• 検索結果がありません。

可能性が示唆された。また、生体膜との相互作用により、AGP 結合性リガンド であるプロゲステロンの AGP への有意な結合率の低下が観察された。これら の結果は、逆相ミセルを用いた検討から得られた結果と合わせて考えると、AGP 介在性のリガンドの組織への取り込み機構が存在することを更に強く示唆する ものと思われた。さらに、これまで確立されていなかったAGPの発現系を、Pichia 酵母を用いて構築し、発現した rAGP が hAGP と極めて類似した構造及び機能 特性を有することが示唆された。この発現系により作製したTrp変異体(W25A、

W122A及びW160A)を用いた検討から、AGPは生体膜と相互作用した際、Trp25

及び Trp160 を膜内部の疎水性領域に、Trp122 を膜外部に位置して複合体を形

成していることが示唆された。(第3章)

3)生体膜近傍の環境と類似した pH4.0、40%メタノール存在下、AGP の α-ヘ

リックス構造への転移が観察された。この過程は素早く折りたたまれる過程と、

ゆっくりと折りたたまれる過程の二段階からなることが示唆された。さらに、

その他の第一級及び第二級アルコールを用いた検討から、AGP のα-ヘリックス 構造形成には疎水相互作用がその駆動力として作用していることが示唆された。

また、強酸、高イオン強度条件下においても、アルコール存在下と類似したAGP

の新たなα-ヘリックス構造形成が観察された。これは、強酸条件下による正電

荷間の反発が高イオン強度条件下において中和され、相対的に疎水相互作用が 強められた結果、α-ヘリックス構造が形成されたものと推察された。これらの 結果は、生体膜との相互作用で観察された AGP のα-ヘリックス構造形成が膜 内部での疎水相互作用によるという考えを強く支持するものと思われた。(第 4章)

4)シアル酸の除去及びS-S結合の還元を施した還元型アシアロAGP(RA-AGP)

の構造特性は、アルコール存在下や強酸、高イオン強度条件下で観察されたモ ルテン・グロビュール構造と極めて類似していたことから、RA-AGP が生体膜 近傍で観察されたα-ヘリックス構造体の有用なモデルになり得ることが示唆さ れた。また、RA-AGP を用いた検討から、α-ヘリックス構造の形成過程には、

pH4.0、40%メタノール存在下の時と同様に、素早く折りたたまれる過程と、数 時間かけてゆっくりと折りたたまれる過程の二段階からなることが示唆された。

また、変異体を用いた検討から、AGP 分子内に存在する His172 がα-ヘリック

ス構造形成に重要な役割を果たしていることが示唆された。(第5章)

 以上、述べてきたように、AGPは生体膜表面に静電的相互作用により結合し、

本来のβ-シート構造からα-ヘリックス構造へ転移し、それに伴い薬物結合能が

有意に低下することが示唆された。この相互作用において、生体膜近傍での緩 和な酸性条件下における AGP の特殊な構造変化が、その引き金になる可能性 が考えられた。また、生体膜との相互作用により、AGP の一部が生体膜内部に 挿入され、その結果、膜内部で疎水相互作用によりα-ヘリックス構造を形成す る可能性が考えられた。さらに、このα-ヘリックス構造形成には AGP 分子内 のHis残基が重要な役割を担っているものと思われた。

 これらの知見は、AGP 結合性薬物のタンパク結合を指標とした適正使用を考 える上で有用な基礎情報になり得るとともに、未だ解明されていない AGP の 生理機能発現との関わりを考える上でも非常に興味深いものと思われる。

実験の部

1. 試料

 AGP はシグマ社のものを、Ganguly らの方法に従って脂肪酸を除いた 88)。脱 脂後透析し、SDS-PAGE で単一バンドであることを確認した後に使用し、その 平均分子量を 44,100と仮定した。プロゲステロン、クロルプロマジン、ワーフ ァリン及びジクマロールはシグマ社より購入した。プラスミド精製キット

