Time (hr)!
ori / te r !
A.
B.
C.
第四節 まとめ
シアノバクテリアにおいて、GC skew などからの複製開始点予測は困難であ った。本章では Repli-seq法を用いて、シアノバクテリアではじめて実験的に複 製開始点の同定を行った。Fig. 3-1に示すDeinococcusのように、GC skewから 複製開始点が予測できない生物は他にも存在する。これらの複製起点の同定、
さらに、なぜこのようにGC skewに偏りが見られないのかについての真相解明 における第一歩になった。
S. 7942においても複製開始制御にはDnaAが関与していることを明らかにし
た。その制御は、光化学系の活性化、不活性かによりDnaAのDNA結合能を調 節する質的制御であることが分かった。しかし、直接的なシグナルは未だ不明 である。光合成が働かないことで、細胞内環境が大きく変動するため、どの変 化がシグナルとなっているかは分からない。しかしDNA結合能の変化が細胞内 の酸化還元バランスによって変化するという報告は、転写因子において数多く
あり85,101,102、これらはS-S結合の有無によってコンフォメーションが変化し、
結果として結合能が変化する。DnaAにも保存されたシステイン残基が存在する ことから、酸化還元状態によって結合能が変化した可能性が十分考えられる。
第四章 DnaA非依存型DNA複製開始機構の解明
第一節 序
1 コピーのゲノムを保持する原核生物、さらには真確生物の核ゲノムの DNA 複製開始は厳密に制御されており、1 回の細胞周期あたり 1 回しか起こらない
103,104。多くの原核生物の複製開始は DnaA というイニシエータータンパク質が
制御しており46、保存性の高い因子である 5。DnaAはoriC内のDnaA-boxに結 合し、二本鎖を解離することで複製が開始する5,96。このDnaA/oriCによる制御 も多くの原核生物に保存されており、そのためこれら生物においてdnaA遺伝子 は必須の因子である。
シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803(S. 6803)においてdnaA遺伝子 は破壊可能であることが報告されている 43。また S. 6803 においてはほとんど dnaA 遺伝子は発現していないことも分かっている 43。さらに近年アカウキクサ に共生しているシアノバクテリア Anabaena azollae のゲノム解析が行われた結 果、dnaA 遺伝子内へのトランスポゾンの転移により、すでに破壊されているこ とが報告された 105。このことからシアノバクテリアは、他のバクテリアとは異 なり、DnaA非依存的な複製開始機構を有していることが考えられる。また現在 見つかっている葉緑体を持つすべての真核生物において、dnaA に相同な遺伝子 は保存されておらず 106、葉緑体の複製開始機構も不明な点が多い。以上のこと から、シアノバクテリアは共生する以前に、現在の葉緑体に似たDnaAに依存し ない複製開始機構を保持している可能性も考えられ、葉緑体の複製開始機構に 迫るうえでも、シアノバクテリアの複製開始機構の解明は重要な課題である。
第二節 材料と方法
1. 材料 (1)使用菌株
① Synechococcus elongatus PCC 7942
② Synechococcus elongatus PCC 7942TK (第一章参照)
③ Synechococcus elongatus PCC 7942TK ΔdnaA
④ Synechococcus elongatus PCC 7942 DB-F (第二章参照)
⑤ Synechococcus elongatus PCC 7942 DB-F ΔdnaA1
⑥ Synechococcus elongatus PCC 7942 DB-F ΔdnaA1 Ptrc::dnaA
⑦ Synechococcus elongatus PCC 7942 DB-F ΔdnaA2
⑧ Synechococcus elongatus PCC 7942 DB-F ΔdnaA2 Ptrc::dnaA
⑨ Synechocystis sp. PCC 6803TK
⑩ Synechocystis sp. PCC 6803TK ΔdnaA
⑪ Synechocystis sp. PCC 6803TK Δ0964
(2)使用培地 BG-11
(3)使用プライマー
use Primer name sequence (5' to 3')
In S. 7942
