した。円高不況の心配もされたが、実際には国内はバブル景気にも沸き、一方では資産価格も 著しく騰貴したが、他方では民間消費も堅調で、積極的な固定資本形成も行われた。雇用も順 調に増加し、失業率も依然低く推移した。就業構造はサービス化にいっそう拍車がかかり、伸 び悩む製造業を後目に、大幅に増加していった。
本章で取り上げるのは、このような
80 90
年代の構造変化の問題である。とはいえもちろん、80 90
年代の構造変化をすべて扱えるわけではなく、そのほんの一部分に過ぎない。またその 一部はすでに第3章で、 60年からいかに変わったか、という形で取り上げたものもある。しか し第3
章では変化した後の9 0
年を対象としたのであって、変化してゆく過程ではない。ここで は日独比較が可能なように調整した産業連関表を用いて、特に以下の点について日独比較を試 みよう。まず第2
節では、為替変動にも大きく影響された日独の輸出入構造の変化を取り上げ る。8 0
年代後半の日本の輸入構造の変化がいかに大きかったかは、ドイツと比較することに よっても理解できるはずである。続く第3
節では、エネルギーも含めて、中間投入構造の推移 を比較する。7 0
年代の石油ショックによる原油価格の急上昇は、その後特に生産段階における 省エネ傾向を生み出した。産業連関表でこれを確認しつつ、生産連関構造がどのように変化し たかを追跡し、日独の類似点と相違点を考察する。そして最後に第4
節では、就業者数増加の 要因分解分析を通して、サービス化を生み出している要因の日独比較を行う。さらに付論とし て、産業x
職業クロス表による日独の就業構造比較を試みる。2 .
輸出入構造の変化、まず、為替レートの変動がいかに大きかったかを確認しておこう。表
4‑ 1
が日独の為替レー トの推移を示したものである。ただし、日本と違ってドイツは、貿易量の約半分はEC
域内との 貿易であり、この決済には原則としてUS
ドルは用いられていないため、当時のECU
当たりの マルク相場も記載している。19801985
年のドル高基調の時期は、対US
ドルに対してはマル クの方が変化が大きかったが、ECU
に対しては変動が小さかったために、急激な変動は回避さ れた 。8 0
年代前半とは異なり、日本も8 0
年代後半の円高期の変動は大きく、対US
ドルで6 4 . 7
%もの円高になったが、ドイツの変動はそれ以上であった。しかしやはりECU
に対しては8 . 8
%の変動であり、バスケットマネーであるECU
やERM
(為替レート・メカニズム)を中心3 )
詳しくはI f oI n s t i t u t e f o r Economic R e s e a r c h & S a k u r a I n s t i t u t e o f R e s e a r c h 0 9 9 7 )
の第1 5
章等を参照されたい。
とした
EMS
(欧州通貨制度)の安定性が目立った8 0
年代であった4)。むしろこのEMS
が最も 大きく揺さぶられることになったのは9 0
年代であり5)、マルクの対ECU
相場も19901995
年に最も大きく変動してい 表
4‑1
:為替レートの変遷対ドルマルク相場 対
E C U
マルク相場 対ドル円相場1 $ =
対外価値の1 E C U =
対外価値の1 $ =
対外価値の( D M )
変化率( D M )
変化率( Y e n )
変化率1 9 8 0 1 . 8 2 2 . 2 5 2 2 6 . 7 4
1 9 8 5 2 . 9 4 ‑ 3 8 . 3 % 2 . 2 3 0 . 9 % 2 3 8 . 5 4 ‑ 4 . 9 % 1 9 9 0 1 . 6 2 8 2 . 2 % 2 . 0 5 8 . 8 % 1 4 4 . 7 9 6 4 . 7 % 1 9 9 5 1 . 4 3 1 2 . 7 % 1 . 8 7 9 . 6 % 9 4 . 0 6 5 3 . 9 %
出所)
S t a t i s t i s c h e sB u n d e s a m t ( 1 9 9 8 b ) 等より。
る。一方日本も、
1 9 9 5
年は 急 激 に 円 高 に 動 い た た め に、9 0
年代も8 0
年代後半 に 次ぐ大きな変動であっ た。このような為替レートの 急激な変動は、もちろん貿易にも大きな影響を与えることとなったが、次に輸入価格や国内卸 売物価との関連を概観しておこう。図
