第 4 章 格子ゲージ理論 53
4.1.2 スタッガードフェルミオン
対称性を明確に破らないような方法の一つとして,本論文において採用されているスタッガード フェルミオンまたはKogut–Susskindフェルミオンが知られている[72, 73].スタッガードフェル ミオンの構成は4.1.2節において説明される.ダブリング問題を回避するもう一つのよく知られた
方法はGinsparg–Wilson関係式[74] による格子上でのカイラル対称性の再定義である.この方法
はNielsen–Ninomiyaの定理から格子上においてダブラーの存在なしにカイラル対称性を保持する
ことができないことを認め,格子上において連続理論におけるカイラル対称性{γ5,D/}= 0が次式 の形に修正される:
{γ5, D(lat)}=aD(lat)Rγ5D(lat) (4.13)
ここで,Rはγ行列と可換な局所演算子である.(4.13)は連続極限a→0において連続理論のカ イラル対称性を再現する.Ginsparg–Wilson関係式は(4.13)を満たす格子上のDirac演算子が構 成できれば,厳密にカイラル対称性が議論できることを主張する.Ginsparg–Wilson関係式を満 たす格子上のDirac演算子として,ドメインウォールフェルミオン[75–77]やオーバーラップフェ
ルミオン[78–80] がよく知られている.本論文ではこれらを用いないため,これ以上の詳細は言及
しない.
a 2a
図4.1 スタッガードフェルミオンの2次元格子によるイメージ.四角で囲んだ部分内にダブ ラーを含むフェルミオンの自由度が配置され,この部分を一つの格子点とみなした格子間隔2a の新たな格子が再構成される.
スタッガードフェルミオンの作用を得るために,まずは単純に離散化した格子上の自由Dirac場 の作用(4.3)を考える:
SF = 1 2
∑
n,µ
(ψˆ¯α(n)(γµ)αβψˆβ(n+ ˆµ)−ψˆ¯α(n)(γµ)αβψˆβ(n−µ)ˆ )
+∑
n
Mˆψˆ¯α(n)δαβψˆβ(n)
(4.14)
このψˆに対して,局所的な変数変換 ψˆα(n) =Tαβ(n)χβ(n)
ˆ¯
ψα(n) = ¯χβ(n)Tβα† (n)
(4.15) を考える.ここで,Tαβ(n)は次式で定義される24/2×24/2ユニタリー行列である:
T(n) :=γ1n1γ2n2γ3n3γ4n4 (4.16)
この変数変換によって,(4.14)は次のようになる:
SF = 1 2
∑
n,µ
(χ¯ρ(n)Tρα† (γµ)ασTσβ(n+ ˆµ)χβ(n+ ˆµ)
−χ¯ρ(n)Tρα† (γµ)ασTσβ(n−µ)χˆ β(n−µ)ˆ )
+∑
n
Mˆχ¯α(n)δαβχβ(n)
(4.17)
このとき,(4.16)のT(n)の表現によってγµに対する「スピン対角化」ができる:
Tρα† (n)(γµ)ασTσβ(n+ ˆµ) =ηµ(n)δρβ (4.18) ここで,ηµ(n)は符号因子であり,次式で与えられる:
η1(n) = 1, η2(n) = (−1)n1, η3(n) = (−1)n1+n2, η4(n) = (−1)n1+n2+n3 (4.19) 例えば,µ= 2の場合,{γ1, γ2}= 0およびγµ2=1より,
T†(n)γ2T(n+ ˆ2) =γ4n4γ3n3γ2n2γ1n1γ2γ1n1γ2|n2+ˆ2|γ3n3γn44
=γ4n4γ3n3γ2n2γ1n1γ2γ1n1γ2n2+1γ3n3γ4n4
=γ4n4γ3n3γ2n2γ1n1(γ2)2(−1)n1γ1n1γ2n2γn33γ4n4
= (−1)n11 (4.20)
のように確認できる.したがって,(4.14)はχ(n)を用いて次のように書くことができる:
SF = 1 2
∑
n,µ,α
ηµ(n) ( ¯χα(n)χα(n+ ˆµ)−χ¯α(n)χα(n−µ)) +ˆ ∑
n,α
Mˆχ¯α(n)χα(n) (4.21) 元の格子上の作用(4.14)からγ行列を取り除いたためスピノルの添え字α = 1,2, . . . は任意の値 をとることができるようになった.次のステップとして,αが1成分のみの場合を考えると,αに ついての和を落とすことができる:
SF(stag)= 1 2
∑
n,µ
ηµ(n) ( ¯χ(n)χ(n+ ˆµ)−χ(n)χ(n¯ −µ)) +ˆ ∑
n
Mˆχ(n)χ(n)¯ (4.22) この作用は格子点あたり1自由度のみを含み,元のDirac構造は符号因子ηµ(n)のみである.こ のような1成分のみの格子フェルミオン場χ(n)に対する作用(4.22)のことをスタッガード作用と 呼び,χ(n)はスタッガードフェルミオンと呼ばれる.
