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第3章 試料の作製と評価方法

3.1 試料の成長

3.1.1 MBEの原理と構成

分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法は、超高真空中(10-10Torr程度)に基板を置き、

結晶の個々の構成元素の入ったるつぼ(セルと呼ぶ)に入れて加熱し、蒸発昇華により蒸気を分子線 の形でるつぼから放出させ、加熱されている清浄な結晶基板上に供給することにより、エピタキシ ャル成長を行う方法である。セルを加熱することによって放出される蒸気は、真空度が高いため気 相の分子の平均自由行程は1000km以上になり、るつぼから飛び出した分子は互いに衝突することな く、基板に到達する。進む方向の揃った分子の流れを分子線と呼んでいるため、このエピタキシー 成長の方法を分子線エピタキシー法と呼んでいる。

MBE法の特徴は以下のように挙げる。

・他の結晶成長法(LPE,VPE,MOCVD)と比べて真空度が極めて高いため、10-10Torr程度の超高真 空では、チャンバー中の残留ガスの結晶中への取り込みが極めて低く抑えられ、高品質な結晶が得 られる。

・超高真空中であるため、成長速度を極めて遅くすることができ、かつ成長モードが2次元的 であるため、原子(分子)レベルでの膜厚制御が可能であり、極めて急峻なヘテロ界面を作製するこ とができる。

・混晶の組成分布、不純物ドーピング分布を任意に高精度で制御することができる。即ち、任 意のバンドプロファイルを持つヘテロ構造を作製することが可能である。

・結晶成長中に、RHEEDでその場観察することにより、成長表面の状態や、成長機構、成長 速度や結晶の組成比など様々な情報が得られる。

これらの特徴を持つMBE法は有機金属気相エピタキシャル法(Metalorganic Vapor Phase

Epitaxy:MOVPE)と並び、材料探索からデバイス作製まで、幅広く応用される結晶成長技術である。

本研究で用いたMBEについて説明する。試料成長を使っているMBE装置は(株)エイコーエンジニ アリング製のEV-500である。装置の概観写真、真空排気系統図および模式図をそれぞれ図3.1、図 3.2及び図3.3に示す。

この装置は成長室と準備室の二つのチャンバーがある。成長室の下部には基板に向けて原料のそ れぞれのセルと可動式のRF-プラズマ源が取り付けられており、成長室に備えられているRHEEDに より成長時のその場観察が可能である。以下、各パーツについて説明する。

図3.1: MBE装置EV-500の概観写真 図3.2: MBE装置の真空排気系統図

図3.3: MBE装置の模式図 図3.3: MBE装置の模式図

図3.2に示すように、成長室は、ターボ分子ポンプとロータリーポンプにより~10-10[Torr]の真空度 を維持できる。準備室は、ターボ分子ポンプとロータリーポンプにより排気され、~10-8[Torr]の真 空度を保つことができる。さらにセルや基板の温度が高くなる成長中でも超高真空を保つため、シ ュラウドに液体窒素を流しメイン・チャンバ-全体を冷却する。

図3.3に示すように、二つのチャンバー(真空室)がある。試料交換の際には、システムを大気リー クする必要があるが、試料成長室(Main Chamber)を超高真空に保つため、成長室のゲートバルブを 閉じ、試料準備室(L.L.Chamber)のみリークする。試料を成長させる土台となる基板は基板ホルダー に固定された状態で、成長室へと導かれる。ここで基板ホルダーは熱伝導を考慮しMolybdenum製 のものを用い、また基板ホルダーへの基板の固定も、Molybdenum製の爪と螺子により行う。成長 室内において、基板はセルの分子線照射口に向けてセットされる。

成長室には3つのクリスタルセル(Cd,Te,Zn)と5つのクヌードセンセル(Cr,CdI2,Al,Mn,Mg)及びRF プラズマ源(窒素、水素)が備えつけられている。本研究では蒸発源として、Zn、Te、Cr固体ソース 源を用いた。窒素はRF(Radio Frequence)放電源によってプラズマ励起した窒素ラジカルとして基板 に供給した。

セルの温度制御は、るつぼの底に接触させた熱電対からの信号を用いてPID制御により行う。ま た成長中の基板温度の制御は、T/C位置制御ユニットにより行う。T/C位置制御ユニットとは、基板 温度制御部の温度設定用熱電対の測定位置を基板設定温度に対応して移動し、基板表面温度と制御 温度の誤差が最小になるように熱電対を制御するユニットである。

セルの分子線射出口前と基板前には圧空システムによる開閉シャッターが取り付けられている。

エピタキシャル成長開始または終了は、積層しようとする物質に必要な原料の入ったセル及び基板 のシャッターを開閉することで制御できる。

以上のような様々な機能を用い、超高真空を保ちつつエピタキシャル成長を行うことで、MBE 装置は大面積で複雑な単結晶マルチへテロ構造を持つ薄膜を作製することを実現する。