序 論
中東および北アフリカ(MENA地域)では,大幅な人口増加と高度経済成長を受けて,電 力需要の増加が急速に進んでいる。世界金融危機にもかかわらず,2009年のMENA全体にお けるピーク電力需要は平均で7%増加した。特にアブダビ,カタール,オマーンで急増し,
その増加率はいずれも10%をはるかに上回った。
電力需要は今後も高水準の増加が続くと予想される。そのため,MENA地域は大規模なキ ャパビル計画への対応を迫られている。MEEDインサイトの予測によれば,電力不足の回避 を図るためには2019年までに17万8,000メガワット(MW)程度の新規発電能力を整備する必 要があるという。MENA地域の発電能力が現在15万2,000MWで,予定された投資計画の費 用が2,000億ドルと想定されることを踏まえれば,これは壮大な事業になる。
しかしながら,規模と費用だけがこの計画の克服すべき課題ではないだろう。豊富なエネ ルギー資源を持つ湾岸諸国においてさえ,発電用燃料として重宝される天然ガスが不足して いる。その結果,天然ガス資源が豊富なカタールを例外として,GCC(湾岸協力会議)諸国 が代替エネルギーの発電に注目し始めている。これは前例のなかったことであり,多様なア プローチが採用されつつある。アブダビは原子力発電路線を推進している。オマーンは石炭 を使用する利点を評価した。サウジアラビアでは電力需要を満たすため,石油火力発電に頼 っている。
MENA地域におけるピーク電力需要の増加(2008〜2009年)
出典:MEED Insight
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1年中太陽が照り続け,夏の気温が50℃にものぼる地域では,また太陽エネルギーに着眼 し始めた。その潜在エネルギーは膨大である。2009年に行われたGCC初の太陽エネルギー 調査では,デンマークのコンサルタント会社であるコーウィが,オマーンの太陽輻射量を年 間1,640kWh〜2,200kWhと推定した。コーウィ社の計算によると,約280平方キロメートル の砂漠地域に太陽集熱器を設置すれば,オマーンで2009年に消費された総電力量である1万 3,900gWhを供給することが,理論上,十分可能ということになる。
言うまでもなく,それほど巨大な太陽エネルギー施設を建設することが実現可能とは思わ れない。しかし湾岸諸国は,化石燃料が従来のまま電力にとっての圧倒的なエネルギー源で あり続けることを認めつつ,太陽エネルギー発電と,太陽エネルギー発電よりも規模は小さ いものの風力発電が,割合としては小さくても将来の需要を賄うために一定の役割を担うこ とになると主張している。例えば,クウェートでは2020年までに再生可能エネルギーで総電 力の最大5%が供給可能ではないかと考えられているし,アラブ首長国連邦(UAE)は2020 年までに再生可能エネルギーの導入目標を総エネルギー生産量の7%にすることを掲げてい る。
既存発電能力
(2009年)
必要とされる総発電 能力(2019年)
2019年までに必要な 追加発電能力 アブダビ首長国 10,110 24,845 14,735 アルジェリア 11,324 17,324 6,000 バーレーン 2,735 5,020 2,285 ドバイ首長国 6,997 14,840 7,843 エジプト 23,502 44,502 19,000 イラク 5,500 25,500 20,000 ヨルダン 2,666 5,200 3,500 クウェート 10,825 28,750 17,925 レバノン 1,500 4,000 2,500 リビア 6,039 19,039 13,000 モロッコ 5,292 14,292 9,000 北部首長国(FEWA) 1,014 1,500 486 オマーン 4,040 9,240 5,200 カタール 5,314 13,530 8,216 サウジアラビア 44,500 84,870 40,370 シャルジャ首長国 2,381 3,412 1,031 シリア 8,359 15,479 7,120
MENA地域の設備容量と必要な電力容量(単位:MW)
出典:MEED Insight
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UAEは,湾岸諸国で台頭しつつある再生可能エネルギー事業分野で陣頭に立っている。ア ブダビの「マスダール構想」は湾岸地域において軸となる代替エネルギー開発プログラムで あり,2010年にはGCC諸国初となる100MWの大規模太陽エネルギー発電所を建設する「シ ャムズ1」事業が発表された。その先駆者的な役割が認められ,環境未来都市「マスダール・
シティ」は2009年に国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の本部所在地に選定された。
急増する電力需要を満たすことだけが「マスダール構想」推進の背景ではない。2005年,
