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FASB における包括利益の制度化

第 5 章 OCI に計上された金額のリサイクリングの要否

1. FASB における包括利益の制度化

包括利益は資産負債アプローチに基づいた利益概念であるが、資産負債アプローチを利 益計算モデルとして体系的に提示したのは、FASBの1976年討議資料である。そこで、ま ずFASBにおける包括利益の導入を巡る経緯を見てみる。

FASBは、1976年討議資料の公表時点から包括利益への接近を目指していたが、その後 利益概念は変質を余儀なくされ、資産負債アプローチに基づく包括利益と、収益費用アプロ ーチに基づく純利益と類似している稼得利益というまったく異質の利益概念の共存状態が 生じた(津守 [2002], 154頁)。しかし包括利益概念は、すぐには現実の会計基準に適用さ れなかった。

包括利益の概念は、FASBにおける概念フレームワークプロジェクトにおいて、営利企業 の利益概念の1つとして、1980年12月に公表されたSFAC No.3『営利企業の財務諸表の 構成要素における認識と測定』で初めて導入された。その後 1985 年に SFAC No.3 は、

SFAC No.6『財務諸表の構成要素』に差し替えられたが、包括利益の定義は変わっていなか

った。そこでは包括利益は、出資者以外の源泉からの取引、その他の事象および環境要因か ら生じる一期間における営利企業の持分の変動と定義されている(FASB [1985], para.70;

訳320頁)。すなわち、包括利益は、株主との取引以外の取引から生じる営利企業のすべて の持分の変動をいう。したがって、実現利益以外に未実現利益も包括利益として認識される。

こうした持分の変動が資産と負債の差額として定義されていることから、包括利益は収益 および費用といった要素から定義されているのではなく、「資産」➞「負債」➞「持分」➞

「持分の変動=包括利益」という順序に照らして決定される利益であり、資産負債アプロー チを具体化とした利益概念であるということができる(津守 [2002], 152頁)。

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また、1984年に公表されたSFAC No.5『営利企業の財務諸表における認識と測定』は、

十分かつ相互に連繫し合っている一組の財務諸表で稼得利益37(純利益)と包括利益の双方 が業績として提示されるべきと要求している(FASB [1984], para.13; 訳217-218頁)。稼 得利益(純利益)と包括利益の関係を簡単に図示すると下掲の図表5-2のようになる(FASB [1984], para.44; 訳232頁)。

しかし、概念書自体は会計基準ではないので、当時の実務には影響を及ばされなかった。

包括利益が会計基準レベルで問題になった契機は、SFAS No.115の売却可能有価証券の評 価差額が、損益計算書を経由せず貸借対照表の株主持分の部に直接計上されるようになっ たことである。FASBは、かかる資本直入項目を財務業績報告書において包括利益の内訳項 目として示した上で、貸借対照表の株主持分に記載すべきとする要望を受けて、1997 年6 月にSFAS No.130『包括利益の報告』(Reporting Comprehensive Income: FASB [1997b])

を公表した。

純利益のみを業績とする伝統的な見方に対して一石を投じたSFAS No.130では、稼得利 益概念を純利益概念に置き換え、純利益に含まれない評価差額などをその他の包括利益

(OCI)項目とすることにより、包括利益は、純利益とOCIとして求められることになっ たのである。その後のASU 2011-05『Topic220包括利益:包括利益の表示』(Comprehensive

37 SFAC No.5によれば、稼得利益は、当期に認識されている前期までの一定の会計的修正の累

積的効果を含まない。現行の純利益には含まれているが稼得利益からは排除されている主要な 例は会計原則の変更に伴う累積的効果である··(中略)··稼得利益は、一期間の業績の1つの 尺度であって、可能な限りにおいて、その期間とは無関係な諸項目-主として他の期間に属す る項目-を排除する(FASB [1985], para.34;訳226頁)。

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図表5-2 稼得利益と包括利益の関係

収 益

− 費 用

+ 利 益

稼 得 利 益

− 損 失

累積的会計調整計調整

純 利 益 (実 現)

