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図7.2にFukushimaら[19]により理論計算された (Zn,Cr)Te中のCrイオン間の二重交換相互作用定数の 距離に対する依存性を示す。この計算結果によって、

Crイオン間の二重交換相互作用は第一及び第四近接 の距離で最も強く、Crイオン間の距離が離れると二重

交換相互作用はほとんど働かない。従って、結晶中の Cr間の距離が離れている場合には、強磁性的な振る舞 いが観測されないと考えられる。

図7.2: Crイオン間に作用する二重交換 相互作用定数の距離依存性[19]

一方、磁化測定によって、組成比[N]/[Cr]の増加に伴い、ブロッキング温度TB, 強磁性転移温度TC、 常磁性Curie温度ΘPは急激に減少し、さらに、常磁性的な振る舞いへと変化しているのが観測された。

また、超常磁性微粒子の磁気モーメントを見積もるため、各試料の常磁性温度領域で磁化曲線を

Langevin 関数を用いて、フィッティングした。フィッティングの結果によると、組成比[N]/[Cr]の増

加に伴い、超常磁性微粒子の磁気モーメントが減少することが分かった。試料の中には異なるサイ ズの超常磁性微粒子が存在すると考えられるため、超常磁性微粒子の磁気モーメントとサイズにつ いての定量的な評価は困難であるが、ここでは、試料の中に同じサイズの超常磁性微粒子が存在す ると仮定すれば、超常磁性微粒子の磁気モーメントとサイズは比例する。また、本研究では、組成 比[N]/[Cr]の増加に伴い超常磁性微粒子の磁気モーメントの減少によって超常磁性微粒子のサイズ も減少すると定性的に推定できる。XANESスペクトルにより窒素とCr組成比[N]/[Cr]が約0.1以上に なると、メインピークが高エネルギー側にシフトすることが観測されたが、エネルギーの僅かシフ トによってCr価数がどの程度変化しているかを判断することは難しい。また、動径分布関数におい てCr-N結合が形成されていることが示唆され、このことからもCr価数は2+から増大している可能性 が高い。Y. Yamazakiら[61]は、XAS測定により、(Zn,Cr)Te:N薄膜試料で組成比[N]/[Cr]の増加につれ てCr価数が増大することを明らかにした。本研究の結果と併せて考えると、前述のようなメカニズ ムによってCr価数が増加すると、spinodal分解が起こされず、図7.3の右図に示すように、Cr原子同 士が離れて、Cr-rich微粒子は形成されず、結晶中でCrは一様に分布すると考えられる。そのため、

Cr-Cr pair間の距離が増大し、二重交換相互作用が弱くなり、強磁性が抑制されると定性的に説明で きる。

然し、磁化測定の結果では、窒素とCr組成比[N]/[Cr]が約0.1で強磁性から常磁性への変化が生じ るという結果が得られたが、一方で、XAFS測定においては、この僅かな組成比の変化によりXANES スペクトル及びCr原子周辺の動径分布関数が急激に変化するという結果を定量的に説明すること は難しい。即ち、この比較的少ない量の窒素のドーピングによりCrの価数及びCr原子周りの局所構 造が変化する原因は今のところはっきりせず、理論的計算に基づき検討する必要があると考えられ、

これは今後の課題である。

(Zn,Cr)Te

図7.3: 左図:窒素ドープした(Zn,Cr)Te試料のEDS像[62]; 右図: Cr原子の一様な分布の模式図(推測)

ここで、Cr原子が(Zn,Cr)Teの結晶の中に一様に分布すると仮定し、Cr-Cr pair間の平均距離を計算 してみた。まず、便宜上、図7.4に示す(2×2×2)のZnTeのsuper cellを作った。このsuper cellの中に32 個のZn原子(青色の球)が含まれている。この32個のZn原子をCr原子で置換すると、最近接のCr-Cr

pair間の距離dCr-Crは a/2となる。 はZnTeの格子定数(6.11Å)であるため、dCr-Crは約4.3Åである。こ

の時のCr組成は100%である。この32個のZn原子中のa~h、i(赤矢印で示すZn原子)原子をCr原子で置 換すると、最近接のCr-Cr pair間の距離dCr-Crは a (10.58Å)となる。この時のCr組成は6.25%である。

