6. 風景内で注視されたランドマークを検索キーとする地図検索
6.1. LSAS の基本概念
6.1.1. LSAS 概要
4章で示した通り,読図は,先進国で地図が一般的に利用されるようになった最近100 年 程度に認識された能力であり[108],ある意味では特殊な能力と言える.現在でも,地図を 読み慣れていない人が,地図記号や建物の外形図だけから,そこを歩いたときに目の前に 展開される風景をイメージすることは難しい.地図を片手に初めて訪れた町を歩いてみて,
自分が地図の中のどの場所にいるのかが分からないという経験は多少なりとも誰にでもあ ると思われる.これは地図に記載されている情報と眼前の風景が一致していないことによ る.地図には小学校と書かれていても,眼前には長い塀が伸びているだけかもしれない.
塀と小学校を結びつけるには,かなり高度な推論や経験を必要とする.風景は現実の地物 である周囲の空間の情報を捉えただけでは生じず,その空間の情報とその空間を捉えた人 の様々な心象が入り混じって構成されたものである[109][110].また,地図は実際の3 次元 空間を 2 次元平面に写像したものなので,地図から地形情報を得る(理解する)ことは容 易ではない.初めての町に行く前に地図を見て予習したはずなのに,「こんな坂道だなんて 予想していなかった」などの経験はよくあることである.
5 章で示した ILS は,空間イメージとしてのサーベイマップを用いることで,認知負荷
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を小さくし,目的の場所を直感的かつ容易な地図操作で地図検索できることを確認した.
ここではさらに,より認知負荷が小さく直感的な地図検索方法として,都市空間内で人が 目にした風景中のランドマークを手掛かりに当該場所を検索する方法を考えたい.
図 6-1にそのイメージを示す.(a)は実際の風景を示した写真,(b)は同じ場所をイメージ
として描いた図,(c)は検索結果として提示したい正解の地図である.
実際の風景である(a)からわかることは,この箇所では道は左折していないこと,右手前 には駐車場があること,さらに右手奥の店はコンビニというよりスーパーマーケットであ ること,左手の森はどうやら神社らしいことがわかる.一般的なユーザは,このようにラ ンドマークを認識すると思われるが,人によって捉え方に差が生じる可能性がある.この 差を考慮した上で正しく地域を検索できるかどうかが課題となる.
イメージとして描いた図である(b)では,ランドマークとして左手に森,右手前に駐車場,
その右奥にコンビニがあり,中央に左方向に曲がる道が示されている.提案手法では,こ れらランドマークを検索条件として,その場所を探したいという場合にこの検索方法を用 いる.
実地図(c)を見てみると,左手は稲荷神社であること(より大きな縮尺では表記されてい る),右手はこの先でわずかに左に曲がること(ユーザにとってはこの先の印象が強かった ということ),右手はスーパーマーケットであることが確認できる.
提案方式では,このようなイメージと現場との相違点を吸収(考慮)する仕組みが要求 される.この例であれば,
① 道のカーブは印象が強く,探したい場所の近傍にカーブがある場合でも,その場所に あったと記憶される場合がある.
② 小規模なスーパーマーケットとコンビニは,中型商店としてひとくくりに認識される 傾向がある.コンビニは生活に密着しており,小規模なスーパーマーケットはコンビ ニと認識されやすい.
③ 森(木が多い)の印象は強いと思われるが,それが何であるのかについては,ほとん ど認識されない.森を形成する地物,例えば,神社,寺,街路樹,防風林などを同一 のクラスターとして扱える仕組みを構築しておく必要がある.
本手法の利点は,人が見たままの風景中にあるランドマークを用いて地図検索を行える ことである.4.3.2 で述べた通り,視覚情報を認知地図に変換する作業は,慣れないと負荷 が大きく,方向音痴の人にとっては容易な作業ではない.本手法であれば,見たままの印 象をそのまま使えるため,認知負荷が小さくすみ,より多くの人に容易に利用してもらえ ると期待できる.
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図 6-1 視覚イメージによるルートマップ型地図検索のイメージ
地図データ©2016Google,Zenrin
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本検索手法は,空間的イメージに基づいた地図検索方法である ILS と同様に,人の一般 的な認知特性を考慮した検索アルゴリズムが必要になる.本検索方法に適した利用場面と しては,スナップショット的な印象的場面を記憶している思い出の場所を検索する場合や,
待ち合わせ場所でうまく待ち合わせることができない場合,昔撮った写真に写っているラ ンドマークからその場所を検索する場合などを想定している.また外出先で自分の位置が どこなのかを確認することを想定し,モバイル端末での利用も想定している.また,ナビ を行うサービスとの連携も考えられる.例えば,待ち合わせ場所でうまく待ち合わせるこ とができないときに,「右に何が見える」「左に何がある」などを音声入力することで,図 6-1 (b)と同じ入力を行え,それに基づいて現在位置を特定し,待ち合わせ相手とうまく会える ようにナビすることが可能である.音声による入力サービスは,画面の小さなスマートウ ォッチに適したアプリであると言える.
以上の特徴を備えた地図検索システムをLSASと呼ぶ.表 6-1にILSとLSASの比較を 示す.
表 6-1 ILSとLSASの比較
ILS LSAS
認知地図 サーベイマップ(2次元) ルートマップ(3次元)
認知負荷 やや小 小
検索条件 ランドマークの種類と相対的位置関係 ランドマークの視覚的要素(種別,文 字)と位置(左右,手前・奥) 検索範囲 広い(日常生活圏程度) 狭い(ユーザの見える範囲)