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IT/グローバル資本主義の展開とその影響

Ⅴ-3-(1)IT/グローバル資本主義の構成要素

IT/グローバル資本主義は IT

を技術的基礎に、「金融グローバ リゼーション」と「産業グロー バリゼーション」を実体に、政 策イデオロギーとして「新自由 主義」を世界的政策潮流として 拡張してきた。まず、IT化につ いてみておきたい。IT の核に なっているインターネットはそ の基となったネットワークが冷戦下米国の国家戦略として開発された。1958年に米国防総省内 にARPA(Advanced Research Projects Agency)が設立され、核戦争下で「生き残る通信手段」

としてのコンピュータネットワークの構築が模索され、1969年には電話回線上でデータ転送が 実現されたという。そもそもコンピュータ自身も大陸間弾道ミサイルの弾道値の計算用に開発 されたのであるから、両者は同じ出自だといえる。そして1989年12月に米国ブッシュとソ連 ゴルバチョフとのマルタ会談で米ソ冷戦の終結が宣言された直後の1990年にはARPANETは米

科学財団に引き継がれ、その商業開放の道が開けたのである。そして1994年にはNetscapeプ ラウザが公開され、1995年にはNASDAQに上場し、さらにマイクロソフトがWindows95を、

インテルがPentium Proを発売し、PCの使い勝手が向上し、インターネットブームを迎えるこ ととなる。インターネットの普及によりB2C、B2B等の電子商取引が世界大に拡大し、Dellモ デル等の新しいビジネスモデルも造られ、ネット調達の進展により、ネット上でサプライチェー ンも築かれ、国際水平分業を促進している(注37)

次に「産業グローバリゼーション」について、その特徴はグローバル企業がモジュラー型オー プンアーキテクチャーを軸に国際水平分業を展開する点にある。その際グローバル企業は海外 現地法人を必ずしも設立する必要はなく、ファブレスで、製造までアウトソーシングする点で 従来の多国籍企業による国際水平分業と異なる。グローバル企業のファブレス化に呼応して製 造を大量に受託する巨大なEMSが出現するのもグローバル資本主義の特徴といえよう。むろん、

デジタル化、モジュラー型オープンアーキテクチャーという要素だけで水平分業型の生産シス テムの優位が築かれたわけではない。モジュラー型オープンアーキテクチャーによって生産拠 点がグローバルに拡大し、こうしたものづくりが低賃金労働者が大量に供給される地域で行わ れるようになり、こうした地域の低賃金を活用する国際分業によって価格競争力が生まれて、

水平分業型の生産システムに優位性が付け加えられ、またこうした国際水平分業の下で生産・

供給される製品が世界的に物価水準を押し下げているのである。この場合国際水平分業型の生 産拠点となるのは単に低賃金という要素だけではない。労働力の質も当然問われる。量産工場 の現場では手先の器用さだけでなく、作業手順の理解、不具合が生じた時への適応力も必要で、

国家として一定の教育水準に達していることが前提とされる。1990年代に低賃金の供給力が潤 沢にあり、かつこうした条件を満たしていたのは中国であり、端的には「社会主義」中国がグ ローバル資本主義に重要なプレイヤーとして野合するという奇態によって国際水平分業型の生 産システムの優位性が増強したといえるのである。したがってグローバル資本主義には東西冷 戦構造の終焉が深くかかわっている。

社会主義勢力は最盛時世界の人口並びに陸地面積の3分の1を占めたていた。しかし1980 年代末以降の「東欧民主主義革命」さらには本丸ソ連邦の消滅により一気に社会主義はその歴 史的実験の成否を示すことになったのである。中国も1992年の「南巡講和」で経済特区、技術 開発区の多国籍企業への開放をより積極的に推し進め、市場経済化に邁進することになる。ゴ ルバチョフがペレストロイカに踏み切るインパクトがNICsの経済成長によって与えられたと する理解、またレーガンの軍拡競争に巻き込まれ、ソ連邦の経済後退がもたらされたとする解 釈も見られる。しかし社会主義建設自体に自壊要素が内包されていたと考えられて仕方がない。

前衛党によって導かれた革命はその実をプロレタリア独裁としてではなく、党独裁として結ん

だ後も、その過誤は個人独裁まで突き進み、プロレタリア解放とは真逆の人権抑圧体制をもた らした。その根底的過ちが「東欧民主主義革命」、ソ連邦解体を規定した最大の要因だと考えら れる。ゴルバチョフのペレストロイカと鄧小平の改革開放の違いは、改革を政治的領域まで行 うか、経済領域に止めるかにあり、ゴルバチョフの轍を踏まなかった鄧小平によって「社会主 義」の看板は残された。また1989年の第2次天安門事件でカントリーリスクが高まるなか、1992 年2月の鄧小平による「南巡講和」もまたそのインパクトは大きかったといえよう。これによ り「改革開放」への断固たる意志を確信した台湾企業がまず中国への直接投資を本格化させ(本 拙稿49頁を参照されたい)、日本企業も1995年あたりには中国投資ブームを迎え、中国への直 接投資の増大、それをチャンネルとする技術移転、さらには中国の現地子会社から零れ落ちる 技術の波及効果、旺盛な起業家精神、モジュラー型オープンアーキテクチャーの普及等で中国 の経済成長は著しく、「世界の工場」と形容され、さらには2010年には日本を抜き第2の経済 大国となった。中国を中心に東アジア全体に生産拠点が拡大している「産業グローバリゼーショ ン」にとっても東西冷戦の影響は大きい。

