第 4 章 格子ゲージ理論 53
4.1.1 フェルミオンダブリング
まず本節では単純な離散化によって自由Dirac場に対する経路積分がどのように書き換えられる のかを考える:
ZF =
∫
DψDψ e¯ −SF, SF =
∫
d4xψ¯α(x)(γµ∂µ+M)αβψβ(x) (4.1)
場の変数xµは連続変数であるから,時空を離散化した格子上の座標を導入する.これは次のよう な置き換えによってなされる:
xµ →nµa, ψα(x)→ 1 a3/2
ψˆα(n), M → 1 aMˆ
∂µψα(x)→ 1 a5/2
1 2
(ψˆα(n+ ˆµ)−ψˆα(n−µ)ˆ )
,
∫
d4x →a4∑
n
(4.2)
ここで,aは格子間隔,µˆはµ方向に沿った単位ベクトルであり,ψˆα(n)のようなハット付きの記 号は無次元量を意味する.例えば,ψˆα(n) := a3/2ψα(na)のように定義される.この置き換えに よって,作用(4.1)は次のようになる:
SF =∑
n,m
ˆ¯
ψα(n) ˆKαβ(n, m) ˆψβ(m), Kˆαβ(n, m) =∑
µ
1
2(γµ)αβ(δn+ ˆµ,m−δn−µ,mˆ ) + ˆM δαβδnm
(4.3)
ここで,Kˆαβ(n, m)は格子上のDirac演算子であり,カーネル行列とも呼ばれる.このとき経路積 分測度は
DψDˆ¯ ψˆ=∏
α,n
dψˆ¯α(n)∏
β,m
dψˆβ(m) (4.4)
のように定義され,格子上の相関関数は次の経路積分表現により与えられる:
⟨ψˆα(n)· · ·ψˆ¯β(m)· · · ⟩=
∫DψDˆ¯ ψˆψˆ¯α(n)· · ·ψˆβ(m)· · ·e−SF
∫DψDˆ¯ ψ eˆ −SF
(4.5) この単純な離散化による格子上のフェルミオンが元の連続理論のフェルミオンを再現するのかを 確認するため,例として格子上の2点相関関数,すなわち,伝播関数の連続極限a→0を考える.
格子上の伝播関数は
⟨ψˆα(n) ˆψ¯β(m)⟩= ˆKαβ−1(n, m) (4.6)
のようにカーネル行列の逆行列Kˆαβ−1(n, m)で与えられ,
∑
ρ,l
Kˆαρ−1(n, l) ˆKρβ(l, m) =δαβδnm (4.7)
を満たす.カーネル行列Kˆαβ(n, m)の運動量表示を得るために,
δnm=a4
∫ π/a
−π/a
d4k
(2π)4eika(n−m) (4.8)
を用いると,次式が得られる:
Kˆαβ(n, m) =a4
∫ π/a
−π/a
d4k
(2π)4eika(n−m) (
i∑
µ
(γµ)αβsin(kµa) + ˆM δαβ
)
(4.9)
この運動量表示のカーネル行列の下で(4.7)を満たす格子上の伝播関数の表現は
⟨ψˆα(n) ˆψ¯β(m)⟩= ˆKαβ−1(n, m)
=a4
∫ π/a
−π/a
d4k (2π)4
eika(n−m) i∑
µ(γµ)αβsin(kµa) + ˆM δαβ
=a4
∫ π/a
−π/a
d4k
(2π)4eika(n−m)−i∑
µ(γµ)αβsin(kµa) + ˆM δαβ
∑
µsin2(kµa) + ˆM2 (4.10) で与えられる.よって,(4.10)の連続極限は次のようになる:
⟨ψα(x) ¯ψβ(y)⟩= lim
a→0
1 a3
⟨ ψα
(x a
)ψ¯β
(y a
)⟩
= lim
a→0
∫ π/a
−π/a
d4k
(2π)4eika(xa−ay)−i∑
µ(γµ)αβ1
asin(kµa) + 1aM δˆ αβ
∑
µ 1
a2sin2(kµa) +a12Mˆ2
= lim
a→0
∫ π/a
−π/a
d4k
(2π)4eik(x−y)−i∑
µ(γµ)αβ1
asin(kµa) +M δαβ
∑
µ 1
a2sin2(kµa) +M2 (4.11) もし,伝播関数(4.11)におけるkµについての関数˜kµ := a1sin(kµa)が連続極限a→ 0において 単純に˜kµ →kµとなれば,元の連続理論をうまく再現できる.しかし,実際にはうまくいかない ことが知られている.なぜなら,Brillouinゾーン(−π/a < kµ≤π/a)において˜kµがゼロになる 点が原点だけでなく,Brillouinゾーンの他端にも存在するからである.4次元の格子上ではこのよ うな零点が24= 16個存在する:
kµ = (0,0,0,0),(π/a,0,0,0), . . . ,(π/a, π/a, π/a, π/a) (4.12) このうち,原点のみが連続理論におけるフェルミオンを表す.残りの15個は連続理論には存在し ない格子上の人工物を表し,ダブラーと呼ばれる.このような単純な離散化による格子上のフェル ミオンの困難はダブリング問題と呼ばれる.
格子上のフェルミオンに対するダブラーはDirac場の作用が1階微分を含むことに起因する(実 際,2階微分のみ含むスカラー場の場合,ダブラーはないことが知られる).ダブリング問題が格 子化によって生じることはNielsen–Ninomiyaの定理 [70] から従う.この定理は格子上のフェル ミオン作用がその連続理論において一般に仮定される条件,局所性,並進不変性およびエルミート 性を満たす場合,カイラル対称性を破ることなしにダブラーを取り除くことができないことを示 す.この定理は格子上で明確にカイラル対称性を破っていれば,ダブリング問題が回避できること を示唆する.この方向における解決方法はWilsonフェルミオン [71] と呼ばれ,ダブリング問題 を回避するための最も有名な方法の一つである.Wilsonフェルミオンはカイラル対称性を明確に 破るために,単純な格子上のフェルミオン作用(4.3)に2階微分(差分)の項を加えることによっ て実現される.このためダブリング問題は回避できるが,質量がゼロの極限においてもカイラル対 称性は犠牲になる.この事実はQCDにおけるカイラル対称性の自発的破れを研究する上での直接 的な方法として採用しずらいように感じられる.そこで,Wilsonフェルミオンのようにカイラル
対称性を明確に破らないような方法の一つとして,本論文において採用されているスタッガード フェルミオンまたはKogut–Susskindフェルミオンが知られている[72, 73].スタッガードフェル ミオンの構成は4.1.2節において説明される.ダブリング問題を回避するもう一つのよく知られた
方法はGinsparg–Wilson関係式[74] による格子上でのカイラル対称性の再定義である.この方法
はNielsen–Ninomiyaの定理から格子上においてダブラーの存在なしにカイラル対称性を保持する
ことができないことを認め,格子上において連続理論におけるカイラル対称性{γ5,D/}= 0が次式 の形に修正される:
{γ5, D(lat)}=aD(lat)Rγ5D(lat) (4.13)
ここで,Rはγ行列と可換な局所演算子である.(4.13)は連続極限a→0において連続理論のカ イラル対称性を再現する.Ginsparg–Wilson関係式は(4.13)を満たす格子上のDirac演算子が構 成できれば,厳密にカイラル対称性が議論できることを主張する.Ginsparg–Wilson関係式を満 たす格子上のDirac演算子として,ドメインウォールフェルミオン[75–77]やオーバーラップフェ
ルミオン[78–80] がよく知られている.本論文ではこれらを用いないため,これ以上の詳細は言及
しない.