第 3 章 微粒子列の細胞接着足場への応用と細胞の自律パターニング
3.6 微粒子列による細胞の接着位置制御
3.6.1 PC12 細胞の微細構造化 SiO 2 微粒子列への接着
微粒子列によって細胞のパターニングが可能であるかどうか体系的に調査するためには,
微粒子列の形状は規則的である必要がある.移流集積法は一定の幅および間隔を持つライ ン状の構造を作製するのに長けているので,本研究ではラインアンドスペース形状の微粒 子列をPC12細胞の培養用の足場として適用した.また,パターニングに適した微細構造の 寸法等も不明であるため,微粒子の粒径をφ0.5μm ~2μmの範囲で変えた微粒子列を作製し,
細胞の接着位置を観察した.接着している細胞の形状を半球と仮定すれば,その断面形状 はおおよそ図3-14のようになる.この時,細胞の大きさが一定であるならば,微粒子の粒 径が変化することで,微粒子列に接着している細胞の底面に存在する微粒子の数が変わる.
例えば,φ0.5μmの微粒子列ではφ1μmの微粒子列に比べ,2 倍の数の微粒子が存在する.
この微粒子の数は,細胞 1 個あたりの相対的な凹凸の数と見なせる.本研究では簡単のた め細胞1辺のみを考え,これを,
細胞 個あたりの相対的な凹凸の数 細胞の代表寸法
微粒子の粒径 (3-2)
と定義する.細胞の代表寸法を25μmとすれば,φ0.5μm ~2μmの微粒子列それぞれにおける 細胞1個あたりの相対的な凹凸の数は表3-2のようになる.
図3-14 微粒子列に接着している細胞の模式図
微粒子
細胞
細胞が接着している微粒子
64
表3-2 微粒子列の粒径と細胞1個あたりの相対的な凹凸の数との関係
まず,第2章で説明したように,図3-15のようなφ1μmのSiO2微粒子列を作製した.構 造は単層で整列しており,その表面は微粒子の球形由来である凹凸が存在している.微粒 子整列の際に使用したOTS-SAM は,前節のとおり,12時間のUV滅菌処理により細胞の 接着に影響が出ない程度まで除去できている.これを足場としてPC12細胞を播種した.
図3-15 微細構造化した微粒子列
図3-16は播種後24時間時点での位相差顕微鏡像である.多くの細胞が微粒子列上に接着 している一方で,平面であるガラス基板には細胞があまり接着していない.接着位置に関 しては,微粒子列の端部に接着している細胞が多い.接着している細胞の形態については,
一般に接着性が良いとされる伸展状態ではなく,球形のものが多かった.楕円形(紡錘形)
の細胞も多く観察され,そのような細胞では,楕円の長辺が微細構造化した微粒子列の長 手方向に伸びている.つまり,細胞の伸展方向に異方性が生じていることがわかる.
細胞1個あたりの 相対的な凹凸の数 個
25 50
12.5 微粒子の粒径 μm
0.5 1 2
10 m
65
図3-16 微粒子列状での細胞培養
次いで,粒径の異なる微粒子列を作製し,これを足場として同じくPC12細胞を培養した.
図3-17は,播種後24時間での位相差顕微鏡像である.いずれの粒径においても,多くの細 胞が微粒子列上に接着している様子が確認できる.図3-18は,観察像から計測した選択接 着率αをまとめたものである.選択接着率は,粒径によらずほぼ80%以上を示している.
これらの結果に対し,p<0.05をもって有意とするF検定およびt検定を行ったところ,3つ の値の間に有意差は見られなかった.したがって,本研究の調査範囲内であるφ0.5μm ~2μm においては,ほぼすべてのPC12細胞が微粒子列上に接着することがわかった.
200 m 微粒子列 細胞
66
図3-17 粒径の異なる微粒子列での細胞培養
(a) φ0.5μm (b) φ1μm
(c) φ2μm
100μm
微粒子列 ガラス基板 細胞
67
図3-18 微粒子列の粒径が細胞の接着位置に及ぼす影響
以上より,微細構造化した微粒子列を足場として用いることで,細胞のパターニングに 成功した.しかし,これは単純に段差が存在することで移動が制限され,結果として位置 制御されているだけとも考えられる.これは,同等のラインアンドスペース構造で細胞を 培養し,比較することで明らかにすることができる.そこで,高さ2μmのラインアンドス ペース構造を作製し,これを細胞接着の足場として適用した.図3-19は,作製したライン アンドスペース構造に細胞を播種した24時間後の位相差顕微鏡像である.細胞は構造の凸 部や凹部の両方に接着しており,微粒子列の場合に見られた選択性は確認できない.すな わち,単純な凹凸にはない微粒子列特有の要因が,接着の選択性に影響をおよぼしている ことがわかった.
図3-19 ラインアンドスペース構造上での細胞培養
50
0
選 択 接 着 率 %
100
微粒子の粒径 m
0.5 1 2
50 25 12.5
細胞 個あたりの相対的な凹凸の数 個 1
150 m
68
3.6.2 C2C12 細胞および HeLa 細胞の微粒子列への選択接着
本結果がPC12 細胞でのみ発生する現象であるかどうか調査するため,PC12 と種類の異 なる細胞を対象とし,3.6.1 節と同工程の実験を行った.図 3-20は,PC12細胞での実験と 同様の微粒子列上で培養したC2C12細胞とHeLa細胞の,播種後24時間での位相差顕微鏡 像である.PC12細胞の結果と同様,C2C12,HeLa共に,多くの細胞が微粒子列上に接着し ており,平面(ガラス基板)にはあまり接着していなかった.伸展の方向に関しても,先 述のPC12の結果と同様,微粒子列の長手方向に沿っている様子が確認できた.この異方性
は,特にC2C12細胞で顕著であった.ライン状の微粒子列の場合,微粒子が存在する長手
方向に細胞が進展したということは,以下のように考えられる.細胞は平面部分よりも微 細構造に選択的に接着する.細胞は接着後,伸展しようとするが,この際に接着時と同様,
平面部分を避ける.結果として,細胞の伸展方向は微粒子列の長手方向に沿い,異方性が 生じる.
図3-20 微粒子列上で培養したC2C12細胞とHeLa細胞
以上3種類の細胞に対して,その選択接着率αを計測した結果を図3-21に示す.PC12,
HeLa,C2C12のいずれにおいても,選択接着率αは90%以上となった.それぞれの値に対
し,p<0.05をもって有意とするF検定およびt検定を行ったところ,有意差は見られなかっ
た.したがって,微粒子列上に細胞が選択的に接着するという現象は,本研究の調査範囲 では細胞の種類に依存しなかった.
(a) C2C12
100 m
(b) HeLa
微粒子列 微粒子列
細胞 細胞
69
図3-21 微粒子列上で培養した3種類の細胞の選択接着率