45
のリン酸化に関与しているのはJAK1とJAK2であるが、JAK間での選択性確認 のため、JAK1, JAK2に加え、JAK3の評価も併せて行った。
NQ801のJAKキナーゼ阻害活性の結果をFigure 35に示す。NQ801は、JAK1,
JAK2, JAK3に対して顕著な阻害活性を示さなかった。
Figure 35. NQ801のキナーゼ阻害活性
同様にBBI608はJAK1, JAK2, JAK3に対して阻害活性を示さなかった。
Figure 36. BBI608のキナーゼ阻害活性 0
20 40 60 80 100 120
0.1μM 1μM 10μM 100μM
Kinaseactivity(%)
NQ801
JAK1 JAK2 JAK3
0 20 40 60 80 100 120
0.1μM 1μM 10μM 100μM
Kinaseactivity(%)
46
第5節 STAT3およびSTAT1のSH2ドメインに対するバインディングアッセ
イ
NQ801およびBBI608はJAK1, JAK2, JAK3に対して顕著な阻害活性を示さな
かったことから、次にSTAT3のSH2ドメインに対する結合能をTR-FRET assay で評価した。33)
STAT3のSH2ドメインはIL-6Rのリン酸化部位の認識ならびに、リン酸化さ
れたSTAT3がホモダイマーを形成する際に相手側のリン酸基を認識する部位で
ある。このことからまず、IL-6R (gp130)の部分構造(ホスホペプチド)を文献に 従い合成した。33b) このホスホペプチドを蛍光団である FAM で標識して評価 に用いた(Figure 37)。STAT1は、IFN-γの刺激によりリン酸化されていることが 知られている。STAT1はIFN-γのリン酸化チロシンをSH2ドメインで認識する。
STAT3とSTAT1の選択性について評価するため、IFN-γにリン酸化チロシンを
含むペプチド配列とそのFAM標識体についても同様に合成し、バインディング アッセイの材料とした(Figure 38)。
47
Figure 37. FAM-Gly-pTyr-Leu-Pro-Gln-Thr-Val-NH2 および Ac-Gly-pTyr-Leu-Pro-Gln-Thr-Val-NH2の構造(gp130由来)
48
Figure 38. FAM-Gly-pTyr-Asp-Lys-Pro-His-Val-Leu-NH2 および Ac-Gly-pTyr-Asp-Lys-Pro-His-Val-Leu-NH2の構造(IFN-γR由来)
49
一方、STAT3はGSTタグを融合させたリコンビナントタンパク質を準備した。
FAM-Gly-pTyr-Leu-Pro-Gln-Thr-Val-NH2 と GST 融合 STAT3 が結合した状態で
340 nm の励起波長で光照射すると FAM からテルビウムへのエネルギー遷移が
起こり、その結果として490 nmおよび520 nmでの蛍光が観察される。SH2ド メインに結合する低分子が存在する場合、490 nmおよび520 nmの蛍光が減弱す るため、その蛍光強度から SH2 ドメインでの拮抗阻害を評価するアッセイ系で ある。
Figure 39. IL-6刺激によるJAK/STAT経路の伝達
バインディングアッセイの結果をFigure 40に示す。NQ801は100 µMでの高
濃度でSTAT3に対して阻害率30.8%の部分的な阻害が認められるのみであった。
一方、STAT1のSH2ドメイン対しては拮抗阻害を認めなかった。
50
Figure 40. STAT3のSH2ドメインに対するバインディングアッセイの結果
51
第6節 AutodockによるSTAT3中の結合部位の推定
第2節では、NQ801およびBBI608がSTAT3のリン酸化を抑制することを示
し、第4 節ではNQ801 と BBIは JAKキナーゼへの阻害活性を有しないこと、
第5節ではNQ801はSTAT3のSH2ドメインへの結合能を有していないことを
明らかにした。そのことから、NQ801はBBI608 と同様にSTAT3 のhinge領域 に結合している可能性がある。STAT3 の hinge 領域へ結合の推定のため、
Autodock 4.2.6によるドッキングシュミレーションを行った。
低分子については、Chem 3D による MM2 計算で再安定のコンフォメーショ ンを算出して用いた。STAT3タンパク質の立体構造については、マウスSTAT3 ダイマーとオリゴDNA の共結晶である 1BG1を用い、Autodock 4.2.6 でドッキ ングシュミレーションを実施し、PyMOLでビジュアル化を行った。34)
52
第1項 NQ801の結果
NQ801のドッキングシュミレーションの結果をFigure 41に示す。NQ801はリ
ンカードメイン(緑)とDNAバインディングドメイン(マゼンタ)の間かつDNA
(オレンジ)の近傍に入り込んでいる。さらにAsp334(主鎖NH), Arg335, Asp570,
