第 9 章 物理量と期待値 67
16.3 Legendre 多項式:m = 0 の波動関数
·1
2(L+L−+L−L+) + (Lz)2
¸
ψ` =
·1
2L+L−+`2¯h2
¸
ψ` (16.44)
となる。ここでどうせψ`にL+をかけると0になるので、上の式のL+L−をL+L−−L−L+= [L+, L−] と書き換えてもよい。この交換関係は
[L+, L−] = [Lx,−iLy] + [iLy, Lx] = 2¯hLz (16.45) となり、このLzも固有値`¯hに書き換えられるので、結局、
|~L|2ψ` = ¯h2`(`+ 1)ψ` (16.46) となる。よって、|L~|2の固有値はh¯2`(`+ 1)という決まった値になる。波動関数の何らかの演算子の 固有値が決まった値しかとれないことを「量子化される」というが、角運動量の固有値も量子化され ているのである。
この時、Lzの固有値の最大値は`¯hである。L+の部分をL−に変えてほぼ同じ計算をやってやれ ば、最小値が−`¯hであることもすぐに証明できるので、Lzの固有値は−`¯hから`¯hまでの範囲であ ることがわかる。
ここで、Lzの最大値が`¯hで、|L~|2 = (Lx)2+ (Ly)2+ (Lz)2が¯h2`(`+ 1)だったわけだが、これを 見て、
(Lx)2+ (Ly)2 =|L~|2−(Lz)2 = ¯h2`(`+ 1)−(¯h`)2 = ¯h2` (16.47) などという計算をやってはいけない。Lx, Ly, Lzは演算子であり、今Lzの固有状態を考えている。固 有状態を考えているから、Lz →¯h`というふうに、「演算子→固有値」と置き換えることができる。
しかしLx, Ly はLzと交換しないので、Lzの固有状態はLx, Lyの固有状態ではない。だから数字に 置き換えることができないのである。
正確に言うと、Lx, Ly, Lzの同時固有状態はたった一つだけ存在する。その場合は全ての固有値が 0であり、必然的に|~L|2の固有値も0である。この波動関数は定数であり、θにもφにもよらない。
16.3 Legendre 多項式 :m = 0 の波動関数
前節で出した微分方程式(16.36)において、x= cosθという座標変換をすると、
dx= sinθdθ ゆえに d
dθ = sinθ d
dx (16.48)
なので、
d dx
Ã
sin2θ d dxΘ
!
− m2
sin2θΘ +λΘ = 0 (16.49)
となる。ここでsin2θ= 1−cos2θ = 1−x2と書き直すと全部xの式となり、
d dx
Ã
(1−x2) d dxΘ
!
− m2
1−x2Θ +λΘ = 0 (16.50)
この方程式はLegendre(ルジャンドル)の方程式という有名な方程式である。ある一つのmの値の解 がわかれば、L±を使ってmがそれ以外の場合の解を作ることができるから、まず一番簡単そうな m = 0の場合について解く。
今求めようとしている関数はx = 0すなわちθ = π
2 において発散しないはずであるから、その点 を中心に
Θ = X
k=0
Akxk=A0+A1x+A2x2+· · · (16.51) と展開できるだろう。これを代入していくと、
Θ = X
k=0
Akxk d
dxΘ = X
k=1
kAkxk−1 (1−x2) d
dxΘ = X
k=0
kAkxk−1−X
k=0
kAkxk+1 d
dx
Ã
(1−x2) d dxΘ
!
= X
k=0
k(k−1)Akxk−2−X
k=0
k(k+ 1)Akxk d
dx
Ã
(1−x2) d dxΘ
!
+λΘ = X
k=0
k(k−1)Akxk−2+X
k=0
(λ−k(k+ 1))Akxk
(16.52)
ここで、第一項をよく見ると、k = 0, k = 1の場合は0になっている(この項は2階微分された項だ から定数項とxの1次項が消えているのは当然のことである)。だからこの和はX
k=2
k(k−1)Akxk−2 と書いても同じことである。こうしておいて、k →k+ 2と置き直す。すると、
d dx
Ã
(1−x2) d dxΘ
!