(QIAGEN Plasmid Maxi Kit, QIAprep Spin Miniprep Kit)はキアゲン社より購入 した。各種制限酵素、アルカリフォスファターゼ(E. Coli C75)、DNA ライゲ ーションキット(DNA Ligation Kit Ver. 1)、DNA ポリメラーゼ(Premix Taq (Ex Taq Version)、Glycopeptidase F(GPF)はタカラ酒造より購入した。DNA シー ケンス用試薬(Dye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit)はパーキ ンエルマー・アプライドバイオシステム社より購入した。Pichia  Expression キ ッ ト は イ ン ビ ト ロ ゲ ン 社 よ り 購 入 し た 。 Quickchange®  XL  Site-Directed Mutagenesis  Kit はストラタジーン社より購入した。その他の試薬、溶媒類はす べて市販特級品を使用し、溶媒としての水はイオン交換水を使用した。緩衝液 はリン酸及び酢酸の緩衝液を使用した。

2. 界面活性剤/イソオクタン /水の逆相ミセルの調製

 逆相ミセル内への AGP の取り込みは,Luisi と Steinmann-Hofmann の方法に 従って、注入法(injection method)により行った 89)。逆相ミセル溶液は、秤量 した界面活性剤に必要量のイソオクタンを加えて振とうした後、このミセル溶 液中に適当な容量の水をハミルトンマイクロシリンジで添加し、溶液が透明に なるまで振とうして調製を行った。この際、界面活性剤濃度に対する水濃度の 比、つまりWo値(Wo=[界面活性剤]/[水])は20で調製した。

 逆相ミセルは光学的に透明であるので、AGPの濃度は水溶液中の場合と同様、

比吸光度 E(278nm)=8.93 を使用して、吸光度を測定することにより算出し

た。

3. 蛍光消光法による薬物結合パラメータの算出

 薬物滴下による蛍光滴定曲線は励起波長 295nm、蛍光極大波長 340nm近傍に おける Trp 残基由来の AGPの蛍光強度をプロットして得られた。2mL の AGP

(10mM)に 0.1〜60mM になるように薬物を滴下した。なお、体積変化に伴う AGP 濃度の変化は、Attallah と Lata の方法に従って、蛍光強度の補正を行った

90)。得られた蛍光滴定曲線から薬物の低濃度( 0.1〜5mM)及び高濃度(40〜

60mM)に対して直線をひき、その交点サイト数 n を求め,式(1)〜(6)に

従って処理し、結合定数Kaを算出した。

Pf + n・Df P・Dn

Ka= [P・Dn]

[Pf]・[Df]

[P・Dn]=△Qf・[Pt]

[Pf]=[Pt]・(1-△Qf)

[Df]=[Dt] - n・△Qf・[Pt]

Ka= △Qf

(1-△Qf)([Dt] - n・△Qf・[Pt])

(1)

(2)

(3) (4) (5)

(6)

 ここで、Ptは総タンパク質濃度を、Dt、Dfはそれぞれ総薬物濃度及び遊離型 薬物濃度を、nは結合サイト数を、△Qfは消光係数を表している。

 式(1)〜(5)から導かれた式(6)に従って、結合定数Kaが算出される。

4. CDスペクトル法

 CDスペクトル測定は日本分光製J-720分光偏光計を利用して行った。測定は

25℃で、AGP は 10µM 濃度で行い、遠紫外領域(200〜250nm)では 0.1cm セ ルを用いた。平均残基モル楕円率([θ])の算出法としては、糖タンパク質の糖 鎖部分(分子量の約 43%に相当)は CD スペクトルに影響を示さないので、ペ プチド部分の平均残基分子量を119として下式に従い算出した。

C r = [AGP](%) x 10 x (1-0.43) 119

[θ] = 100 x θ obs 1 x Cr

 ここで、Crは平均残基モル濃度(mol/L)、θobsは見かけの楕円率、lは透過 距離(セル長、cm)を表す。

5. 蛍光スペクトル法

蛍光スペクトルは日本分光製 FP-770 型分光蛍光光度計を用いて、励起側、

発光側の分光器のスリット幅は実験条件に応じて 5nm,10nm に設定して測定 した。スペクトルの補正は分光蛍光光度計用ローダミン B 試薬(和光純薬工業 社製)を使用して行った。さらに、蛍光強度の補正として Lakowicz の方法に より下式に従って行った91)

