あとにその他の複合病変が生じる可能性も考えられる
(図5D).
1.2
結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症
( CTD-PAH )
要旨
結合組織病(
CTD
)では,一般人口に比して肺高血圧 症の発症リスクが高く,とくに全身性強皮症または全身性 硬化症(SSc
),混合性結合組織病(MCTD
),全身性エリ テマトーデス(SLE
)での合併頻度は2
〜10%
である.多彩な臨床分類の肺高血圧症がみられ,
PAH
だけでなくPVOD
,左心性心疾患に伴う肺高血圧症,間質性肺疾患な どの肺疾患に伴う肺高血圧症,CTEPH
,肺動脈炎に伴う肺高血圧症,ならびにこれらの混合病態も認められる.早 期発見のため,
PAH
リスクを有するCTD
例では経胸壁心 エコー法(TTE
)によるスクリーニングが推奨されている.また,治療開始前には病態評価が必須で,肺高血圧症の臨 床分類に関する包括的な評価が重要である.
CTDPAH
に対しては,支持療法,肺血管拡張療法ともIPAH/ HPAH
の治療指針に準じて行われるが,CTDPAH
に特有な点もある.たとえば,SLE
やMCTD
,シェーグレ ン症候群に伴うPAH
では,免疫抑制療法が有効な例があ る.また,SSc
に伴う肺高血圧症の混合病態では,肺高血 圧治療薬の慎重な投与が必要である.肺高血圧治療薬の 積極的な使用によりCTDPAH
の生命予後は改善している ものの,IPAH / HPAH
にくらべるといまだ不良である.個々の病態に応じた最適な治療選択が望まれる.
CTDPAH
の治療に関する推奨クラス,エビデンスレベ ルを示す(表14).1.2.1 疫学・成因
a.CTDにおける肺高血圧症の頻度
CTD
患者では,一般集団にくらべて肺高血圧症の有病 率が高い202).中等度〜重症例のみ把握していた1998
年 当時の「厚生省特定疾患皮膚・結合組織調査研究班混合 性結合組織病分科会」で実施された調査では,肺高血圧 表14 CTD-PAHの治療に関する推奨とエビデンスレベル推奨 推奨
クラス
エビデンス レベル IPAH/HPAHの肺血管拡張薬の重症度別
推奨度に従うこと
I C
SLE/MCTDに伴うPAHに対する免疫抑
制療法
IIa C
図4 肺動脈の可逆性病変(孤立性中膜肥厚[A,B] ,および,中膜肥厚と内膜肥厚の合併[C,D])
A: Heath-Edwards分類グレード1; 筋性肺動脈の中膜平滑筋の肥厚(EVG染色).
B: Heath-Edwards分類グレード2; 筋性肺動脈の中膜平滑筋の肥厚に加え,軽度の内膜肥厚を認める(EVG染色).
C: Heath-Edwards分類グレード3; 中膜肥厚に加え,内膜の細胞性増殖による狭窄 (cellular intimal thickening)(HE染色).
D: Heath-Edwards分類グレード3; 内膜肥厚が細胞成分に加え,線維化が主体になってきている(fibrocellular intimal thickening)(EVG染色).
A B
C D
100μm 100μm
100μm 100μm
症の頻度は
MCTD
で7.0%
,SSc
で5.0%
,SLE
で1.7%
であり,多発性筋炎(
PM
)/
皮膚筋炎(DM
)にはみられな かった203).一方,右心カテーテル検査での評価を必須と した海外の報告では,SSc
におけるPAH
の有病率は7
〜12%
で12, 204, 205),3,818
人を対象としたメタ解析では9%
であった206).
SLE
における頻度は2
〜4%
程度と少ない207,208).MCTD
での右心カテーテル検査を用いた報告はないが,上記のわが国の
1998
年の調査203)から推測すると,SSc
と 同等もしくはやや多いと考えられる.正確な頻度は不詳だ が,原発性シェーグレン症候群でもPAH
がみられる209).CTDPAH
と診断された症例の基礎疾患分布は,欧米とわが国で異なる.欧米では
SSc
が60%
以上を占めるが88, 210),日本の報告では
SSc
,SLE
,MCTD
の割合はほぼ同等で,これらの
3
疾患が全体の90%
以上を占める211). b.CTDに伴う肺高血圧症の臨床分類CTD
に伴う肺高血圧症には多彩な臨床分類がみられ,PAH
だけでなくPVOD
(第1
ʼ 群),左心性心疾患に伴う肺 高血圧症(第2
群),間質性肺疾患(ILD
)など肺疾患に 伴う肺高血圧症(第3
群),CTEPH
(第4
群),肺動脈炎 に伴う肺高血圧症(第5
群)なども生じうる210, 212–214).ま た,これらの臨床分類の混合型もしばしばみられ,複雑な 病態を呈する例も少なくない.とくにSSc
では,PAH
だけ でなく,左心性心疾患に伴う肺高血圧症やILD
に伴う肺 高血圧症が高頻度にみられる213, 214).1.2.2
予後・重症度評価 a.生命予後
CTDPAH
の生命予後はIPAH / HPAH
に比して不良で210), この傾向は肺高血圧治療薬の併用療法が広く実施される ようになった最近でも変わらない215, 216).基礎疾患別で は,SLE
やMCTD
にくらべてSSc
で生命予後が不良であ 図5 複合血管病変A,B:叢状病変(Heath-Edwardsグレード4);本幹の肺動脈からの動脈瘤状または血管腫様の分岐と,さらに末梢の糸球体様の血管増生,外 膜周囲の血管拡張を示す(HE染色)
C:拡張性病変 (Heath-Edwardsグレード5);動脈から異常分岐周辺に毛細血管の拡張を認める(EVG染色)
D:血管炎 (Heath-Edwardsグレード6);肺動脈壁内に炎症細胞浸潤を認め,一部壁が破壊されている(HE染色)
50μm 100μm
100μm 200μm
A B
C D
る210, 217). b.重症度評価
CTDPAH
を対象とした重症度分類はないが,平成28
年度厚生労働省科学研究で作成された「全身性強皮症診 断基準・重症度分類・診療ガイドライン」のなかで,SSc
に伴う肺高血圧症の重症度分類が提案されている218).NYHA/WHO
機能分類を基本としたものだが,CTD
患者 は,ILD
や心疾患に加えて筋骨格系の障害,貧血などさま ざまな労作時呼吸苦をきたす要因を有するため,機能評価 の際にはこれらも考慮する必要がある.予後不良因子として,基礎疾患としての
SSc
,NYHA / WHO
機能分類III/IV
度が多くのコホート研究で示されている211, 219).
