A4.1 非デリバティブ金融商品
A4.1.1 固定金利債券などの非デリバティブ金融商品のうち、純損益を通じて公正価値
(FVTPL)で会計処理されるものが、管理対象ポートフォリオに含まれる場合が ある。ここまでPRAの適用に関して議論してきた包括利益計算書上の表示は、包 括利益計算書において「動的リスク管理からの再評価の影響」と呼ばれる新たな 科目で表示すべき公正価値変動についてのものであった(セクション 6.1 参照)。 IFRS第9号「金融商品」もIAS第1号「財務諸表の表示」も、FVTPLに分類さ れた金融商品についての公正価値の変動を、純損益においてどこに表示すべきか は定めていない。したがって、PRAの適用に関して管理対象エクスポージャーと 考えられていて、FVTPLで会計処理されている非デリバティブ金融商品のすべて の公正価値変動を、動的リスク管理からの再評価の影響として表示すべきなのか どうかという疑問が生じる。あるいは、この表示は、管理対象リスクに起因する 公正価値変動についてだけ要求すべきなのであろうか。
A4.1.2 例えば、ある銀行が契約上のキャッシュ・フローを回収する目的で社債を購入す
るが、キャッシュ・フローの性質により当該債券がIFRS第9号ではFVTPL に 分類されるとする。当該債券を購入した事業単位は、当該契約上のキャッシュ・
フローを回収し信用リスクを管理する責任があるが、金利リスクは動的リスク管 理のためにALMに移転される。ALMは、当該債券を含む管理対象ポートフォリ オからの金利リスクを管理する。当該債券の信用リスクに大きな変動(その影響 は、当該金融商品が FVTPL で測定されるので、認識されることになる)があっ たと仮定すると、問題は、信用リスクによる公正価値の変動について、どの表示 が動的リスク管理活動に関する最も有用な情報を提供するのかである。
A4.1.3 第1の代替案は、信用リスクに起因する公正価値の変動を「動的リスク管理から
の再評価の影響」の科目に含めることである。しかし、おそらくは、こうした表 示は財務諸表利用者にとって混乱を招くことになる。再評価の影響の決定要因は、
管理対象リスクの動的リスク管理とは関連がないからである。
A4.1.4 第2の代替案は、管理対象リスクに起因する公正価値変動を分離して別個に表示
することであり、これはリスク管理をより適切に表す情報をもたらすはずである が、運用面での影響がある。これは、別個の計算が必要となることを意味する。
A4.1.5 多少類似したプロセスがIFRS第9号に含まれており、自己の信用リスクの変動
に起因する一部の金融負債の公正価値の変動を、純損益ではなくOCIに認識する ことを要求している43。したがって、公正価値変動の分解についての前例がある。
しかし、自己の信用の適切な会計処理について決定した際には、IASB はこの信
43 IFRS第9号の5.7.7項は、金融負債を公正価値オプションによりFVTPLに指定した場合には、自己 の信用に起因する公正価値の変動を通常はOCIに認識することを要求している(限定的な例外あり)。
用の影響を分離することの複雑性に留意し、したがって、狭い対象にだけ適用可 能とすることを図った。議論しているPRAにおける公正価値変動の分解は、純損 益への正味の影響はない44。むしろ、純損益の中での表示を変更するものである。
A4.2 内部デリバティブ
A4.2.1 このセクションでは、PRAの中でリスク管理目的に使用される内部デリバティブ
の役割を議論する(セクション6.2参照)。
A4.2.2 銀行は通常、リスク管理(又はALM)とトレーディングを区分している。同様の
金融商品を使用する場合もあるが、これら 2種類の業務は、事業目的が非常に異 なっている。銀行の動的金利リスク管理の主要な目的は、銀行の融資及び資金調 達(バンキング勘定)活動からの正味金利収益を管理して、マージンを望ましい 程度まで金利の変動に対応させることである。これと対照的に、トレーディング・
ユニットはトレーディング利益目的を有している。
A4.2.3 セクション6.2で議論したように、PRAを適用する際の内部デリバティブの純損
益での総額表示は、動的リスク管理とトレーディングの活動に関する情報を別々 に表示することになる。トレーディング勘定ポジションの性質により、内部デリ バティブを通じて ALM に移転されたリスクの結果として生じるトレーディン グ・ユニットが行う具体的な外部活動を分離することは、実行可能でないと予想 される。したがって、企業が内部デリバティブ取引の実際の外部化を立証するこ とは運用面で実行可能ではないと考えられる。