また、Zn原子中のa~h原子をCr原子で置換すると、最近接のCr-Cr pair間の距離dCr-Crは2a(12.22Å)と なる。この時のCr組成は3.125%である。そのため、Cr組成が6%以下のときは、Cr原子が一様に分 布していると、Cr原子間の平均距離はおよそ10Å以上であると考えられる。一方、Fukushimaらの計 算結果によると、Cr間の二重交換相互作用はCr原子間の距離が約4.3Å(第四近接の距離で二重交換相 互作用の大きさはかなり小さいため、二重交換相互作用は第一近接だけ働くと考える)以上ではほ とんど作用しないため、強磁性は実現されないと考えられる。実験結果では、窒素ドープ量の少な い試料ではCr組成1.5%の試料でも強磁性的振る舞いが観測されており、これはCr分布が不均一とな

り、Cr-rich領域が形成されていることを強く示唆する。一方、組成比[N]/[Cr]が0.1以上の試料では、

Cr原子は均一に分布しているため、Cr-rich領域が形成されず、Cr組成が6~9%の最も高い場合でも Cr原子間の平均距離はおよそ10Å以上であるため、この距離で二重交換相互作用が働かず、常磁性 を示すと考えられる。

図7.4: (2×2×2)のZnTeのsuper cellの結晶模型

超格子の試料についての考察

超格子試料について特に、強磁性が消失する試料Bsに注目すべきである。この試料の動径分布関 数においては、1.3Åの位置に新たなbroadなピークが観測されたため、Cr-N結合が形成され、N原子 が非磁性層ZnTe:Nから厚さ3nmの磁性層(Zn,Cr)Te全体に亘って拡散していると考えられる。XANES スペクトルでは窒素とCr組成比[N]/[Cr]の増加に伴い、メインピークが高エネルギー側にシフトし ているのが観測されるが、このシフト量が僅かであるため、Cr価数の変化量を判断することは難し い。然し、Crの価数が増加していること自体は否定できないと考えられる。ここで、(Zn,Cr)Te薄膜 の場合と同じメカニズムに基づいて考察すると、超格子の試料においても、窒素原子の(Zn,Cr)Te層 への拡散によりCrの価数が増加するため、Cr pair間の結合エネルギーが上昇する。そのため、spinodal 分解は起こされず、Cr-richの強磁性微粒子も形成されず、Cr原子間の距離が増加すると考えられる。

よって、Crイオン間の二重交換相互作用が弱くなり、常磁性的な振る舞いへと変化する。当初は、

(Zn,Cr)Teにホールが拡散することによって、磁性及びCrの価数が変化することが期待されたが、

XAFS測定の結果からはCr周りの動径分布関数の解析により窒素原子が(Zn,Cr)Te層に拡散すること が明らかとなった。Crの価数の変化はホールあるいは窒素原子のどちらの拡散によっても引き起こ されると考えられる。しかし、ホールだけの拡散により磁性の変化を説明することは難しく、超格

a b

c d

e f

g h

i

子試料での強磁性の抑制は主に窒素原子の拡散によって生じたと考えられる。磁化測定の結果では、

BS試料においてのみ低温(2K)でも常磁性特性が現れているため、窒素原子の拡散は(Zn,Cr)Te層全体 に及んでおり、従って、拡散距離は3nm程度であると予想される。然し、窒素原子の拡散量を定量 的に評価することは現時点では難しい。

7.2 纏め

本研究について、(Zn,Cr)Te薄膜の試料では、組成比が約0.1以下でCr価数が2+に近い値となり、

spinodal分解が起こされ、数nmのCr-rich微粒子が形成され、短距離で作用する二重交換相互作用に より、強磁性が実現される考えられる。一方、組成比[N]/[Cr]が約0.1以上になると、XANESスペク トルの僅かな変化及び動径分布関数の解析からCr-N結合が形成され、Crの価数が増加している可能 性があることが示唆される。そのため、spinodal分解が起こされず、Cr-rich微粒子が形成されず、

Cr原子は一様に分布して相互間の距離が増大するため、Cr間に二重交換相互作用が作用せず、強磁

性が抑制されると考えられる。

一方、超格子の試料では窒素原子が磁性層に拡散するため、Crの価数が2+からずれることが分か った。超格子での強磁性抑制は(Zn,Cr)Te薄膜試料と同様なメカニズムによって定性的に説明できる と考えられる。