日本人のレジャーの蹴方に関する研究の試み
その
1
、研究の背景と目的、方法についてO
西野 仁 ( 東 海 大 学 ) 、 知 念 嘉 史 ( 東 海 大 学 ) 、 吉 川 麻 里 子 ( ス コ ー レ ク ラ ブ ) I、はじめに本 研 究 は 、 日 本 人 の レ ジ ャ ー の 捉 え 方 に 関 す る 調 査 研 究 を 試 み た
3
編 の 関 連 す る 研 究 の 第 l報であり、一連の研究に共通する背景と目的や方法について概説する。198 8
年6
月に政府は「労働時間短縮推進計画:活力あるゆとり創造社会の実現をめ ざ し て 」 を 発 表 し た 。 労 働 時 間 短 縮 の ね ら い は 、 国 民 生 活 に ゆ と り を 生 み だ し 、 国 民 一 人 一 人 が 、 真 の 豊 か さ を 実 感 で き る 活 力 あ る ゆ と り 社 会 を 実 現 す る ご と に あ る 。 と の 基 本 計 画 に そ っ て 、 完 全 週 休 二 日 制 の 普 及 促 進 、 年 次 有 給 休 暇 の 完 全 取 得 の 促 進 、 連 続 休 暇 の 定 着 な ど の 政 策 が 打 ち 出 さ れ 、 実 行 に 移 さ れ て い る 。 と の よ う な 状 況 か ら 、 わ が 国 は 今 、 ま さに「レジャーの新時代J
を迎えつつあるととらえることができょう。ところで、 「レジ ャー」というごとばを、日本人は主観的にどう捉えているのであろうか。このレジャーの 捉え方(コンセプト)に対する疑問が、本研究の基本的問題意識である。E 、 レ ジ ャ ー を 定 義 す る 際 の 二 つ の 方 法
歴史的にレジャーは、まず、 「時間や活動」として客観的(
o b j e c t i v e )
に定義され、途中から、 「 あ る ( 心 的 ) 状 況 下 に お け る 経 験 」 と し て 主 観 的 (
S u b j e c t i v e )
な定義が追 加された。北米において、1
9 3 0年代以降、L y n da n d L y n d . S z a l i . C h a p i n . R o b i n s o n
らによって、多くの生活時間調査
( t i m eb u d g e t s u r v e y )
が実施されているが、それらは、レジャーを2 4時 聞 か ら 労 働 や 生 活 必 需 時 聞 を 減 じ た 残 り の 時 間 と し て 捉 え た り 、 ス ポ ー ツ や 、 テ レ ビ を 見 る こ と 、 読 書 、 社 交 的 活 動 な ど と し て 捉 え 、 そ の 実 施 時 間 や 実 施 頻 度 を 量的に扱ってきた。わが国においても、 「時間と活動
J
というレジャーのパラダイムにそ って調査研究が為されており、NHK
の 生 活 時 間 調 査 や 、 余 暇 開 発 セ ン タ ー の 余 暇 行 動 調 査は、その代表である。しかし、テレビを見る行為が常にレジャーであるとは限らないし、逆に食事も生存のた め 以 上 の レ ジ ャ ー 経 験 と 捉 え る こ と が で き る 。 こ う し た 「 時 間 や 活 動 」 概 念 と し て の レ ジ ャーに対して、
d eG r a z i a
(19 6 2 ) . I s o ‑ A h o l a ( 1 9 8 0 ) . N e u l i n g e r ( 1 9 8
1).K e l l y
(19 9 0 )
らは 主観的な状況によってレジャーを捉えることを主張した。d eG r a z i a ( 1 9 6 2 )
は、 「レジャ ー は 、 あ る 活 動 が そ れ 自 身 の た め に あ る い は そ の 目 的 の た め に 行 わ れ る 状 況 で あ るJと定 義し、I s o ‑ A h o l a
(19 8 0 )
は、 「レジャーは、人の直感であり、活動の量や質からの推論 の 結 果 で あ る 。 そ れ ゆ え に 、 レ ジ ャ ー は 、 人 が 与 え ら れ た 時 間 に 参 加 す る 、 実 際 の あ る い はイメージされた活動を主観的にとらえたものである。」と述べている。N e u l i n g e r( 1 9 8 1 )
は、自由性と内発的動機によってレジャーを他の経験と区別することを提案し、軍
