• 検索結果がありません。

シミュレーション計算[安川]

ドキュメント内 ヒール時の痩せ型船型の操縦流体力微係数 (ページ 74-80)

4.3.1 計算法の検証:自由航走模型試験結果との比較

以上の方法で操縦運動シミュレーション計算に必要な係数を全て決定すれば,旋回運動やzig-zag運動 のシミュレーション計算が可能となる。KVLCC2模型船を対象に,そのような運動シミュレーション計 算を実施し,検証のため,水槽試験結果と比較を行う。

比較を行う自由航走模型試験結果として,オランダ水槽(MARIN)で実施されたLpp =7.000mの模型 船を用いた試験結果を使用する[1]。シミュレーション計算に用いる流体力係数は,Lpp=2.9091mの模型 船を用いて,海上技術安全研究所で実施された試験結果をもとに決定されたが,この模型船を用いた自由 航走模型試験は行われていない。Lpp=7.000mの模型船を用いた自由航走模型試験における模型プロペラ の特性は不明であったため,拘束模型試験で用いられたプロペラの特性をそのまま用いた。アプローチ船 速は,U0= 1.179m/s(Lppベースのフルード数で0.142)であった。また,直進航行時の有効伴流係数に縮 尺影響を考慮し,wP0= 0.4とした。

(1) 舵角35deg旋回

Fig.9に,舵角±35degにおける旋回航跡の比較を示す。定常旋回に至る初期状態での航跡の計算値は,

水槽試験結果と良い一致を示している。しかしながら,定常旋回半径の計算値は,試験結果よりも小さい 傾向があり,その傾向は左旋回において顕著である。左右の旋回半径が異なるのは,主に整流係数(γR)の 違いによるため,シミュレーション計算における左右の旋回における整流係数の違いが大きすぎる可能性 がある。

Fig.10に,旋回運動時のδ,u,vm,rの時刻歴変化の比較を示す。u,vm,rの計算値は水槽試験結果と良 い一致を示しているように見えるが,Fig.9に示したように航跡の計算値は,水槽試験結果と差異がある ことを考えると,時刻歴結果のわずかな差異が航跡では比較的大きな差異となることが分かる。

Table 5に,旋回縦距(AD)と旋回圏(DT)の比較を示す。Fig.9に示したように航跡の計算値は水槽試 験結果と差異があることを考えると,計算による旋回性能指数(AD,DT)は水槽試験のそれと比較的良い 一致を示している。その理由は,定常旋回に至る初期状態において,計算値は水槽試験結果と良い一致を 示しているためであると考えられる。

−4 −2 00

2 Cal. 4 Exp.

Y0 /L

X0 /L

0 2 4

0 2

4 Cal.

Exp.

Y0 /L X0 /L

Fig.9: 35deg旋回航跡の比較

0 30 60 90 120 150

−40

−30

−20

−10 0

0 30 60 90 120 150

0 0.4 0.8 1.2

0 30 60 90 120 150

0 0.1 0.2 0.3

0 30 60 90 120 150

−4

−2 0

Cal. Exp.

time(s) δ (deg)u (m/s)vm (m/s)

time(s)

time(s)

r (deg/s) time(s)

0 30 60 90 120 150

0 10 20 30 40

0 30 60 90 120 150

0 0.4 0.8 1.2

0 30 60 90 120 150

−0.3

−0.2

−0.1 0

0 30 60 90 120 150

0 2 4

Cal. Exp.

time(s) δ (deg)u (m/s)vm (m/s)

time(s)

time(s)

r (deg/s) time(s)

Fig.10: 35deg旋回運動の時刻歴結果の比較(左:δ=−35deg,右:δ= 35deg)

Table 5: 旋回性能指数の比較

AD/L(35deg) DT/L(35deg) AD/L(-35deg) DT/L(-35deg)

Cal. 3.30 3.33 3.15 3.03

Exp. 3.25 3.34 3.11 3.08

(2) zig-zag運動

Fig.11に,10deg/10degならびに-10deg/-10deg zig-zag運動の時刻歴結果の比較を示す。また,Fig.12 に,20deg/20degならびに-20deg/-20deg zig-zag運動の時刻歴結果の比較を示す。10/10 ならびに-10/-10zig-zag運動の方位(ψ)と舵角(δ)の計算結果を見ると,方位の行き過ぎ角の絶対値が小さく,その分操 舵のタイミングが早くなっている。Table 6に10/10zig-zag運動の行き過ぎ角を示す。計算結果は,第1 行き過ぎ角(1st OSA)で2〜3deg小さく,第2行き過ぎ角(2nd OSA)で5〜7deg小さい。このように行 き過ぎ角が小さくなる理由は,船体の運動減衰が大きすぎる(例えば,YvNrの絶対値が大きすぎる)こ とが考えられるが,35deg旋回を見る限り,運動減衰が大きすぎることは考えにくいように思われる。

