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5 . 5   針路安定判別

本節においては,船体流体力から得られる線形微係数を用いて,針路不安定現象に ついて検討を行なう。第 1章において述べたように,近年,船の巨大化に伴なって見 られるようになった船尾の肥大化した船の中には,針路不安定現象を引き起こすもの が多く,操船上の大きな問題になっている。特に,社会的な問題にまで発展している 大量流出油事故を引き起こすようなタンカーなどの肥大船は,もともと CB が大きい 上に L/Bが小さく,針路安定性は一般に良くない。また,旋回運動時の旋回中心が重 心よりもかなり前方にあるため,操縦性能に与える影響も船尾形状によるものが大き いと考えられる。一般に,船体抵抗の軽減や運航効率の向上のために抵抗・推進性能 の面から,スターンバルブ、を付けたり,船尾フレームライン形状を U型から V型に 変更したり,船尾プロファイルを逆 G型からマリナー型へと変更すると,たとえ主要 目が同じであっても船の操縦性能は大きく変化し,特に針路安定性に大きな差が生じ ることが知られている。また,前述のような船尾形状の変化は針路安定性を劣化させ る方向に作用することが多く,船を設計する観点からすると,そのような船固有の性 能が劣ることに起因する海難事故を未然に防ぐ必要がある。従って,初期の設計段階 において,決定された船型が果たして要求される操縦性能を有しているか否か,その 船の操縦性能を正確に評価することが非常に重要なこととなる。その際,フレームラ イン形状の微妙な違いなど,主要目だけでは表現することができない局部的な船型の 変化が,操縦性能に及ぼす影響について検討を行なうためには,本計算法のような船 体形状を考慮した船体流体力の理論的な推定法を用いることが,非常に有効な手法で

あるように思われる。

ここで,船の操縦性能を評価する方法の 1つとして,針路安定判別を行なう方法が 挙げられる。これは,船体流体力から得られる線形微係数

η

N

s

および

y ;

N;を 用いて次式に示す針路安定性指数ムを求め,船の操縦性能を示す重要な要素である針 路安定性を調べる方法である。即ち,ムの値が正の場合は針路安定,逆にムの値が負

の場合は不安定であることを示す。

ム ニ

N

s ( 行 ‑ M ーベ)一刀 N ;

(5.5.1) 

しだた

Y h

一 一

N J

一 一

θ

!r'=O  θP=0

β=0  β=0 

行 一 一 一

N J

一一一 θr'=O  θr'=O 

β=0  β=0 

(5.5.2) 

Fig.5.12は計算対象船型に対する船体流体力を,従来九州大学で用いている以下の 式[11]で Fittingして得られる線形微係数

η

N

s

お よ び 咋N;から針路安定性指数 ムを求め,針路安定判別を行なった結果である。ただし,前節で取り扱った VLCC船 型については, Fig.5.9を用いて船の主要因から係数αs の値を決定して推定を行なっ た船体流体力より求めた。

Y' 

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1 + ( 刀

β

rs+ 刀〆) s r '   N '  

Nss  +  N ; r '   +  N s s s I s I

十 叫 ザ

I r ' l +  ( N s s r s   +  N s r r r ' )   s r '  

(5.5.3) 

.,T ,・,。.,企 Calculation

ー ‑

0 マ ロ ム :Experiment 

Containrship 

P 4J 

~ トーCargoship 

YLCC 

YLCC 

Sh'ipB~Sγ 0.1 

0.0 

0.1 

Model ships 

Fig.5.12  Stability discriminant 

127 

図中の

0

,マ,口,く),ム印と .,

T

, .,

φ

,'"印は,それぞれ模型試験結果と 推定結果を示している。模型試験結果の傾向を見ると,

A

船型,

B

船型および

C

船型 はたとえ主要目が同じであっても,船尾部分において局部的にフレームライン形状が 異なることで,針路安定性に差が生じていることがわかる。本計算法を用いた推定結 果においても 3船型に対する針路安定性には差が現われており,また,模型試験結果 においては B船型に比べて A船型の方が針路不安定であるが,本計算法を用いた推 定結果においても同様な傾向が見られ,定性的には比較的精度良く針路安定判別を行 なうことが可能であるということがわかる。従って,本計算法は主要目に現われない 局部的なフレームライン形状の違いを考慮、して針路安定判別を行なうことが可能であ り,局部的な船体形状の違いに起因すると考えられる針路不安定現象を検討するうえ で,実用的な観点から有効な手法であると考えられる。

次に,本計算法を他の船型に対して適用した結果について検討を行なう。図中のム,

企 印が,それぞれ前節において取り扱った

VLCC

船型に対する模型試験結果と推定 結果を表わしている。両者の結果には多少差が生じており,定量的な面においては多 少問題が残ると思われる。しかし,推定結果については,僅か 6隻の模型船に対する 係数 Sα の値をベースに作成した推定チャートを用いているため,今後,さらに多くの 船型に対して同様なアブローチで係数らについてのデータを収集することで,推定精 度の向上が図れるものと考えられる。

5 . 6 結 日

本章においては,船体流体力の推定結果と模型試験結果とを比較することによって,

本計算法の推定精度および妥当性について検討を行なった。また,初期の設計段階に おいて新しく設計する船の操縦性能を評価する場合,本論文で提案した計算法を適用 すると, A.P断面における渦糸の初期発生位置を表わす係数 sα の値の決定方法が問題 になる。船体まわりの流場に関する情報が全くない新しい船については,係数 sα の値 を何らかの方法で推定する必要がある。そこで,主要目をベースにした係数 sα の推定 法を提案し,針路安定判別の面からその妥当性について検討を行なった。本章で得ら れた結果を以下に示す。

(1) A 船型および B船型に対する横力分布の推定結果は,模型試験結果に比べて船 首尾端で多少大きく推定されている。しかし定性的な面からは,船尾部分におけ る船体横断面に作用する横力の最大値とその位置が両船型で異なり,船長方向の 積分値である Totalの横力で考えてみると,本計算法は主要自に現われない局部 的なフレームライン形状の違いを考慮、して,船体全体に作用する横力の計算を行 なうことが可能であると考えられる。

(2)船体流体力の推定結果と模型試験結果との比較から,偏角や無次元旋回角速度の 大きい範囲においては定量的に若干の差が生じたが,通常の操縦運動として考え られる偏角や無次元旋回角速度の小さい範囲においては,本計算法を用いること で,定性的にも定量的にも比較的精度良く船体流体力の推定計算を行なうことが 可能であることがわかった。

(3)  Pentium Pro 200MHzのCPUを有するコンビュータで,船体流体力の推定計算 を行なった結果,偏角が 1(deg.)あたり 8秒程度で計算結果を得ることができ,

非常に短い時間で計算を行なえる点は,初期の設計段階において船体流体力を推 定する手法として大きな長所であると思われる。

(4)船の主要目から構成される

(l‑CB)BjL

という船型の特徴を表わすパラメータ をベースにした,係数 sα の推定法を提案した。

129 

(5)船体流体力の推定結果および模型試験結果から得られる線形微係数を用いて針路 安定判別を行なったところ,本論文で提案した計算法を用いることで,局部的な フレームライン形状の違いを考慮、して,針路安定判別を行なうことが可能であり,

定性的には比較的精度良く推定できることがわかった。

(6)針路安定判別の定量的な面については若干問題があると思われるが,これは,現 段階においては,僅か 6隻の模型船を対象にして得られた係数αs の推定チャート を用いているためだと思われ,今後さらに数多くの船型に対して同様なアプロー チで係数 Sα についてのデータを集めることで,推定精度の向上が図れるものと 考えられる。

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