deletion cassette dnaA-us-F AATAATGCCCACCGTCACGGTGTTG
of dnaA gene dnaA-us-R GCTCACAATTCCACACAGCGATTGCCAAA
GCAGACAGGAC
kmr-F CTTTGGCAATCGCTGTGTGGAATTGTGAGC
GGATAACAAT
km-R GGGTGGCCGTGGCTTTTAGAAAAACTCATC
GAGCATCAAA
dnaA-ds-F CGATGAGTTTTTCTAAAAGCCACGGCCACC
CCCTTTGCTCT
dnaA-ds-R TCAGCAGCACAGTTTTGGGCGGCGG
dnaA-us-F2 CTGCCGAGCCCCAAGGTTCGTTTGAAGAAG
dnaA-ds-R2 GCACACTCATGGGGGTTCACAGCACTCCGT
plasmid probe probe1-F CTGTCAGAAGTGGAAAGTCAGTGAAC
probe1-R TTGACCAAGACTGCCAAGTTGTC
probe2-F CTGTGCTGTCTGTCCGATTGTG
probe2-R ACGGGAATAGAGTCAGTGGGAAC
chromosome probe3-F CAAATTCCCTGCGCTGCAAAAG
probe probe3-R GGTGCCGCTCAGTAAATCGAC
probe4-F CCGCCATGATGCTGCCTATC
probe4-R GAGGATCAATTAGCCTGCGCTG
In S. 6803
dnaA deletion syndnaA-us-F GGGCAAAGTGACAGGATTGGC
syndnaA-us-R ctcacaattccacaCAAAAATATACAAATATACTTAG Km-F TATATTTTTGtgtggaattgtgagcggata
Km-R CCAGGGGTttagaaaaactcatcgag
syndnaA-ds-F tttttctaaACCCCTGGCGATCG
Slr0964-F ctggcaggggtattgcagg Slr0964-R gggacaaaacagagataacccagg
TK cloning HA-NdeI-F gggcCATATGatcttttacccatacgatgttcctg TK-BglII-R gcccAGATCTtcagttagcctcccccatctc
2. 方法
(1) パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)
O.D750 = 0.2の培養液10 mlを回収し、10 mg/mLのLysozymeを含む50µlのLysis
bufferで懸濁し37℃で30分インキュベートしたのち、ゲルに包埋した。細胞を
包埋したゲルをlysozymeとproteinase K(Bio-Rad Laboratories, Inc., Hercules, CA, USA)で細胞を溶解し、NdeI(TAKARA BIO)で処理した。処理したゲルを以 下の条件で泳動した; Bio-Rad: switch time, 1-10 sec; run time, 20 h; angle, 120;
voltage gradient, 6 V / cm in 0.5× TBE at 14℃
(2) サザンブロッティング
PFGEゲルをHybond-N+ nylon membrane (GE Healthcare Japan, Tokyo, Japan)に転 写し、DIG ラベルされた特異的なそれそれのプローブをハイブリダイズさせ、
手順に従い検出した(DIG High Prime DNA labeling and detection starter kit II by Roche Diagnostics, Tokyo, Japan)。リプローブは0.2 M NaOH / 0.1 % SDSを用いて 37℃にて15分間×2回洗浄し、2×SSCで5分洗浄したのち、再び別のプローブを ハイブリダイズさせた。
第三節 結果と考察
1. dnaA遺伝子破壊株の取得
dnaA 遺伝子全長とカナマイシン耐性遺伝子を置換するコンストラクトを作製 し、遺伝子破壊を試みた(Fig. 4-1A)。TFし生えてきたコロニーをdnaA遺伝子 上流と下流にアニールするプライマーを用いてPCRにより確認した結果、すべ てのコロニーにおいてdnaA遺伝子とKmr遺伝子の二つのバンドが検出されたこ とから(Fig. 4-1B)、不完全破壊株である事が分かった。このような不完全破壊 株は必須遺伝子によく見られる。しかし培養世代の問題で置き換わっていない 可能性もあったため、一つのコロニーをピックアップし液体培地で定常期まで 培養し、再びプレーティングし、コロニーを取得した。77個のコロニーをPCR により調べた結果、約1/4の18個はKmr遺伝子のみ検出された完全破壊株であ
