• 検索結果がありません。

15%

10%

20%

1 2

3

Figure 3-9. Rank graph of DMW10 (dotted line), DMW15 (dashed line), and DMW20 (solid line). The critical ellipse represents the critical region of α = 0.05.

53

DMW20のアイテムベクトルのみが棄却楕円の外側にあったことから、DMW20だけが

帰無仮説を棄却できた。よって、DMW20はランダムに順位付けされておらず、つまり、

他のサンプルと比べて有意な差があったと言える。さらに、DMW20のアイテムベクト ルは順位グラフの右側にあったことから、他のサンプルより好まれていたことがわかる。

また、DMW20に関しては、1位または3位の順位を付けた人数が2位の順位を付けた 人数より多かった。したがって、ホエイ由来発酵飲料おいて、アルコール度数が高い飲 料を好む人と嫌う人がいることが示唆された。さらに、1位の順位を付けた人数の方が、

2位の順位を付けた人数より多かったため、高アルコール濃度の飲料を好む層が多数派 であると結論づけた。

以上の結果は、ホエイ由来発酵飲料において、エタノール濃度を高めると嗜好性が向上 することを示唆している。順位グラフの結果より、最も嗜好性が高かったDMW20、つ

まり初期DMW濃度20% w/vを最適な基質濃度と決定した。

嗜好順位テストは、快不快尺度を用いた受容テストと比べて、あまり利用されていない。

その理由は、受容テストを用いると、嗜好に関するより多くの情報を集めることができ るからである (Drake, 2007)。実際に、ホエイ由来飲料の嗜好性を評価するために嗜好順 位テストを用いた報告は一報のみであった (Athanasiadis et al., 2004)。

しかし、嗜好順位テストは、受容テストでは差を区別できない場合や、別の決定基準が 必要な場合に有用である。また、受容テストでは、評価項目やサンプル数が多すぎると 評価パネルが疲弊するという問題があるが、嗜好順位テストは5サンプル程度の比較的 多くのサンプルを同時に評価できる (Kunieda, 2014)。さらに、順位グラフを用いること で、データを視覚的かつ簡便に解析することもできる (Baba, 1986)。本研究のように、

他の官能評価と組み合わせることで、最適条件の決定における基準を増やすこともでき る。

54 3.3.

前述した「原料ホエイの選択」および「基質濃度の決定」の結果において、原料に関す る条件検討は完了したので、最適な発酵条件の解明を試みた。まずは至適発酵温度を決 定することとした。

3.3.1.

培養温度が20°C、25°C、30°C、35°C、40°Cの条件で20% w/v DMW溶液を発酵させ、

ラクトース消費量およびエタノール生産量を測定した (Figure 3-10)。最終的なエタノー ル濃度は、20°Cで9.6% v/v、25°Cで9.6%、30°Cで9.5%、35°Cで5.8%、40°Cで3.6%

であった。ラクトース濃度が一定となるのに要した発酵日数は、20°Cで32日、25°Cで 20日、30°Cで16日、35°Cで20日、40°Cで12日であった。しかし、35°Cおよび40°C の高温条件では、ラクトースがまだあるにもかかわらず、それ以上発酵することはなか った。

高温条件において、発酵速度の上昇を期待したが、結果は発酵が途中で停止した。20°C では、発酵速度が30°Cより遅くなった。25°Cと30°Cの発酵速度は同等であったが、

25°Cでは16日目にラクトース濃度が0.78% w/vであり、ラクトースを完全には消費し ていなかった。これらの結果より、至適発酵温度を30°Cと決定した。

高温条件におけるK. marxianusのエタノール生産は、コスト削減やコンタミネーション 防止などの観点から注目されている (Fonseca et al., 2008)。確かに、高温耐性酵母である K. marxianusは、40°C程度の高温条件でもエタノールを生産できる (Koushki et al., 2012;

Y. Oda, Nakamura, Shinomiya, & Ohba, 2010; Javier Parrondo et al., 2000)。しかし、高温条 件は必ずしも生産効率を高めるとは限らないと推測できる。K. marxianusのエタノール 生産における至適発酵温度は、個々の菌株や他の発酵条件に依存する場合があるとされ る (Y. Oda et al., 2010)。

55

0 3 6 9 12 15 18

0 4 8 12 16 20 24 28 32

La ct os e (% w/ v)

Fermentation time (day)

30˚C 25˚C

20˚C

35˚C 40˚C

A

0 2 4 6 8 10 12

0 4 8 12 16 20 24 28 32

Et ha no l ( % v /v )

Fermentation time (day)

B

Figure 3-10. Consumption of lactose (A) and production of ethanol (B) during fermentation of 20% w/v DMW solution at selected temperatures: 20°C (▲), 25°C (■), 30°C (●), 35°C (), and 40°C (×). Error bars represent standard deviation (n = 3).

