(1)平成31
/
令和元年度活動報告国際協力研究部は,わが国の公衆衛生対策の実績を海 外に発信するために,国内外の関連情報の収集・および 分析を行うとともに,国際協力機構(JICA)やWHOな どの内外の関係機関と連携し,海外の保健省担当者等を 対象とする訪日研修等の国際協力プログラムを実施して おり,令和元年度において国際協力研究部が関与した研 修事業は10プログラムとなった.この他に,引き続き JICA技術協力プロジェクト「生活習慣病対策プロジェク ト」への学術支援を行い,フィジー国での生活習慣病リ スクに関する現地調査の結果に基づいた生活習慣病対策 の立案について専門知識の供与を行った.また,厚生労 働省大臣官房国際課からの依頼を受け,WHO執行理事 会,WHO総会,WHO西太平洋地域委員会への対処方針 調整に協力した.
研究事業に関しては,平成27年 9 月に国連で採択さ れた「持続可能な開発目標(SDGs)」にて,日本の貢献 が強く期待される領域について,院内関係分野間で横 断的な研究を行った.中・低所得諸国の非感染性疾患
(NCDs)予防対策の動向分析,ユニバーサル・ヘルス・
カバレッジ(UHC)に関する研究,医療安全の推進に 関する研究,高齢者保健に関する調査研究等,対人保健 や地域医療分野の諸課題に関する研究について,国際保 健の視座に立脚した研究活動を推進した.一方,国際保 健課題だけでなく,関連する国内の保健・医療に関する 諸課題についても,各部員の専門性に基づき調査研究を 並行して進め,国内の地域保健・医療研究で得られた知 見を国際保健研究に活用した.また,これらの研究で得 られた結果について,関連する諸研修にて情報提供し,
途上国の保健システムの向上に役立てる一方,国内の地 域保健研究で得られた知見を国際保健活動に連動させる 取り組みを並行して進めた.
1 )国際協力研究部の構成
平成31/令和元年度の在籍者は三浦宏子(部長),種田 憲一郎(上席主任研究官),児玉知子(上席主任研究官),
大澤絵里(主任研究官),佐々木由理(主任研究官),綿 引信義(研究員,再任用)で構成されている.
2 )国際保健に関する研究
①国連の持続可能な開発目標(SDGs)に関する研究 SDGsで提示されている課題は,開発途上国だけでな く,先進国も共に取り組むべきものとなっている.わが 国の今後の国際協力活動は,このSDGsを強く意識して 展開される.保健・健康分野についてはGoal 3として目 標項目が設定されているが,飢餓(Goal 2)や水・衛生
(Goal 6)など,保健・健康と密接に関連する分野も含 めて複合的な対応が求められる.「誰一人取り残さない」
はSDGs全体を貫く基本方針であり,公衆衛生活動が目 指すところと一致する.わが国がこれまで培ってきた公 衆衛生活動の成果について,SDGsのコンセプトをもと に改めて整理することは,SDGs達成に向けて日本から の具体的な国際協力の展開にも大きく寄与するものと考 えられる.これらのことを踏まえて,ミレニアム開発 目標(MDGs)からSDGsへの移行過程,SDGsで新たに ターゲットとして設定された非感染性疾患(NCDs)や ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC),栄養対策,
格差の縮小,暴力等,SDGsで新たに取り上げられた健 康課題に加え,MDGsからの継続課題である感染症対策,
母子保健,水・衛生も含め,わが国で の公衆衛生活動 での経験や知見が活用できる領域を中心に,今後のグ ローバルヘルスにおいて取り組む課題についてSDGsの 視点からまとめ,本院機関誌「保健医療科学」の特集号 とした.研究領域は対人保健と対物保健の両分野を含め て多岐にわたっており,科学院で実施されている研修に ついてもSDGsの観点から総括した.
②ソーシャル・キャピタルの高齢者うつへの影響の相違
―アジア 3 か国の比較検証―
日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evalua-tion Study: JAGES)グループと連携して全国の高齢者コ ホートデータを用いた疫学研究に協力した.更に,急速 な高齢化を迎えるアジアで,いち早く超高齢社会に突入 した日本は,その経験を活かしてアジアのHealthy and Active Agingの推進に寄与することが期待されているた め,国内のみならず海外(ミャンマー,マレーシア)に フィールドを広げ,JAGES研究の知見を活かして社会疫 学研究を展開している.令和元年度はミャンマーの高齢 者のメンタルヘルスに関するデータクリーニング,解析 を開始した.
③OECD医療の質指標に関する研究
OECD医療の質指標に関連して,厚生労働統計やad-ministrative data(国内ではナショナルレセプトデータ ベース)を用いて,プライマリヘルスケア,急性期ケア,
精神医療,患者安全等の領域の指標算出について研究を 行った.
3 )国内の地域保健研究
本研究部では,部員の専門性をもとに国際保健分野だ けでなく,国内の地域保健に関する調査研究も実施し,
わが国の公衆衛生活動から得られた知見を国際的に発信 すべく活動を行っている.
①歯科保健医療提供状況の地域格差に関する研究 歯科保健医療の提供状況の地域格差の検証を行うた めに,レセプト情報・特定健診等情報データベース
(NDB)分析,勤務時間分析,医師・歯科医師・薬剤師
調査等の政府統計データを用いた分析を多面的に行っ た.得られた研究知見によって,歯科医師の実態を勘案 した実際の仕事量を把握することが可能となるとともに NDBデータを用いた 2 次医療圏レベルでの歯科医療の 提供状況の現状を可視化することが可能となり,国の検 討会での活用が予定されている.
