較検討した(Figure 30)。
-15 0 15
200 250
[θ ] x 10-3
(deg·cm
2·dmol-1)
Figure 30. Far UV CD spectra of native and modified AGPs
Each line represents native AGP (solid line), A-AGP (dashed and bold line), R-AGP (dotted line) and RA-AGP (bold line) respectively.
Wavelength (nm)
Figure 30に4種のAGPの遠紫外領域におけるCDスペクトルを示す。A-AGP では、未処理 AGP との間に明確な差異はほとんど認められなかった。したが って、シアル酸は生理的条件下では、AGP の構造に影響を及ばさないものと考 えられた。また R-AGP の場合は、コットン効果の減少と短波長シフトが観察 されたことから、ネイティブ構造中で認められたβ-シート構造の大きな崩壊が 示唆された。A-AGP は未修飾 AGP とほぼ同じ挙動を示したことから、RA-AGP においても R-AGP と類似した立体構造を示すことが予測された。しかしなが ら、興味深いことに RA-AGP では、pH4.0、40%メタノール存在下や強酸、高 イオン強度条件下で観察されたモルテングロビュール状態でのそれと質的に類 似していた。このことは、RA-AGPがAGPの生理的 pH条件下におけるモルテ ン・グロビュール構造のモデルになる可能性を強く示唆しているものと思われ た。
2-2 キナルジンレッドの結合性評価
AGP のモルテン・グロビュール状態における薬物結合サイトの構造状態を調
べることは、生体膜表面での AGP の薬物結合性を知る上で極めて重要である と思われる。そこで、AGP 分子上の薬物結合サイトに特異的に結合し発蛍光性 を示すことが知られているキナルジンレッドを用いて73-75)、各修飾AGPの薬物 結合性について蛍光スペクトルを測定した(Figure 31)。未修飾及びA-AGPは キナルジンレッドの結合に基づく 582nm にピークを持つ蛍光スペクトルを示し た。一方、R-AGP と RA-AGP では長波長シフトとともに蛍光強度の著しい低 下が観察され、結合性の低下が示された。この結果は、AGP はモルテン・グロ ビュール状態においては、もはや薬物結合サイトを保持していないことを示唆 しているものと考えられた。
0 0.1 0.2 0.3
500 700
Figure 31. Fluorescence spectrum of Quinaldine Red in the presence of native AGP (solid line), AA G P ( d a s h e d l i n e ) , R AA G P ( b o l d l i n e ) a n d R AA -AGP (dashed and bold line)
Fluorescence intensity (arbitrary unit) Wavelength (nm)
2-3 CDスペクトルの時間依存的変化
タンパク質の S-S 結合は、その構造形成や安定性に大きく寄与している一方 で、フォールディングにおける S-S 結合の形成反応は、速度論的に大きく左右
される 76-82)。S-S 結合を含まなかったり、ネイティブな S-S 結合が保持されて
いる小さなタンパク質の場合、変性状態からのフォールディング反応は非常に 速い(ミリ秒から分)。これに対して、フォールディングが S-S 結合の形成を 伴う場合には、一般に再生速度は遅い(分から時間) 83,84)。そこで、RA-AGP
のコットン効果の時間依存性を調べた。Figure 32 にCD スペクトルの二次構造 の指標である遠紫外領域のスペクトル結果を示す。その結果、興味深いことに、
RA-AGP のα-ヘリックス構造形成過程は、pH4.0、40%メタノール存在下の時と
同様に、素早い形成部位と数時間オーダーのゆっくりと形成される部位から成 り立っていることが推察された。また、データには示していないが、他の修飾 AGP についても同様の検討を試みたところ、このような時間依存性は認められ なかった。
Figure 32. T i m e dependence of far UV CD spectra of RA-AGP at pH7.4
-15 -10 -5 0
200 250
Wavelength (nm)
- [θ ] x 10-3
(deg·cm
