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血漿交換療法はRPGN の腎機能予後および生命予後を改善するために推奨されるか?

解説

CQ 14 血漿交換療法はRPGN の腎機能予後および生命予後を改善するために推奨されるか?

 抗 GBM 抗体型 RPGN では,免疫抑制療法に加え,血漿交換療法の併用を推奨する.ANCA 型 RPGN や免疫複合体型 RPGN(ループス腎炎)では,症例に応じて血漿交換療法の併用を考慮する.なお,

RPGN を呈する全身性エリテマトーデスは血漿交換療法の保険適用疾患であるが,ANCA 陽性 RPGN や抗 GBM 抗体型 RPGN は保険適用疾患となっていない.

要 約

2  診断・治療に関するCQ 1. ANCA 型 RPGN

 血漿交換療法は ANCA の発症早期の積極的除去 による治療効果が期待できる治療法である.2007 年 に Jayne らは,ANCA 関連血管炎の寛解導入療法と して血漿交換療法(PE)とメチルプレドニゾロンパ ルス(MP)療法のランダム化比較試験を報告した1). 血清 Cr≧5.8mg/dL の ANCA 関連血管炎患者を対 象とし,7 回の PE を施行する群(PE 群 70 例)と MP 療法を施行する群(MP 群 67 例)に無作為に割り付け て腎生存率を検討した.治療開始後 3 カ月目の腎生 存率は,PE 群 69%であり,MP 群 49%に比して良 好であった(p=0.02).また治療開始後 12 カ月目の 腎生存率も,PE 群で 59%であり,MP 群の 43%に 比して高値であった(p=0.008).PE 群における 12 カ月時点での末期腎不全のハザード比(HR)は 0.47

(95%CI,0.24—0.93;p=0.03)であった.一方,個体 生存率は両群で差を認めなかった.本試験では,PE は MP 療法と比較して,腎不全を合併した ANCA 関 連血管炎における腎機能予後を改善する可能性が示 された.

 さらに 2011 年に Szpirt らは,GPA/WG における 血漿交換療法の効果について報告した2).本試験で は,治療開始時の血清 Cr>2.85mg/dL の症例にお いて血漿交換療法により腎生存率が改善することが 示されている.

 過去 6 試験のシステマティックレビューや 9 試験 のメタ解析においても,血漿交換療法は治療開始後 の末期腎不全への進展リスクを減少させることが報 告されている3,4).以上のエビデンスを基に BSR/

BHPR ガイドラインでは,重篤な腎障害(血清 Cr≧

5.8mg/dL)を認める場合は副腎皮質ステロイド薬 とシクロホスファミド(CY)に加え,血漿交換療法

(2 週間以内に 4L を 7 回)を併用することが示され ている.さらに,それ以外の肺胞出血などの重篤な 合併症を呈した場合も血漿交換療法の併用が推奨さ れている.現在わが国も参加して,eGFR50mL/分 未満および/または肺胞出血を伴う重篤な GPA また は MPA 症例を対象として,最高 7 回までの血漿交 換療法の施行を治療選択肢とし,末期腎不全および

死亡率をアウトカムとした大規模国際的 RCT が進 行中である(PEXIVAS 研究).

 一方,わが国における ANCA 型 RPGN の分析疫 学研究では,腎機能高度低下例での検討でも血漿交 換療法の追加による腎予後,生命予後の改善は認め られていない5).このため,現在のところ,わが国 における ANCA 型 RPGN の寛解導入療法において 血漿交換療法の併用は,最重症例や治療抵抗例,何 らかの理由により副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制 薬の投与不能な症例に限られると考えられる.欧米 とわが国では血漿分離法が異なっていることもあ り,今後のさらなる検討が必要である.

2. 免疫複合体型 RPGN(ループス腎炎)

 1970 年代から重症の全身性エリテマトーデス

(SLE)やループス腎炎に対して血漿交換療法が試み られてきた.1983 年に Wei らは,全身性エリテマ トーデスの症例を対象として副腎皮質ステロイド薬

〔プレドニゾロン(PSL)≦1mg/体重 kg〕投与下に血 漿交換療法を施行した 10 例と対照 10 例で前向き試 験を行っている6).血漿交換療法群では早期に免疫 グロブリンならびに免疫複合体の低下を認めたが,

4 週間後には基礎値に戻っており,有効性は両群で 差を認めなかった.

 さらに 1992 年に Lewis らは,WHO 分類のⅢ型,

Ⅳ型,増殖性病変を伴うⅤ型を呈するループス腎炎 86 例を対象に多施設共同ランダム化比較試験を実 施している7).このうち 40 例に対して副腎皮質ステ ロイド薬(PSL60~80mg/body)+CY(2mg/体重 kg)の標準治療に加えて血漿交換療法を併用した.

血漿交換療法の併用群では,標準治療群に比して治 療開始 4 週目に血清抗 ds—DNA 抗体価,クリオグロ ブリンおよび蛋白尿の減少を認めたが,4 週目以降 は両群で差を認めなかった.さらに平均 136 週の観 察期間において生存率ならびに腎機能も両群間で差 を認めなかった.

