• 検索結果がありません。

GCC 諸国における中国と韓国の影響力と実力

−要約−

本論文は,湾岸協力会議(GCC)諸国と中国および韓国との急激に深まりつつある関係の 主な要因を地域的かつグローバルな視点から考察し,双方間で高まる経済的相互依存の実態 を分析するものである。現在の世界的な経済不況と,GCCおよびアジア諸国の不況からのす ばやい回復を考えると,中国と韓国の影響力を増大する堅固な経済的相互依存関係がこれら 両国とGCCの間に存在していると論じることができるだろう。しかし,中国と韓国の真の力 は,両国にとって重要な政治的かつ戦略的な利益をGCCにおいていまだ生み出してはいな い。とはいうものの,GCC域内で生じている地政学上および安全保障上の基盤の変化を考慮 すれば,中国の政治的影響力は強まる可能性があり,一方,韓国は経済と商業面におけるプ レゼンスのみで満足するものと思われる。

序 論

ラドヤード・キプリングの「東洋は東洋,西洋は西洋」との有名な言葉はグローバリゼー ションの時代においては,もはや時代遅れと受けとめられるだろう。今日,ある専門家は,

「東洋はますます西洋となり,西洋は西洋らしくなくなり,両者は不安定な中東において相ま みえるに違いない!」!との名言を吐いている。実際,地政学的観点から全世界を見渡すと,

国際関係における必然的な変化の前兆を示す,新時代の始まりが見えてくるのである。この 変化は,従来の同盟諸国間の政治的論争というプロセスだけではなく,新興勢力と様々なチ ャレンジを巻き込んだプロセスを経てもたらされることになるだろう。経済的影響を受ける 二つの地域,すなわち湾岸地域とアジア地域間で生じている関係において,この変化はすで に顕著になっているのである。

引き続く世界金融危機が提起している根本的な問題とは,この危機がいわゆる「アジアの 世紀」の幕開けか否か,ということであるが,その答えは2009年4月2日に開催された主要 20ヵ国・地域(G20)首脳会議において明白に表れていた。この会議では,中国やサウジアラ ビアなどの新興国が先進国の首脳と共に,世界金融危機に対処する信頼の置けるメカニズム について討議したのだった。このことは,世界がグローバル化され,そして国際勢力の秩序 がパクス・アメリカニズムからグローバリズムへと変化した事実を立証している。このグ ローバル化の論理から見ると,新たな地理経済学的地域が形成されつつあり,この地域には 主要な新興国や生産・消費の中心地,金融の中核地,すなわちGCC諸国とアジアの経済大 国,中でも中国や韓国が含まれており,これら諸国は彼らの間で相互連携を目指している。

25

地球規模の経済的停滞は世界がいまだに米国の資本主義から脱却していない証拠である,と 主張する専門家もいるかもしれないが,もしこれらの新興国市場が力強い経済成長の中心地 となっていなければ,事態はさらに悪化していたことだろう。この地理経済学的地域の形成 は,GCCとアジアの関心が集中している安全保障を根拠とした地政学的基盤を新たに固め,

そして同時に,これら地域の新興勢力が世界の主要国と共に担うそれぞれの役割の観点から 地域の安全保障体系が再考慮されているのである。この新たな地理経済学的・地政学的地域 をベースとした,GCCと中国,韓国などのアジア諸国との現在の活発な関係は,2001年9月 11日以後の「対テロ戦争」という世界秩序において,急速にグローバル化した国際勢力の形

態を活写している。

1990年代以前のGCCと中国および韓国との関係を振り返ってみると,その関係は極めて 平凡なものであり,原油取引による二国間貿易と従来型の国家間外交にほぼ限定されていた。

中国と韓国は湾岸諸国との相互関係を維持していたが,安全保障や戦略的パートナーシップ を優先していなかった。明白な変化が見られつつあるものの,この状況は今も変わっていな い。その主たる理由は,1980年代と1990年代の初期まで,湾岸地域とアジア地域は冷戦時の 戦略的提携と勢力の均衡に腐心していたからである。

冷戦終結後,相互連携や経済的相互依存など複雑な関係の構築を特徴とするグローバリ ゼーションの新時代が始まった。こうした進展と相俟って,GCC諸国,中国および韓国の世 界を見る目にも変化が生じてきた。経済の変遷は,東は環太平洋地域から西は紅海に至る間 の諸地域とその地域住民に甚大な影響を及ぼしている。注目すべきことは,それら地域間で