Lys573, Lys574との水素結合形成が示唆された。
Figure 41. NQ801の推定結合部位
また、もっともクラスターランクの高いバインディングポーズの Mean Binding Energyは–6.14 kcal/molであった。
53 Cluster
rank
Lowest Binding Energy (kcal/mol)
Run Mean Binding
Energy (kcal/mol)
Num in clus
1 -6.21 88 -6.14 75
2 -6.04 12 -6.04 1
3 -5.90 63 -5.75 8
4 -5.64 57 -5.34 5
5 -4.96 75 -4.95 11
6 -4.96 51 -4.96 1
N-terminal Domain (red), Coiled-coil Domain (cyan), DNA-binding Domain (Magenta), Linker Domain (green), SH2 Domain (yellow), Transactivation Domain (blue), DNA (orange)
54
第2項 BBI608の結果
BBI608のドッキングシュミレーション結果を Figure 42に示す。NQ801 ど同
様にhinge領域への結合が示唆され、Boston Biomedical Inc,のX線構造解析結果 ならびにSabanésらall-atom molecular dynamic (MD) simulationによる解析結果と 良好な一致を示した。もっともクラスターランクの高いバインディングポーズ のMean Binding Energyは–6.58 kcal/molであった。
Figure 42. BBI608の推定結合部位
Cluster rank Lowest Binding Energy (kcal/mol)
Run Mean Binding
Energy (kcal/mol)
Numin clus
1 -6.58 75 -6.58 88
2 -6.27 77 -6.14 5
3 -5.92 23 -5.90 7
55 第3項 化合物25の結果
同様に 25 についてもドッキングシュミレーションを実施し、hinge 領域への 結合が示唆され、もっともクラスターランクの高いバインディングポーズの Mean Binding Energyは–6.57 kcal/molであった。
Figure 43. 化合物25の推定結合部位
Cluster rank Lowest Binding Energy
Run Mean Binding
Energy
Num in clus
1 -6.71 3 -6.57 87
2 -5.55 10 -5.54 9
3 -5.20 12 -5.19 4
56 第4項 化合物26の結果
同様に 26 ついてもドッキングシュミレーションを実施し、hinge 領域への結 合が示唆され、もっともクラスターランクの高いバインディングポーズのMean Binding Energyは–6.06 kcal/molであった。
Figure 44. 化合物26の推定結合部位
Cluster rank Lowest Binding Energy
Run Mean Binding
Energy
Num in clus
1 -6.41 59 -6.06 68
2 -5.80 47 -5.65 15
3 -5.51 100 -5.50 3
4 -5.33 6 -5.32 14
57 第5項 【参考】4化合物の重ね合わせ
第1項~第4項で述べたNQ801、BBI608、化合物25、化合物26のSTAT3に対 するバインディングポーズの重ね合わせをFigure 45に示す。
Figure 45. 4化合物の重ね合わせ
58
第7節 レポータージーンアッセイによるNQ801およびBBI608の評価 第1項 レポータージーンアッセイの概略
第1節から第5節にかけて、ナフトキノン類の JAK/STAT 経路への阻害活性 を評価し、フラノナフトキノン骨格がSTAT3のリン酸化抑制に必要な部分構造 であることならびに、JAKキナーゼ阻害活性を有しないことならびにSTAT3の SH2ドメインへの結合能を有していないことを明らかにし、さらにはSTAT3の
Hinge 領域へ結合している可能性を Autodock によるシュミレーションで明らか
にした。そのことからNQ801およびBBI608がJAK/STAT 系の下流のシグナル についても阻害しているかを確認することを目的としてレポータージーンアッ セイを実施した。
レポータージーンアッセイとは、レポーター遺伝子と呼ばれる遺伝子を細胞 に導入し、ある特定の転写産物の量を吸光度もしくは発光強度を用いて評価す るアッセイ系のことで、吸光度検出の場合はSEAP (Secreted Alkaline Phosphatase, 分泌型アルカリフォスファターゼ)が、発光検出の場合はルシフェラーゼが汎用 される。
