出典:プシーハット・プロジェクトのユーチューブ194
さらに、プシーハット・プロジェクトでは、製作方法がわからない場合や、直接相談し たい場合などに備えて、アメリカ各地にある112店舗の手芸店と「同盟」を結び、プシ ーハット・プロジェクトのホームページでは、これらの店をそれぞれが所在する州に分け て、住所やホームページといった情報も公開している195。これにより、プロジェクトの参 加者たちは、手芸店に直接出向くことができ、オリジナルのプシーハットを作るにあたっ ての相談や指導を受けることが可能である。そして何よりも重要なことは、参加者たちが プシーハット・プロジェクトと同盟関係にある手芸店を実際に訪れることで、オンライン 上だけの繋がりだけではなく、ローカルな場で他の参加者たちとオフラインのコミュニケ ーションを取ることができることにある。たとえば、プシーハット・プロジェクトと同盟
194 Joy Macdonell, “How to Knit: Pussyhat Project,” Pussyhat Project, December 9, 2016, Accessed September 7, 2017, https://www.youtube.com/watch?v=AesiuE-D1Ms
195 「プシーハット・プロジェクト」はアメリカだけではなく、ベルギー、カナダ、フィンランド、
ドイツ、オランダ、ニュージーランド、スペイン、スウェーデン、イギリスにある手芸店とも同盟 を結んでいる。
“Locations,” Pussyhat Project, 2017, Accessed September 7, 2017, https://www.pussyhatproject.com/locations/.
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を結び、ロサンゼルスで手芸屋
The LITTLE KNITTERY
196を営むカット・コイル(Kat Coyle)は、編み物の初心者である参加者たちが来店することを歓迎しており、自身の店で定期的 にプシーハットを作るクラスを開設している。そして、彼女はフェイスブックやインスタ グラムを用いて、自分が考案したオリジナルのプシーハットやそのパターンを紹介したり、
実際にクラスに参加した人々がプシーハットを編む写真などを掲載したりしている(図5
―7)。
図5―7:プシーハット制作の様子
出典:The Little Knitteryのフェイスブック197
プシーハット・プロジェクトが生み出した、「実際にものを作る」という身体経験やコ ミュニティは、オンラインの世界だけでの連携を超えて、主体的、能動的な運動との関わ りをつくりだしており、ここに私は、ベツィ・グリール(Betsy Greer)が提唱した「クラ フティヴィズム」(2003年)が展開されていると考える。クラフティヴィズムとは、
196 The LITTLE KNITTERY, https://thelittleknittery.com.
197 The Little Knittery, January 13, 2017, Accessed September 7, 2017,
https://www.facebook.com/thelittleknitteryshop/photos/a.336130273152489.72711.161795417252643/112106 1674659341/?type=3&theater.
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「クラフト」と「アクティヴィズム」の二語が組み合わさって生まれた言葉であるが、グ リールによると、クラフティヴィズムは、創造力を通して、(自身の中にある)より大き な声や、心からの気持ち、正義への探求と向き合い、自身の意見を表明するものである198。 クラフティヴィズムは、長年の間、アメリカの女性の運動で行われていた伝統的な活動 であり199、もともと、フェミニズムとは強い繋がりを持っていた。ジャック・ブラッチ(Jack
Z. Bratich)とハイディ・ブラッシュ(Heidi M. Brush)によると、女性たちによるクラフテ
ィヴィズムでは、主に編み物や縫い物、キルティングといったクラフトがあり、これは「伝 統的」で「家庭的」なものというイメージを持ち、女性たちの趣味やジェンダー化された 仕事でしかなかった手作業が、第二波フェミニズムの「個人的なことは政治的なこと」と いう思想と出会うことにより、私的空間に押し込められていたクラフトにこそ、女性たち が抱える社会的、政治的問題が表象されていると考えられるようになったことから始まっ たものである200。プシーハットの場合、既製品を買わせるのではなく、自分の力で作ると いうことは、参加者それぞれが独自の個性や意思を帽子に表現するために必要であると共 に、手を使って作るという原初的な身体的活動を行うことで、参加者たちは、政治参加へ のモチベーションと意欲を高めたと考える。また、「ピンクの猫耳」というモチーフは、女性性を意味する編み物やピンクという色、
そして「Pussy」という女性にとっては屈辱的とされる言葉を、ユーモアと皮肉を用いて逆 手にとり、女性の身体や権利を主張するために、「女性」という表象を強調するものへと 変化させた。このような参加者たちの女性性を武器にした抵抗については、人類学者であ るクリスティン・ヤノ(Christine Yano)が著書である『なぜ世界中がハローキティを愛す るのか?-
“
カワイイ“
を世界共通語にしたキャラクター』の中で、ピンクという色が、か つての「ブラック・イズ・ビューティフル201」の後継者となる「ピンク・イズ・ビューテ ィフル」を生み出していると主張する。ヤノは、第三波フェミニズムにおけるライオット・198Betsy Greer, Knitting for Good! (Massachusetts: Trumpeter Books, 2008); Betsy Greer, Craftivism: The Art of Craft and Activism. (Vancouver: Arsenal Pulp Press, 2014).