世界自然保護基金(WWF)が発表した1人当たりの二酸化炭素排出量では,UAEが米国をも はるかに上回り世界トップになった。アブダビはこの発表で大いに面目を失い,政府高官ら は何らかの対策を講じざるを得ない状況となった。その結果として生まれたのがマスダール 構想であり,大々的な広報活動を行い環境問題を正面から推し進めている。
2006年にマスダール構想が発表されて以来,GCC諸国全域において数々の再生可能エネル ギープログラムが着手されている。オマーンは100〜200MWの太陽エネルギー発電所を計画 中であり,カタールは国家食料安全保障プログラムの一環として太陽エネルギーを利用した 海水淡水化を検討している。クウェートは,280MW級の太陽エネルギー複合発電設備
(ISCC)方式発電所の入札準備中である。しかし,湾岸地域で最も野心的なプログラムが議論 されているのはサウジアラビアである。同国では,最近発足した「アブドラ国王原子力・再 生可能エネルギー・シティ(KACARE)」設立プログラムの下で,1万〜2万MWの太陽エ ネルギー発電能力の整備を打ち出している。
GCC諸国の豊富なエネルギー資源は,従来,同地域における再生可能エネルギーの開発を 阻害する要因となっていた。対照的に,北アフリカの大半およびGCC以外の中東地域では,
炭化水素資源の欠如が風力および太陽エネルギー発電能力の創設に対する強力なインセンテ ィブとなっている。
北アフリカは現在,再生可能エネルギー開発への道程で湾岸諸国のはるか先を行っている。
風力・太陽エネルギー発電能力は既に1,000MWを超え,12件以上の大規模な再生可能エネ ルギープロジェクトが開発・建設段階にある。それでも,北アフリカの再生可能エネルギー の歴史は比較的浅い。最初の大規模な風力発電所(ウィンドファーム)がエジプトのザファ ラーナで運転を開始したのは2001年であり,同じくエジプトのクレイマットで最初の大規模 な太陽エネルギー・ハイブリッド発電設備が稼働したのはようやく2010年になってからのこ とである。
北アフリカでは,特にモロッコとエジプトにおける優れた風況面が評価され,ウィンドフ ァームの方が太陽エネルギー発電所よりも人気がある。これまでに完成済みの大規模太陽エ ネルギー発電所は2ヵ所のみで,エジプトのクレイマットとモロッコのアイン・ベニ・マ
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タールにある。2011年12月にアルジェリアのハシルメルで第3の発電所が稼働する予定であ る。これらはいずれもハイブリッド発電所で,太陽熱発電(CSP)技術とガスタービンを組み 合わせたコンバインサイクルとなっている。
これら3つの発電事業は,太陽エネルギー革命の始まりにすぎないと考えられている。北 アフリカおよび中東地域の大部分で非常に野心的な目標値が設定された。モロッコは2020年 までに自国のエネルギー総生産の最大40%を再生可能エネルギーとすることを目指してお り,エジプトは同20%,ヨルダンは同10%をそれぞれ目標としている。エジプトでは,再生 可能エネルギーとしては依然として風力発電が注目されているが,他のアラブ諸国では太陽 エネルギーに重点が置かれている。ヨルダンは2020年までに600MWの太陽エネルギー発電 能力を整備することを目指しており,モロッコは2,000MWの太陽エネルギー発電を整備す る総額90億ドルの太陽エネルギープログラムを立ち上げている。
各国の国家プログラムに加え,地域レベルの大規模なプログラム2件が計画段階にある。
デザーテック構想と地中海ソーラープラン(MSP)であり,ともに中東・北アフリカ地域の 砂漠で生産される太陽エネルギーを欧州諸国に供給することを目的とし,この地域の国々が 大いに必要としている収入をもたらすとともに,欧州の二酸化炭素排出量とエネルギー供給 における欧州のロシア依存を軽減することが期待されている。両事業の規模は巨大であり,
デザーテックだけでも整備される発電能力は6,000MW,費用は650億ドルである。
しかしながら,デザーテック構想や次々と打ち出される他の太陽エネルギー事業を成功さ せるには,克服しなければならない課題が山積している。おそらく最も重要な点は,MENA 地域における太陽エネルギー発電のコストが高いことである。2009年にオマーンが行った再 生可能エネルギー調査において,コンサルタント会社のコーウィ社は,太陽エネルギー発電 がガス火力発電の代替手段としては最も費用が高く,ディーゼル発電を上回るとの結論を出 した。しかしコーウィ社はまた,化石燃料の価格が上昇し,再生可能エネルギー技術に関連
エネルギー総生産量に対する再生
可能エネルギー目標の割合(%) 目標年
モロッコ 40 2020
エジプト 20 2020
チュニジア 13 2011
アルジェリア 10 2015
ヨルダン 10 2020
リビア 10 2020
北アフリカにおける再生可能エネルギー関連目標
出典:MEED Insight
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