A4.2.4 PRAの適用は、内部デリバティブの純損益への影響を変化させない。すべての内
部デリバティブの影響は、連結純損益では完全に相殺され、財政状態計算書では 消去されることになる45。
A4.2.5 トレーディング・ユニットが移転されたリスクを外部の相手方と完全に相殺しな
い場合でも、以下の例で示すとおり、内部デリバティブの存在によりPRAの適用 を通じての動的リスク管理活動の表現が容易となる。
A4.2.6 ある銀行のPRAの適用の範囲が、動的リスク管理に焦点を当てたものである(そ
のため、すべての動的に管理されているエクスポージャーがPRAに含められる)
と仮定する。ある事業単位が、CU100を3年間にわたり5%の金利で外部顧客に 貸し付けた。ALMはこの事業単位に固定金利の資金を提供し(銀行の資金調達コ ストに基づいて価格設定)、これにより当該事業単位は貸付マージンを固定するこ とができる。ALMは変動金利で資金を調達しているため、トレーディング・ユニ
44 これは、セクション9で記述した代替的アプローチ(OCIを通じてのPRA)を考える場合には当て はまらない。このアプローチにおいて公正価値変動を分解して、管理対象リスクに起因する公正価値 変動をOCIに認識する場合には、純損益に正味の影響があることになる。
45 代替的アプローチ(OCIを通じてのPRA)を適用する場合には、前に明らかにしたとおり、内部デ リバティブの影響が連結純損益において消去されなくなる。
ットと内部IRSを行い、想定元本CU100について3年間にわたり固定金利を支 払い変動金利を受け取る。トレーディング・ユニットは、内部スワップをトレー ディングのポジションに含め、追加的な外部との金融商品の取引はしないことを 選択する。このリスク・ポジション(3 年の固定金利を受け取る)を、トレーデ ィング利益を生み出す目的でオープンにしておきたいと考えるからである。企業 の全体的なポジションはオープンの3年の固定金利である(変動金利負債から資 金を受けた3年の固定金利資産を有している)。
A4.2.7 ALMは、事業単位に提供した3年の固定金利資金調達からの金利リスクは解消さ
れていると考える。当該リスクを内部デリバティブを通じてトレーディング・ユ ニットに渡しているからである。したがって、ALMはこの動的リスク管理活動を PRAの適用により財務諸表に反映する。これは、外部の3年固定金利の顧客融資 に係る金利リスクの再評価調整が純損益に認識され(場合によっては移転価格取 引で表される)、ALM が取引した内部デリバティブの公正価値変動と相殺して動 的リスク管理活動からの再評価の影響として報告される結果となる。内部デリバ ティブからの発生計上は、動的リスク管理活動からの正味金利収益に表示される ことになる。したがって、財務諸表利用者には、バンキング勘定における正味金 利収益が安定化されていることが分かる。
A4.2.8 トレーディング・ユニットにおける相殺する内部デリバティブの公正価値変動は、
オープン金利トレーディング・ポジションを反映して、「トレーディング損益」と して報告されることになる。
A4.2.9 相殺し合う内部デリバティブのトレーディング・ユニットと ALM の両方におけ
る影響は相殺され、外部貸付けに係る再評価調整だけが連結純損益に残ることに なる。さらに、企業の報告する実際の正味金利収益は、管理対象となる正味金利 収益を反映することになる。
A4.2.10 こうした表示は、企業の金利リスクがどのように管理されているのかを表す目的
適合性のある情報と見ることができる。トレーディング・ユニットが固定金利受 取リスクを保持することを選択し、ALMが正味金利収益を管理していることを示 すものである。
A4.2.11 別の企業が、バンキング勘定における当初の金利特性は同じであるが、その金利
リスクを動的に管理していないことがあり得る。この企業は、外部取引と全体的 な金利リスク・ポジションは同じとなるが、表示は非常に異なり、この代替的企 業は単純にIFRS第9号の要求どおりに正味金利収益を発生計上する。おそらく、
記述されるモデルの相違により、財務諸表利用者は、リスクを動的に管理して別 個にトレーディング・ポジションを取っている企業と、リスクを動的に管理して いないもう1つの企業とを区別できるようにしたいと考える場合があろう。PRA の適用により、財務諸表利用者にこの情報が提供されることになる。代替的な見 解として、これら2つの企業の間には経済的な相違がないため、財務諸表利用者