「相互依存」の経済が拡大していることを反映して,地域間貿易がここ数年間において急速に 伸展している点である!。この相互依存は経済成長にとって重要な要素の一つであり,また,

GCCと中国,韓国ならびにその他アジア諸国との関係を新たな道程へと導くものである。

弾力的な経済成長力を有する振興経済大国

現世紀における重要な進展の一つは,驚くべきことにGCCとアジアが世界の主要経済勢 力として台頭してきたことである。高い経済成長と資金の流動性により,これら二地域は国 際金融市場において強い交渉力を有する新たな経済勢力圏となっている。両地域の拡大する 国際的役割と経済的相互依存が双方の関係を再構築している。これら二地域は,強力な経済 的ファンダメンタルズ(基礎的条件)と将来の限りない潜在的経済成長をベースとして,世 界の一大経済圏に躍り出ようとしている。

この5ヵ年間において,GCCと中国および韓国は世界で最も急速な経済発展を遂げてい る。中国と韓国の経済成長は,そのほとんどが輸出指向の製造業で占められているが,GCC

26

の場合は,石油産業と石油化学やサービス分野などのエネルギー集約型輸出部門による経済 成長である。GCC,中国および韓国は世界で最も早く成長している新興市場であり,これら 諸国の経済成長は,ここ数年間に相互依存を深めながら,拡大の一途にある。重要な点は,

金融危機と世界的な経済不況により,その成長率は2009年に低下したが,様々な予測や経済 見通しによれば,2010年には高い成長率を示すと予想されていることである。2009年に成長 率が低下したとはいえ,その伸び率は世界の他の経済圏と比較すると,最も高い数値を記録 している(図1)。

相互貿易:「新シルクロード」を目指して

GCCと中国および韓国との貿易は,その需要に影響を及ぼす高い経済成長率や相互補完関 係,そして恵まれた生産品などによって,大幅に増大している。最近5年間のGCCとアジア の貿易量は3倍に増加しており,GCCの輸出品に対するアジアの需要 石油とガスのみな らず,石油化学製品,卑金属,金融や観光などのサービス が拡大している。アジアはGCC 諸国にとって最大の貿易相手であり,GCC全輸出量に占めるシェアは51%に達している。増 加を続ける両地域間の相互貿易は,輸出入における双方の補完関係を基盤としており,貿易 の増加は経済的相互依存・統合が深まっていることを証明している。この相互補完関係が GCCとアジアを新たな地理経済学的地域の中心地として浮上させた原動力であり,GCCと アジアは世界経済において今後ますます大きな役割を担っていくものと思われる。

この10年間において,GCCと中国および韓国との貿易関係は飛躍的に発展しているが,特 に中国との関係進展が顕著である。中国と韓国はGCCの主要貿易相手国であり,2009年の GCCの国際貿易において,それぞれ8%と5%のシェアを占めている(表1)。しかしなが

図1:実質経済成長率(2000年〜2011年)

注:eは推定値,pは予想値 出典:IMF Datamapper,January2

27

ら,GCCにとって最大のアジアの貿易相手国は今も日本であり,中国がかなりの速さをもっ て日本に追いつこうとしている。

GCCと中国の貿易額は2002年から2008年の期間において, ほぼ9倍に膨れ上がっており,

GCCの輸出品に対する中国の需要 石油とガスだけではなく,石油化学製品,卑金属,金 融や観光などのサービス が拡大している。2008年のGCC・中国の貿易額は534億ドル で,2009年は世界金融危機にもかかわらず,644億ドルへとさらに増加している(図2)。 GCCは対中国貿易においてここ3年間(2007年〜2009年)連続して輸入超過を記録してい る。両者間の貿易量が伸びているのは,中国の石油需要の急増とGCCの中国製低価格商品 に対する需要増のためである。特筆すべきことは,2009年に中国が米国を追い抜いたことで ある。

一方,同期間(2002年〜2008年)におけるGCCと韓国の貿易額は約5倍に増加し,2008年 の貿易額は400億ドルに達していたが,金融危機の2009年は320億ドルに減少した。GCCの対

Country Export Import Trade

China 5% 1% 8%

EU2 3% 9% 0%

India 6% 8% 7%

Korea 8% 3% 5%

Japan 0% 8% 5%

US 1% 7% 3%

表1:GCCの主要貿易相手国(2009年)単位:%

出典:UN COMTRADE Database,2

図2:GCC・中国の貿易額と各種指標(2001年〜2009年)

出典:ITC Trademap database(21年1月)を基に算出

28