56

高温条件において発酵速度が下がった要因の一つとして、スーパーオキシドジスムター ゼ (SOD: superoxide dismutase) が関わっている可能性がある。定常期のK. marxianusに よるSOD生産の至適温度は5°C–30°Cであるが、40°Cで著しく生産量および活性が減 少する (Raimondi et al., 2013)。K. marxianusによるホエイ発酵において、活性酸素種に 関連する遺伝子および酵素の研究は見つからなかった。これらの遺伝子や酵素を調べる ことで、35°Cおよび40°Cの高温条件下で発酵が停止した理由が明らかになると期待で きる。また、低温殺菌法を簡略化したことで、30°Cにおいて24日かかっていた発酵期 間が16日に短縮した。原因は明らかではないが、低温殺菌の時間が長すぎると、ホエ イタンパク質やその他の成分が変性し、発酵に悪影響を及ぼす可能性がある。

57

3.4. pH

至適発酵温度を30°C と決定したため、次の発酵条件として至適初期pHを決定するこ ととした。

3.4.1.

20% w/v DMW溶液の初期pHをpH 7、pH 6、pH 5、pH 4に調整し、NBRC 1735を用い

て16 日間発酵させ、ラクトース消費量およびエタノール生産量ならびにpH の経時変 化を測定した (Figure 3-11)。16日目におけるエタノール濃度は、初期pH 7で10.0% v/v、

pH 6で10.0%、pH 5で9.8%、pH 4で4.9%であった。最終的なラクトース濃度は、初期

pH 7で0.1% w/v、pH 6で0.0%、pH 5で0.1%、pH 4で7.5%であった。最終的なpHは、

初期pH 7、pH 6、pH 5、pH 4の順にそれぞれ、pH 4.9、pH 4.8、pH 4.5、pH 4.0であっ

た。初期pH 7、pH 6、pH 5の条件における発酵特性は、同じような挙動を示した。初

期pH 4の条件では、他の初期pH条件と比べて発酵速度が著しく遅かった。初期pH 4

では発酵中にpH の変化を観察できなかったが、他の初期 pH 条件では、4–8 日間かけ てpHが徐々に低下した。

至適発酵温度と同様に、K. marxianusによるホエイ発酵の至適初期pHについても複数 の報告がある (Kargi & Ozmihci, 2006; Kourkoutas, Dimitropoulou, et al., 2002; Koushki et al.,

2012)。これらの研究では、至適初期pHはpH 4.5–pH 5.0であったが、初期基質濃度お

よびエタノール生産量は本研究よりも低く、発酵中のpH変化の挙動も異なることが示 唆される。実際に、Kargi氏らの研究では、初期糖濃度が35 g/Lであり、pHは最初の12 時間以内に低下した後、残りの発酵期間中は一定であった (Kargi & Ozmihci, 2006)。一 方、本研究ではpHが4–8日間かけて徐々に低下したため、高濃度のホエイタンパク質 はより強い緩衝能を持つことが示唆された。

58

初期pH 4の条件において発酵速度が下がった要因の一つとして、タンパク質の溶解度

が関わっている可能性がある。ホエイタンパク質の等電点はpH 4.5である (Pelegrine &

Gasparetto, 2005)。初期pH 4の条件はこの等電点よりも低く、ホエイタンパク質の溶解

度が上昇したことで発酵中にタンパク質が沈殿せず、高い浸透圧が保たれたままであっ たため、発酵に何らかの悪影響を及ぼした可能性がある。

Ethanol Lactose

A

pH

0 3 6 9 12 15 18

3 4 5 6 7 8

0 2 4 6 8 10 12 14 16

Lactose (% w/v) Ethanol (% v/v)

pH

Fermentation time (day) pH 7

0 3 6 9 12 15 18

3 4 5 6 7 8

0 2 4 6 8 10 12 14 16

Lactose (% w/v) Ethanol (% v/v)

pH

Fermentation time (day)

D

pH 4

C

0 3 6 9 12 15 18

3 4 5 6 7 8

0 2 4 6 8 10 12 14 16

Lactose (% w/v) Ethanol (% v/v)

pH

Fermentation time (day) pH 5

0 3 6 9 12 15 18

3 4 5 6 7 8

0 2 4 6 8 10 12 14 16

Lactose (% w/v) Ethanol (% v/v)

pH

Fermentation time (day)

B

pH 6

Figure 3-11. Consumption of lactose (■), production of ethanol (●), and pH (▲) during fermentation of DMW solution at selected initial pH values: pH 7 (A), pH 6 (B), pH 5 (C), and pH 4 (D). Error bars represent standard deviation (n = 3).