4‑ 1
は、ドイツの為替レートの変動、輸入物価指数、及び国内卸売物価指数を図に表したものである。
US
ドルに対してドイツマルクも異常に変動 が大きかったが、EMS
の影響により、輸入価格の変動はそれよりは小さかったことは明らかで ある。そして国内卸売物価は輸入品だけではなく、たとえば賃金等さまざまな要因に規定され るため、輸入物価指数の動向をそのまま反映するとは限らないが、8 0
年代後半のマルク高の時 期は、卸売物価指数の低下に貢献していることも読みとることができる。一方、図4‑2
の日 本の場合は、8 0
年代前半の円安期の変化はドイツよりも小さかったが、後半の円高期は、輸入 物価もほぼ対ドル為替レートと歩調をともにしており、ほとんどがドル決済であることを反映 している。そして輸入価格のドイツ以上の大幅な下落と、その低位での安定が、国内卸売物価 の下落•安定に寄与したことも明らかである。このように
80 90
年代は、為替レートの大きな変動の時期であったが、それでは、為替レー トにも影響され、実際の輸出入はどう変化したかを産業連関表からみてみよう。まず表4‑2‑
1
は、ドイツの輸出の年平均成長率と構成比の変化を示したものである。8 0
年代前半のマルク 安期は輸出も好調で、全体として名目価格で8.2%
、1 9 9 0
年実質価格で4 . 5
%の伸びであった。農業や事務・情報処理機械、製紙・紙製品、建設・土木などでは、名目・実質ともに年平均の 輸出成長率が
1 0
%を超えていた。しかしこれらの部門の輸出全体に占める構成比は低く、全体 の動向に大きな影響を与えたのは、やはり化学製品、一般機械、道路輸送機械、電気機械の4
4 )
これについては田中( 1 9 9 1 )
等を参照。5)
ドイツ再統一後のドイツ連銀の高金利政策によって、域内各国でドイツマルクを買う動きが表面化 し、マルクは域内各国通貨に対して高騰した。図
4‑1:
ドイツの対US
$為替レートと物価指数( 1 9 9 0 = 1 0 0 )
170 160 150
140 130 120
110
100 90 80
70
1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1966 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997
図
4‑2
:日本の対US
$為替レートと物価指数( 1 9 9 0 = 1 0 0 )
120
110
100
90
80
70
80
50
40
1980 1981 1982 1983 1984 1985 1988 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997
部門である。このうち電気機械は、
1 9 8 5
年にかけて多少構成比を低下させることになったが、それ以外は構成比が上昇するほど輸出も平均以上に増加している。
8 0
年代後半のマルク高期を 迎えると、確かに全体としての輸出成長率は低下しているが、金属製品や食料品・飲料、不動 産、飲食・宿泊等のように、逆に成長率が上昇している部門もある。また名目価格ほど実質価 格による成長率は低下しておらず、また、次にみる日本の場合よりも成長率の低下は軽微であ り、ドイツの場合は単純に対ドル相場だけで判断できないことも明らかである。事実この時期 は、1 9 9 2
年末のEC
市場統合に向けて、EC
各国とも活発に域内直接投資やM & A
を行ってい表
4‑2‑1
:輸出の年平均成長率と構成比(ドイツ)比
i
!
6石 炭 ・ コ ー ク
7 そ の 他 の 鉱
8原 油 ・ 天 然 ガ
9化 学 製 品
10石 油 製 品
11プ ラ ス テ ィ ッ ク 製 品
1 2
ゴ ム 製 品13土 石 ・ 建 設 資
}
: 9 ラ円 謬 鉄 金
18鋳 物 ・ 圧 延 ・ 金 属 製 品
19一 般 機
2 0
事 務 ・ 情 報 処 理 機2 1
道 路 輸 送 機隷 空
24電 気 機25精 密 機 械 ・ 光 学 機
26楽 器 ・ 玩 具 ・ 装 飾 品
27木 材 加 工
28木 製 品
2 9
パ ル プ ・ 製 細30紙 ・ 板 紙 製 品
31印 刷 ・ 複
3 2
皮 革 製33繊 縫 製
g t :
し娯:の
業 ・ 漁 カ ・ 熱 供
製
設 土
通運 運 運 他
.
の売売
便の 道 上