腎予後改善が期待できる.活動性病変 とは,細胞性または線維細胞性半月体の存在,糸球 体の壊死病変,および細動脈におけるフィブリノイ ド壊死病変の 3 つがあげられ,このうちのいずれか が存在すれば,副腎皮質ステロイド薬を含む免疫抑 制療法が有効である可能性がある.逆に,①治療開 始時の腎機能が悪い8,9),②慢性変化(線維性半月体,

糸球体硬化,間質線維化)が主体で,腎動脈硬化の強

い場合5,9,10),③臨床経過上,緩徐に高度腎不全に

至った場合(特に透析導入後),には治療抵抗性の可 能性が大きい.しかしながら,いったん透析導入に なっても治療により離脱できる例もあり,GFR 10 mL/分/1.73 m2未満でも副腎皮質ステロイド薬を含 む免疫抑制療法により 57%で改善がみられたとの

報告もある5)

 治療を開始するにあたっては,たとえ腎機能の回 復は期待できなくても,全身の血管炎症状について 考慮する.もし血管炎症状があれば副腎皮質ステロ イド薬治療を開始し,特に強い血管炎症状(肺出血 など)を伴う場合や初期の副腎皮質ステロイド薬単 独治療で反応不良の場合は,ステロイドパルス療法 や免疫抑制薬の併用が推奨される.

D. 副腎皮質ステロイド薬投与量と減量法  経口副腎皮質ステロイド薬の投与量や減量法につ いて決まったプロトコールはないが,わが国の診療 指針では,感染症のリスクを考慮し,初期治療,お よびステロイドパルス療法に続く後療法いずれにお いても,プレドニゾロン 0.6~0.8 mg/kg 体重/日を 用いるよう推奨しているf).一方,海外では初期治 療としてプレドニゾロン 1 mg/kg 体重/日(ただし,

60 mg/日を超えない)が用いられる.その後は,プ レドニゾロンの初期量を 2~4 週間使用し,3~6 カ 月以上かけて 10~15 mg/日未満まで漸減,寛解が 得られれば維持量とすることが多い.わが国の診療 指針では,初期治療開始後 8 週間以内にプレドニゾ ロンを 20 mg/日未満へ減量するとしているf)2. 免疫複合体型 RPGN(SLE)

 ループス腎炎のうち腎機能の急速な悪化を示すの は,糸球体の急性増殖性変化の強い ISN/RPS 分類 のⅣ型(びまん性増殖型)およびⅢ型(巣状増殖型)の 一部であり,これにⅤ型が合併することもある.特 に,Ⅳ型で半月体形成や壊死性病変が多数みられる 際,RPGN の経過をたどる.これらの活動性の高い ループス腎炎では,無治療の場合の腎予後は不良で あり,抗炎症ないし免疫抑制効果を狙った積極的な 治療が考慮される.活動性病変には,細胞性および 線維細胞性半月体,フィブリノイド壊死のほか,係 蹄内細胞増殖,核崩壊(karyorrhexis),硝子様血栓 などが含まれる.

 ループス腎炎に関して,副腎皮質ステロイド薬の 有効性を非使用群と直接比較検証した RCT はない.

しかし,副腎皮質ステロイド薬の抗炎症作用および 免疫抑制作用が RPGN を呈するループス腎炎に対 して有効であることは明らかであり,1980 年代より ループス腎炎の基礎薬として広く用いられてきた.