第 5 章 考察
II. ICU に再入室を繰り返す慢性心不全患者の退院後の療養行動に関する認識
慢性疾患患者は、病気そのものの完治が望めないため、いかに病気とうまく付き合ってい くかが課題となる。その課題を達成するために、病気の療養に関するテーラーメイドの知識 や技術をもち、生活と折り合いをつけながら固有の症状や徴候に自分自身でなんとか対処 していくセルフマネジメントが必要であると言われている(岡元, 2013. p.12)。このことか ら、ICU に再入室を繰り返す慢性心不全患者の退院後の療養行動に関する認識を、セルフ マネジメントモデルで検討する(図1-2)。
ICUに再入室を繰り返す慢性心不全患者は、退院後、【塩分や水分の摂り過ぎに気を付け て、体重が増えないよう気を付けていきたいと考えている】という心不全治療に必要な塩分 や水分の制限への取り組み、【栄養バランスを整え、食べ過ぎを避け、果物の1日量は守っ ていきたいと考えている】という心不全というよりは他の高血圧や糖尿病などに関係する 食事のコントロールへの取り組み、そして、【定期受診を受け、医師とのコミュニケーショ ンを図り、症状出現時は病院に行こうと考えている】という受診行動、また、【体重や血圧 だけでなく、SpO2も家での測定ができたら良いと考えている】というセルフモニタリング の取り組みを考えていることが明らかになった。これらは疾患に対する医学的な対処行動 である治療のマネジメント(Lorig & Holman, 2003)である。これらを、“過去の療養行動”
の治療のマネジメントと比較すると、塩分・水分制限への取り組みや過食・栄養バランスに 気を付ける取り組み、更に体重や血圧の測定は、過去も退院後も継続して行おうと考えてい ることが明らかとなった。しかし、【体重や血圧だけでなく、SpO2も家での測定ができたら 良いと考えている】は、“過去の療養行動”には【体重や血圧を測定し、気を付けてきた】
とあり、退院後は、体重や血圧だけでなく、SpO2も測定していきたいと考えていることが 明らかとなった。慢性心不全ガイドラインでは、症状モニタリングとして、「心不全増悪時 の症状と毎日の体重測定(毎朝、排尿後)」が推奨されている。また、セルフマネジメントは より良いセルフモニタリングにより改善する(Wilde & Garvin, 2007)と言われており、心不 全患者のセルフモニタリングは、「良好なセルフマネジメントおよびQOL の改善を導くた めに、心不全に伴う身体症状の変化、身体活動の変化、体調管理の状況について自覚または 測定し、その内容を解釈すること」と定義されている(服部, 多留, 宮脇, 2010)。これらのこ とより、セルフモニタリングはより良いセルフマネジメントを導くため、重要な取り組みで あると言える。そして、慢性心不全患者は、心不全症状増悪時の症状の把握を目的に、SpO2
測定を行い、その数値の意味を解釈することが求められることが示唆される。
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次に、【仕事を調整し、運動を継続しようと考えている】という仕事の調整と運動に対す る取り組み、【長風呂はやめて、寝る前に降圧剤を飲むことを習慣にしようと考えている】
という心負荷となる生活習慣をやめ、薬物療法への取り組みが明らかとなった。これらは、
慢性心不全患者が、日常生活における役割の維持(Lorig & Holman, 2003)として、仕事の調 整や入浴方法の変更、そして、疾患に対する医学的な対処行動(Lorig & Holman, 2003)とし て、運動や薬物療法への取り組みを考えているので、生活のマネジメントと治療のマネジメ ントの両方を含むと言える。そして、【仕事を調整し、運動を継続しようと考えている】は、
“過去の療養行動”においても、【心臓に負担がかからないように、可能な範囲で運動に取 り組んできた】とあることから、運動を継続していきたいと考えていることが明らかとなっ た。慢性心不全ガイドラインにおいて、適度な運動は、運動耐容能を増して、日常生活中の 症状を改善し QOL を高めることが明らかとなっているため(Sullivan, Higginbotham, &
Cobb, 1988; Piepoli, Davos, Francis, & Coats, 2004)この取り組みに対する患者の継続意思 は重要であると考えられる。また、【長風呂はやめて、寝る前に降圧剤を飲むことを習慣に しようと考えている】の〈心臓に負荷になる長風呂や生活習慣は変えていこうと考えてい る〉や〈寝る前に降圧剤を飲むと、寝ている間の息苦しさがなくなることがわかったので、
退院後もきちんと降圧剤を飲もうと考えている〉といった、疾患に対する医学的な対処行動 を生活に取り入れようとしていることが明らかになった。これは、慢性心不全患者が今回の 入院をきっかけに、退院後、生活習慣を変えていきたいと考えていることだと推察される。
