第 3 章 2-color QCD の低エネルギー有効理論 42
3.2 カイラルラグランジアン
本節ではNambu–Goldstone多様体G/Hに対する低エネルギー有効理論であるカイラルラグ
ランジアンを構成する.カイラルラグランジアンはQCDのラグランジアンが持っているフレー バー対称性のうち破れた対称性の情報をもとに構成され,ラグランジアンの形はその対称性の要求 のみから決定される.
準備として,群の生成子の記号を定義しておく.拡大されたフレーバー群G= SU(2Nf)がその 部分群H = Sp(2Nf)に破れたとき,Gの生成子が{tA ∈ G |A= 1,2, . . . ,dimG}であるとする.
この生成子{tA}は破れていない部分群Hの生成子{Sk ∈ H |k= 1,2, . . . ,dimH}と破れた商群 G/Hの生成子{Xa ∈ G − H |a= 1,2, . . . ,dimG−dimH} に分解される:
{tA∈ G}={Sk ∈ H, Xa∈ G − H}
tr (SkXa) = 0 (3.17)
ここで,生成子の規格化は簡単のため次のように定義する:
tr (SkSl) =δkl, tr (XaXb) =δab (3.18)
Nambu–Goldstone多様体G/Hに対する有効理論はカイラル凝縮Σとそのゆらぎによって記
述できる.そのような場をQ(x)と置き,Nf(2Nf−1)−1個の独立な成分を持つdetQ= 1の反 対称ユニタリー行列であるとする.G/H= SU(2Nf)/Sp(2Nf)はSU(2Nf)変換(3.7)の下でのΣ
の変換則(3.15)と(3.16)に従って,次のようにパラメトライズされる:
Q(x) =U(x)ΣcTU(x) (3.19)
ここで,Σcはカイラル凝縮Σのゆらぎ方向の平衡値を示す.U(x)は U(x) = exp
(iπ(x) 2F
)
, π(x) =πa(x)Xa (3.20)
によって与えられる.場πa(x)はNGボゾン,F は対称性のみから決めることができない係数で あり,低エネルギー定数とよばれる(後でπ中間子の崩壊定数と関連付けられる).すなわち,破 れたフレーバー群G/Hを記述する座標として場πa(x)が組み込まれている.(3.17)の生成子Sk はΣcを不変に保つものとして次のように定義される:
eiϕkSkΣc
T(eiϕkSk) =Σc (3.21)
無限小のϕk ∈Rについて(3.21)は (1+iϕkSk)ΣcT
(1+iϕkSk)≃Σc ⇐⇒ Σc+iϕkSkΣc+ΣciϕkTSk ≃Σc
∴SkΣc+ΣcT
Sk= 0 (3.22)
となる.よって,生成子Skは破れていない部分群H = Sp(2Nf)の生成子であることが確認でき る.破れたG/Hの生成子Xaは無限小のπa(x)に関して(3.19)の右辺を計算すると,
exp
(iπa(x)Xa 2F
)
ΣcTexp
(iπa(x)Xa 2F
)
≃ (
1+iπa(x)Xa 2F
) Σc
(
1+ iπa(x)TXa 2F
)
≃Σc+
(iπa(x) 2F
)
(XaΣc+ΣcT
Xa) (3.23) が得られる.(3.23)が(3.19)のようにカイラル凝縮の平衡値とそのゆらぎの形で書くためには
XaΣc =ΣcT
Xa (3.24)
が成り立たなければならない.(3.22)と同様に,(3.24)が生成子Xa の定義であるとみなすと,
(3.23)の右辺は Σc+
(iπa(x)Xa F
) Σc≃
(
1+iπa(x)Xa 2F
)2
Σc≃U2(x)Σc
∴U(x)ΣcTU(x) =U2(x)Σc (3.25)
