• 検索結果がありません。

第6章 実験結果II: Cr 3d電子状態及び局所構造の評価

6.2 超格子のXAFS測定の結果

第6.1節に紹介された薄膜の試料ではXAFS測定のスペクトルの変化と強磁性の消失が[N]/[Cr]の 組成比でほぼ同一の値(0.1)で生じるという結果が得られた。これに対し、超格子の試料でも同一 の組成比で磁性の変化とCr 3d電子状態とCr原子周辺の局在構造の変化が引き起こされると予想す る。磁化測定の結果から、超格子の試料の中にあるBS試料(ZnTe:N層の窒素濃度が7×1019cm-3

(Zn,Cr)Teの膜厚が3nm)では常磁性的な振る舞いが観測された。まず、この強磁性が抑制されるBS

試料に注目する。BS試料を含むB3シリーズの試料では、非磁性層の窒素濃度を7×1019cm-3~0の範囲 で変化させている。XAFS測定により窒素とCr組成比[N]/[Cr]の減少によって、Cr 3d電子状態とCr 原子周辺の局所構造の変化がどのようになるかを評価した。

B3シリーズの超格子試料のXAFS測定の結果

図6.8(a)にB3シリーズの各試料のXANESスペクトルを示す。図6.8(a)に示すように、全ての試料で 約5.984keVの所に1sから3d-like状態への遷移であるpre-edgeピークが明瞭に観測された。pre-edgeピ ークのエネルギー位置は組成比[N]/[Cr]の増加による変化は見られなかった。約5.993keVのところに 1sから4p-like状態への遷移である肩ピークが観測された。組成比[N]/[Cr]の増加に伴い肩ピークは弱 くなり、さらに組成比が0.14で完全に消失することが分かった。さらに、メインピークは組成比 [N]/[Cr]の増加に伴い、高エネルギー側にシフトする様子が観測されたため、Crの価数が増加して いると考えられる。図6.8(b)にこのシリーズの試料における動径分布関数を示す。組成比の増加に

従って、2.5Åの所のピークの強度が減少し、約1.3Åの所に極めて弱いbroadなピークが現れる。この

1.3Åの所にあるbroadなピークは磁性層(Zn,Cr)Teと非磁性層ZnTe:Nの界面付近で窒素原子の拡散に よりCr-N結合が生じたものであると考えられる。然し、窒素原子は界面付近でTe原子を置換してい るか、それとも格子間に侵入しているかは明らかに言えない。また、backgroundから生じたノイズ の可能性もあると考えられる。

B2シリーズの超格子試料のXAFS測定の結果

B2シリーズはZnTe:N層のN濃度を約7×1019cm-3と一定にし、(Zn,Cr)Te磁性層の層厚を3~12nmの範

囲で変化させたものである。

図6.9(a)にB2シリーズの各試料のXANESスペクトルを示す。BS試料では肩ピークが現れていない のに対し、磁性層の層厚が6nm以上となると、約5.993keVのところに肩ピークが現れ、これととも にメインピークが低エネルギー側にシフトすることが観測されており、Crの価数が減少していると 考えられる。図6.9(b)に示す各試料の動径分布関数の比較では、層厚の増加に伴い約1.3Åの所にあ るピークが小さくなり、2.5Åの所のピークの強度の増加が観測される。このシリーズの試料は非磁 性層の窒素濃度を7×1019cm-3に固定し、(Zn,Cr)Te層の厚さを変化させたものであるが、超格子の界 面付近でZnTe:N層から(Zn,Cr)Te層への窒素原子が拡散する量と拡散距離は一定であると考えられ る。そのため、(Zn,Cr)Te層の厚さが増加するに連れ、(Zn,Cr)Te層中の窒素原子の拡散が少ない領域 が増え、磁性層(Zn,Cr)Teの全体のうち窒素の拡散した部分の割合が小さくなるため、約1.3Åの所に あるピークが小さくなるものであると考えられる。

B1シリーズの超格子試料のXAFS測定の結果

B1シリーズは磁性層の層厚を12nmと一定にし、ZnTe:N層の窒素濃度を1.5×1020~0cm-3の範囲で変

化させ、作製したものである。図6.10(a)に各試料のXANESのスペクトルを示す。組成比の増加に伴 い肩ピークとメインピークのシフトには僅かな変化が見えたが、組成比が0.3に達しても肩ピークは 消えなかった。図6.10(b)に示している各試料の動径分布関数に関しては大きいな違いが見られなか った。