また中国の経済成長の軽視できない要因として農民工の存在がある。低賃金で、都市戸籍が 与えられないゆえに医療、教育の公的サービスも受けられない。その数はリーマンショック後 も増え続け、2011 年に2.53 億人に達している。李捷生によれば、農民工は農村との関連では 戸籍制度による拘束を受け、農地所有を維持するために「半農半工」を選択せざるをえず、さら に政府による食糧価格低位維持政策によって出稼ぎが強制され、その処遇として最低賃金以下、

長時間労働、休日なし、早朝出勤、賃金未払い・一部不払い、婦女暴行、口頭契約、児童労働、

労災多発が挙げられ、これら過酷な事態を招いた理由の一端は「地方政府が監督の任を果たさな かったこと」(菅原[2011]、第10章)に求めている。地方政府が工場と従業員を提供し、グロー バル企業がそこで操業する場合、こうした過酷な労働条件がグローバル企業の利益のみならず 地方政府の収益をもたらす。松尾秀雄によれば、建国後の中国の戸籍制度は1950年代前半に形 づくられ、その目的は毛教義に基づき、「人民公社を社会の基層組織とする共産主義社会建設」

にあり、そのために「農村部から都市部の人口流入の制御を目的として戸籍管理が実施された」

(菅原[2011]、第12章)、という。こうした「社会主義統制の遺物としての戸籍制度」と農村の 制度設計により、低賃金の農民工が大量に供給され、EMS大手がこうした低賃金の農民工を利 用して、様々な家電製品、情報通信機器がグローバルに供給されている。

iPhoneがその典型例である。アップル社、鴻海がともに莫大な利益を上げ、両社が「win-win」

の関係でいられるのはウールマークの付いた社会主義統制の遺物の下で農民工が搾取されるば かりではなく、鴻海を誘致し、農民工の口入れを行っている地方政府によっても収奪されてい るからである。アップル社はそのアイデア、技術力だけで莫大な利益を得ているのではない。

委託生産先が工場立地している「社会主義市場経済」中国という歴史的特殊性がそこには沈潜 しているのである。

米ソ冷戦構造が終焉した後、生き残りをかけ「社会主義市場経済」の看板を掲げ、資本主義 的生産を猛進させている中国についてはその無理な構造を指摘しておかなければならない。中 国では雇用を維持するためには8%以上の経済成長率が必要だといわれている。そのためには 低賃金の農民工を安定的に供給させねばならず、その目的のために戸籍制度が利用されている。

戸籍制度は「人民公社を社会の基層組織とする共産主義社会建設」を実現するために設けられた が、そのような目的は1978年の改革開放路線により遠い昔に消失しているはずである。その皺 寄せは農民工に集中し、農民工を犠牲にした経済成長を何時迄も続けていけるものではない。

西南財経大学(四川省)の調査によると、ジニ係数は2010年で0.61を計上した。警戒ライン とされる0.4をはるかに超え、社会不安につながる危機ライン0.6に達してしまっているので ある(日本経済新聞2012年12月11日)。都市部と農村部の所得格差、その都市部においても 座視できない格差により社会の安寧に不安が残る。中国内部には国内バブル崩壊という内憂と 海外投機資金による穀物・資源市場への投機的取引という外患によってインフレ懸念が拭えず、

インフレ昂進は格差拡大という充満している社会不満ガスに引火しかねない。また生産年齢人 口がピークアウトし、人口減少社会に向かう中国において人口移動を制限する戸籍制度を続け ていくことは合理性に欠く。さらにリーマンショック後の中国の教訓を今後生かして安定的な 成長基盤を築くべきであろう。2009年中国は先進工業国を尻目に実質経済成長率8.7%を記録 した。需要項目別寄与度は純輸出が-3.9ポイント、最終消費が4.6%、総資本形成が8.0ポイン トで輸出の落ち込みを内需拡大で補う構図が見える(内閣府[2010])。ここでの内需拡大はす でにみてきた家電・自動車の補助金と総額4兆元の「内需促進・経済成長のための10大措置」

の政策的支援によるところが大きい。今後中国が内需主導型の安定的成長基盤を形成するため に必要なことは中間層の厚みをつけることで、戸籍制度はその桎梏となる。

最後に「金融グローバリゼーション」について、その特徴は金融商品の大量開発とそれらが 瞬時にボーダレスでグローバルに取引されている点にある。金融商品の多さとそれらが飛び交 うスピードとその範囲の広さが特徴といえよう。これらはコンピューター、インターネットに よって支えられている。インターネットは先に触れたように東西冷戦終結の賜物であるが、金 融商品の開発にもそれが反映されている。東西冷戦の終結でリストラされたロケットサイエン ティストが大挙この分野に参入し、金融工学といわれるまでに金融商品が開発された。預貯金、

株式、公社債をベースとしながらも金融商品は大まかには派生商品と証券化商品ならびにそれ らの無数の組合せによってつくられる。「金融グローバリゼーション」の下でクロスボーダー銀 行取引は残高で1999年には9.9兆円の水準であったものが、2007年時点では34兆ドルに、国