一方で、【退院後のことは、わからないから考えていない】は、《退院後のことは考えてい ない》の〈退院後は、成り行き任せにいこうと思う〉や〈退院後の生活に関して医療者より 言われた記憶がないから、退院後のことはあまり考えていない〉といった、医療者に言われ ていないから考えていない、自分でも成り行き任せで良いから考えていないということや、
《退院後は、体力がどの程度あるかわからないから実行に移してからでないとわからない》
の〈これまで自分の体のことを考えないで通してきたから、今後のことは実行に移してから じゃないとわからない〉や〈今病院にいたら本当に病人になってきてて、自分自身の帰った 後の体力がどの程度あるのかわからないから、退院後のことは見えてこない〉といった、退 院後が予測できないため考えられないという大きく 2 つの理由があることが明らかになっ た。そして、“過去の療養行動上の困難”にも、【心不全そのものに対してどうしたら良いか わからない】の《心不全そのものに対する知識がないからどうしたら良いかわからない》や
《心不全症状は突然出てくるから、どうしようもできないと考えている》という困難を抱い
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ていることが明らかとなった。このことは、セルフケア不足の要因が情報不足による正しい 知識を得ることの制限である(田瀬, 橋本, 梅津, 伊藤, 武藤, 2003)に一部一致するが、《心 不全症状は突然出てくるから、どうしようもできないと考えている》は、患者の増悪症状の 理解の欠如も理由として考えられる。
加えて、セルフマネジメントモデルの3つのタスク(Lorig & Holman, 2003)のうち、慢 性疾患によってもたらされる不安、抑うつ、怒りなどの情緒的な後遺症に対する取り組みで ある感情のマネジメントがなく、そして退院後も感情のマネジメントに取り組もうと考え ていないことが明らかになった。慢性心不全患者は、心不全に伴う倦怠感や息苦しさ、症状 がいつ起こるかわからないことへの不安、再発への無力感、死への恐怖心から抑うつ状態を 引き起こしやすく(加藤, 2015, p.281)、更に、不安が1年以内の心不全再入院の独立危険因 子であることが報告されている(Tsuchihashi-Makaya et al., 2009)。よって、慢性心不全患 者は、疾患がもたらす情緒的な後遺症がないわけではなく、慢性疾患を抱えていることによ るそのような感情の変化を理解していないことが示唆される。そして、そのような感情の変 化が疾患によるものであるということを理解せずに感情のマネジメントができていないと、
不安や抑うつ症状が進行し、QOLの低下を招くことが考えられる。
また、ICUに再入室を繰り返す慢性心不全患者は、【仕事を調整し、運動を継続しようと 考えている】の〈マンションの中や外を一回りしてはちょっと休みながら、ある程度、体を 動かそうと考えている〉や【塩分や水分の摂り過ぎに気を付けて、体重が増えないように気 を付けていきたいと考えている】の〈飲み過ぎにつながるような環境に入らないようにしよ うと考えている〉など、セルフマネジメントモデルの問題解決スキル、意思決定スキル、自 己調整スキル、行動計画スキルなどを用いていることが明らかになった。一方で、資源利用 スキルや患者-医療者パートナーシップ形成スキルが用いられていないことが明らかにな った。日常生活での病気の管理を患者主体で行うことがセルフマネジメントの特徴の 1 つ であり(Lorig, 1998)、患者は、自分の症状の程度や傾向について医療者に伝え、治療の選択 肢を与えられた上で選択し、医療者とそれについて話し合うことが求められる(Lorig &
Holman, 2003)。【定期受診を受け、医師とのコミュニケーションを図り、症状出現時は病
院に行こうと考えている】の《医師に自分の症状を伝えるなど、コミュニケーションを図っ ていきたいと考えている》のように医師に症状を伝えようと考えていることは明らかにな っているが、治療についての話し合いなど相互関係に重点を置くパートナーシップ形成へ の取り組みは過去にされておらず、退院後も考えられていないことが明らかになった。
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以上より、ICU に再入室を繰り返す慢性心不全患者は、治療のマネジメントと生活のマ ネジメントは、過去にも取り組み、退院後も必要と考えているが、疾患がもたらす情緒的な 問題を理解していないために、感情のマネジメントが過去にもなく、退院後の取り組みにも 考えられていないことが推察される。また、患者は自分の症状について医療者に伝え、治療 について話し合いをしていく患者-医療者パートナーシップが形成できていないことが示 唆される。
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図1-2 ICUに再入室を繰り返す慢性心不全患者の心不全と退院後の療養行動に関する認識の様相