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DNA 複製開始点の同定

WT genome

2. DNA 複製開始点の同定

シアノバクテリアS. 7942におけるDNA複製開始点の同定はGC skewに規則 性がない生物において、初めて実験的に証明した例となった 119。この技術は、

複数コピーゲノムの生物、またはGC skewから複製起点を予測できない生物に おいても、複製開始点を同定できることを示した。さらに、シアノバクテリア でのDNA複製制御機構を理解する上で、非常に大きな一歩となったと考える。

Fig. 5-1 Synechococcus elongatus PCC 7942におけるDNA複製制御機構

PSII PQ� Cyt

b6f DCMU

Gene expression

DNA replication!

Initiation DBMIB

Proper photosynthetic electron flow

NDX Rif!

Cm

PC�

PSI Fd�

DNA replication!

Progression Integrity of electron transport!

downstream of Cyt b6 f

Pathway 1 Pathway 2

3. シアノバクテリアにおける dnaA遺伝子の必須性

本研究においてS. 7942における複製開始は、多くのバクテリア同様DnaA/oriC システムであることを証明した。しかしdnaA遺伝子欠損により、プラスミドを 染色体に組込み、そのシステムを利用し、染色体複製を開始するという生存戦 略をとりうることを証明した。欠損株が最初のセレクションでは不完全欠損株 しか取得できず、植次ぐことで完全欠損株が取得できたことから(Fig. 4-1)、こ の間にプラスミドが挿入されたと考えられる。不完全欠損株においてDnaAタン パク質量を定量した結果、野生株よりも顕著に低下していた(data not shown)

ことから、不完全欠損株においてもすでに通常の複製が満足にできない状況で あったと考えられる。そのため、抑圧変異としてプラスミドの複製開始機構を 利用し始めたのである。大腸菌や枯草菌などにおいてもdnaA温度感受性株の抑 圧変異株が取得されており、DnaA非依存の複製様式もいくつか報告がある。そ

の中にintegrative suppressorという抑圧変異株が知られており、1970年代に最初

に取得された、染色体外DNAが挿入された株であった。

一方、S. 6803においては dnaA欠損株、oriC 欠損株は容易に取得でき、これ ら欠損株においても野生株と遜色無い生育、複製活性を示した。このことから

S. 6803はすでにDnaAに依存しない複製開始機構であることが示唆される。以

前にS. 6803dnaA遺伝子がほとんど発現していないという報告があったため

43S. 7942の抗DnaA抗体による検出を試みたが、検出することはできなかった

(data not shown)。したがって、S. 6803細胞内にはすでにDnaAタンパク質はほ とんど存在していないことが示され、dnaA 遺伝子は必須ではないことが明らか

Fig. 5-2 dnaA遺伝子欠損により引き起こされるもう一つの複製開始機構

WT dnaA

DnaA

Rep?

dnaA deletion

DnaA-dependent

same as bacteria DnaA-independent

(plasmid-like)

Such change in initiation system be able to occur naturally in cyanobacteria

Synechococcus

elongatus PCC 7942 Synechocystis sp.

PCC 6803

4. シアノバクテリアにおける DNA複製開始機構の進化

シアノバクテリアは海、陸だけでなく、砂漠、南極にも生存しているほど様々 な種が存在する。海洋性シアノバクテリアは、多くの原核生物と同様に細胞あ たり一つのゲノムを保持しており34120、GC skewにも規則性が見られる(Fig. 1-1

WH8102)。GC skew のシフトポイントには DnaA-box が保存されており、dnaA

遺伝子の発現レベルも明暗周期で厳密に制御されている 121 122。このことから、

海洋性シアノバクテリアは DnaA/oriC システムにより複製開始を制御している ことが予測される。また本研究において淡水性シアノバクテリアであるS. 7942

も同様にDnaA/oriCシステムにより制御していることが分かった。S. 7942は16S

リボソームRNAの系統解析から海洋性に近いことが示されており、GC skewも 比較的規則性がありシフトポイントは弱いながら見られる。一方、同じ淡水性

であるS. 6803はGC skewにはまったく規則性がなく、さらにdnaA遺伝子はDNA

複製において必須ではなかった。このことから、DNA複製の変化という劇的な 進化は淡水性シアノバクテリア内で起こりえた可能性が強く示唆できる。遺伝 子が消失するには長い時間が必要であろう。dnaA遺伝子においてもまずは機能、

または発現量の低下があり(S. 6803)があったことが想像できる。そこから長 い時間をかけ、Anabaena Azollaのように、トランスポゾンなどのDNA編成によ りdnaA遺伝子が失われていったのであろう。近年、このように藻類に共生する シアノバクテリアのゲノム解読が行われ、これらはすべてdnaA遺伝子が破壊も しくは欠失していることが報告されつつある。なぜ dnaA を失ったのか、また dnaA がないことによるメリットなどは未だ未解明である。DnaA は転写因子と