e l l y
(19 9 0 )
は、 「レジャーは、他から強要されない、自分で決定した、その経験に焦点をあて た行為である」と述べている。E 、一連の研究の目的と方法
レ ジ ャ ー を 、 経 験 し て い る 行 為 者 自 身 の 主 観 と し て 捉 え る よ う と す る 時 、 研 究 の 方 法 論 が問題となる。
S h a w( 1 9 8 5 )
は 、 北 米 で レ ジ ャ ー が ど の よ う に 主 観 的 に 捉 え ら れ て い る か の 研 究 を 改 良 し た タ イ ム パ ジ ェ ッ ト 法 と 、 イ ン タ ビ ュ ー を 併 せ て 仔 っ た 。 し か し 、 ご れ ら の34‑
方 法 は 、 経 験 を 記 憧 に 頼 っ て 思 い 出 す ご と に な り 、 そ の 途 中 で 、 行 為 者 の 価 値 や 態 度 に よ っ て 回 答 が 加 工 さ れ や す い . 経 験 を そ の 時 ど う 感 じ て い る か を 的 確 に 捉 え る 方 法 が 、 容 易 には実用化されなかったが、
Csikszentmiha1yi
とLarson
らは、ExperienceSamp1ing Meth od
(経験標本抽出法)を開発し、経験の主観的意味をめぐる研究を推し進めた。本 研 究 を 含 め た 一 連 の
3
つの研究に共通する目的は、 「日本人はどのような経験を主観 的にレジャーだと捉えているのかを、E S M
を 用 い て デ ー タ 収 集 を 行 い 分 析 す る 方 法 で 明らかにできるかどうか試みるとと」にある。具体的には、次のような過程をたどる。
①
E S M
を実施し日常経験の標本データを集める。② そ の 標 本 か ら 、 行 為 者 が 「 レ ジ ャ ー だjと 認 識 す る 標 本 デ ー タ と 「 レ ジ ャ ー で は ない」と認識する標本データを抽出する。
③「レジャーだJと 認 識 す る デ ー タ と 「 レ ジ ャ ー で は な い 」 と 認 識 す る デ ー タ に つ い て 、 そ れ ぞ れ 「 活 動 の 種 類J
r
同伴者Jr
場 所Jr
気 分Jと fそ の 場 面 に 対 す る 態 度 や 意 識Jの回答を集計し比較する。④ ~J 別分析によって、 「レジャー経験」と「レジャーではない経験Jが、どの項目 によってどの程度判別できるを検討する。
なお、本研究においては、 「経験
J
を 「 人 が 直 接 に 体 験 す る 事 実J
ととらえ、操作的に そ の 場 面 で の 活 動 の 種 類 、 同 伴 者 、 場 所 、 そ の 時 の 気 分 、 そ し て そ の 場 面 に 対 す る 態 度 や 意識の面からそれを把握することとした。(Experience Samp1ing Method
の概略》E S M
は、1970
年 代 半 ば に シ カ ゴ 大 学 のCsikszentmiha1yi
とLarson
らによって 開発され、19 8 0
年代に改良と妥当性や信頼性が検証されはじめ、19 9 0
年代になっ て、日常生活経験調査に北米を中心として頻繁に用いられるようになった。E S M
は、わ れ わ れ の 刻 々 変 化 し 続 け る 「 日 常 生 活 経 験J
を 母 集 団 と 考 え 、 そ こ か ら 異 な っ た 時 刻 で の「経験の標本
J
を ラ ン ダ ム に 取 り だ し 分 析 す る 方 法 で あ る 。 具 体 的 に は 、 調 査 対 象 者 に あ らかじめ、ポケットベルとポケットベルが鳴った時に回答を自己記入する質問票を渡し、常 時 携 帯 し て も ら う 。 調 査 者 は 調 査 対 象 者 の 持 つ ポ ケ ッ ト ベ ル を 一 日 ラ ン ダ ム に
5 . . . . . .1 0
回程、 4日 か ら 一 週 間 程 度 連 続 し て 呼 び 出 す 。 調 査 対 象 者 は 、 呼 び 出 さ れ た ら 、 自 分 で 速 や か に 渡 さ れ て あ っ た 質 問 票 の 質 問 項 目 に 答 え る 。 開 発 当 時 は 、 妥 当 性 や 信 頼 性 を め ぐ る 論議が盛んだったが、1980
年 代 に 後 半 に は 、 そ の 妥 当 性 や 信 頼 性 に 関 す る 論 文 が 発 表 され、1990