スタッガード作用は元々の連続理論におけるカイラル対称性は損なわれているが,その名残が存 在する.スタッガードフェルミオンに対するカイラル変換を
χ(n)→χ′(n) =eiαη5(n)χ(n), α∈R,
¯
χ(n)→χ¯′(n) = ¯χ(n)eiαη5(n) (4.23)
のように定義する.ここで,
η5(n) := (−1)n1+n2+n3+n4 (4.24)
はスタッガードフェルミオンにおけるγ5の役割を果たしている.Mˆ = 0のとき,スタッガード作 用はカイラル変換(4.23)の下で不変である.したがって,スタッガード作用はU(1)V×U(1)Aの 大域的対称性を残している.このため,QCDのカイラル対称性の自発的破れに関連した研究にス タッガードフェルミオンを用いることができる.
最後にスタッガードフェルミオンが元のDirac場の形式にどのように再構築されるのかを簡単に 結果だけまとめる.ある単位超立方体の原点をxˆµ= 2Nµ(Nµ∈Z4)とする.このとき,この単位 超立方体における24個の頂点の格子座標は
ˆ
rµ = 2Nµ+ρµ (4.25)
のように表現できる.ここで,ρµは0または1のみを成分として持つ.この座標を用いて,χ(n) は次のように再ラベリングされる:
χρ(N) :=χ(2N +ρ)
¯
χρ(N) := ¯χ(2N +ρ) (4.26)
座標Nµ = (N1, N2, N3, N4)は格子間隔2aの格子上の時空点をラベルし,添え字ρはχ場の24 個の成分をラベルする.これらの成分から,線形結合
ψˆαf(N) =N0
∑
ρ
(Tρ)αfχρ(N) ˆ¯
ψαf(N) =N0
∑
ρ
¯
χρ(N)(Tρ†)αf
(4.27)
をとることにより,成分α(= 1, . . . ,24/2)とともに24/2 種類のフレーバーを持つDirac場ψfα( f = 1,2, . . . ,24/2)が構成される.ここで,
Tρ =γ1ρ1γ2ρ2γ3ρ3γ4ρ4 (4.28)
である.規格化定数N0を適切に選べば,作用(4.22)は場ψˆとψˆ¯によって次のような形をとる:
SF(stag)=∑
f
∑
N
ˆ¯
ψf(N)(γµ∂ˆµ+ ˆM) ˆψf(N) +· · · (4.29) ここで,∂ˆµは新しくブロック化された格子上での微分(差分)であり,+· · · は単純な連続極限で ゼロになる項である.よって,スタッガードフェルミオンは単純な連続極限のもとで元の連続理論 を再現しうるが,24/2= 4重に縮退したクォークフレーバーを持つ理論に制限される.ここでのフ レーバーは本来の連続なQCDのフレーバーと区別してスタッガードフェルミオンのテイストと呼 ばれる.