一方,20/20ならびに-20/-20zig-zag運動の方位と舵角の計算結果は,10/10zig-zag運動と比較すると,

水槽試験結果との一致度は良好である。Table 7に20/20zig-zag運動の行き過ぎ角を示す。それでも,行 き過ぎ角の計算値は,水槽試験結果よりもわずかに小さい。zig-zag運動の行き過ぎ角を,数度以内の誤差 で精度良く計算することの難しさが分かる。

Table 6: 10/10 zig-zag運動の行き過ぎ角の比較

1st OSA(10Z) 2nd OSA(10Z) 1st OSA(-10Z) 2nd OSA(-10Z)

Cal. 5.3deg 15.2deg 7.5deg 10.0deg

Exp. 8.2deg 21.9deg 9.5deg 15.0deg

0 30 60 90

−40

−20 0 20

0 30 60 90

0.8 1 1.2 1.4

0 30 60 90

−0.2 0 0.2

0 30 60 90

−2 0 2

Cal. Exp.

time(s) δ, ψ (deg)u (m/s)vm (m/s)

time(s)

time(s)

r (deg/s)

time(s)

0 30 60 90

−40

−20 0 20

0 30 60 90

0.8 1 1.2 1.4

0 30 60 90

−0.2 0 0.2

0 30 60 90

−2 0 2

Cal. Exp.

time(s) δ, ψ (deg)u (m/s)vm (m/s)

time(s)

time(s)

r (deg/s)

time(s)

Fig.11: 10deg/10deg zig-zag運動の時刻歴結果の比較(左:10/10zig-zag,右:-10/-10zig-zag)

0 30 60 90

−40

−20 0 20 40

0 30 60 90

0.8 1.2

0 30 60 90

−0.2 0 0.2

0 30 60 90

−4

−2 0 2 4

Cal. Exp.

time(s) δ, ψ (deg)u (m/s)vm (m/s)

time(s)

time(s)

r (deg/s)

time(s)

0 30 60 90

−40

−20 0 20 40

0 30 60 90

0.8 1.2

0 30 60 90

−0.2 0 0.2

0 30 60 90

−4

−2 0 2 4

Cal. Exp.

time(s) δ, ψ (deg)u (m/s)vm (m/s)

time(s)

time(s)

r (deg/s)

time(s)

Fig.12: 20deg/20deg zig-zag運動の時刻歴結果の比較(左:20/20zig-zag,右:-20/-20zig-zag)

Table 7: 20/20 zig-zag運動の行き過ぎ角の比較 1st OSA(20Z) 1st OSA(-20Z)

Cal. 21.0deg 24.4deg

Exp. 23.7deg 25.1deg

4.3.2 実船の操縦運動シミュレーション

前節で,船の操縦運動をおおよそ予測できることが分かったので,次に実船を対象とした操縦運動シミュ レーションを行う。KVLCC2実船の主要目はTable 1に示している。Lpp = 320mのVLCCである。ア プローチ船速はU0=15.5knである。本船は,実船としては建造されておらず,従って,実船におけるト ライアル結果は存在しない。

(1) 舵角35deg旋回

Fig.13に,舵角35degの旋回航跡の比較を示す。図中,L= 320mと記載したものが実船のシミュレー

ション計算結果,L= 7.00mと記載したものが模型船のシミュレーション計算結果であり,Fig.9に示し た計算結果と同じものである。実船の旋回航跡は外側にふくらんだようなものとなり,旋回縦距や旋回圏 が大きくなっている。これは旋回性能が悪化したことを意味する。Table 8に実船と模型船における旋回 縦距(AD)や旋回圏(DT)の比較を示す。

−4 −2 00

2 4

Y0 /L

X0 /L

L = 320m L = 7.00m

0 2 4

0 2 4

Y0 /L X0 /L

L = 320m L = 7.00m

Fig.13: 35deg旋回航跡の計算結果の比較

Table 8: 旋回性能指数の計算結果の比較

AD/L(35deg) DT/L(35deg) AD/L(-35deg) DT/L(-35deg)

