本 節 では,合 成 計 画 に従 い5-exo型one-potシクロペンタン合 成 法 によるシクロペンタンGの 合 成 およびシクロペンタンフラグメント Fの合 成 について述 べる.
Geraniol から既 知 の工 程 7 1 )で合 成 可 能 であるアルコール 96に対 し,CH2Cl2溶 媒 中 0 °C で pyridineおよび p-TsClを作 用 させトシラート98 を90%収 率 で得 た後 ,MeOH溶 媒 中 で K2CO3を作 用 させることによりAc基 を除 去 し,アリルアルコール99を94%収 率 で得 た (Scheme 29).アリルアルコール99に対 しL-(+)-DIPTを用 いたSharpless不 斉 エポキシ化 反 応3 1 )を行 い,
光 学 活 性 なエポキシアルコールとした後 ,acetone 溶 媒 中 で NaIおよび NaHCO3を作 用 させヨ ウ素 化 を行 い,エポキシヨージド 100 を二 工 程 収 率 90%で得 た.また,Sharpless 不 斉 エポキシ 化 反 応 により得 られたエポキシアルコールの光 学 純 度 は,Chirabite-AR を用 いて決 定 した.7 3 )
Chirabite-AR は依 馬 らにより開 発 された大 環 状 化 合 物 であり,その 空 孔 は水 素 結 合 ドナー 部 位 と水 素 結 合 アクセプター部 位 が存 在 する (Fig. 18).その空 孔 内 にゲスト分 子 を取 り込 む 際 ,不 斉 源 であるBINOLの強 い磁 気 異 方 性 効 果 を受 け,エナンチオマー間 でも大 きくケミカル シフトを移 動 させることができるキラルシフト試 薬 である.その測 定 法 は極 めて簡 便 であり,NMR 試 料 管 中 で Chirabite-ARを測 定 対 象 試 料 の CDCl3溶 液 に混 合 し,NMRを測 定 するだけで エナンチオマー間 のケミカルシフト値 が異 なるスペクトルを得 ることが可 能 である.
まず,別 途 調 製 したラセミ体 のエポキシアルコールを 60 mol%のChirabite-ARと混 合 し
1H-NMRを測 定 し,C-8位 プロトンのピークが良 好 な分 離 を示 すことを確 認 した後 ,光 学 活 性 体 として合 成 したエポキシアルコールを同 様 に 60 mol%のChirabite-AR と混 合 し 1H-NMRを測 定 した.その結 果 ,望 む立 体 化 学 を有 するエポキシアルコール由 来 のピーク及 びエナンチオマ ーに由 来 するピークの積 分 比 が 34 : 1 となり,これより光 学 純 度 を94%eeと算 出 した.次 にエポ キシヨージド 100 に対 し CH2Cl2溶 媒 中 0 °Cで Et3N および DMAP存 在 下 ,TBSClを作 用 さ せ,合 成 計 画 の 5-exo型 one-potシクロペンタン合 成 の反 応 基 質 である Hに相 当 するエポキシ
ヨージド 101を95%収 率 で得 た.
脱 離 基 としてヨウ素 を有 するエポキシヨージド 101 が得 られたので,第 二 章 にて述 べた5-exo 型 one-potシクロペンタン合 成 法 を適 用 した.まず,allyl phenyl sulfone (2.3 equiv.)の THF溶 液 に−78 °C でnBuLi (2.2 equiv.)を加 え,0 °C に昇 温 することでallyl phenyl sulfone由 来 のス ルホニルカルボアニオンが発 生 し,溶 液 が黄 色 へと変 化 した (Scheme 30).この黄 色 溶 液 を
−78 °Cへと冷 却 した後 エポキシヨージド101のTHF溶 液 を加 え,反 応 温 度 を−20 °Cに昇 温 し,
TLC にて原 料 の消 失 を確 認 した.その後 再 び−78 °Cに冷 却 し,nBuLi (1.2 equiv.)を加 え,反 応 温 度 を−20 °Cに昇 温 することでアニオンを再 発 生 させると反 応 溶 液 は橙 色 へと変 化 した.こ の橙 色 溶 液 を−78 °Cに冷 却 し,Me3Alを作 用 させたところ,反 応 溶 液 は赤 色 へと変 化 し,TLC にて反 応 の進 行 を確 認 した後 ,1.0 M HClaq.にて後 処 理 を行 ったところ.望 む立 体 化 学 を有 す るスルホニルシクロペンタン 102が単 一 の生 成 物 として98%収 率 で得 られた.得 られたスルホニ ルシクロペンタン 102のC-3位 およびC-7位 の相 対 配 置 は,その NOESYスペクトルより決 定 し た.すなわち,102の NOESYスペクトルでは C-2 位 のメチンプロトンとC-17位 のメチルプロトン 間 に NOE相 関 が観 測 されたことからビニル基 とメチル基 はcis 配 置 であり,C-3位 およびC-7 位 の相 対 配 置 を図 のように決 定 した.