年代に入り、E S M
を 聞 い た 論 文 が 多 く 発 表 さ れ る よ う に な っ た . わが 国においては、E S M
という語を用いた研究はいくつかある(渡植、山本、1 9 9 3
、目下、太田、西嶋、
Danie1son. 1994
)しかし、Csikszentmiha1yi
とLarson
ら と ほ ぼ 同 じ 方 法 を用いての研究は一般化しておらず、199 3
年来、E S M
を 用 い た 研 究 を 続 け て い る 本 研究者のグループの研究(西野、知念、吉川、1 9 9 4 )
以 外 に は 、 少 な く と も レ ジ ャ ー ・ レ クリ エ ー シ ョ ン の 関 連 分 野 で は 研 究 論 文 や 報 告 を 見 つ け る こ と は で き な か っ た . 引 用 文 献
d e G r a z i a . S . O f time work and 1eisure.New York:The twenty Century Fund.1962 I s o ‑ A h o 1 a . S . E . The socia1 psychology o f leisure and recreation. DubuQue. I O : W m . Brown Company 1 9 8 0
K e l l y . J . R . Leisure(2nd e d . l . Englew
ロodCliffs. NJ:Prentice‑Hal1. 1 9 9 0
E 1υ
qu
区ヨ
日本人のレジヤ』の提え方~:関する研究の試み
その
2
、中年夫婦、若年サラリーマン、大学生を対象としてO
知 念 嘉 史 ( 東 海 大 学 ) 、 西 野 仁(東海大学)、吉川麻里子(スコーレクラブ)I
、はじめに本研究は、日本人のレジャーの捉え方に関する調査研究を試みた
3
輔の関連する研究の 第2報であり、とくに、 E S Mを便って収集した行為者の主観によるデータを、集計・分 析した結果が、矛盾なく解釈できるかどうかを検討するととを目的とする。E 、研究の方法
本研究の目的を達成するために、調査に協力するごとを承諾した 5 4名を対象に、 E S M調査を実施し、収集した日常生活経験の中から、 「レジャー経験
J
と「レジャーではな い経験Jを抽出し、集計分析した。なお、 5 4名の抽出は無作為抽出ではない。理由は、E S Mがはたして日本人に一般的に受け入れられるかどうか疑念があったからである。
1
)調査方法Experience Samp1ing Method
により、時々刻々変化する「日常経験J
の流れの中から「経験の領本」をランダムに抽出した。
2
)調査票と調査内容本調査では、西野が
Larson
らの開発したExperience Samp1ing Form
をLarson
の助 言のもとに日本人向けに改良した調査票を用いた。内容は、ポケベルの呼出し受信時の活 動の種類、場所、同伴者、気分の他に、その場面に対する態度や意識、つまりその経験は 日常的か、それへの取り組みは真剣か、それは自分のためか、それは重要かなどについて の質問が含まれている。活動の種類、場所、同伴者については自由記述を、気分とその場 面に対する態度や意識については7
段階のリッカートタイプの尺度を用いた.3
)調査の実施調査時期
1993
年10
月""‑'1 2
月調 査 対 象
A:
中 年 夫 婦 (3 8
才" " " " 5 0
才)男女22
名(男11
名、女11
名)B:
若 年 サ ラ リ ー マ ン (2 3
才‑‑27
才)1 6
名(男9
名、女7
名)C:
大 学 生 (1 8
才...,2 3
才)1 6
名(男9
名、女7
名)計
5 4
名(男29
名、女25
名)ポケットベルの呼びだし
7 30am""‑'lO 3 0 p m
の聞にランダムな時刻に7
回4
日間(金曜日から月曜日まで)回答数:総回答数
19 1 0 (79
、3
%)ポケットベルの呼びだし後
2
時間以内に回答した数1766 (73
、3 %) E
、結果1
)レジャー経験と非レジャー経験行為者がそれぞれの経験をどの程度レジャーとして捉えているかについては、 「その 活 動 を ど の 程 度 レ ジ ャ ー だ と 思 う か ? そ れ と も レ ジ ャ ー と は 別 の も の だ と 思 う か ?