SSc
に伴うPAH
(SScPAH
)を対象とした検討では,
IPAH
と同様に心係数や一回拍出係数(SI
),PVR
などの血行動態指標が予後予測因子となる220, 221).また,高齢や男性も予後不良因子である220).自己抗体と予後の 関連については否定的な報告もあるが222),
SScPAH
では,抗
U1RNP
抗体陽性例の予後が良好であることが示されて いる223).1997
年度に実施された「厚生省特定疾患皮膚・結合組織調査研究班混合性結合組織病分科会」の予後調 査では,
MCTD
に伴うPAH
の独立した予後不良因子とし て,多関節炎,筋逸脱酵素上昇およびPM / DM
分類基準 の合致,皮膚硬化が抽出された224).1.2.3 診断手順 a.CTDの診断
各
CTD
には国際的な分類基準あるいは国内での指定難 病としての診断基準が作成されており,それらを参考に診 断を進める.ただし,これらには除外基準が設けられてお り,また,特異度は高くても90%
程度のため,偽陽性がし ばしばみられる.早期・軽症例など,これらの基準を満た さない例も存在することから,診断に際しては膠原病専門 医へのコンサルテーションが推奨される.b.PAHの危険因子
基礎疾患によって危険因子は異なる.
SSc
では罹病期間 の長い限局皮膚硬化型SSc
(lcSSc
)にPAH
がみられる ことが多く,SScPAH
例では自己抗体として抗セントロメ ア抗体陽性例が50%
以上を占める225–228).PAH
は長いSSc
罹病期間を経て発症することが多く,発症者のほとん どは60
歳以上の高齢者である.そのほかの危険因子とし て,手指や口唇に好発する毛細血管拡張がある229, 230).一 方,抗U1RNP
抗体陽性は,基礎疾患にかかわらずPAH
の危険因子となる.SLE
やMCTD
では,発症時,あるい は疾患活動性が上昇した時期に一致してPAH
が顕性化あるいは悪化することが多く,
CTD
としての罹病期間は短い 例が多い.c.スクリーニング
CTD
患者のうちPAH
リスクの高い例では,自覚症状の 有無にかかわらず定期的なスクリーニングを実施し,PAH
の早期発見に努める.実際に,SSc
例で積極的なスクリー ニングを行うことで,PAH
の診断時にNYHA/WHO
機能 分類I
度・II
度の軽症例の割合が増え,生命予後も改善し たことが示されている219).ESC/ERS
の肺高血圧症診断・治療ガイドライン
2015
では,SSc
とその疑い例,およびMCTD
を含めたSSc
スペクトラムの疾患に対し,無症状 でも年1
回のTTE
に一酸化炭素肺拡散能(DL
CO)とBNP
などのバイオマーカーを組み合わせたスクリーニング が推奨されている26).ドプラエコーで測定された三尖弁逆 流速度(TRV
)>3.4 m /
秒,もしくは推定右室収縮期圧(
eRVSP
)>50 mmHg
の場合には肺高血圧症が存在する 可能性が高いことから,確定診断のための右心カテーテル 検査が推奨されている1).この場合のeRVSP
は,三尖弁 圧較差(TRPG
)にRAP
(5 mmHg
と推定)を加えたもの である.ただし,TRV
≦3.4 m /
秒もしくはeRVSP
≦50 mmHg
の場合でも,肺動脈弁逆流の流速上昇,右室から 肺動脈への流出血流の加速時間短縮,右房を含めた右心 系の拡大,心室中隔の扁平化,右室壁肥大や肺動脈主幹 部の拡大を認める場合には,肺高血圧症が存在する可能性 がある1).SSc
患者137
人を対象に,ドプラエコーによるeRVSP
と右心カテーテル検査で測定した平均肺動脈圧(
mPAP
)の関連をみた検討では,両者はおおむね正の相関 を示したが,ドプラエコーでの偽陽性のみならず,肺高血 圧症があるにもかかわらずTRPG
上昇を示さない偽陰性 例が10%
程度存在したと報告されている231).そのため,TRV
≦3.4 m/
秒もしくはeRVSP
≦50 mmHg
であっても,ほかに説明のできない労作時息切れや肺高血圧症を疑う身 体所見,
TTE
所見がある場合には,積極的に右心カテー テル検査の施行を考慮すべきである.PAH
のスクリーニン グにおける有用性が示されているTTE
以外の検査所見と し て,DL
COの 低 下214, 232, 233), 血 中BNP
ま た はNT
proBNP
,血清尿酸の上昇234–236)があげられる.とくにSScPAH
では,努力肺活量(FVC
)に比したDL
COの低 下が特徴である(心エコーの内容については,p. 12
の4.4
心エコー検査の項も参照).d.肺高血圧症の診断
肺高血圧症の診断には右心カテーテル検査による肺動脈 圧(