本研究で用いた HEK-Blue IL-6 assay kit に含まれる HEK-Blue IL-6 細胞は、
HEK293 細胞に、SEAP(分泌型アルカリホスファターゼ)レポーター遺伝子があ
らかじめ導入された細胞である。IL-6刺激によりJAK/STAT経路が活性化され、
SEAPが細胞外に放出されるが、JAK/STAT経路を阻害する低分子化合物が共存 する場合そのSEAP産生量が低下する。
59
Figure 46. HEK-Blue IL-6細胞によるレポータージーンアッセイの概略
HEK-Blue IL-6細胞は、SEAP をコードしたレポーター遺伝子が導入済みの細
胞であること、その遺伝子発現が安定‡‡‡であること、キットとして購入可能であ ることから今実験で使用した。
‡‡‡ ここでいう「安定とは」HEK293細胞に組み込まれた外来遺伝子がstableである。すなわち
一過性ではなく継代を繰り返しても外来遺伝子が失われないことを意味している。なお、HEK-Blue-IL-6細胞は継代の際に外来遺伝子を失ったHEK293細胞に対して選択的に毒性を発揮する
抗生剤カクテル(HEK-BlueTM Selection)を共存させることによりアッセイ系の品質を担保してい る。
60 第2項 IL-6濃度の最適化
Figure 47. IL-6濃度の最適化
レポータージーンアッセイの実施に際し、まずは IL-6濃度の設定を行った。
HEK-Blue IL-6 アッセイキットに記載されている IL-6 の推奨濃度は 0.03 – 10
ng/mLであることから、0.03 – 30 ng/mLの範囲でIL-6の至適濃度を検討した。3
ng/mLのときに最大濃度(30 ng/mL)の8割程度の吸光度が確認されたことから3
ng/mLに決定した。
第3項 化合物の濃度設定
第 1 項で述べたレポータージーンアッセイの原理上、評価化合物が細胞毒性 を有している場合、細胞は死滅しSEAPは産生されなくなることから「フォルス ポジティブ」として検出される。そのことから、NQ801とBBI608のレポーター ジーンアッセイによる評価に先立ち、HEK-Blue IL-6 細胞に対しての NQ801 と BBI608の成長阻害をWST8 assayで評価した。
0 20 40 60 80 100 120
30 10 3 1 0.3 0.1 0.03
(%)
濃度(ng/mL)
61
Figure 48. HEK-Blue IL-6細胞に対するNQ801の成長阻害
Figure 49. HEK-Blue IL-6細胞に対するBBI608の成長阻害
NQ801は1 µMから濃い濃度で、BBI608は3 µM から濃い濃度で顕著な成長
阻害が確認されたためレポータージーンアッセイはより低濃度の0.1 µMで評価 し、レポータージーンアッセイで用いた96 wellプレートで WST8 assayも併せ て行うことにより1 µMでの評価も併せて実施した。
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4 0.45
30µM 10µM 3µM 1µM DMSO
NQ801
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4 0.45
30µM 10µM 3µM 1µM DMSO
BBI608
62 第4項 ポジティブコントロールの選定
レポータージーンアッセイ実施に当たり、ポジティブコントロールとしてバ リシチニブ (11)を用いた(Figure 8)。バリシチニブは第 1章で第5節で述べたと おり、臨床応用されているJAK 阻害剤である。イーライリリーで創薬された経
口のJAK1/JAK2阻害薬であり、細胞毒性が少ないことならびにJAK/STAT経路
への阻害活性が強力であることが選定の根拠である。
第5項 レポータージーンアッセイの結果
NQ801およびBBI608のレポータージーンアッセイの結果をFigure 50に示す。
NQ801は0.1 µMおよび1 µMの濃度においてJAK/STAT経路への阻害活性を示
さなかった。同様にBBI608 は0.1 µM および1 µM の濃度において阻害活性を 示さなかった。なお、レポータージーンアッセイで用いた同一の96-wellプレー
トでWST8 assayを実施し、0.1 µMおよび1 µMの濃度域において、NQ801およ
びBBI608 はほとんど細胞毒性を示さなかった(Figure 51)。第5章第2節で議論
した通り、ウェスタンブロットでNQ801およびBBI608は用量依存的にSTAT3 のリン酸化を抑制したが、レポータージーンアッセイでは化合物の細胞毒性の ため、1 µMよりも高い濃度ではアッセイを実施することができなかった。その 理由は不明であるが、バリシチニブがほとんど毒性を示していないことから、
NQ801 および BBI608 の JAK/STAT 経路以外のオフターゲットへの影響は懸念
事項として挙げられる。