った(Fig. 4-1B)。この完全破壊株から2株選抜し、抗DnaA抗体によるウエス
タンブロッティングにより発現量を確認した結果、どちらの株においても検出 されなかった(Fig. 4-1C)。これらの結果より、dnaA遺伝子完全破壊株が取得で きることがわかり、以後の実験では別々のコロニー由来である 2 つの破壊株
(ΔdnaA1、ΔdnaA2)を用いて解析を行った。
Fig. 4-1 S. 7942におけるdnaA遺伝子欠損株の取得
A) 破壊コンストラクトを示す. dnaA遺伝子の上流と下流との相同組換えにより カナマイシン耐性遺伝子(Kmr)と置換した. 矢印は破壊確認するためのプライ マーである. B) A に示したプライマーを用いて破壊株の確認を行った結果を示 す. 白矢印がdnaA遺伝子、黒矢印がKmrを含むPCR断片をそれぞれ示す. 1 回 目のセレクション(Colony PCR: 1)ではすべて不完全破壊株であった. そこから 一つのコロニーを選抜し液体培地で定常期まで培養後、再び Km を含むプレー トにプレーティングした. 取得されたコロニーを PCR により確認した結果
(Colony PCR: 2)77個中18コロニーが完全破壊株であった. homo, 完全破壊株、
hetero, 不完全破壊株. C) 抗DnaA抗体を用いたウエスタンブロッティングの結
果を示す. WT, 野生株、ΔdnaA1とΔdnaA2, Bで示したコロニー番号.
Kmr
dnaA
1021 bp
1449 bp
WT ΔdnaA 1
ΔdnaA 2
100 70 57
43 KDa
First selection: transformation!
Plating on plate with Km
Cultivation!
Liquid with Km!
Plating with Km!
Colony PCR: 1!
Colony PCR: 2!
WT!
ΔdnaA mutants!
1! 2! 3! 4! 5! 6! 7! 8!
homo : hetero = 18 : 59!
All hetero!
M!
2.691.88 1.49 0.93
Kbp WT! Individual ΔdnaA mutants!
CBB
A.
B.
C.
2. dnaA遺伝子欠損による生育への影響
同調培養後、明所に移行し3時間毎に48時間、濁度と細胞数を計測した。そ の結果、濁度においてはでΔdnaA1は野生株と同等の生育を示したが(Fig. 4-2A)、 細胞数の増加は野生株に比べ顕著に遅延していた(Fig. 4-2B)。そこで細胞の長 さを計測したところ、野生株にくらべ ΔdnaA1 は細胞伸長が観察された(Fig.
4-2C)。このことより、dnaA欠損は細胞分裂の遅延が起きていることが明らかと
なった。
3. dnaA遺伝子欠損によるDNA複製活性への影響
DnaA は複製開始因子であるため、DNA 複製活性への影響を検証した。同調 培養後、明所に移行する 1時間前、移行後0-1、1-2、2-3時間BrdUパルスラベ ルを行った(Fig. 4-3A)。ラベルされた細胞を回収し、抗BrdU抗体を用いた蛍 光免疫染色を行い、BrdU の focus を持つ細胞すなわち複製している細胞の割合 を定量した(Fig. 4-3B and C)。その結果、野生株では10、40、60 %と時間を追 うごとに複製している細胞数は増加するが、ΔdnaA1、ΔdnaA2においては、どの 時間においても野生株よりも顕著に少なく、最大でも25 %程度の細胞しか複製 していなかった。DNA 複製している細胞は、すなわち DNA 複製を開始してい る細胞である。この結果より、dnaA 欠損によって DNA 複製開始頻度の顕著な 低下が引き起こされることがわかった。
Fig. 4-2 S. 7942におけるdnaA欠損による生育への影響
すべてdnaA1の結果を示す. 同調培養後、明所に移行した時点を0時間とし、3
時間毎に O. D750の値(A)と細胞数(B)を計測した. それぞれ縦軸が計測値、
横軸は時間を示す. C) パネルA、Bでの9 時間と18時間での野生株(WT)と dnaA欠損株(ΔdnaA1)の顕微鏡写真を示す. 赤は自家蛍光である. D) 9 時間と 18 時間での顕微鏡写真から細胞の長さを計測した結果を示す. 縦軸は細胞数、
横軸は細胞長(µm)を示す.