F=(Fobs)・antilog[(Aexc+Aem)/2]

 ここで、Fobs はみかけの蛍光強度を、 Aexc と Aem はそれぞれ励起波長

(295nm)と蛍光波長(340nm)における吸光度を表している。

6. リポソームの調製

6-1. 超音波処理によるSUV(small unilamellar vesicle)の調製92)

 脂質をクロロホルムで溶解し、これを窒素置換下で乾留した。得られた脂質

フィルムを buffer で溶解後、超音波処理を行った。次いで 3000rpm、10 分間遠 心を行い、チタニウムを沈殿させSUVを得た。

6-2. メタノール注入法によるSUVの調製93)

 脂質をメタノールに溶解し、マイクロシリンジにより脂質溶液を水溶液中に 攪拌しながら注入し、SUV を得た。また、SUV 溶液に残留するメタノールは 透析によって除去した。

7. AGP-リポソーム結合実験 94)

 リポソーム-AGP 混合溶液を超遠心機で 50,000rpm、2 時間遠心し、リポソー ム-AGP 複合体を沈殿させ、上澄みの非結合形 AGP 溶液を回収し、この溶液を

Bradford法95)で定量することによって、リポソームに対するAGPの結合率を算

出した。見かけの結合定数(Ka)は下式に従って算出した。

Ka = [AGP]bound / [AGP]free[Lipid]

 ここで,[Lipid] はリポソームの総濃度の半分である表面の脂質濃度を示す。

8. 変異体の作製

 各 変 異 体 は 、Braman ら の 方 法 に 従 い 、 Quickchange®  XL  Site-Directed Mutagenesis  Kit を用いて作製した 96)。この方法では、鋳型 DNA として任意の 二本鎖 DNA を使用できる。そのため、AGP の cDNA を挿入した pPIC9 を鋳型 DNA として、各変異導入プライマーを用いて、PCR により変異導入を行い、

シークエンス解析(ABI Prism 310 Genetic Analyzer:  パーキンエルマー・アプラ イドバイオシステム社)により変異導入を確認した。

9. アシアロ AGP の調製

 アシアロAGPはOkaとWeigelの方法に従って、AGPをClostridium perfringens 由来のノイラミニダーゼ(Type VI-A、シグマ社)で処理して調製した97)。AGP 溶液(0.1M 酢酸緩衝液、pH5.0、10mg/mL)にノイラミニダーゼ(緩衝液 5mL

中に 0.2unit)を加え、37°Cで約 20 時間撹拌した。その後、8µm のフィルター

でノイラミニダーゼを取り除き、そのろ液をイオン交換水中で透析後、凍結乾 燥した。調製したアシアロ AGP の脱シアル酸含量は、透析前の反応溶液をチ オバルビツール酸法で算出した98)

 その結果、除去されたシアル酸は AGP1 モルあたり約 15 モルと算出され、

少なくとも 90%以上のシアル酸が除去されたことが確かめられた。また、アシ アロAGPの分子量は40,000と仮定した。

10. Stern-Volmer解析

 Stern-Volmer 解析は、消光分子として非イオン性で低分子のアクリルアミド

(M.W. 71.08)を用いて、以下の Stern-Volmer 式に従って行った。なお、イン ナーフィルター効果を最小限にするため、タンパク質溶液は 1µM の低濃度で 行ったが、蛍光強度の補正はLakowiczの方法により下式に従って行った91)

Fo/F=1+Ksv・[Q]

F=(Fobs)・antilog[(Aexc+Aem)/2]

 ここで、Fo は消光分子非存在下における蛍光強度、Fobs は蛍光強度の測定 値、F は各消光分子濃度における補正後の蛍光強度、Aexc と Aem はそれぞれ 励起波長(295nm)と蛍光波長(340nm)における吸光度、[Q]は消光分子の濃 度、KsvはStern-Volmer定数である。

関連したドキュメント