この節では,CVSにおける移動販売と宅配事業の全体的な仕組みを明らかにする。具体 的には,株式会社ローソンの事例を取り上げ,移動販売事業と宅配事業に分けて検討する。
筆者は,2017年3月1日にローソン東京本社に訪問し,マーケティング本部ラストマイル 推進部の担当者に対して移動販売と宅配事業に関するインタビューを実施した。同社のマ ーケティング本部は,ホームコンビニエンス事業本部の代わりに2017年3月1日付で設立
73 ローソンウェブサイト2014年6月30日付リリース「新鮮な商品をお届け!「ローソンフレッシ ュ」始動」(http://www.lawson.co.jp/company/news/092293/)。
74 ローソンウェブサイト『統合報告書2016』25頁。
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された部署であり,多岐にわたる顧客へのアプローチ,販売促進活動,企画推進するとと もに,顧客との直接アプローチが特に重要な宅配・取次(ホームコンビニエンス事業)を も含めて統合的に検討・推進する組織である。
この節におけるローソンに関する記述は,特に断らない限り,上記のインタビューで得 られた情報に基づいている。それ以外の情報については,適宜出所を明記する。
(1) 移動販売事業の仕組み
まず,ローソンが展開している移動販売の事例を用いながら,実施主体,使用車両,荷 積み作業,販売方法,売上登録,収益状況と今後の計画などの側面から,CVSにおける移 動販売の具体的な仕組みについて検討する。
1) 実施主体
ローソンにとっての移動販売事業は,全店舗が行うものではなく,基本的には営業した い店舗が自ら本部と相談し,その上で売り先を決めるスタイルとなっている。移動販売に 熱心なオーナーには,自ら区長や民生委員と連絡を取り,営業を広げるケースもあるとい う。
実際に,店舗が移動販売を行い,本部はそれをサポートする。作業負担を軽減できるよ うな車両,システム,販売用のツールなどの提供だけでなく,本部は県や市区町村を含ん だ行政と連携し,買物困難者の多い地域に関する情報などを移動販売の実施店舗に伝える。
2) 使用車両
移動販売を行う際は,軽バンと移動販売車という二種類の車両が使用されている。軽バ ンでは,荷物をコンテナに積み込んで移動し,高齢者施設などの販売先に着いたらそれを 取り出して建物の中に広げる。一方,移動販売車は軽トラックを改造した専用の車両であ る。それには冷蔵ショーケースが入っており,車両の扉を開ければそのまま小さな店舗に なる。
どちらの車両にもメリットとデメリットがある。軽バンで移動販売を行うと,建物の中 まで入れるが,移動販売車では入れない。一方,軽バンのほうは荷卸しが大変であり,移 動販売車のほうが楽になる。そのため,販売先によってこの二種類の車両を使い分けるこ ととなっている。
また,軽トラックを改造した移動販売車のほうは,軽バンより倍以上のコストがかかり,
採算レベルが上がってしまう。そのため,移動販売を始めた頃に販売先が少ない場合は,
軽バンのほうが手軽にできる。販売先が増えてくると,移動販売車に切り替えるか,軽バ ンと移動販売車の両方を所持することになるという。
50 3) 荷積み作業
移動販売を準備する際に,従業員は店頭から移動販売分の商品をピックアップし,荷積 み作業を行う。夜中に納品された要冷蔵商品を事前に取り分けてもらうなど,積み込み作 業を短時間で済ませるように工夫する。常温商品,要冷蔵商品,さらに顧客から要望があ った商品をも積み込んでいく。
4) 販売方法
軽バンのほうは前述のように,コンテナを取り出して建物に入って販売する。一方,移 動販売車は音楽を鳴らし,営業に来たことを知らせる。各箇所における販売時間は,状況 に応じて決める。規模の大きい施設では長めの販売時間を確保し,そうでないところはな るべく集中して回るように工夫している。
移動販売における商品の販売価格は,店頭の商品売価と同じである。決済は現金のみに なるが,Ponta ポイントをためることができる。販売の際には,従来では手書きの領収書 を使用していたが,現在ではモバイルPOS というタブレット状のPOS 端末を使用してい る。モバイルPOSは2015年に実験的に使われ,2016年度に運用されたものである。それ には店舗名が登録され,店舗売価設定で設定したものも全部反映できるシステムが搭載さ れている。
5) 売上登録
モバイルPOSには販売データが入っており,売れた商品についてはバーコードが生成さ れる。移動販売後は店舗に戻り,店舗のレジでバーコードを一個ずつスキャンして打ち直 すことで,移動販売分の売上が登録される。どのような商品がいつ,どれくらい売れたか が記録されているため,ローソンが推進している半自動の発注システム(セミオート発注 システム)にも連携できている。移動販売で売れた分も,発注の推奨値が出てくる。
また,移動販売の頻度と日次を固定すれば,セミオート発注の推奨精度に大きな影響を 与えることはなく,大量に買われる商品の場合は予約商品として別のフラグを立てること で対応も可能である。次世代システムの開発では,移動販売分そのものを別のフラグとし て立て,セミオートに入れずに完全な別個の売上として立てようとしているという。
6) 収益状況と今後の計画
実際に,移動販売の収益状況は実施店舗による。稼働し始めた頃は,回る施設などが少 なく,一日仕事になるか午前中仕事になるかによって人件費が異なり,それを逆算して必 要となる売上を目指しているという。
ただし,店舗内の販売と異なり,移動販売では顧客に買物に関する提案ができるため,