Abs.!
Light Dark 18 h
Time (hr)!
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
0 10 20 30 40 50 60 Cell number (X 107)
0.1 1 10
0 10 20 30 40 50 60 WT
ΔdnaA
Time (hr)!
WT
18 h
ΔdnaA1
9 h
0 50 100 150 200 250 300
ΔdnaA1 WT
9.9 ± 3.9 μm 6.4 ± 1.7 μm
0 50 100 150 200 250 300
Cell length (μm) WT
ΔdnaA1 7.9 ± 2.6 μm 6.7 ± 1.5 μm
Cell number
9 h 18 h
0 50 100 150 200 250 300
0 50 100 150 200 250 300
0 2.5! 5! 7.5!10!12.5!15! 25!
Cell length (μm)
D.
C.
Light Dark 18 h
0 2.5! 5! 7.5!10!12.5!15! 25!
A. B.
Fig. 4-3 S. 7942におけるdnaA欠損によるDNA複製活性への影響
A) 培養条件と BrdU ラベル時間を示す. 同調培養後明所に移行する時点を 0 時 間とし1時間前(-1 - 0)、移行後0 - 1、1 - 2、2 - 3時間とそれぞれパルスラベル
-1 0 1 2 3
BrdU-labeling!
time
(hr)
Light Dark 18 h
A.
Ratio of BrdU positive cells (%)
Time (hr)
0 10 20 30 40 50 60 70
-1-0 0-1 1-2 2-3
WT ΔdnaA1 ΔdnaA2
WT ΔdnaA 1 ΔdnaA 2
2-3 h
B.
C.
4. ΔdnaA1、ΔdnaA2における複製開始点の同定
dnaA 欠損によって複製活性の低下が認められたものの、複製活性があること からDnaAに依存しない複製開始機構の存在が考えられた。そこでまず複製開始 点の同定を行った。方法は第一章で野生株の複製開始点を同定した方法と同様 の方法を用いた。同調培養後、明所に移行すると同時にBrdUを添加し、3時間 ラベルした。この細胞からゲノムを抽出し、抗BrdU抗体を用いて精製し、精製 DNAからライブラリーを作製し次世代シーケンサーによる解析を行った。その 結果、野生株はもちろんoriC領域に一番高いピークが現れるのに対し、dnaA1、
dnaA2はoriCとは別の領域に一番高いピークを示した(Fig. 4-4)。さらにΔdnaA1
はゲノムの4時あたりに最も高いピークを示すが、ΔdnaA2は6時の辺りにピー クを示した。
本当に oriC 以外の領域から複製していることを確かめるため、DnaB の
ChIP-qPCR解析を行った。DnaBはoriC領域において、DnaAと共に開始複合体
を形成することが知られているため、他の領域に比べ相対的に oriCへの結合の 割合が高くなる(Fig. 4-5C WT)。しかしΔdnaA1、ΔdnaA2においては顕著なoriC への結合は認められなかった(Fig. 4-5C ΔdnaA1 and ΔdnaA2 青)。さらにΔdnaA1、 ΔdnaA2のNSにdnaA遺伝子を組み込んだ相補株を作製し、同様の解析を行った。
その結果、ΔdnaA1、ΔdnaA2ともにDnaAを発現させた際は、oriCへの結合能が 増加したことから(Fig. 4-5C ΔdnaA1 and ΔdnaA2 赤)、dnaA欠損によってoriC からの複製開始が行われないことが証明された。
これらの結果から、ΔdnaA1、ΔdnaA2 は oriC ではない別の領域から複製を開 始していること、また同じ dnaA 欠損株である ΔdnaA1、ΔdnaA2 にも関わらず、
複製開始領域が違うことが示された。