本 節 では,C-1~C-8 フラグメントである Wittig 試 薬 の合 成 および第 二 節 で合 成 した C-9~C-20 フラグメントとの結 合 によるhybridalactone の全 合 成 について述 べる.
合 成 計 画 に従 い,C-1~C-8 フラグメントの合 成 を検 討 することとした.結 合 反 応 の条 件 として,
C-11,12 位 のエポキシドおよび 1,4-スキップジエンに対 して不 活 性 であることが挙 げられる.また,
C-1 位 の酸 化 段 階 をカルボン酸 の状 態 で反 応 を行 うことができれば結 合 後 の酸 化 による基 質 の分 解 を抑 えることができる.以 上 の条 件 を満 たす反 応 として Wittig 反 応 を用 いることとし,
C-1~C-8 フラグメントに相 当 する Wittig試 薬 として
(8-methoxy-8-oxooct-3-enyl)triphenylphosphonium bromide5 8 ) (46)を選 択 した.なお,46 は 既 知 化 合 物 であるが,合 成 過 程 における収 率 の再 現 性 が乏 しく,大 量 合 成 に用 いるには難 し かったことから,46の安 定 した供 給 を目 的 に新 規 合 成 法 の開 発 を行 った.
原 料 である 5-hexynoic acidに対 しCH2Cl2溶 媒 中 室 温 で,3-methyl-3-oxetanemethanol,
DMAP およびDCC を用 い縮 合 を行 い,エステルを 97%収 率 で得 た (Scheme 12).得 られたエ ステルに対 しCH2Cl2溶 媒 中−15 °Cで,BF3·OEt2を作 用 5 9 )させカルボン酸 をオルトエステル化 し,オルトエステル 47を80%収 率 で得 た.次 に 47の THF溶 液 に対 し−78 °CでnBuLi を作 用 させ,アルキニルリチウムを調 製 した後 ,別 途 調 製 したヨージド 48の HMPA 溶 液 を加 えたところ,
THPエーテル49を75%収 率 で得 た.49に対 しMeOH溶 媒 中 室 温 で,PPTSを作 用 させ,TLC にて原 料 の消 失 を確 認 した後 K2CO3を加 えることで,THP基 の脱 保 護 およびオルトエステルの メチルエステルへの変 換 を行 いエステル50を77%収 率 で得 た.エステル50に対 しMeOH溶 媒 中 室 温 で quinoline 存 在 下 Lindlar触 媒 6 0 )による接 触 水 素 化 を行 い,部 分 還 元 により Z-オレ フィンを定 量 的 に得 た.得 られたオレフィンを CH2Cl2溶 媒 中 0 °C でEt3N および MsCl を作 用
させメシラートとした後 ,後 処 理 後 それ以 上 の精 製 を行 うことなく,粗 生 成 物 を acetone 溶 液 とし,
LiBr を加 えることでブロミド 51を二 工 程 収 率 97%で得 た.最 後 に 51をCH3CN 溶 媒 中 Ph3P と還 流 することで,C-1~C-8 フラグメントに相 当 するWittig 試 薬 46を定 量 的 に合 成 した.
以 上 のように,C-1~C-8フラグメントとしてWittig試 薬46の新 規 合 成 法 を開 発 することができ た.
次 に,第 二 節 で合 成 した C-9~C-20フラグメントであるジエン 45から Wittig 反 応 の基 質 とな るアルデヒドの合 成 を行 った.Hybridalactone はC-11,12 位 にエポキシドを有 するため,先 に
C-1~C-8 フラグメントを導 入 すると,テトラエンに対 するエポキシ化 が必 要 となり,位 置 選 択 性 の
制 御 に困 難 を伴 うことが予 想 された.そこでジエン 45の段 階 であれば,二 つの二 重 結 合 のうち 電 子 豊 富 なシクロペンテン側 の二 重 結 合 に対 し,立 体 選 択 的 にエポキシドが導 入 できるのでは ないかと考 え,エポキシ化 の検 討 を行 った.ジエン45のCH2Cl2溶 液 に対 し,室 温 でVO(acac)2
触 媒 存 在 下 TBHP を作 用 させたところ,予 想 通 り,-エポキシド52が位 置 および立 体 選 択 的 に生 成 した (Scheme 13).本 エポキシ化 反 応 ではバナジウムが C-15位 第 二 級 水 酸 基 に配 位 し 45aの遷 移 状 態 をとり反 応 が進 行 することで望 む-配 置 のエポキシドが得 られたと考 えている.
本 反 応 においてC-19,20 位 の二 重 結 合 が反 応 しなかった理 由 は,環 状 二 置 換 二 重 結 合 であ るC-11,12位 と比 べ電 子 不 足 であること,またC-15位 第 二 級 水 酸 基 に配 位 したバナジウムから の距 離 が遠 いことが原 因 として挙 げられる.続 けて C-19,20 位 の二 重 結 合 の還 元 を検 討 した.