+ その他の包括利益 (実現可能) 包 括 利 益

出所:(FASB [1984], para.44;平松・広瀬訳 [2010], p.228頁)より筆者作成

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Income (Topic 220), Deferral of the Effective Date for Amendments to the Presentation of Reclassifications of Items Out of Accumulated Other Comprehensive Income in Accounting Standards Update: FASB [2011])においても、包括利益の表示はSFAS No.130 と基本的に変わらないと考えられる。

このことによって、包括利益概念を受け皿として未実現利益の弾力的処理が可能となっ たのである(村瀬 [2005], 30頁; 志賀 [2011b], 137頁)。そしてSFAS No.130では包括利 益の報告書の方式を、以下のように損益計算書方式と持分変動書方式とに二分し、さらに損 益計算書方式については 1 計算書方式と 2 計算書方式に分類している(FASB [1997b], paras.22-23)。

① 全ての包括利益の構成項目、すなわち、純損益およびOCIを単一の包括利益計算書に 表示する形式(1計算書方式)

② 純損益の内訳は、損益計算書において表示し、OCIの内訳と包括利益合計は、純損益 により開始包括利益計算書に表示する形式(2計算書方式)

③ 純損益の内訳は、損益計算書において表示し、OCIの内訳と包括利益合計は、持分変 動計算書示する形式(持分変動計算書方式)

以上から、損益計算書方式によって包括利益を報告する場合、包括利益を企業の業績とし て取り扱うことになるが、持分変動書方式を採用する場合、業績を表示するものは損益計算 書のみとなる。また、1計算書方式では1つの報告書の中で当期純損益が包括利益の内訳項 目として表示されることから、それは包括利益を企業の業績を示す指標として重視してい る方式であると考えられるのに対して、2計算書方式と持分変動書方式を用いた場合は損益 計算書の末尾が純利益となるため、純利益を重視しているといえる(河合[2010], 137頁)。 一方、持分変動書方式は、むしろ実務的な配慮に基づくものであり(FASB [1997b], para.67)、 アメリカ会計基準により財務諸表を作成する企業の大多数は、これまで持分変動書方式を 採用してきた(川西 [2011], 47頁)。

これより SFAS No.130 における 1 計算書方式に基づく財務諸表の体系を理念型とすれ

ば、持分変動書方式を代替型ないし現行実務型として位置付けることができ、2計算書方式 に基づく財務諸表の体系は、両者の中間型と称することができるであろう。

このようにアメリカ基準では、純利益と包括利益を併存させるために、OCI項目は、実現 したときに純利益に組み替えられる。例えば、売却可能有価証券が売却された際に、それま での保有損益は売却損益の一部として当期純利益に算入される。図表 5-3 のように実現さ れた保有損益をOCI累積額から控除するとともに、その控除額をOCIから純利益に組み替 える。

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図表5-3 損益および包括利益計算書 売上高 50

有価証券売却益 6 総費用 20 当期純利益 36

組替調整 その他の包括利益:

有価証券評価差額 3

(当期発生額) (9)

(組替調整額) (△6) その他の包括利益合計 3

包括利益 39 出所:1計算書方式より筆者作成

SFAS No.130は、当期の純利益の一部として表示される包括利益項目のうち、当期また

は過年度においてもOCIの一部としてすでに表示された項目の二重計上を回避するために 調整しなければならないとし、OCI から純損益への組替調整を義務付けている(FASB

[1997b], para.18)。こうした未実現の利益であるOCIが実現した場合はOCIから純利益に

組み替える会計処理はリサイクリング(recycling)と呼ばれている。

リサイクリングというものは、包括利益という新しい利益を導入しながらも、財務諸表利 用者の意思決定に有用な情報を提供するためには引き続き従来と同様に純利益に関する情 報を提供することが必要なことから、求められる処理として位置付けられる(小野 [2003], 144頁)。貸借対照表指向と損益計算書指向の両方のニーズを満たすことができる点で、リ サイクリングは画期的である。純利益項目とOCI項目の区分は,実現(未実現)・実現可能 性といったタイミングによるものであり、FASBにおいてはリサイクリングを要求されない OCI項目は基本的に存在していない(山下 [2015], 89頁)。リサイクリングを強制している 点を踏まえると、FASBは包括利益より当期純利益を重視しているといえるだろう。