第 3 章 微粒子列の細胞接着足場への応用と細胞の自律パターニング
3.8 粒径の異なる微粒子列上での細胞の分化
接着および増殖と同様に,分化もまた細胞の代表的な機能のひとつである.第1章でも 触れたとおり,神経細胞の機能を解明するには,そのネットワークの形成が重要である.
そのため,微細構造を利用した神経突起の伸長方向制御が行われている3-14)-3-15).そして,
細胞の機能は接着した足場の形状に影響される.そこで,微細構造の幾何形状が,細胞の 分化にどのような影響を及ぼすか調査した.微粒子列は,整列させる微粒子の粒径を変更 することで,その創成する形状を制御することができる.本節では,SiO2微粒子を対象と
100 m
微粒子列 細胞
77 し,微粒子の粒径を500nm,1μm,2μmとして整列させた.図3-31で示すように,これら を足場としてPC12細胞を培養し,播種後24時間に神経成長因子(NGF)を添加した.3.2 節で説明したとおり,PC12細胞はNGFの添加により神経突起様の構造を形成する性質を有 する.神経突起形成の評価方法として,微粒子列に接着した細胞のうち,神経突起を形成 した細胞の割合を示す,神経突起形成率γ[%]を導入した.γは以下の式で定義される.
(3-3)
ここで,Nmは微粒子列上に接着した細胞の数であり,Nmnは微粒子列上に接着した細胞の うち,神経突起を形成した細胞の数である.例えば,図3-32でγを計測すると,γ=3×
100/4=75%となる.
図3-31 NGFの添加手順
図3-32 神経突起形成率γの算出基準
NGF添加後24時間での各基板の位相差顕微鏡を図3-33に示す.いずれの基板において も,PC12細胞が神経突起様の構造を形成している様子が確認できる.また,その伸長方向 は微粒子列に沿っている.一方で,分化している細胞の数自体は多くなく,特にφ2μmの微
細胞
(a) 細胞の播種 ディッシュ
微細構造 基板
マイクロピペット
(b) NGF の添加 (c) 細胞の分化
(a) 播種後24時間 (b) NGF 添加後24時間 基板平面
微細構造
細胞
分化した細胞
78
細構造化した微粒子列で少なかった.ここで,神経突起形成率γを計測した結果を図3-34 に示す.それぞれの値に対してF検定およびt検定を行ったところ,φ0.5μmの微粒子列と,
φ1μmおよびφ2μmの微粒子列との間で,その分化率にそれぞれ有意差が存在した.一方で,
φ1μmとφ2μmとの間には有意差は見られなかった.神経突起を形成した細胞の割合は粒径 に依存し,粒径が小さいほどその割合が増加することがわかった.
79 図3-33 微粒子列上に接着した分化PC12細胞.(a)φ0.5μmのSiO2微粒子列,(b) φ1μmのSiO2
微粒子列,(c) φ2μmのSiO2微粒子列.
(a) f0.5m
(b) f1m
(c) f2m
50m
80
図3-34 微粒子の粒径が細胞の選択接着率および神経突起形成確率に及ぼす影響
選択接着率および神経突起形成率について,以下のように考察する.まず,細胞にとっ ての接着しやすい微細構造とは,その構造の寸法に下限や上限が存在することが予想され る.つまり,構造が極めて微細であり,基板平面の幾何形状と変わらないような構造では 細胞の機能への影響が平面と変わらなくなる.また,微細構造の高さが極めて高ければ,
細胞がこれを越えて接着することができず,結果として接着位置に選択性が無くなる,と いった現象が起こり得る.したがって,本研究で用いた粒径0.5~2μmの範囲は,細胞が微 粒子列を微細構造と認識でき,かつこれを乗り越えて接着することができる範囲であった と考えられる.一方で,粒径の違いは,先述の通り微細構造の凹凸の数に相関する.細胞 の代表寸法をrとし,微粒子の粒径をaとすれば,粒径の異なる微粒子列に接着している細 胞のモデルを図3-35(a)および(b)のように考えることができる.(a)は,微粒子の粒径が細胞 の代表寸法の1/2である微粒子列であり,(b)は微粒子の粒径が細胞の代表寸法の1/4である 微粒子列である.図3-35のように,微粒子の粒径が大きいほど細胞の底面と接する凹凸の 数が減る.より多くの凹凸と接することができる方が,細胞の接着に有利であると考えら れる.ただし,粒径が小さいほど良いというわけではなく,焦点接着などの細胞の認識機 構よりも小さければ,平面と変わらなくなるとも考えられる.以上より,粒径0.5μm微粒 子列に接着した細胞では接着状態が安定となり,分化という機能が発現する細胞の割合が 増えたと考えられる.
50
0 100
微粒子の粒径 m
神 経 突 起 形 成 率 %
0.5 1 2
p<0.05
p<0.05
細胞 個あたりの相対的な凹凸の数 個 1
50 25 12.5
81
図3-35 異なる粒径の微粒子列に接着した細胞のモデル図
神経突起の伸長方向について,以下のように考察する.マイクロオーダーの溝構造が,
神経突起形成を制御することは知られており3-16)-3-17),関連する研究では,ラインアンドス ペース構造や微細な溝構造を作製し,それに沿って突起を伸長させているものが多い.微 粒子列は整列させた微粒子の粒径に応じた高さを持つラインアンドスペース構造とも見な すことができる.また,微粒子列表面の持つ微細な凹凸も溝構造と同じはたらきをすると 考えられる.したがって,関連する研究における構造は,本研究において微粒子列および その表面微細構造に相当する.これにより,神経突起の伸長方向も微粒子列に沿ったもの となったと考えられる.したがって,微粒子列による神経突起伸長方向の制御が期待でき る.
以上の結果より,微粒子によって構成された微細構造が,細胞の接着位置,増殖方向,
分化,そして神経突起伸長方向に影響を及ぼしていることが判明した.
(c) 細胞が(a)の全面に接着した状態 (d) 細胞が(b)の全面に接着した状態 a
r
細胞 微粒子
a
(a) 粒径a r= /2の微粒子列上の細胞 (b) 粒径a r= /4の微粒子列上の細胞
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