 この Lewis らの報告以降は,標準治療で治療効果 が不十分であった症例や免疫抑制薬が増量できない SLEやループス腎炎の症例に対して血漿交換療法を 含むアフェレシス療法が試みられている.Euler ら はループス腎炎合併例を含む重症 SLE に対して高 用量 PSL と IVCY に血漿交換療法を組み合わせた治

解説

療(シンクロナイズ法)を行ったところ全例で有効で あり,さらに 14 例中 8 例は薬物療法を離脱したこと を報告している8).さらに血漿交換療法だけではな く二重膜濾過血漿交換療法(DFPP)や代替血漿を必 要としない免疫吸着療法(IAPP)の有効性も報告さ れている.Yamaji らは,WHO 分類のⅢ型,Ⅳ型お よびⅤ型を呈するループス腎炎に対して IVCY に DFPP や IAPP を組み合わせたシンクロナイズ法の 有効性を報告している9).また Loo らは重症ループ ス腎炎に対する DFPP と IAPP の比較において,両 治療の有効性に差を認めなかったことを報告してい る10)

 以上の報告から,標準的治療を行っても難治性

(腎機能障害の進行,高度蛋白尿の持続)である場合 や免疫抑制薬が増量できない症例には,補助療法と してのアフェレシス療法も念頭に置く必要があると 考えられる.

 なお,わが国の SLE に対する血漿交換療法の保険 適用の条件は,次の①~③のいずれにも該当する患 者とされている.

①都道府県知事によって特定疾患医療受給者と認め られた者

②血清補体価(CH50)の値が 20 単位以下,補体蛋白

(C3)の値が 40mg/dL 以下および抗 DNA 抗体の 値が著しく高く,ステロイド療法が無効または臨 床的に不適当な者

③RPGN または中枢神経ループスと診断された者 3. 抗 GBM 抗体型 RPGN

 抗 GBM 抗体型 RPGN あるいは Goodpasture 症候 群における治療は,免疫抑制療法(ステロイドパル ス療法+免疫抑制薬)と血漿交換療法との併用療法 を原則とする.221 例の後ろ向き観察研究では,血 漿交換療法の併用により,腎機能予後(腎不全に対 する HR0.60,p=0.032)および生命予後(死亡に対 する HR0.31,p=0.001)の改善に有効であることが 示されている11).一方で,血清 Cr 値が 6mg/dL 以 上の症例においては,免疫抑制療法と血漿交換療法 の併用療法による腎機能改善症例の割合は,血清Cr がそれ以下の症例と比較して,無効例が多いことも 知られている.したがって,臨床的に高度の腎機能 障害を有する例や乏尿ないし無尿の症例の腎予後は

不良であり,腎機能の改善は認められないことが多 いため,危険を伴う積極的な治療は控えることが望 ましい12).しかし,このような症例のなかでも発症 からの期間が短く病理組織学的にも線維性半月体や 間質の線維化が軽度であれば腎機能の改善を認める 場合もあるため,腎生検を施行して治療適応の是非 を確認することが望ましい.

文献検索

 文献は PubMed(キーワード:GBM,ANCA,

renalvasculitis,RPGN,SLE,lupusnephritis,

plasmaexchange,apheresis)で対象期間を指定せ ずに検索した.

参考にした二次資料

a. LapraikC,etal.BSRandBHPRguidelinesforthemanage- mentofadultswithANCAassociatedvasculitis.Rheuma-tology(Oxford)2007;46:1615—6.

b. MukhtyarC,etal.EULARrecommendationsfortheman-agementofprimarysmallandmediumvesselvasculitis.

AnnRheumDis2009;68:310—7.

c. KDIGOClinicalPracticeGuidelineforGlomerulonephritis.

KidneyInt2012;Suppl2:233—42.

d. 急速進行性糸球体腎炎診療指針作成合同委員会.急速進行 性腎炎症候群の診療指針第 2 版.日腎会誌 2011;53:509—

55.

引用文献

1. JayneDR,etal.JAmSocNephrol2007;18:2180—8.(レベ ル 2)

2. SzpirtWM,etal.NephrolDialTransplant2011;26:206—

13.(レベル 2)

3. WaltersGD,etal.BMCNephrol2010;11:12.(レベル 1)

4. WalshM,etal.AmJKidneyDis2011;57:566—74.(レベル 1)

5. YamagataK,etal.JClinApher2005;20:244—51.(レベル 4)

6. WeiN,etal.Lancet1983;1(8314—5):17—22.(レベル 2)

7. LewisEJ,etal.NEnglJMed1992;326:1373—9.(レベル 2)

8. EulerHH,etal.ArthritisRheum1994;37:1784—94.(レベル 5)

9. YamajiK,etal.TherApherDial2008;12:298—305.(レベ ル 5)

10. LooCY,etal.TransfusApherSci2010;43:335—40.(レベ ル 2)

11. CuiZ,etal.Medicine(Baltimore)2011;90:303—11.(レベル 4)

12. FloresJC,etal.Lancet1986;1(8471):5—8.(レベル 5)

2  診断・治療に関するCQ ステートメント:抗凝固療法や抗血小板療法は,出血病変のない場合に RPGN の腎予後および生命予

後を改善する可能性がある.

推奨グレード C1 出血病変がない場合に,RPGN の治療として抗凝固療法や抗血小板療法を考慮する.

推奨グレード D 出血病変が疑われる場合は,RPGN の治療としての抗凝固療法や抗血小板療法は推 奨しない.

CQ 15 抗凝固療法や抗血小板療法は RPGN の腎予後および生命予後を