となる.よって,場Q(x)はU2(x)Σcの形に書くことができ,カイラルラグランジアンはこの場 Q(x)を用いて構成される.運動項は拡大されたフレーバー群SU(2Nf)の下での不変性,すなわち 変換Q→ V QTV, V ∈ SU(2Nf)の下での不変性およびLorentz不変性を満たす最低次の項を採 用する:
Leff= F2
2 tr∂νQ(x)∂νQ†(x) (3.26)
次に,質量項が存在する場合を考える.ここでは縮退したクォーク質量mq がゼロでない値を 持っているとする.質量項が存在すれば,カイラルラグランジアンの運動項(3.26)が持っている
SU(2Nf)対称性は明確に破られる.質量項は(3.13)とほぼ同じ形で書けるので,
mqψ¯fψg = 1 2mqT
ΨFσ2τ2
(0 −1 1 0
)F G
ΨG+ h.c. =−1 2
TΨFσ2τ2MF GΨG+ h.c. (3.27) となる.ここで,質量行列MF Gは次式で与えられる:
MF G =mqMˆF G =mq
( 0 1
−1 0 )F G
(3.28) この質量項はSp(2Nf)⊂SU(2Nf)不変性のみ持っている.ところが,もし質量行列M が場Ψ と 同時に次のように変換されるならば,SU(2Nf)対称性は回復される:
Ψ →Ψ′=V Ψ, V ∈SU(2Nf)
M →M′=V∗M V† (3.29)
この拡張した対称性(3.29)はカイラルラグランジアンにおいて明確でなければならないため,そ の運動項と質量項は次の変換の下でも不変である必要がある:
Q(x)→Q′(x) =V Q(x)TV, V ∈SU(2Nf)
M →M′=V∗M V† (3.30)
よって,カイラルラグランジアンの質量項は変換(3.30)の下で不変な最低次の項を採用する:
Lmass=−ΣRe tr (M Q(x)) =−ΣmqRe tr ( ˆM Q(x)) (3.31) この質量項における真空期待値への主要な寄与はこの項を最小化した場合であるから,Q(x)の期 待値がΣcとなり,M Σˆ c≃1であればよい.したがって,(3.31)を最小化するQ(x)はΣc = ˆM† によって与えられる.係数Σは対称性のみから決めることができない現象論的な係数である.こ の係数は,2.3節で見たようにmq → 0におけるカイラル凝縮に比例するため,(2.106)で定義し たカイラル凝縮Σと同定される.したがって,質量項を含む最低次のカイラルラグランジアンは
Leff= F2
2 tr∂νQ(x)∂νQ†(x)−ΣmqRe tr ( ˆM Q(x)) (3.32) と表現できる.この形のカイラルラグランジアンはWeinberg ラグランジアン[18] と呼ばれる.
さらに,(3.32) がπ 中間子の場πa(x) のラグランジアンと同定できることを確認するために,
(3.20)を場πa(x)について2次まで展開すると,
Leff= 1
2∂νπa(x)∂νπa(x)−1 2
Σmq
F2 (πa(x))2+· · · (3.33) のような項が得られる.第2項は場πa(x)の質量項であるから,場πa(x)の質量をmπとすると,
m2π = Σmq
F2 (3.34)
と書くことができる.この関係式はGell-mann–Oakes–Renner関係式 [69]として知られ.π中間 子の質量と(縮退した)クォーク質量を関係付ける.したがって,(3.20)から導入したF がπ中 間子の崩壊定数と同定される.実際,(3.34)により,(3.32)はmπを用いて,
Leff= F2 2
(
tr∂νQ(x)∂νQ†(x)−2m2πRe tr ( ˆM Q(x)) )
(3.35) のように表現できる.(3.32)が持っているフレーバー対称性とその破れは,3.1節で議論したもの と同じであり,SU(2Nf)変換Q(x)→Q′(x) =V Q(x)TV の下で,質量項が存在することによっ てSU(2Nf)→Sp(2Nf)に破れる.