第 5 章 OCI に計上された金額のリサイクリングの要否
1. リサイクリングのアプローチ(IASB [2013a]
IASBは、まず、純損益すなわち純利益を財務報告における重要な情報としてみているこ とを認識した上で、純利益を合計または小計として要求するという予備的見解、およびリサ イクリングする結果となる可能性を示した(IASB [2013a], para.8.26)。次に、IASBは、
リサイクリングの要否に関して、図表5-7のようなアプローチを提案している。
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図表5-7 IASB [2013a] におけるリサイクリングのアプローチ アプローチ1 リサイクリングを禁止するアプローチ
OCIの範囲を狭くとるアプローチ「狭いアプローチ」
アプローチ2A (橋渡し項目38とミスマッチのある再測定39のみを計上し、すべて をリサイクリングする)
OCIの範囲を広くとるアプローチ「広いアプローチ」
アプローチ2B (橋渡し項目とミスマッチのある再測定、一時的な再測定40を計上 し、これらの一部をリサイクリングする)
出所:IASB [2013a] を参考に筆者作成
アプローチ1は、収益および費用は、純利益およびOCIを表示する計算書に1回だけ認 識されるべきであり、リサイクリングすべきではないというものである。このような考え方 は、純資産価値モデル(またはストックモデル)による包括利益一元観を反映しているが、
純利益の合計または小計を要求すべきであるという予備的見解と両立しないので、当該ア プローチは採用されない。
アプローチ2Aおよび2Bを含むアプローチ2は、リサイクリングを維持するアプローチ である。このような考え方は、伝統的な会計利益モデルと純資産価値モデルとの折衷「二元 観」であり、純利益と包括利益の2つのボトムラインを維持する利益思考を反映している。
しかし、この際に問題となるのは、①純利益に認識される収益および費用の項目と、OCIに 認識される項目との区別は、何によって判断されるか、②OCI項目に含めた項目を、純利益 にリサイクリングを行うか否か、リサイクリングを行う場合、どのようなタイミングで行う べきか、ということである。IASB [2013a] は、現行の概念フレームワークと同様、純利益 を直接的な定義付けておらず、純利益とOCI項目との区別を、何を純利益に認識できるか ではなく、それよりも先にOCIに認識できる項目を記述することによって行うとしている
(IASB [2013a], para.8.35)。
38 橋渡し項目(bridging item)については、損益を算定する際に使用する測定基準と財政状態 計算書で使用する測定基準が異なる場合、2 つの測定基準の差異の変動を調整する項目である
(IASB [2013a], para.8.56)。
39 ミスマッチのある再測定(mismatched remeasurement)については、結び付きのある項目 で形成される集合のうち、ある項目を公正価値などで再測定するが、それに結び付いた他の項 目を再測定しないなどで、その集合体を非常に不完全にしか表現しない収益および費用の項目 である(IASB [2013a], para.8.62)。
40 一時的な再測定については、資産と負債の再測定による変動のうち、①資産の実現または負 債の決済が長期にわたり行われること、②当期の再測定が、資産または負債の保有期間中にす べて元に戻るまたは著しく変動する可能性が高いこと、③当該変動額をOCIに認識することに より、純利益の目的適合性と理解可能性が高まることという条件をすべて満たす項目である
(IASB [2013a], para.8.88)。
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このようなアプローチを取った理由として、純利益に含まれる項目が幅広いことが挙げ られている。換言すれば、OCIに該当しない収益·費用を純利益に収容するという間接的な 定義をしているわけである。このようにIASBの概念フレームワーク·プロジェクトは、純 利益を直接的に定義付けていないため、OCI を原則としてリサイクリングを行う理由は必 ずしも明確ではないが、アプローチ2Aでは、純利益とOCIの項目を決定するに当たって、
以下の3つの原則を適用するとしている(IASB [2013a], para.8.40)。このうち原則3は、
OCIから純利益へのリサイクリングの原則である。
原則 1: 純利益に表示する収益および費用の項目は、企業がある期間に自らの経済的資 源に対して得たリターンに関する主要な情報源を提供する 。
原則 2: すべての収益および費用の項目は、ある項目を OCI に認識することで当該期 間の純利益の目的適合性が高まる場合を除いて、純利益に認識すべきである。
原則 3: OCI に認識した項目は、その後、純利益へリサイクリングをしなければならな い。これは、リサイクリングによって目的適合性を有する情報がもたらされる 場合に行われる。
このようなアプローチ2A「狭いアプローチ」では、「橋渡し項目」と「ミスマッチのある 測定」に該当する項目のみがOCIとして認識され、純利益に全面的にリサイクリングされ るから、リサイクリングのときに目的適合性を満たすものしかOCI項目として認識しない ことになる。その結果、純利益にノイズを与える項目は、最初から、利益の要素として認識 されない。しかし、アプローチ2Aは、リサイクリングできる項目しかOCIとして認識し ないアプローチであるため、これまでOCIで認識されてきた項目の一部が、OCIで認識で きなくなり、また、OCI で認識される項目のすべてをリサイクリングすることが有用な情 報を提供しない可能性もある。したがって、IASB [2013a] は、OCIで認識した一部項目の みをリサイクリングする「広いアプローチ」を提案した。
アプローチ2B「広いアプローチ」では、狭いアプローチの「橋渡し項目」と「ミスマッ チのある再測定」に加えて、「一時的な再測定」に該当する項目もOCIとして認識される。
また、このアプローチ2B では、純利益とOCIのいずれで認識するかの判断については、
アプローチ2Aと概ね同じ原則を使用するが、原則1・原則2をより広く解釈し、原則3を 修正する。原則3 は、OCIに認識する収益および費用の項目をリサイクリングすべきどう かを決定するためのより大きな裁量をIASBに与える。アプローチ2Bにおける原則3は、
以下のようなものである。
原則 3: 過去に OCI に認識した項目は、リサイクリングが目的適合性のある情報をも たらす場合にのみ、純利益へのリサイクリングをすべきである。
このような「広いアプローチ」は、OCIとして認識された項目は、「狭いアプローチ」よ
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りも幅広く認識されるが、リサイクリングについては、やはり純利益の目的適合性を高める か否かという観点から判断することとされている。
以上のように、IASB [2013a] では、リサイクリングについて「狭いアプローチ」、「広い アプローチ」という 2 つの処理方法が提案されたが、どちらの方法を採用するのかによっ て純利益とOCIの位置づけが異なる。「狭いアプローチ」では、純利益をボトムラインとし て強調し、OCIで認識されたすべての項目をリサイクリングする考え方で、FASBのSFAS
No.130と類似している。「広いアプローチ」では、純利益はボトムラインとして捉えること
はできず、OCI で認識された項目を部分的にリサイクリングする考え方で、IASB の IAS No.1と整合的である。ただし、いずれの方法も、純利益の目的適合性の確保が基礎となっ ている。