いわゆる提案型商売である。顧客とのつながりができてくると,通常来店ではなかなか買 ってもらえない予約催事商品などが,簡単に買ってもらえるようになり,それが売上のプ ラスになる場合もある。
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今後の計画について,ローソンは2018年2月末に移動販売の実施店舗数を200店舗に増 やす目標を掲げている。また,4温度帯に対応した移動販売車の展開数も,2018年2月末 には100台を目標としているという。
(2) 宅配事業の仕組み
一方,宅配事業には,店頭の商品を店舗近隣の事務所や自宅に届けるサービスと,ロー ソンのネットスーパーである「ローソンフレッシュ」で注文したものを自宅に届けるサー ビスの二種類がある。ローソンの場合,お届けサービスを提供している店舗数はまだ少な く,2017年3月時点で約70店舗にとどまっている。ここでは主に,「ローソンフレッシュ」
およびその延長線上にある「マチの暮らしサポート」の仕組みを,サービス内容,ターゲ ット客層,利用方法,商品配達,収益状況や今後の計画などの側面から検討する。
1) サービス内容
「ローソンフレッシュ」は,2017年3月現在で約13000種類の生鮮品,青果類,料理キ ットや日用品を取扱っているローソンのネットスーパーである。従来の宅配サービス「ス マートキッチン」からのリニューアルに伴い,「成城石井」「ナチュラルローソン」「大地を 守る会」「らでぃっしゅぼ~や」などの人気ブランドの商品も購入できるようになっている。
一方,「マチの暮らしサポート」はプラスアルファの位置づけにある。ローソンは 2017 年3月現在,世田谷区を中心に20店舗のハブ店舗をつくっており,佐川急便取扱い荷物と ローソンの店頭商品や「ローソンフレッシュ」の商品を届ける宅配の両方を行っている。
また,住まい・暮らしのサポートでは,専用のコールセンターもしくはSG ローソンの専 任配送担当者(パーソナルアドバイザー)に連絡することで,エアコンクリーニング,水 回りのトラブルや鍵の交換など,急な家の困りごとへのサポートサービスを提供している
75。
2) ターゲット客層
店舗から宅配する場合は,周辺の事務所や近隣の高齢者をターゲットにしているのに対 し,「ローソンフレッシュ」の場合は共働きの女性を主な客層としている。「ローソンフレ ッシュ」の取扱商品やウェブサイトのつくり方にも,その狙いが反映されており,野菜や 10分で簡単に夕ご飯ができる料理キットなどが充実している。
3) 利用方法
「ローソンフレッシュ」の利用方法としては,カート購入と週イチ宅配という二種類が
75 ローソンウェブサイト2015年6月24日付リリース「「SGローソン,マチの暮らしサポート」サ ービス開始」(http://www.lawson.co.jp/company/news/104995/)。
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ある。カート購入はいわば通常のネットショッピングと同じく,買物のタイミングが顧客 のスタイルに応じて1品から購入できる。一方,週イチ宅配は買物リストを作成すること で,お届け曜日と時間帯を自由に決められる週1回の定期配達サービスである。買物リス トには,今週購入する商品「週イチリスト」と毎週購入する商品「リピートリスト」の二 種類があり,買物が不要な週ではスキップすることもできる。ただし,カート購入が全国 から利用可能であるのに対し,週イチ宅配は現在,首都圏(東京都・神奈川県・千葉県・
埼玉県・茨城県・栃木県・群馬県・山梨県)のみの利用となっている。
注文方法としては,「ローソンフレッシュ」はパソコンだけでなく,スマートフォンに も対応している。また,商品代金の決済については,クレジットカードのほか,Yahoo!ウ ォレットや楽天ID決済などの支払い方法がある。
4) 商品配達
「ローソンフレッシュ」で購入した商品は,基本的には翌日に,専門の物流業者によっ て配送センターから直送されており,その際にはローソンの持つ温度帯別商品管理のノウ ハウが活用されている。また,一部地域では SG ローソンの専任配送担当者が店舗の台車 を使用して届ける場合もある。
また,配送料は地域別となっており,カート購入の場合は商品合計金額が7000円以上(税 込),週イチ宅配の場合は2500円以上(税込)になると送料無料になる76。
5) 収益状況と今後の計画77
SG ローソンのハブ店舗の場合,宅配便の配達は朝一番がピークであり,弁当の宅配ピ ークは夕方である。業務量が谷となる昼間の時間帯も,ご用聞きの主な対象となる高齢者 世帯は在宅率が高い。すなわち,例えば早朝に宅配便を配達し,昼間にご用聞きや住まい・
暮らしのサポートサービスの取次を行い,夕方に弁当を配達するなどによって,作業の平 準化が図られる。そのように,様々なサービスの波動を重ねることで,コスト割れしない ラスト500メートルの構築を目指しているという。
ただし,各店の商圏におけるニーズの違いが予想以上に大きく運営に影響したため,予 定より展開は遅れているという。ローソンは,店舗からの宅配について複数のモデルを作 り込んだ上で,2017年度に一気に1000店舗に導入する計画である。
(3) 異業態との比較
移動販売と宅配事業を展開しているのは決してCVSだけではないため,異業態との比較
76 ローソンフレッシュウェブサイト(http://fresh.lawson.jp/)による。
77 この部分は,「コンビニ配達,仕組み構築(物流インサイドリポート)」『日本経済新聞』2016年 10月14日付による。