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86 第一節 ウィメンズマーチとソーシャルメディア

ドキュメント内 学位名 博士(アメリカ研究) (ページ 90-102)

ウィメンズマーチは、ハワイに住む元弁護士のテレサ・シューク(Teresa Shook)という 女性が、フェイスブックに投稿したコメントがきっかけとなり始まった。彼女は、大統領 候補であったヒラリー・クリントンの支持者であったが、ドナルド・トランプが大統領に 選出されたことで大きな危機感を感じた。そして2016年11月8日に、フェイスブッ クを使い、女性によるワシントン行進でドナルド・トランプに対する抗議をするのはどう かという提案を、自身が所属するオンライン・コミュニティ「パンツスーツ・ネーション

(PantSuit Nation)」に投稿した169。当初、この提案は、彼女のフェイスブックにアクセス できる友人たちやフォロワーにのみに公開されていたが、これを見た人々によって情報が 伝達されたことで、ごく限られたコミュニティに公開された提案は、ソーシャルメディア を通じ、広範囲に広がっていった170。彼女の運動提案が大きく広がったのは、賛同者たち が、自分たちが参加している他のフェミニスト・グループや市民運動のメディア・コミュ ニティに拡散したからである。その結果、シュークが提案をアップしてから1日経った後 には、約1万人もの人々がマーチへの参加を表明することとなった171

また、ウィメンズアーチが成功した裏には、早い時期から他のリベラル派の人たちや、

フェミニスト・グループと協力関係ができたことがある。ドナルド・トランプが大統領選 に勝利した直後には、シュークの他にも、反トランプを掲げる女性の運動を推進するため のフェイスブック・コミュニティが複数立ち上がった。さらに、南部の黒人差別と白人優 位主義反対運動や

LGBTQIA

運動を行なっていたエヴィ・ハーモン(Evy Harmon)172やニ ューヨークで活躍するボブ・ブランド(

Bob Bland

)らもそれぞれ運動を立ち上げようとし ていた。

169 Mattie Kahn, “The Women’s March on Washington: How It Came to Be and What You Need to Know”

Elle, January 13, 2017, Accessed February 2, 2017,

http://www.elle.com/culture/news/a42067/womens-march-on-washington-timeline-logistics/.

170 Elizabeth Koh, “Explaining the Women’s March on Washington,” McClatchy Washington Bureau, November 23, 2016, Accessed April 18, 2017,

http;//www.mcclatchydc.com/news/politics-government/election/article116642998.html.

171 Mattie Kahn.,

172 エヴィ・ハーモンは、南北戦争における南軍の戦闘旗を州議会議事堂から撤去するための活動 の組織や、LGBTQIAの権利運動を行う活動家である。

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このような動きがショークとその賛同者たちとパンツスーツ・ネーションで交流し、一 つになってウィメンズマーチは動き出した173。運動の共同創設者は、テレサ・シューク、

エヴィ・ハーモン、ボブ・ブランドの三人に加え、キャンペーン活動を担当するジャーナ リストのヴァネッサ・ルーブル(Vanessa Wruble)174とし、共同議長には、人種差別問題 や警察による残虐行為といった問題に取り組むナショナル・アクション・ネットワーク

(National Action Network)やブラック・ライブス・マターで活躍するタミカ・マロリー

Tamika Mallory

)、ニューヨーク・アラブ系アメリカ人協会の元エグゼクティブ・プロデ

ューサーであり、移民政策問題やブラック・ライブス・マターに関する活動も行っている リンダ・サルスール(Linda Sarosour)、公民権に関する問題に取り組む活動家であるカル メン・ペレス(Carmen Perez)を据えた。このように多様なリベラル派の人たちが集まっ たことで、女性の権利のみならずアメリカ社会に存在する多くの差別や不平等をインター セクショナルなものとして扱う運動が可能になった。

実際、ウィメンズマーチは、多様な活動目的を掲げる市民団体とパートナーシップを結 び、運動を拡大していった。2016年12月には、29グループがウィメンズマーチの パートナーとして登録されていたが、2017年の行進当時は、約540グループが運動 への参加を表明した175。そのなかには、民主党全国委員会(Democratic National Committee)

や全米黒人地位向上協会(National Association for the Advancement of Colored People)という アメリカ大手のリベラル派団体や、本論文で紹介した NOW、フェミニスティングやホラ バック!などに加え、インドの女性グループである「ナリ・ネットワーク(NARI Network)」、

母親たちによる「マムズ・ライジング(Moms Rising)」、ユダヤ教徒やイスラム教徒によ る女性たちの同盟、レズビアンたちによるコミュニティ、家事労働者団体、セックス・ワ ーカーやドラッグユーザーの健康問題に携わる団体、原子力や核に対する抗議団体、移民 の学生たちによる組織「学生移民運動(Student Immigrant Movement)」、トランプ大統領

173 Elizabeth Koh, “Explaining the Women’s March on Washington,” Impact 2020, November 23, 2016, Accessed April 7, 2018,

https://www.mcclatchydc.com/news/politics-government/election/article116642998.html.