L=320m 3.66 3.74 3.49 3.41

L=7.00m 3.30 3.33 3.15 3.03

Fig.14に,船速低下率U/U0,無次元化された回頭角速度r(≡rL/U),船体斜航角βの時刻歴結果の 比較を示す。横軸は,無次元化された時間tがとっており,t≡tU0/Lと定義される。定常旋回状態にお いて,U/U0rの絶対値,βの絶対値は,実船の方が小さくなる。実船のU/U0が小さくなり,船速低下 が大きくなる理由は,実船では全抵抗に占める摩擦抵抗成分の割合が減って,斜航や旋回による抵抗増加 の影響を大きく受けるためと考えられる。また,実船におけるrβの絶対値が小さくなる理由は,プ ロペラ荷重度が小さくなり,舵力が見かけ上小さくなったためであると考えられる。

0 10 20 30 40 50

0 0.4 0.8 1.2

0 10 20 30 40 50

0 0.4 0.8 1.2

0 10 20 30 40 50

0 10 20

t’

U/U0− r’

t’

− β (deg)

t’

L = 320m L = 7.00m

0 10 20 30 40 50

0 0.4 0.8 1.2

0 10 20 30 40 50

0 0.4 0.8 1.2

0 10 20 30 40 50

0 10 20

t’

U/U0r’

t’

β (deg)

t’

L = 320m L = 7.00m

Fig.14: 35deg旋回運動の計算結果の時刻歴結果の比較(左:δ=−35deg,右:δ= 35deg)

(2) zig-zag運動

Fig.15に,10/10zig-zagならびに20/20zig-zag運動の時刻歴計算結果の比較を示す。この場合も,実船 の方が少し針路不安定となり,舵の応答が遅くなる。その結果,実船の行き過ぎ角が模型船のそれよりも 大きくなる。

0 10 20

−40

−20 0 20

δ, ψ (deg)

t’

L = 320m L =7.00m

0 10 20

−40

−20 0 20 40

δ, ψ (deg)

t’

L = 320m L =7.00m

0 10 20

−40

−20 0 20

δ, ψ (deg)

t’

L = 320m L =7.00m

0 10 20

−40

−20 0 20 40

δ, ψ (deg)

t’

L = 320m L =7.00m

Fig.15: zig-zag運動の時刻歴結果の比較 (左:10/10zig-zag,右:20/20zig-zag)

本シミュレーション計算では,レイノルズ影響の違いによる摩擦抵抗ならびに有効伴流率の違いを除き,

実船と模型船における操縦流体力特性に変化はないとしている。ここでの計算結果は,そのような仮定の 下で求められたものであることに留意する必要がある。模型船の結果と比較すると,実船の方がzig-zag 運動の行き過ぎ角は大きくなり,旋回性能に関する指標も大きめの値となる。これは針路安定性ならびに

Table 9: 10/10 zig-zag運動の行き過ぎ角の比較

1st OSA(10Z) 2nd OSA(10Z) 1st OSA(-10Z) 2nd OSA(-10Z)

L=320m 5.9deg 20.0deg 8.7deg 12.9deg

L=7.00m 5.3deg 15.2deg 7.5deg 10.0deg

Table 10: 20/20 zig-zag運動の行き過ぎ角の比較 1st OSA(20Z) 1st OSA(-20Z)

L=320m 21.8deg 26.1deg

L=7.00m 21.0deg 24.4deg

旋回性ともに悪化するものであった。このように,模型船による自由航走模型試験結果は,甘めの結果と なっていることに注意が必要である。今後は,実船レベルでのシミュレーション計算の妥当性確認を行う ことが必要不可欠である。

参考文献

[1] http://www.simman2008.dk/

[2] Hirano, M., Takashina, J., Moriya, S. and Fukushima, M.: Open Water Performance of Semi-Balanced Rudder,西部造船会々報第64号 (1982), pp.93-101.

[3] 藤井 斉,津田達雄:自航模型船による舵特性の研究(2),造船協会論文集第110号(1961), pp.31-42.

5. PMM をベースとした操縦運動調査例

5.1 回流水槽における PMM 試験例

ドキュメント内 ヒール時の痩せ型船型の操縦流体力微係数 (ページ 74-80)