+λΘ = X
k=0
(k+ 2)(k+ 1)Ak+2xk+X
k=0
(λ−k(k+ 1))Akxk (16.53) となる(kの和が再び0からに戻ったことに注意)。この式は任意のxで成立せねばならないから、各 次数で0となる必要がある。そこでxk次の係数を取り出して
Ak+2(k+ 2)(k+ 1) +Ak(λ−k(k+ 1)) = 0 (16.54) となることがわかる。この式をくり返し使えば、
Ak+2 = k(k+ 1)−λ
(k+ 2)(k+ 1)Ak= k(k+ 1)−λ (k+ 2)(k+ 1)
(k−1)(k−2)−λ
k(k−1) Ak−2 =· · · (16.55) のようにして、kが偶数なら最後はA0に、kが奇数なら最後はA1にたどり着く。
しかし、ここでk → ∞を考えてみると、係数 k(k+ 1)−λ
(k+ 2)(k+ 1) が1に収束する。つまり、kが大き いところではこの級数は1 +x+x2+x3+x4+· · ·と同じような形になる。この級数はx= 1付近で は収束しない5。そこで、「この級数は無限次まで行かず、途中で止まらなくてはいけない」という条 件をつける。この条件が成立するためには、k=`のところで、
λ=`(`+ 1) (16.56)
5ベッセル関数の場合はak= −1
k(2|n|+k)ak−2だったので、akはk→ ∞でどんどん小さくなるので、発散する心配 はしなくてよかった。
16.3. Legendre多項式:m= 0の波動関数 163 となってA`+2以降が全て0にならねばならない。これでλ=`(`+ 1)と決定される。最初に演算子 の関係から求めた式が確認された。
今求めたように、A偶数は全てA0に比例し、A奇数はA1に比例している。今求めた条件が満たされ ているとすると、`が偶数ならばA偶数が有限次で終わる。その時にA奇数 が無限に続いてしまっては 困るから、`が偶数の時にはA1 = 0として、すべてのA奇数 = 0にしよう。同様に、`が奇数ならば A奇数が有限次で終わり、A偶数= 0 とする。こうすれば全ての関数が有限次の多項式となる。
Amの一般式を求めよう。
Ak+2 = −`(`+ 1) +k(k+ 1)
(k+ 2)(k+ 1) Ak =−(`+k+ 1)(`−k)
(k+ 2)(k+ 1) Ak (16.57) となることを使うと、`が偶数の場合、
A2 = −(`+ 1)`
2×1 A0 (16.58)
A4 = −(`+ 3)(`−2)
4×3 A2 = (`+ 3)(`+ 1)`(`−2)
4×3×2×1 A0 (16.59)
A6 = −(`+ 5)(`−4)
6×5 A4 =−(`+ 5)(`+ 3)(`+ 1)`(`−2)(`−4)
6×5×4×3×2×1 A0 (16.60) のようになり、一般式は
A2m= (−)m(`+ 2m−1)(`+ 2m−3)· · ·(`+ 3)(`+ 1)×`(`−2)· · ·(`−2m+ 2)
(2m)! A0 (16.61)
となる。これで最終的な答えは
A0×
`
X2
m=0
(−)m(`+ 2m−1)(`+ 2m−3)· · ·(`+ 3)(`+ 1)×`(`−2)· · ·(`−2m+ 2)
(2m)! x2m (16.62)
同様に、`が奇数の場合も、
A3 = −(`+ 2)(`−1)
3×2 A1 (16.63)
A5 = −(`+ 4)(`−3)
5×4 A3 = (`+ 4)(`+ 2)(`−1)(`−3)
5×4×3×2 A1 (16.64)
A7 = −(`+ 6)(`−5)
7×6 A5 =−(`+ 6)(`+ 4)(`+ 2)(`−1)(`−3)(`−5)
7×6×5×4×3×2 A1 (16.65) のようになるので、
A1×
`−1
X2
m=0
(`+ 2m)(`+ 2m−4)· · ·(`+ 2)`×(`−1)(`−3)· · ·(`−2m+ 1)
(2m+ 1)! x2m+1 (16.66)
と求められる。この形だとkは偶数の場合は1, x2, x4,· · ·と和を取り、kが奇数の場合はx, x3, x5,· · · と和の取っている。そこで和の取りかたをx`, x`−2, x`−4,· · ·という順番にかえて、`が奇数の場合でも 偶数の場合でも同じ式が使えるようにしておくと便利である。そこで、偶数に対しては2m =`−2j