59

ここで、20% w/v DMW溶液のpHを乳酸でpH 7.0からpH 3.5まで0.5刻みに調整し、

遠心分離 (室温、12000 rpm、10分) した予備実験の結果をFigure 3-12に示す。pH 5.5–

pH 5.0の範囲でタンパク質が沈殿し始めていることがわかる。また、pH 4.5–pH 4.0の範

囲でタンパク質が再溶解し始めていることがわかる。

Figure 3-11 Aより、初期pH 7の条件における培養期間4日目のpHはpH 5.6であり、

溶液中に沈殿が生じていた。一方、Figure 3-12のpH 5.5では沈殿が生じていない。この 結果は、タンパク質の沈殿にはpHだけでなく、エタノールの作用もしくは両方の相互 作用が関わっていることを示唆している。

また、初期pH 5の条件においては、発酵前からタンパク質が沈殿していたが、発酵が 進むにつれてタンパク質の一部が再溶解し、発酵終了直前で再度沈殿するという現象が 起きた。初期pH 5における最終的なpHは、ホエイタンパク質の等電点と同じpH 4.5 であった。タンパク質は沈殿したままであるはずが再溶解した理由も、pH とエタノー ルとの相互作用だと推測できる。発酵終了直前でタンパク質が再度沈殿したことから、

エタノール濃度が高くなればタンパク質の沈殿を促進することが示唆された。しかし、

等電点付近のpHにおいては、ある一定のエタノール濃度まではタンパク質の溶解を促 進する可能性がある。タンパク質の溶解度と発酵速度の相関を調べた研究はないが、pH 調整によってタンパク質濃度をコントロールすることで、発酵速度の改善が期待できる。

pH 7.0 6.4 6.0 5.5 5.0 4.5 4.0 3.5

Figure 3-12. Centrifuged 20% w/v DMW solutions after adjusting to each pH with lactic acid.

60 3.4.2.

至適初期pHを決定するために、初期pH がpH 7、pH 6、pH 5の飲料において、嗜好法 および強度法における官能評価を実施した (Table 3-1)。嗜好法においては、すべての飲 料間において有意差のある評価項目はなかった。強度法においては、酸味の強さで初期 pH 7とpH 5の飲料間、およびpH 6とpH 5の飲料間に有意差があり、渋味の強さで初 期pH 7とpH 5の飲料間に有意差があった。

Table 3-1. Sensory scores for the acceptance test and intensity test of DMW-based beverages fermented at different initial pH values: pH 7, pH 6, and pH 5.

Initial pH of fermented DMW beverages

Evaluation attribute pH 7 pH 6 pH 5

Acceptance 1

Overall acceptability 4.95 a 5.00 a 5.02 a

Aroma 5.19 a 5.33 a 5.54 a

Taste 4.91 a 4.82 a 5.11 a

Sourness 5.18 a 5.09 a 5.05 a

Astringency 4.98 a 4.95 a 5.00 a

Aftertaste 5.05 a 4.86 a 4.96 a

Intensity 2

Sourness 4.72 a 4.65 a 5.70 b

Astringency 5.05 a 5.11 ab 4.47 b

n = 57

a,b Means in the same row followed by different letters represent a significant difference (P < 0.05) according to the Wilcoxon signed rank test with Bonferroni correction.

1 Acceptance was scored using a 9-point hedonic scale: 1, dislike extremely; 5, neither like nor dislike; 9, like extremely.

2 Intensity was scored using a 9-point intensity scale: 1, extremely weak; 5, neutral; 9, extremely strong.

61

嗜好性に関しては、本研究で使用した量の乳酸がDMW飲料の嗜好性に影響を及ぼすこ とを確認できなかった。

酸味の強さに関しては、初期pH 5の条件で発酵させた飲料は、他の飲料と比べて酸味 を強く感じることがわかった。初期pH 6のDMW溶液に含まれる乳酸の濃度は約540 mg/Lである。一方、乳酸の官能閾値は400 mg/Lである (Engan, 1974)。よって、初期pH 6の飲料においては酸味を感じるはずである。しかし、初期pH 7とpH 6の飲料間には 有意差がなかった。その理由はおそらく、ホエイやアルコール由来の味が酸味をマスキ ングしたためである。その一方で、初期pH 5の飲料においてその他の飲料より酸味を 強く感じた理由は、DMW溶液の初期pHをpH 5に調整するために使用した乳酸の量が 比較的多かったためであると考えた。初期pH 5のDMW溶液に含まれる乳酸の濃度は

約1450 mg/Lであり、この濃度はpH 6の約2.7倍である。

初期pH 5の飲料は、初期pH 7の飲料より酸味の強さが高かったが、渋味の強さは低く

なった。Beecher氏らの研究によると、ホエイ由来飲料のpHが低いと (例えば、pH 3.4)、

中性付近のpH (例えば、pH 6.8) より渋味が強くなる (Beecher et al., 2008)。しかし、本 研究で用いたpH 4.5–pH 5.0付近におけるpH と渋味の相関はまだ明らかになっていな い。別の研究では、乳酸の濃度以外の要因がホエイ由来飲料の渋味に関係している可能 性を指摘している (Kelly et al., 2010)。本研究の条件においては、酸味のマスキング効果 によって初期pH 5の飲料における渋味が減少したと考えた。

関連したドキュメント