②高齢者の口腔機能に関する地域保健研究
高齢者の口腔機能評価アプリケーション開発を行い,
その妥当性と信頼性を検証した.開発したアプリケー ションについて公開し,既に後期高齢者歯科健診や高齢 者歯科調査等に用いられている.また,高齢者の口腔機 能の向上に寄与する介入方法に関する系統的レビューを 行い,地域での高齢者歯科保健で活用できる効果的な手 法についても明らかにした.
③病院における医療安全に関する研究
WHO西太平洋地域事務局と共同し,医療の質・患者 安全を含む病院のパフォーマンスに関するモニタリング 指標について研究を進めるとともに,国内では,地域医 療構想の達成に向けた組織マネジメントの観点から調査 研究を進め,病院マネジメントに関わる支援のあり方を 検討した.その結果の一部として,日本の医療安全シス テムに関する英文レビューをまとめ,本院機関誌「保健 医療科学」に発表した.
④人口動態に関する研究
戦後から現在に至るわが国の平均寿命の男女差と人口 動態について形式人口学的な分析を継続的に行っている.
併せて,ヒトの加害による死亡(殺人,交通事故および 地域紛争等)の動向と特徴について分析するともに異状 死ともかかわる孤独死の動向を検討している.
⑤震災前の社会的サポートの震災後のうつ緩和効果-自
然実験データを用いた検証-社会的サポートおよび近所づきあいと高齢者うつとの 関連性について,コホート調査を行い,震災前後で縦断 調査を行った.その結果については,関連学会で発表す るとともに,英文論文化し,2本国際誌に発表した.
⑥母子保健施策および育児支援施策の地域間格差に関す る研究
自治体より,育児に関する住民からの質問紙データの 提供をうけ,地理情報と合わせて分析し,GISにより可 視化することで,子育ての地域環境要因について分析を した.その結果について,関連学会で発表するとともに,
現在,投稿中である.
⑦包括的支援体制構築に向けた市町村保健センターと他 分野の連携に関する研究
市町村保健センターにおいて,自治体内の他部署や地 域の関係機関や関係者,住民組織と連携し,事業や活動 を実施している事例を収集し,これからの市町村保健セ ンターに期待される機能の分析を行った.結果は,市町 村保健センター連携機能のヒント集としてまとめ,情報 提供のためのウェブ展開も開始した.
4 )研修報告
①国際研修(表参照)
WHO,JICA等の国際協力関係機関からの研修員受入 に関して,それぞれ研修員のニーズを満たすようプログ ラムの企画調整を行った.JICAとの連携に基づく集団研 修としては,令和元年 6 ~ 7 月に実施された「保健衛 生管理研修」,令和 2 年 1 月に実施された「ユニバーサ ル・ヘルス・カバレッジ達成のための社会保険制度強化 研修」,令和 2 年 2 月に実施された「保健衛生政策向上 研修」の 3 つの国際研修において,研修プログラムの企 画・調整ならびに実施運営を行い,研修生から高い評価 を得ることができた.このうち「ユニバーサル・ヘルス・
カバレッジ達成のための社会保険制度強化」については,
厚生労働省大臣官房国際課との緊密な連携のもとにプロ グラム立案を行い,アジア・アフリカ諸国における医療 保険制度の構築ならびに高齢化対策の推進のために,日 本の経験や知見を活用してもらうべく研修を企図した.
これまで科学院にて 5 年間実施されていたWHO- WPRO・NIPH共同開催の生活習慣病対策研修(LeAD-NCD)が,本年度はリーダーシップとガバナンスの強化 を目的に島嶼国フィジーにおいて実施された.島嶼国に
おけるNCD対策は喫緊の課題であり,本研修ではLeAD-NCDの成果をもとに, ヘルスプロモーションや食品への
課税,母乳代替ミルクのマーケティング,たばこ対策,
アルコール対策,ヘルスシステムに対応したプラグラ ム・データ収集とサーベイランス等をテーマが扱われた.
WPRO事務局と協力し,日本の生活習慣病対策(健康日 本21)におけるモニタリングと評価,自治体での取組み についても取り上げ,島嶼国における具体的な課題解 決に向けた研修に参画した.2020年 3 月に予定していた,
医療安全に関わるWPROとの共催ワークショップである
「Third Biennial Meeting on Accelerating Progress in Early Essential Newborn Care (EENC) in nine countries and the Region」は新型コロナウイルス感染症への各加盟国の対 応を考慮して,同年10月に延期とした.
②国内研修
国内研修については部員の専門性を活かし,専門課程 においては専門課程Ⅰ保健福祉行政管理分野,専門課 程Ⅲ地域医療安全管理専攻科,地域保健臨床研修専攻 科,地域保健福祉専攻科において,「対人保健」「コア科 目」等の多くの関連科目の講義・演習・指導を行うとと もに,分野の責任者や担当者として,その運営に携わっ た.一方,短期研修においては,各構成員の職域や専門 領域を踏まえ「歯科口腔保健研修」「健康日本21(第二 次)栄養研修」「地域医療連携マネジメント研修」「エイ ズ対策研修」「児童虐待防止研修」等の各種研修について,
主任もしくは副主任として企画運営に参画するとともに,
講義ならびに演習を担当した.
③その他の国際協力活動
厚生労働省大臣官房国際課ならびにWHOをはじめと
して,JICAやAPACPH(アジア太平洋公衆衛生学術会議)