6000 6050 0

1 2 3 4 5

CrN&CrN

2

[N]/[Cr]=0.100

[N]/[Cr]=0.043 [N]/[Cr]=0.016 [N]/[Cr]=0

Undoped(Zn,Cr)Te Cr 1.3%

N-doped Cr K-edge thickness 3nm

A bs or ba nc e [n or m al iz ed ]

Photon Energy [eV]

0 1 2 3 4 5

0 10 20 30 40 50 60

F.T.{ k

3

 ( k ) } ( ar b. u)

Radial Distance [Å]

CrN&CrN2 [N]/[Cr]=0.100 [N]/[Cr]=0.043 [N]/[Cr]=0.016

[N]/[Cr]=0 N-doped Cr K-edge thickness 3nm

Undoped(Zn,Cr)Te Cr 1.3%

0 1 2 3 4 5

0 10 20 30 40 50 60

F.T.{ k

3

 ( k ) } ( ar b. u)

Radial Distance [Å]

CrN&CrN2

[N]/[Cr]=0.100 thickness=2.8 [N]/[Cr]=0.180 thickness=6.7 [N]/[Cr]=0.150 thickness=9 [N]/[Cr]=0.166 thickness=12

Undoped(Zn,Cr)Te Cr 1.3%

N-doped Cr K-edge Cr:3%

6000 6050

0 1 2 3 4

5 CrN&CrN2

[N]/[Cr]=0.100 thickness=2.8 [N]/[Cr]=0.180 thickness=6.7 [N]/[Cr]=0.150 thickness=9

[N]/[Cr]=0.166 thickness=12 Undoped(Zn,Cr)Te Cr 1.3%

N-doped Cr K-edge Cr:3%

A bs or ba nc e [n or m ali ze d]

Photon Energy [eV]

(b) (a)

図6.8(a): B3シリーズの各試料のXANESスペクトル;

(b): 各試料の動径分布関数。

(a) (b)

図6.9(a): B2シリーズの各試料のXANESスペクトル;

(b): 各試料の動径分布関数。

6000 6050 0

1 2 3 4 5

CrN&CrN2 [N]/[Cr]=0.226 [N]/[Cr]=0.166 [N]/[Cr]=0.114 [N]/[Cr]=0.048

Undoped(Zn,Cr)Te Cr 1.3%

N-doped Cr K-edge thickness 12nm

Absor bance [nor mali zed]

Photon Energy [eV]

0 1 2 3 4 5

0 10 20 30 40 50 60

F. T. { k

3

 ( k ) } ( ar b. u)

Radial Distance [Å]

CrN&CrN2 [N]/[Cr]=0.226 [N]/[Cr]=0.166 [N]/[Cr]=0.114 [N]/[Cr]=0.048 N-doped Cr K-edge thickness 12nm

Undoped(Zn,Cr)Te Cr 1.3%

(a) (b)

図6.10(a) B1シリーズの各試料のXANESスペクトル;

(b) 各試料の動径分布関数

6.3 XAFS 測定の結果のまとめ

(Zn,Cr)Te:N薄膜の試料

窒素ドープ濃度が変化することでXAFS測定によってCr 3d電子状態(価数)及びCr周りの局所構造 の変化を調べた。XANESスペクトルとEXAFS振動から得られたCr周辺の動径分布関数の[N]/[Cr]比 による変化の閾値はCr 6~9%で0.110、Cr 3%で0.093、Cr 1.5%で0.084であることが分かった。磁化測 定においても、それぞれの閾値で強磁性が消失していることを示した。そのため、Cr 3d電子状態と Cr原子周辺の局所構造の変化は強磁性抑制と直接関係している可能性が示唆された。

超格子の試料

超格子の試料の中にBS試料のみにおいてCr 3d電子状態とCr原子周辺の局所構造の変化が明らか に観測された。即ち、ZnTe:N層の窒素濃度が7×1019cm-3、磁性層の膜厚が3nmという閾値でこの変 化が観測されたと考えられる。磁化測定によってこのBS試料では常磁性的な振る舞いが観測された。

よって、強磁性抑制とCr 3d電子状態とCr原子周辺の局所構造の変化と直接関係していると考えられ る。

第7章では、Cr 3d電子状態の変化によって強磁性が抑制されるメカニズムについて詳しく考察す る。