検 討 開 始 当 初 は接 触 水 素 化 を用 いて二 重 結 合 の還 元 を試 みたが,Pd系 触 媒 を使 用 するとシ クロプロパンの開 裂 が進 行 してしまい,生 成 物 を得 ることができなかった.また Rh 系 触 媒 を使 用 するとシクロプロパンに対 しては不 活 性 であるものの,エポキシドが開 環 してしまうことが判 明 した.
そこで次 に,ジイミド還 元 を検 討 することとした.ジイミド還 元 ではヒドラジン(H2NNH2)の酸 化 によ り生 じるジイミド(HN=NH)を還 元 剤 として用 いるが,ジイミドは不 均 化 と還 元 が競 合 するため,通 常 大 過 剰 のヒドラジンを使 用 する.しかし,ヒドラジンがエポキシドへ 求 核 付 加 するおそれがある ため小 過 剰 量 のヒドラジンをriboflavin誘 導 体 触 媒 により酸 化 する直 田 らの報 告 6 1 )を参 考 に反 応 を行 った.すなわちエポキシド 52に対 し,CH3CN溶 媒 中 室 温 ,酸 素 雰 囲 気 下 で
H2NNH2·H2Oおよび riboflavin tetrabutyrate を作 用 させたところ,二 重 結 合 の還 元 が進 行 し,
望 む還 元 体 53を二 工 程 収 率81%で得 た.続 けて53の第 二 級 水 酸 基 の保 護 ,第 一 級 水 酸 基 の脱 保 護 により Wittig 反 応 の基 質 であるアルデヒドの前 駆 体 であるアルコールの合 成 を行 った.
C-15 位 第 二 級 水 酸 基 の保 護 基 は先 行 検 討 の結 果 ,アセチル基(-COCH3)を用 いると,Wittig 反 応 後 の加 水 分 解 に抵 抗 し脱 保 護 が困 難 であり,ホルミル基(-COH)を用 いるとC-9 位 の第 一 級 水 酸 基 の酸 化 の際 に脱 保 護 が進 行 し,同 時 に酸 化 されてしまう事 が判 明 していたので,中 間 の反 応 性 を有 するメトキシアセチル基(-COCH2OCH3)を保 護 基 に選 択 した.アルコール53に 対 し,pyridine溶 媒 中 室 温 で H3COCH2COClを作 用 させたところ,速 やかにアシル化 が進 行 し エステル 54を得 た.54を後 処 理 後 精 製 することなくTHF溶 媒 中 室 温 で,AcOH存 在 下 TBAF により脱 シリル化 を行 い,C-9位 第 一 級 水 酸 基 を脱 保 護 し,アルコール 55を二 工 程 収 率 94%
で得 た.
C-9~C-20フラグメントであるアルコール55を得 たので,第 一 級 水 酸 基 の酸 化 に続 く,先 に合 成 したC-1~C-8フラグメントであるWittig試 薬46を用 いたWittig反 応 について検 討 した.アル コール55に対 し,Swern酸 化 4 8 )およびLey-Griffith酸 化 6 2 )を行 うと,酸 化 の後位 の脱 プロト ン化 によるエポキシドの開 裂 が進 行 したが,IBX 酸 化 6 3 )を用 いることで,副 反 応 を抑 制 し,アル デヒドを得 ることができた (Scheme 14).得 られたアルデヒドは酸 に対 して不 安 定 であり,シリカ ゲルカラム中 で分 解 したため,後 処 理 後 精 製 することなく次 の Wittig反 応 に用 いた.Wittig 試 薬 46をTHF/HMPA 混 合 溶 媒 中−78 °C でLiHMDSと反 応 させることで調 製 したイリドに対 し てアルデヒド 56の THF溶 液 を加 えたところ,Wittig 反 応 がZ選 択 的 に進 行 し,Z-オレフィン57
を得 た.またこのときE体 の生 成 は確 認 されなかった.57をTHF溶 媒 中 室 温 で0.2 M LiOHaq.
を作 用 させメチルエステルの加 水 分 解 と C-15 位 第 二 級 水 酸 基 のメトキシアセチル基 の脱 保 護 を行 いセコ酸 58 とし,最 後 に,MNBA およびDMAP のCH2Cl2溶 液 に室 温 でセコ酸 58 の CH2Cl2溶 液 を滴 下 し,椎 名 マクロラクトン化 6 4 )を行 い,13員 環 マクロラクトンを構 築 し,四 工 程 収 率 68%で hybridalactone (12)の全 合 成 を達 成 した.合 成 した hybridalactone (12)は Higgs らが単 離 した天 然 物 4 0 )と各 種 スペクトルが一 致 した.また比 旋 光 度 を比 較 したところ,合 成 した 12 は[]D2 5 −55 (c 0.2, MeOH),天 然 物 は[]D2 0−56 (c 4.9, MeOH)であり,符 号 の一 致 も確 認 している.
以 上 ,本 節 ではWittig反 応 によりC-1~C-8フラグメントおよびC-9~C-20フラグメントのカップ リングおよびマクロラクトン化 を経 た hybridalactone の全 合 成 を達 成 した.なお,本 合 成 は既 知 のラクトン(+)-24から総 工 程 21工 程 ,総 収 率 21.9%であった.