174 ヴァネッサ・ルーブルはジャーナリストであると共に、ウィメンズマーチにおけるキャンペー ン活動を担当していた。

175 ウィメンズマーチ公式ホームページにプレミアム・パートナーとして紹介されているグループ である。

“Premier Partners,” Women’s March on Washington, Accessed April 20, 2017, http://www.womensmarch.com/partners/

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への学生抗議団体「トランプに抵抗する学生(Student Resisting Trump)」など、異なった 問題をターゲットとする多くのグループがいた。さらに、ウィメンズマーチは、リベラル 派として知られるアイスクリームショップの「ベン&ジェリーズ」などの企業ともスポン サーシップ契約を結んだ。

2017年のウィメンズマーチは、ワシントン

DC

を中心に全米各地で約200のデモ 行進を開催した。また、アメリカを超えて約60カ国でも同様のデモ行進が行われ、グロ ーバルな広がりを見せた176。下図(図5

)

は、実際にウィメンズマーチが開催された国 を示した地図である。

図5―1:世界で開催されたウィメンズマーチ

出典:ニューヨーク・タイムズ紙177

この地図を見るとヨーロッパを中心にオーストラリアや日本、アフリカにも広がっている ことがわかる。アメリカ国外で行われたマーチはシスターマーチ(Sister March)と呼ばれ るが、アメリカのオーガナイザーたちがホームページ上でシスターマーチの参加を呼びか

176 Sarah Wildman, “The Women’s March on Washington has spread to 60 countries around the globe,” Vox, January 19, 2017, Accessed August 29, 2018,

https://www.vox.com/world/2017/1/19/14316166/march-on-washington-women-global-solidarity

177 Kiersten Schmidt and Sarah Almukhtar, “Where Women’s Marches Are Happening Around the World,”

New York Times, January 20, 2017, Accessed August 29, 2018,

https://www.nytimes.com/interactive/2017/01/17/us/womens-march.html.

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けた時、この呼びかけに応じたのはカナダ、スイス、イギリス、オーストラリア、ノルウ ェーの5カ国のみであった。アメリカを含めた6カ国のオーガナイザーたちは、活動の支 援集めや調整のために、SNSを使ったメッセージの交換や、スカイプ(Skype)を用いた 会議を活発に行なった178。実際、シスターマーチを開催した国では、その活動目的は異な り、反トランプというアメリカから派生した問題に焦点を当てた活動を行う国もあれば、

それぞれの国に特有の問題に焦点を当てた活動を行う国もあった。例えば、ヨーロッパの 国々ではトランプのような極右勢力が政治的な力を持つことに対して危機感を抱く人々が、

ウィメンズマーチに国際的支持を表明する形で行われた。多くの国では、アメリカで開催 されたデモ行進のように、トランプに対する抗議を目的とした運動が展開されたが179、国 によっては、よりその土地に蔓延る問題にフォーカスした活動が行われている。例えば、

ケニアでは割礼をはじめとする女性の生殖に関する問題や土地の相続権を要求することに 焦点を当てた運動が行われた180。また、南極大陸では世界平和と環境問題をテーマとした 活動が行われ、参加者たちによる大雪原や氷河をバックに撮影された動画や写真の投稿が 行われた181

このように運動を世界的規模に広げ、人々を参加させるモチベーションを生み出したの は、賛同者たちの間で、ソーシャルメディアを使った主体的、能動的、創造的な活動が行 われたことによるものである。ウィメンズマーチの参加者たちは、ただ情報を閲覧するの ではなく、フェイスブック、ツイッター、ユーチューブ、タンブラー、インスタグラム、

ピンタレストといったソーシャルメディアを目的に合わせて使い、情報を拡散した。たと えば、運動当日には、行進前の事前集会や行進中の参加者たちの様子がウィメンズマーチ の公式フェイスブックやツイッターで生中継の配信がされた。

178 Vivienne Mayer, “How the Women’s March on Washington Went Global,” Huffpost, January 5, 2017, Accessed August 20, 2018,

https://www.huffpost.com/entry/how-the-womens-march-on-washington-has-gone-global_b_586e342be4b02 1b75256f0f1

179 イギリス、メキシコ、ペルー、オーストラリア

180 Sarah Wildman, “The Women’s March on Washington has spread to 60 countries around the globe,” Vox, January 19, 2017, Accessed August 29, 2018,

https://www.vox.com/world/2017/1/19/14316166/march-on-washington-women-global-solidarity

181 Laura Smith-Spark, “Protesters rally worldwide in solidarity with Washington march,” CNN, January 22, 2017, Accessed February 1, 2017,

https://edition.cnn.com/2017/01/21/politics/trump-women-march-on-washington/.

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図5―2:ウィメンズマーチによってツイッターに投稿された生中継動画

出典:ウィメンズマーチのツイッター182

上図(図5

2)は、2017年1月21日のデモ行進直前に、ウィメンズマーチのオ ーガナイザーたちがツイッターに投稿した生中継動画であるが、この動画は生中継配信が 終わった後でも閲覧することが可能であり、配信開始から10時間経った頃には、この動 画は約120万再生されていた。この動画は、ウィメンズマーチに参加する団体やフォロ ワーである個人のソーシャルメディアにおいても拡散され、実際には行進に参加すること ができなかった人でも、その映像を見ながら、コメントの投稿や評価の送信を行うという 形で、運動に参加することが可能であった。

182 @womensmarch, Twitter, January 21, 2017, Accessed January 22, 2017, https://twitter.com/womensmarch.

ドキュメント内 学位名 博士(アメリカ研究) (ページ 90-102)