Fig. 5-3 シアノバクテリアにおける16S rRNAの系統樹とdnaAの必須性 Phylogenetic tree based on 16S rRNA sequence

Gloeobacter violaceus PCC7421

Anabaena sp. PCC7120

Thermosynechococcus elongatus BP-1

Microcystis aeruginosa NIES-843 Synechocystis sp. PCC6803

Prochlorococcus marinus SS120 Synechococcus sp. WH8102 Synechococcus elongatus PCC7942

Mar in e Fr esh water

Copy

number DnaA dependence

1~10 1~15 1~20

1 1

×

5. プラスミドの染色体への挿入が及ぼす進化への影響

Vibrio Cholerae は細胞内に大きさの違う二つの染色体(Chromosome I、

Chromosome II)を持つことが知られている。Chromosome Iは他の原核生物同様、

DnaA依存的な複製開始機構である。しかし、Chromosome IIはプラスミド複製 開始因子であるRep-likeな因子により複製されていることが分かっている126-129。 なぜプラスミド様式な複製開始機構なのかは分かっていないが、もとの染色体 にプラスミドが挿入されたためであるという説がある。このように異なる染色 体を同一細胞内に保持するためには、プラスミドの不和合成同様、別々の複製 開始因子である必要があるのかもしれない。そのためにも、プラスミド様の複 製開始機構を獲得し、二つの染色体が共存できるよう進化したと考えられる。

アーキアは原核生物同様、環状ゲノムである。しかし、ゲノム複製において は真核生物に似ており、複数の複製開始点を持つ130131132 133134。さらに、複製 開始因子もORCやMCMのように真核生物と同様の因子である135 136 137 138。3 つの複製開始点をもつアーキアにおいて、詳細な解析がおこなわれた結果、興 味深いことに、3つの複製開始点のうち二つは、ORC1-1、ORC1-3という別々の 複製開始因子であることが示された。また3つの開始点のうち、一つはORCに よる複製開始ではなく、全くべつの因子により複製開始していることが示され、

この因子はプラスミド複製因子のRepに似ていることが示された139。この結果 から、アーキアのように複数の複製開始点になった要因としては、プラスミド のような外来のDNAが挿入されていった結果であることを示唆している。

このように、複製機構の変化、複製開始点の増加という進化には、外来のDNA

6. 共生とオルガネラの DNA複製制御

ミトコンドリアは α-プロテオバクテリアが、葉緑体はシアノバクテリアの祖 先が細胞内共生し、誕生したと考えられている。共生した原核生物由来の遺伝 子が真核生物には保存されていることから、共生の痕跡は多くみられる140。 葉緑体の増殖制御においても、分裂機構は非常によく研究されており共生の 痕跡が観察される141142143。ミトコンドリア、葉緑体はどちらも内膜は原核生物 由来の FtsZという分裂因子により、外膜は宿主由来のダイナミンにより制御さ れており、宿主と共生体のシステム融合があったことが推察できる。外膜の分 裂リングは宿主側が共生体の分裂を制御するために、進化の過程で構築した機 構であるとも考えられる。真核細胞内には複数のオルガネラが存在しているが、

許容範囲を超えることは細胞にとって死活問題であり、したがってオルガネラ の数を制御する必要がある。このように、共生由来の細胞小器官に、勝手に増 殖されないためにも、宿主自身が制御できるシステムを構築したのであろう。

葉緑体分裂機構は共生における協調的制御システムが見られるが、DNA複製 においてはこのような協調機構は見つかっていない。一般的に、ゲノム複製→ ゲノム分配→細胞分裂の順に細胞周期は進行する。それは細胞内に複数コピー ゲノムを保持する葉緑体にとっても同様である144145。したがって、葉緑体ゲノ ム複製、分裂と細胞分裂とが同調的に起こる必要がある 146。この同調システム を考える上で、DnaAによる厳密な制御は宿主細胞にとって非常に扱いにくい機 構かもしれない。共生直後のシアノバクテリアは、もちろん自らゲノムを複製 し、分裂していたと考えられる。このような共生関係において、シアノバクテ リア自身が栄養状態、またはストレスを感知すれば、もちろんDnaAにこのシグ ナルは集約されゲノム複製は停止する。当然、宿主側の細胞分裂は進行してい るので、シアノバクテリアの増殖が停止した時点で、娘細胞に共生体は受け継 がれず、共生関係は成立しないだろう。共生関係が成り立たせるためには、多 少の制御系の“緩さ”が必要であった可能性がある。

dnaA がないことによるメリットは未だ推測の域を脱しない。しかし現存する 葉緑体にはdnaAが保存されていないことから、宿主にとってこの遺伝子がない

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