2·dmol-1)
0hr
12hr
2-4 α-ヘリックス構造形成に及ぼすヒスチジン(His)残基の影響
RA-AGP を用いた検討から、AGP のα-ヘリックス構造形成には二つの過程が 存在することが示唆された。そのため、このような二つの折りたたみ過程にAGP のどの部位が関与しているのかを明らかにすることは、α-ヘリックス構造形成 部位を解明する上で非常に興味深い。Barrick らはアポミオグロビンの折りたた み過程のうち、モルテン・グロビュール状態の形成過程において、分子内に存 在する二つの His 残基間の水素結合の崩壊が反応の引き金であること、言い換 えれば水素結合形成がフォールディング反応における律速段階である可能性を 示唆している 85,86)。そこで、AGP 分子内に存在する三つの His 残基のうち、ど の残基がこのようなα-ヘリックス構造形成に関与しているのかを知るために、
各種変異体(H97A、H100A、H172A)を作製し、遠紫外領域における CD スペ クトルを測定した(Figure 33)。
-15 0 15
200 250
[θ ] x 10-3
(deg·cm
2·dmol-1)
Wavelength (nm)
Figure 33. Far UV CD spectra of hAGP ( ), WT ( ), H97A ( ), H100A ( ), H172A ( ) and RA-AGP (0hr)( )
その結果、H97A 及び H100A においては、hAGP や WT(野生型)と類似し た二次構造を形成していることが示唆された。一方、H172A の構造は、hAGP やWTと大きく異なり、RA-AGPの初期の段階(0hr)の構造に極めて類似して いたが、RA-AGP で観察されたようなゆっくりと折りたたまれる過程は存在し なかった。AGP の立体構造モデリングや他のリポカリンファミリーに属するタ ンパク質の構造的特徴から、His172 周辺は本来α-ヘリックス構造を形成してい る可能性が高い 3)。そのため、AGP のα-ヘリックス構造形成過程では、His172
を含むα-ヘリックス構造部位が核となり、その後の折りたたみ過程が進行する
ものと考えられた(Scheme 2)。また、Dominguezらは、熱力学的観点からAGP の熱変性に中間体が存在し、この構造転移が C 末端の非常に柔軟性に富んだ領 域において起きている可能性を報告していることから 87)、AGPのα-ヘリックス 構造形成においては天然状態における His172 を含む C 末端領域のα-ヘリック
スが重要である可能性が考えられた。
Pre α-helix form
Scheme 2. Proposed model for α-helix formation mechanism of AGP
Participation of His172 (local interaction)
α-Helix form Unfold state
Formation of β-sheet structure and S-S bond
Native (β−Sheet form)
第3節 小括
本章では、AGP と生体膜の相互作用において観察されたβ-シート構造からα -ヘリックス構造への転移過程に及ぼすシアル酸と S-S 結合の影響について、各 種修飾AGPを用いて検討を行った。以下に本章で得られた知見を要約する。
1)AGPの糖鎖先端に存在するシアル酸を除去したA-AGPの構造は、未修飾AGP と比較して極めて類似していたものの、S-S結合を還元したR-AGPにおいては、
その構造は大きく崩壊した。さらに両修飾を施した RA-AGPの構造特性は、ア ルコール存在下や強酸、高イオン強度条件下で観察されたモルテン・グロビュ ール構造と極めて類似していた。これらの結果より、RA-AGP が生体膜近傍で
観察されたα-ヘリックス構造体の有用なモデルになり得ることが示唆された。
2)RA-AGPで観察されたAGPのα-ヘリックス構造の形成過程には、pH4.0、40%
メタノール存在下の時と同様に、素早く折りたたまれる過程と、数時間かけて ゆっくりと折りたたまれる過程の二段階からなることが示唆された。また、変 異体を用いた検討から、AGP 分子内に存在する His172 が重要な役割を担って いる可能性が示唆された。
本章で得られた結果は、生体膜近傍での AGP のα-ヘリックス構造形成にお いて、周囲の環境としては疎水相互作用が大きく関与している一方で、AGP 分 子内においては、His残基が重要な役割を担っている可能性が示唆された。