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第3章 デンドリマー修飾型オーバーハウザー効果 MRI 造影剤の開発  3-1  緒

L- PEG/PR-KG6

H-PEG/PR-KG6

KG6のアミノ基に対して3、5、10、20 mol%のcarboxy-PROXYLを修飾後、未反応 点のアミノ基に対して等モルのPEG-NHSを添加して結合した。

L-PEG/PR-KG6

KG6のアミノ基に対して3、5、10、20 mol%のcarboxy-PROXYLを修飾後、50 mol%

のPEG-NHSを添加して結合した。

PR-PEG-KG6

KG6のアミノ基に対して 5、10、20、50 mol%のBoc-PEG-NHSを添加して結合し た。この時、PEGの仕込み量が全て50 mol%となるように、45、40、30、0 mol%のPEG-NHS

を同時に添加した。未反応点をアセチル化し、Boc 基を脱保護したのち、十分量の

PROXYL を縮合して修飾した。PROXYL修飾率は、修飾前に存在した末端アミノ基と

同値と仮定し、TNBSアッセイの定量結果を採用した。PROXYL修飾率は、1.2、5.5、

10、25 mol%であった。

ニトロキシルラジカル修飾PEG-KG6の緩和度の評価

MRI パルスシーケンスの繰り返し時間 TRを変化させて MRI 測定し、プロトンの T1緩和度r1を算出した。結果を図3-16に示す。

想定された通り、PROXYLをPEGの末端に修飾した誘導体よりも、PEGの根本に 修飾した誘導体の方が高い緩和度を示した。また PEG の修飾率を高くする事でも緩和 度が向上した。PEGは自由度の高い高分子であるが、水素結合を介して水和水を保持す ることが知られている。よって、PEGの修飾率が高いほど、PEOXYL近傍にはPEGに 水和した水分子が増える事になる。これが緩和度の上昇に効いていると考えられる。

また、PROXYL修飾率が10 mol%以上のPEG/PR-KG6では、緩和度の上昇率が低

下した(傾きが緩やかになっている)。これは、PROXYLが仕込み比通り修飾されたと 仮定したためであり、実際の修飾率はこれより少ないと考えられる。この点を踏まえて、

ほぼ量論通りの PROXYL が修飾されたと考えられる修飾率 5 mol%以下の結果から

PROXYL 1分子当たりの緩和度を見積もったところ、次の値となった。

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PROXYL単体のT1緩和度はr1 = 0.2 mM-1・s-1であり、高分子効果により2 ~ 6倍に 向上した事が示唆された。PAMAMデンドリマーに修飾した先行研究では、最大でr1 =

5.0 mM-1・s-1まで向上したと報告されている22。この報告では、水溶性のPEGが修飾さ

れておらず、また、疎水性の高いPROXYLが50 mol%以上の高濃度に修飾されている。

よって本系よりも PROXYL近傍の環境が疎水的で、水分子が強く拘束されているため に、高いT1緩和度を持つと考えられる。

PEG-KG6に修飾したニトロキシルラジカルの電子スピンのT1緩和時間の評価

各PEG-KG6に修飾されたPROXYLのESRスペクトルを測定した。ESRスペクト

ルの形状はOMRIのシグナル増強効率に密接に関係する。先に述べたように、スペクト ルのシャープさ(線幅ΔHppの狭さ)はスピンのT1緩和時間が長いことと同義であり、

T1 緩和時間が長いほど、OMRI シグナルの増強効率は高くなる。エネルギーに基づい て説明すれば、スペクトルがシャープなほど励起パルスの吸収効率が良いという事であ る。

ESR スペクトルの形状、シグナルの相対強度およびスペクトルの線幅ΔHpp を図 3-17 に示す。先行報告に示されているように、PEG の根本に修飾したPEG/PR-KG6 の 場合は、修飾率が高く高密度なものほどブロードなスペクトルとなり、顕著な線幅Δ Hppの増加とESR強度の低下が認められた。対してPEGの末端に修飾したPR-PEG-KG6 では、最も修飾率の高い25mol%においてもスペクトルのシャープさが維持され、線幅

ΔHppの増加はほとんど認められなかった。したがって、後者の修飾形式ならば、ニト ロキシルラジカルのT1緩和時間を長いまま維持できると考えられる。

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また、それぞれのスペクトルの形状を注視すると、PROXYL 修飾率が同程度のサ ンプルであっても中央のピークと高磁場側のピークの強度比が異なる事がわかる(特に

PROXYL 修飾率の低いスペクトルを比較するとわかりすい)。PEG 修飾率の高い

H-PEG/PR-KG6では、高磁場のピークが中央よりも大きく”落ちこんでいる”が、PEGの

末端に修飾した PR-PEG-KG6 では、両ピークの強度はほぼ変わらない。PEG 修飾率の

低いL-PEG/PR-KG6は、この中間程度のスペクトルである(図3-17)。一般にESRスペ

クトルは点対称な形状だが、低温環境などの電子スピンの運動性が低下する場合は、こ のような「異方性」が出現する 25。つまり、この異方性が強いほど PROXYLの運動が 抑制されている事を意味する。異方性の程度が H-PEG/PR-KG6 > L-PEG/PR-KG6 >