本 反 応 の立 体 選 択 性 の発 現 については次 のように考 察 している (Fig. 19).Allyl phenyl
sulfone 由 来 のアニオンとエポキシヨージド101のアルキル化 により生 じるエポキシスルホン 103
は系 内 の塩 基 により再 度位 の脱 プロトン化 を受 け,さらに Me3Al の添 加 によりスルホニルカル ボアニオン 103a および103bが生 じる.このときアニオン103a および103b の間 には平 衡 が存
在 するが,アニオン 103b はエポキシドの側 鎖 部 位 とフェニルスルホニル基 との間 に大 きな立 体 障 害 が存 在 するため、この平 衡 はアニオン 103a へと大 きく偏 っており,その結 果-スルホニル シクロペンタン 102が選 択 的 に生 成 したものと考 えられる.
-スルホニルシクロペンタン 102に対 し,CH2Cl2溶 媒 中 0 °Cで2,6-lutidineおよびTBSOTf を作 用 させ第 二 級 水 酸 基 の保 護 を行 い,ビスシリルエーテルを定 量 的 に得 た後 ,MeOH 溶 媒 中 ,Na2HPO4および Na(Hg)を作 用 させたところ,二 重 結 合 の異 性 化 を伴 う脱 スルホン化 が進 行 しオレフィン105を単 一 生 成 物 として得 た (Scheme 31).得 られたオレフィン105の二 重 結 合 の幾 何 異 性 は,その NOESYスペクトルより決 定 した.すなわち,105 のNOESYスペクトルでは C-2位 オレフィンメチンプロトンとC-17位 メチルプロトン,C-2位 オレフィンメチンプロトンとC-9位 メチレンプロトン間 にそれぞれNOE相 関 が観 測 されたことからC-2位 の二 重 結 合 をE配 置 と決 定 した.
E-オレフィン105に対 し,カテコールボランを用 いたヒドロホウ素 化−酸 化 を行 ったところ立 体 選 択 的 なヒドロキシ基 の導 入 が進 行 し,さらに第 二 級 水 酸 基 の TBS 基 が脱 保 護 されたジオー ル106および,同 時 に第 一 級 水 酸 基 の TBS 基 まで脱 保 護 されたトリオール 106aが得 られた (Scheme 32).この際 立 体 異 性 体 は得 られなかった.ジオール 106のC-2 位 およびC-3位 の相
対 配 置 は,NOESYスペクトルより決 定 した.すなわち,C-2位 メチンプロトンとC-8位 メチンプロト ン,C-3位 メチンプロトンとC-17位 メチルプロトン間 にそれぞれ NOE相 関 が観 測 されたことから C-3 位 およびC-7位 はcis配 置 であり,ヒドロホウ素 化 反 応 の立 体 選 択 性 から C-2位 は S配 置 であると決 定 した.
本 反 応 における立 体 選 択 性 の発 現 は次 のように考 察 した (Fig. 20).すなわちオレフィン 105 にカテコールボランが接 近 する際 ,化 合 物 下 面 には 2つの TBS基 を有 する側 鎖 部 が存 在 する ため,立 体 障 害 の小 さい化 合 物 の上 面 からヒドロホウ素 化 が立 体 選 択 的 に進 行 し ,C-3位 およ び C-7位 がcis配 置 である望 む立 体 化 学 を有 する付 加 体 が選 択 的 に生 成 したものと考 えてい る.
実 際 の合 成 では,ジオール106およびトリオール 106aを分 離 することなく acetone 溶 媒 中 で p-TsOH·H2O を作 用 させ二 工 程 収 率 95%でアセトニド 107へと変 換 した (Scheme 33).得 られ たアセトニド 107に対 し,CH2Cl2溶 媒 中 還 流 下 でPPTS 存 在 下 ,MPM-TCAI4 3 )を作 用 させ,
第 二 級 水 酸 基 を MPM 基 により保 護 し,MPMエーテルを 94%収 率 で得 た後 ,80% AcOHaq.
中 35 °Cに加 温 することでアセトニドの脱 保 護 を行 いジオール 108を77%収 率 で得 た.得 られ
たジオール108はCH2Cl2溶 媒 中 0 °CでDABCO存 在 下 p-TsClを作 用 させ第 一 級 水 酸 基 を トシル化 し,トシラートを94%収 率 で得 た後 ,MeOH 溶 媒 中 0 °CでK2CO3を作 用 させることで,
エポキシド 109を88%収 率 で得 た.エポキシド 109は合 成 計 画 のシクロペンタンフラグメント F に相 当 する化 合 物 である.
以 上 ,本 節 では xestenone の収 束 的 合 成 法 におけるシクロペンタンフラグメントに相 当 するエ ポキシド 109の立 体 選 択 的 合 成 法 について述 べた.本 合 成 法 では,アリルアルコール 99に対 する Sharpless不 斉 エポキシ化 反 応 により導 入 した不 斉 中 心 をもとに全 ての立 体 化 学 を構 築 し ているため,容 易 にエナンチオマーの合 成 が可 能 である.次 節 では側 鎖 フラグメントに相 当 する ビニルヨージド Iの合 成 とC-9 位/C-10位 間 でのカップリングについて述 べる.