とし、奇数に対しては2m=`−2j−1として、jによる和に書き直す。こうすると偶数の場合も奇 数の場合も、
(A0またはA1)× X
0≤j≤`2
(−)m(2`−2j−1)(2`−2j −3)· · ·(`+ 3)(`+ 1)×`(`−2)· · ·(2j+ 2)
(`−2j)! xx−2j
(16.67) とまとめることができて便利である。jの範囲は0から、`
2を越えない範囲までである(`が偶数なら
`
2、奇数なら `−1 2 )。
ここで、分子の因子について、以下のような書き直しを行う。
(2`−2j−1)(2`−2j−3)· · ·(`+ 3)(`+ 1)
=
(2`−2j)
::::::::::(2`−2j−1)(2`−2j−2)
::::::::::::::(2`−2j−3)· · ·(`+ 4)
:::::::(`+ 3)(`+ 2)
:::::::(`+ 1) (2`−2j)
::::::::::(2`−2j−2)
::::::::::::::· · ·(`+ 4)
:::::::(`+ 2)
:::::::
(16.68)
式で下線を引いた部分どうしは約分すれば元に戻る。ここで分母の(2`−2j) = 2(`−j)としたり、
(`+ 2) = 2
Ã` 2 + 1
!
としたりなどとして2を出せる限り外に出す。2は(`−j)−
Ã` 2+ 1
!
+ 1 = ` 2−j 個出てくるので、
= (2`−2j)(2`−2j−1)(2`−2j−2)(2`−2j−3)· · ·(`+ 4)(`+ 3)(`+ 2)(`+ 1)
2`2−j(`−j)(`−j−1)···(2`+2)(2`+1)
=
(2`−2j)!
`!
22`−j(`−j)!
(2`)!
= (2`−2j)!³2`´! 2`2−j`!(`−j)!
(16.69)
となる。
同じように、
`(`−2)· · ·(2j + 2) = 2`2−j
Ã` 2
! Ã` 2 −1
!
· · ·(j+ 1)
= 22`−j
³` 2
´! j!
(16.70)
となるので、まとめて、
A0
`
X2
j=0
(−)`2−j
³³`
2
´!´2(2`−2j)!
`!j!(`−j)!(`−2j)!x`−2j (16.71) となる。A0を後で出てくる境界条件を充たすように、適当に選んで、
P`(x) = X
0≤j≤`2
(−1)j (2`−2j)!
2`j!(`−j)!(`−2j)!x`−2j (16.72) となる。
この多項式をLegendre多項式と呼び、P`(x)で表す6。全体の規格化はLegendre方程式からは決ま らないが、P`(1) = 1となるように決めるのが昔からの習慣で、ここでもそれにしたがっている。
6方程式の解としてはもう一つ、Q`(x)と表される関数があるが、この関数はx= 0で発散するのでシュレーディン ガー方程式の解としては採用しない。
16.3. Legendre多項式:m= 0の波動関数 165 証明は略すが、この展開は
P`(x) = 1 2``!
d`
dx`(x2−1)` (16.73)
とまとめられる(Rodriguesの公式)。
`が小さい場合について、具体的な形を出しておくと、
P0(x) = 1, P1(x) =x, P2(x) = 1
2(3x2−1), P3(x) = 1
2(5x3−3x), P4(x) = 1
8(35x4−30x2+ 3),· · · (16.74) のように計算される。
P (x)0 P (x)1
P (x)2
P (x)3
P (x)4
P`(x)の最初の5つのグラフは右のようになる。`が偶数 の時P`(x)は偶関数となり、`が奇数の時奇関数となる。グ ラフでもわかるように、`が大きくなるにつれて複雑になっ ていく。波動関数としてみると、`が大きくなるほど、波の 山・谷が増えて行く。
各々のP`(x)は`の値に応じてそれぞれ違う|L~|2の固有値 を持った波動関数(実際には「波動関数のうちθ依存する部 分」と言うべき)と考えることができる。今はm = 0の場 合を特に考えているので、 d
dx
Ã
(1−x2) d dx
!
