CTEPH
の外科的治療は,1960
年代に海外から報告され ており,わが国では1986
年の中島らによる非体外循環下 の側開胸到達によるものが最初である442).一方,現在のCTEPH
に対するPEA
は,1970
年代にカリフォルニア大 学サンディエゴ校(UCSD
)において開発され,体外循 環(ECC
)および超低体温循環停止(DHCA
)を用いて 両側肺動脈内血栓・肥厚内膜を同時に摘除するものである4 4 3 – 4 4 6).わが国では
1990
年代に入って臨床導入され447–449),現在に至るまで
CTEPH
に対する唯一の根治的治療法である.日本胸部外科学会の年次報告によると,手 術件数は毎年
50
人前後で,2014
年度には61
人に施行さ 図15 原因不明の肺高血圧症に対するアプローチとCTEPHの位置付け(動脈血液ガス分析)
正常または斑状血流欠損 血栓を認めず
換気に異常を認めない 少なくとも区域以上の血流欠損
血栓や肺血管病変
換気に異常を認める血流欠損 血栓なし,肺野病変 換気障害型肺疾患に伴う肺高血圧症 肺動脈性肺高血圧症(PAH) 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
その他の肺血管疾患
換気 血流 換気 血流 換気 血流
肺換気―血流スキャン 胸部造影 MDCT
胸部 X 線で肺野に異常なし,または X 線所見や呼吸機能検査に比して肺高血圧症が著明
図16 CTEPHの治療アルゴリズム(推奨クラス,エビデンスレベル)
抗凝固療法( I,C)
酸素療法( IIa,C)
(専門施設への紹介)
重症例
適応あり 適応なし
手術適応検討
肺動脈内膜摘除術(I,C) BPA(I,C) 血管拡張療法(I,B)
肺高血圧残存 肺高血圧残存
肺移植(IIb,C)
CTEPH の確定診断
図17 手術により摘出されたCTEPH患者の肺動脈内膜 A:主肺動脈の近くには大量の血栓が付着している.
B:摘出された末梢肺動脈は再開通している.
C:肺葉動脈レベルでは,壁在血栓による内膜肥厚を認める.
D:末梢の区域枝動脈レベル以下では,篩状の再疎通像が認められる.
A B
C D
図18 手術により摘出されたCTEPH患者の肺動脈内膜
A:中枢型CTEPH患者の肺動脈内膜,B:末梢型CTEPH患者の肺動脈内膜
A B
れ,入院死亡率は
9.8%
と報告されている450).慢性肺動 脈血栓塞栓症,とくに外科的治療が検討される症例のほと んどが肺高血圧症を伴っており,本項ではCTEPH
に対す るPEA
に関する手術適応,術式,および成績について記 載する.4.5.1
肺動脈内膜摘除術(
PEA
) a.PEAの適応i.適応基準
①
UCSD
による従来のPEA
適応基準445)症状や心エコー検査,胸部造影
CT
検査,肺換気
血流 シンチグラムなどに加え,肺動脈造影(PAG
)および右心 カテーテル検査を行って決定する.•
平 均 肺 動 脈 圧(mPAP
)≧30 mmHg
,PVR
≧300 dyne ·
秒· cm
−5• NYHA /WHO
機能分類≧III
度•
肺動脈病変の中枢端が外科的に到達しうる部位にあるこ と•
重篤な合併症(併存疾患)がないこと②
ESC
による最新のPEA
適応基準(2015
年)26)以下の追加基準があり,成績向上とともに
PEA
の適応 は徐々に拡大されている.• NYHA/WHO
機能分類 ≧III
度に加え,II
度も適応と する•
区域肺動脈レベルの末梢病変であっても,外科的に到達 可能であれば適応とする•
高齢,PVR
高値や右室機能不全は,PEA
の適応除外要 因とはならないii.肺動脈病変の局在(形態)
CTEPH
は形態学的に,以下の2
つに分類される.•
中枢型:
肺動脈本幹から肺葉・区域動脈に病変を認める(図18A)
•
末梢型:
区域動脈よりも末梢の,小動脈の病変が主体で ある(図18B)さらに,
UCSD
は以下のとおり,PEA
標本に基づく詳細 な分類を提唱している451).• I
型:主肺動脈や葉間動脈に新鮮血栓を認めるもの• II
型:器質化血栓の有無に関わらず,区域動脈の中枢側 に内膜肥厚,線維化組織を認めるもの• III
型:器質化血栓の有無に関わらず,遠位側区域動脈 に限局して内膜肥厚や線維化組織を認めるもの• IV
型:肉眼的な血栓塞栓病変のない,より末梢の細動 脈の病変を認めるものI
・II
型が中枢型に該当し,PEA
のよい適応となるが,III
・IV
型は末梢型で,その限りではない26, 434, 446, 451, 452).UCSD
の症例の8
割以上が中枢型である(I
型37.4%
,II
型49.0%
,III
型12.0%
,IV
型1.6%
)434)のと対照的に,わが 国のCTEPH
はPTE
の既往がはっきりせず,中枢病変が 少なく末梢病変が多いため,PEA
が困難な傾向にある452). この末梢病変に対するPEA
に関しては,最近になってUCSD
でも検討されており,1999
〜2001
年にPEA
を施 行した1,500
人のうち最初の1,000
人中,III
型は13.1%
であったのに対し,それ以降の
500
人では21.4%
まで増 加したにも関わらず成績の悪化を認めなかったことから,末梢型への
PEA