J
という
7
段階の質問項目によった。r
レジャーだと思う」に対して「まさにそのとおり」と「そのとおりJのどちらかに回答した経験をレジャー経験とし、 「レジャー経験だとは思 わない」に対して「まさにそのとおり
J
と「そのとおりJ
のどちらかに回答した経験を非36‑
レ ジ ャ ー 経 験 と し た 。 結 果 は 、 レ ジ ャ ー 経 験 が 総 日 常 経 験 の
10
、0%
、 非 レ ジ ャ ー 経 験 は4 9、2 %だった。2
) レ ジ ャ ー 経 験 と 非 レ ジ ャ ー 経 験 の 内 容( 1 ) 活 動 の 種 類 : 主 と し て レ ジ ャ ー 経 験 だ と 認 識 さ れ て い る 活 動 は 、 社 交 的 活 動 、 テ レ ビ や ラ ジ オ の 視 聴 、 外 出 、 ス ポ ー ッ 、 読 書 、 休 息 や 気 晴 ら し の 活 動 で あ っ た 。 し か し 、 こ れ ら の 活 動 も 、 非 レ ジ ャ ー だ と 捉 え ら れ て い る 場 合 も あ っ た 。 主 と し て 非 レ ジ ャ ー 経 験 と し て 捉 え ら れ て い る 活 動 は 仕 事 、 学 業 、 パ ー ト タ イ ム ジ ョ ブ 、 移 動 、 食 事 、 自 分 の 身 の 回 り の 用 事 な ど で あ っ た が 、 そ れ ら の 中 に は 、 時 と し て 、 レ ジ ャ ー と し て 捉 え ら れ て い 活 動があった。
( 2
) 場 所 : 半 数 以 上 の レ ジ ャ ー 経 験 は 、 レ ス ト ラ ン や レ ク リ エ ー シ ョ ン 施 設 や 自 然 の 中 で 行 わ れ て い る 。 約4%
のレジャー経験は、職場でなされていた。( 3
) 同 伴 者 : 家 族 、 友 人 、 ボ ー イ / ガ ー ル フ レ ン ド な ど と 一 緒 に 入 る 時 は 、 レ ジ ャ ー 経 験 だ と い う 回 答 が 非 レ ジ ャ ー 経 験 だ と い う 回 答 を 上 回 っ た 。 逆 に 一 人 で い る 時 は 、 非 レジャー経験がレジャー経験を上回った。
( 4
) ム ー ド : 表1
は 、 レ ジ ャ ー 経 験 と 非 レ ジ ャ ー 経 験 に お け る ム ー ド ス コ ア ー の 平 均 で あ る 。 全 て の 項 目 に お い て 、 有 為 な 差 が 認 め ら れ た 。 特 に レ ジ ャ ー 経 験 で ス コ ア が 高 か っ た 項 目 は 、 自 由 、 安 定 、 リ ラ ッ ク ス 、 幸 せ 、 や す ら ぎ で あ っ た 。表 1 レジャー経験と非レジャー経験におりるのムードの平均と標準偏差
項 目 レジャー 非レジャー
7←一一一→l
M E A N S . D . M E A N S . D .
安定・いらいら 5.16 1.23 4.81 1.39 わくわく・退屈 5.131.31 4.08 0.90 幸せ・・不幸せ 5.65 1.23 4.25 1.06 熔しい・・嫌な 5.411.28 4.10 1.05 自由・・・束縛 6.08 1.18 4.40 1. 54項 目 レジャー 非レジャー
7
←一一一‑....1M E A N S . D . M E A N S . D .
I);
., n
・・・緊張 5.68 1.74 4.55 1.54 満足・・・不満足 5.551.21 4.331.18 やすらぎ・・不安 5.62 1.26 4.28 1.11 ひま・・・忙しい 4.43 1.41 3.58 1.31 爽やか・重苦しい 5.081.504.061.16( 5 ) 経 験 場 面 に 対 す る 態 度 や 意 識 に つ い て : 非 日 常 的 で 、 自 己 選 択 し た 、 義 務 的 で な い 、 好 き な 、 重 要 で は な い 活 動 を レ ジ ャ ー 経 験 と し て 捉 え て い る 傾 向 が 認 め ら れ た 。
3
) レ ジ ャ ー 経 験 と 非 レ ジ ャ ー 経 験 の 判 別SAS
プ ロ グ ラ ム を 使 っ て 、 レ ジ ャ ー 経 験 と 非 レ ジ ャ ー 経 験 の 判 別 を 試 み た 。 ム ー ド 項 目 の 第 一 主 成 分 ( ム ー ド 水 準 ) と 、 自 己 選 択 度 ( そ の 活 動 を 自 分 で 選 ん だ か 、 他 の 人 に 指 示 さ れ た の か ) 、 欲 求 度 ( そ の 活 動 を ど の 程 度 や り た い の か ) 、 自 由 度 ( そ の 活 動 は や ら ね ば な ら な い の か 、 や っ て も や ら な く て も 良 い 活 動 か ) 、 自 己 目 的 度 ( そ の 活 動 は 自 分 の た め に や る の か 、 他 人 の た め な の か ) の 項 目 を 用 い た と こ ろ レ ジ ャ ー 経 験 に つ い て は8 4
、18%
を、非レジャー経験については、77
、30%
が 正 し く 判 別 さ れ た .W
、考察ご れ ら の 結 果 は 、 わ れ わ れ の 経 験 則 に 照 ら し て 十 分 に 理 解 し 得 る も の で あ り 、 ま た 、
E SM
を 用 い た 研 究 方 法 が お お む ね 適 し て い る こ と を 示 唆 し て い る と 考 え ら れ る .ウt
qu