という演算子 の固有値が`(`+ 1)だということである。この演算子はエル ミートであるから、「エルミートな演算子に対して異なる固 有値を持つ固有関数は直交する」という定理のおかげで、
Z 1
−1
dxPm(x)Pn(x) = 0 (m6= 0の時) (16.75) がわかる。あるいはx= cosθであることを思い出せば、
Z π
0
dθsinθPm(cosθ)Pn(cosθ) = 0 (m6= 0の時) (16.76) である。積分の変換
Z π
0
dθsinθ =
Z 1
−1
dxはよく使う計算なので、覚えておくとよい。θ= 0でx= 1、
θ =πでx =−1であり、積分の方向が逆になっているが、その符号はdx=−sinθdθの符号とキャ ンセルするので、この置き換えでちょうどよい。
θ積分の形にすると、積分の中にsinθという因子が入るが、3次元の体積要素がdrdθdφr2sinθで あったためであり、これで正しい。
[問い16-4]θを使って書いた微分演算子は 1 sinθ
d dθ
µ sinθ d
dθ
¶
であった。この演算子がエルミートであ ることを示せ。この場合、エルミートの定義は、任意の関数ψ, φに対し、演算子Aが
Z
dθsinθ(Aψ)∗φ= Z
dθsinθψ∗(Aφ) を満たすことである。
なお、計算は略すが、m =nの時は
Z 1
−1
dxPn(x)Pn(x) = 2
2n+ 1 (16.77)
となる。
P (cos )0 P (cos )1
P (cos )2 P (cos )3
P (cos )4 θ
θ θ
θ θ
θ
(P (cos( ))
1
θ 2
角度θの関数としてグラ フを書くと、右図のように なる。θ = 0(北極)がx= 1に、θ = π(南極)がx =
−1に対応することに注意 せよ。
さらに右の図では、P1(cosθ) で表せる波動関数の確率 分布の様子を平面的に表 した。図の曲線は、「中心 からの距離」が「その角度 の方向に粒子のいる確率 密度」になるように書かれ
ている。「このグラフの線の上に粒子がいる」とか「この線の内側に粒子が集中している」という意 味ではないので勘違いしないように!7
このグラフからわかることは、P1(cosθ)で表せる状態では、南極部分と北極部分にたくさん粒子 がいて、赤道部分には全くいない状態になっているということである。` = 1以外で確率分布の様子 を同様のグラフで書くと、
(P (cos( )) 1 θ 2 (P (cos( )) 2 θ 2 (P (cos( )) 3 θ 2 (P (cos( )) 0 θ 2
になる。
われわれが求めることができるのは、Lx, Ly, Lzのうち、一つの演算子にたいしてのみ固有状態で あるということ、今求めているのはLzの固有状態であり、それゆえLxやLyに関してはまったく決 定できない8ということに注意しよう。この節で計算したのは|~L|2 >0でLz = 0という状態である。
古典論なら「この状態はx方向かy方向か、あるいはその中間とか、とにかくz軸と垂直な軸の回り の回転をしている」と考えるところだが、波動関数を見ると、x方向やy方向に回っているというイ メージは見えない。それはLxやLyに関しては全く固有状態になっていないからである。
7そもそも、まだ動径方向の波動方程式は解いていないので、rがどれくらいのところに粒子がいるとかいないとか、
判定することもまだできないのである。
8例外として「全部固有値0」だけがあり得る。これは不確定性関係の話のところで注意した通り。