を勧告している434).さらに最近,新たな手術分類(レベル分類)が発表され た453).これは新鮮血栓の有無にかかわらず,主病変の局 在によって,
PEA
の困難度の観点から分類したものである.•
レベル0
:CTEPH
病変を認めない•
レベルI
:左右の主肺動脈から病変が存在する( レ ベ ル
IC
: 片 側 主 肺 動 脈 完 全 閉 塞 を 伴 う,C
;complete
の略)•
レベルII
:葉動脈(上葉枝分岐の末梢)から病変が存在 する•
レベルIII
:区域動脈から病変が存在する•
レベルIV
:亜区域動脈に病変が存在する iii.肺高血圧症,右心機能,その他手術死亡の危険因子として,かつては
PVR
≧1,100 dyne ·
秒·cm
−5,mPAP
≧50 mmHg
が挙げられたが454, 455), 最近ではmPAP
,PVR
ともにPEA
の適応基準の上限値と して定められた値はない26).また,右室は拡大かつ肥大し 壁運動も低下しているが,PEA
により肺高血圧症が改善 すれば縮小し,壁運動も改善する456).その結果,三尖弁 の接合が回復して三尖弁閉鎖不全も改善する457, 458).また,右室機能障害は
PEA
の適応除外の要因にはならない26). 高齢者では心肺機能が低下し,呼吸機能の低下,ほかの併 存疾患なども加わることから,高齢はPEA
の早期死亡の 危険因子の1
つとなりうる452, 459).しかしながら,最近の 高齢者に対するPEA
の成績に極端な悪化はみられず,欧 州心臓病学会(ESC
)/
欧州呼吸器学会(ERS
)の肺高血 圧症診断・治療ガイドライン2015
でも,高齢者に対するPEA
が容認されている26).再手術例460),小児例461),ほ かの心疾患に対する併施手術例462)などにおけるPEA
の 成績も比較的良好である.b.PEAの手術手技 i.術前処置
•
抗凝固療法:
数日前にワルファリンからヘパリンの持続 点滴へ変更する.• IVC
フィルター:
以前はルーチンとされていたが,重症 のDVT
の合併がなければ,最近は使用しない.•
術前薬物治療:
重症肺高血圧症例に対しては,プロスタ サイクリン(PGI
2)の持続点滴463)や薬物治療464)によ り肺高血圧症の緩和を図る.ii.麻酔
重症例では麻酔導入時の低血圧に注意する.
•
肺出血に対応するため,ダブルルーメン・気管チューブ を用いて気道を確保する.•
中心静脈ラインとSwanGanz
カテーテルを挿入する.iii.PEA手術手技445, 446)
•
到達:
胸骨正中切開下に到達する.• ECC
確立・全身冷却:
ヘパリン投与後,上行大動脈送 血,上大静脈(SVC
)・IVC
脱血でECC
を確立する.左 房もしくは左室ベントおよび肺動脈ベントを挿入後,鼻 咽頭・鼓膜温18˚C
へ全身冷却する.頭部を局所冷却す る.•
右房切開:
心房中隔欠損や卵円孔開存があれば閉鎖する.三尖弁の性状も確認する.
•
右側PEA
:剥離面の決定がもっとも重要となる.深いと 外膜損傷につながり,致死的な肺・気道出血の原因とな る.SVC
と上行大動脈のあいだに開創器をかけ,右肺 動脈の前面中央を縦切開する.血栓があれば取り除き,剥離層を見つける.上行大動脈を遮断し心筋保護液を注 入する.
18˚C
でDHCA
として,Jamieson
剥離子を用 いて区域・亜区域動脈に向けPEA
を行う.15
分間のDHCA
と10
分間の全身灌流再開を繰り返す.肺動脈を 二重に縫合閉鎖する.•
左側PEA
:左PA
を肺動脈幹より心膜翻転部まで縦切 開する.右側同様にPEA
を行う.復温を開始し,左肺 動脈を二重に閉鎖する.•
追加手術:
他の心臓手術を要する場合には復温中に施行 する.• ECC
離脱:
肺血流が再開する前に呼気終末陽圧(PEEP
)10 cmH
2O
を開始し,肺の再灌流障害を防ぐ.復温終了 後にECC
から慎重に離脱する.•
その他:
重篤な遺残肺高血圧症や気道出血の場合は経皮 的心肺補助(PCPS
)/
体外膜型人工肺(ECMO
)を装着 する.併せて大動脈内バルーンパンピング(IABP
)を 挿入すれば,拍動流の維持も可能で血行動態が改善す る.iv.術中・術後管理
•
循環管理:
右心機能の低下を認める場合にはドパミン・ドブタミンを併用するが,通常は
0.1
〜0.5
γと多めのノ ルエピネフリンを中心に体血圧≧80 mmHg
を目安に管 理する.心係数2 L /
分/m
2前後のことが多いが,尿量 が確保されていれば十分である.遺残肺高血圧症に対し ては,一酸化窒素(NO
)吸入で対応する.•
呼 吸 管 理: ICU
入 室 後,半 日は 鎮 静 下 にPEEP 10 cmH
2O
の人工呼吸管理とする.この間に強制利尿を図 り,肺の再灌流障害やECC
やDHCA
の影響を取り除く と,徐々に肺高血圧症の改善がみられ,通常は24
時間 以内に抜管が可能となる.•
抗凝固療法:
術後第1
病日より未分画ヘパリンの持続点 滴を開始し,ワルファリンの経口投与へ移行する.•
術後リハビリテーション: ICU
退出後は一般病棟で徐々 に離床を進め,2
週間程度のリハビリテーションを行っ てから退院となる.酸素療法からは緩徐に離脱を図る.c.PEAの成績 i.早期成績
適応基準の確立や手技・周術期管理の向上,経験の蓄 積などによって,