PR-PEG-KG6となっている事は、高分子効果の大きさの違いと相関する結果である。

ニトロキシルラジカル修飾PEG-KG6のOMRIシグナル増強効率の評価

ESR スペクトル測定の結果から、PEG の根本に修飾した PEG/PR-KG6 の場合は、

PROXYL の修飾率が低いほど OMRI のシグナル増強効率が高いと考えられる。また、

PEGの末端に修飾した場合は、多価に修飾した場合でも高いシグナル増強効率が得られ ると考えられる。しかし、ESRスペクトルの線幅の差あるいは強度の差は、あくまで電 子スピンのT1緩和時間の目安であり、この値からシグナル増強効率を算出する事はで きない。また、エネルギーの移行効率には、電子スピンとプロトンの核スピンの接触頻 度も重要である。こちらもT1緩和度r1から推測する事はできるが、実際に測定する必 要がある。

ESR パルスを照射してシグナルを増強した場合の OMRI 像と、照射しない通常の MRI像を撮像し、両者のシグナル強度の比をシグナル増強効率とした。算出したシグナ ル増強効率を図 3-19 に示す。OMRI シグナル増強効率は電子スピン側の濃度の影響を 受け、小分子の場合は3 mM付近でプラトーに達する事が経験的にわかっている。上段

は PROXYL 濃度に対して、下段はキャリアの PEG-KG6 濃度に対してプロットした結

果である。

PROXYL濃度でプロットした結果が示すように、いずれもPROXYL単体の増強効

率には及ばず、キャリアに修飾する事でシグナル増強効率が低下することが示された。

しかしながら、PEGの末端に修飾したPR-PEG-KG6の場合は、PROXYL修飾率に関わ らず本来の 50 ~ 70%程度の増強効率が維持されていた。高分子効果によって緩和度 r1

が通常の約 2倍にまで向上していた事を加味すれば、造影能としてはPROXYL単体に 劣らないと言える。よって、PEGの末端に修飾する戦略は、PEG-KG6の腫瘍集積性を 利用したOMRI造影剤として成立しうる。

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また、修飾位置による違いに着目すると、PEGの根本にPROXYLを修飾したPEG/

PR-KG6では、ESRのスペクトルのシャープさ(線幅ΔHppの狭さ)が維持されている

3 mol%においても、PROXYL単体の場合の1/3以下の低いシグナル増強効率であった。

この原因は、やはり運動性の低下と考えられる。効率低下の代償として、高分子効果に

よって T1 緩和時間r1が PROXYL単体の 3 倍以上に向上しており、一見等価交換のよ

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うにも錯覚する。しかし実際のデリバリーを考えた場合、少量の PROXYL しか修飾で きない事は不利である。

1章でも触れたが、MRIは他のイメージングと比較して100倍以上の濃度の造影剤 を必要とする。図3-19の結果にも表れているが、特にOMRIはサブmMの造影剤があ って初めてシグナルが増強された像を得られる。造影剤が体内で希釈される事を考慮す ると、生体に投与する造影剤は数mM ~ 10 mMのニトロキシルラジカル濃度が必要であ る。一方、PEG-KG6 は分子量が 200,000 を超える巨大分子である。仮に平均分子量 200,000のPEG-KG6に3 mol%でPROXYLを修飾した場合、PROXYL濃度10 mMの投 与液の質量濃度は520 mg/mlである。戦略として破綻している事は、火を見るよりも明 らかだろう。

この観点から、図3-19の下段に示すPEG-KG6当たりのシグナル増強効率は、非常 に重要な情報である。PR-PEG-KG6は、多価修飾してもシグナル増強効率が低下しない ため、修飾量25 mol%の誘導体が最も高い増強効率を示している。一方のPEG/PR-KG6 では、全ての誘導体でほぼ同程度であり、現実的なキャリア濃度ではシグナル増強が期 待できない事が示唆された。

以上の考察から、PEG-KG6を基材とするOMRI 造影剤をする場合、高分子効果を 最小限に抑え、自由度の高い PEG の末端にニトロキシルラジカルを多価修飾する設計 が最も優れると結論づけられる。

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3-1 の結果から、キャリアとして PEG-KG6 を利用する事で得られる高分子効果と 高密度な多価修飾は、OMRI において全くの足かせである事がわかった。つまり、

PEG-KG6にニトロキシルラジカルを修飾する意義は、腫瘍組織まで送達するという動

態制御のみという事になる。

しかし、この結果の見 方を変えれば、キャリアに 結合している期間はシグナ ルがOFF状態で、何らかの 刺激に応答してキャリアか ら解離すると ON に切り替 わる機能性造影剤を設計で きる可能性がある、という 事である(図3-20)。そこで 本研究では、プロテアーゼ による切断の利用に着目し た。

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