199 よく知られているものには、戦争反対などの想いを込めて多くの女性が力を合わせて作るキル ト(例えば、「キルティング・ビー」(Quilting Bee)や街の街灯の柱などを手編みくるみまくる(ヤ ーン・ボンビング(Yarn Bombing))などがある。
200 Jack Z. Bratich and Heidi M. Brush, “Fabricating Activism: Craft-Work, Popular Culture, Gender,”Utopian Studies, 22 (2011), Accessed 12 May, 2017, 233-260.
https://muse.jhu.edu/article/451893,.
201 黒人たちの市民権運動で用いられたフレーズであり、あえて黒人らしさを強調することで、ア フリカ系アメリカ人が持つアイデンティティの重要性を主張している。
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ガールとハローキティの関係性に着目し、キティという女らしさのアイコンであるマスコ ット・キャラクターが、「ライオット・ガール202」の文脈に置かれることで、「ジェンダ ーと社会権力を巡る抵抗の誇示となっている203」と述べており、参加者たちによって行わ れるキティ「遊び」により、人々は「キュートの血の中に潜むダブルスタンダード204」を 巧みに使いこなして、ジェンダー規範や社会権力に対する抵抗を行なっているとしている。
ピンクというジェンダーカラー遊びによる抵抗は、まさにプシーハットが行おうとしてい ることであり、ピンクという色が持つ可愛らしさや女らしさというイメージを否定するの ではなく、あえてそのイメージを武器に「自分たちの流儀で堂々と肯定してみせる205」と しているのである。
また、ソーシャルメディアでの繋がりだけではなく、
The LITTLE KNITTERY
のように、参加者たちとローカルでオフラインのコミュニティを構築することは、編み物を通して参 加者同士がそれぞれの技術や能力を交換する機会を与えるだけではなく、交流や恊働の中 で得られる楽しみや、そこで行なわれる意見の交換が、ウィメンズマーチという政治的運 動への原動力を生み出すために重要な役割を果たしているのではないだろうか。私は、ウ ィメンズマーチが大規模な運動へと拡大したのには、ソーシャルメディアといったテクノ ロジーが持つ影響力やオンライン上で行なわれる参加者たちの交流だけではなく、人々の 創造力や感情、ローカルなコミュニティで行なわれるオフラインでの交流も、異なるバッ クグラウンドや感情、モチベーションを持つ人々のつながりを可能にするために非常に重 要なものであったと考えている。
本章では、ソーシャルメディアを通じて、大規模で広範囲的な運動へと発展したウィメ ンズマーチに焦点を当て、インターネット環境やスマートフォンなどが普及した今日のア メリカ社会で、運動に参加する個人や団体が、ただ主催者たちが流す情報やコンテンツを そのまま需要するのではなく、主体性や積極性を持ち、ソーシャルメディアを活用しなが ら運動に携わる過程を、参加型政治の理論とオンラインでの観察を通して考察を行なった。
すでに述べたように、近年の第四波フェミニズム運動において、ソーシャルメディアは非
202 ライオット・ガールについては第二章を参照。
203 クリスティン・ヤノ、久美薫訳『なぜ世界中がハローキティを愛するのか?“カワイイ”を世界共 通語にしたキャラクター』作品社、2017年、209頁。
204 ヤノは、ダブルスタンダードを「二重性」と捉え、その例として子供と大人、純真無垢とセク シー、温和と非温和といったような、相反する2つの言葉をあげている。
205ヤノ、205頁。
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常に重要なものと捉えられている。しかしその一方で、ソーシャルメディアは人々の日常 の一部になってはいるものの、情報の流動性やトレンドに左右され、人々は流れてきた情 報をオンライン上で共有、拡散するという活動にのみ働くため、長期的で社会変革を望め るような運動へは発展しないという指摘もある。確かに、ソーシャルメディアは、自分の 関心がない情報や支持しない人々の発言を切り捨て、興味を持つ内容のみを得やすく、自 分の信じた情報を「真実」とすることで、時に現実社会や人々を分断するという問題点も あるが、ウィメンズマーチにおいて、ソーシャルメディアは1人が発信した運動に関する 提案を拡散し、多くの人々にその存在を知らせる役割を果たすと共に、情報の共有、州や 国境を超えた人々との交流をすることに大きく貢献した。
さらに、私はウィメンズマーチにおいて、異なる問題意識やモチベーションを持つ人々 が協働し、実際に行進するまでの意欲を作り出したのは、ソーシャルメディアだけではな く、プシーハットのような、原初的な身体的活動や、オフラインの交流を作り出すクラフ ティヴィズムが結びついたことにあると考える。従来「伝統的」かつ「家庭的」といった イメージを持つ傾向にあった編み物という手法が使われたプシーハットは、ソーシャルメ ディアを通じて制作方法や個々によって制作された作品、実際に着用し運動に参加する人 の写真が多くの参加者たちに共有されたことで、運動を印象づける大きなイメージを作り 出した。しかしそれだけではなく、クラフティヴィズムとして「自分の体は自分のもの」
という政治的なメッセージを持ったこの帽子は、手を使って編むという活動を通して、人々 に政治参加への意欲を与え、参加者たちにローカルで直接的な交流の機会をも作り出した。
ソーシャルメディアは国境を越えた順次的、広範囲な情報の拡散力や人々のコミュニケー ションを作り出すが、それが持つ流動性やうつろいやすさを補い、人々のモチベーション を高め、持続的な社会運動を生み出すために、クラフティヴィズムは重要な役割を果たす のではないだろうか。