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§ 5.3 定圧等温系と自由エンタルピー最小の原理

ドキュメント内 0 (Preliminary) F G T S pv (1) (ページ 149-154)

§ 5.3.1

自由エンタルピーも減少する——

dG0

自由エネルギー

F

の場合と同様に

,

自由エンタルピー

G

の恒等式

(4.13)

,

不可逆性を表現する不等号を持ち込む.

G≡F +pV

の微小変化

743

dG= d(F +pV) = dF| {z }+pdV

(5.34)代入可能

+Vdp (5.52)

738[熱力学第二法則]「内部エネルギーの全てを仕事に変換することは不可能(熱は,その一部しか,

仕事には変換できない)」を思い返そう. [さらにいえば]内部エネルギーとは,系を構成する分 子の運動エネルギーから定義された(熱力学I).したがって,内部エネルギーがゼロになるとは, 系を構成する分子の消滅, すなわち,系の消滅を意味するが,これは熱力学の大前提に反する.

739[基礎・復習]不可逆過程とは,たとえば,摩擦熱の発生を意味する. このとき, dQ < TdS にし

たがってエントロピーが生成される. この無駄な Sが,束縛エネルギー(bound energy)T S に 対応すると捉えるとよい.

740[]全預金U =F+T S のうち,銀行に束縛される定期預金がT S,自由に引落可能な普通預金 が F と捉えるとよい.

741もしも,T S も仕事として使えるとすると, U がゼロになる可能性がある. しかしながら,これ は熱力学の大前提に反する. 内部エネルギーは有限値を取らねばならない.

742[例(お金の話で締める)] T S はヘソクリ, F は小遣いと思えばよい. 全財産U(=F+T S)

うち, 自由に使える小遣いがF であって, T S はヘソクリとして溜めておけねばならない. な ぜか. 無職に至ったならば,たしかに,財布の中身や収入が一時的にゼロになることはあるだろ う. しかしながら, 全財産がゼロになることはありえないからである(借金すればよいだけであ). [したがって]内部エネルギーは,決してゼロになることのない,全財産に他ならない.

743GHT SGF+pV のいずれを定義とみなしても構わない(§0では前者を定義とし

たが). 「F の不等式(5.34)が既に得られているので, F を含む後者を微分して(5.34)に代入

する方が簡単であろう」という意図から変形を進める. もちろん,前者を微分することから出発 してもよい(むしろ,やってみて,両手法からの結果の一致を確かめよ).

の最右辺第

1

項と第

2

項に

,F

に対する不等式

(5.34)

を適用すると

744,

次式をうる

: dG≤ −| SdT +{zVdp+µdn}

やはり全く同じ

(5.53)

したがって

,

定圧

,

等温

,

モル数一定という条件を課すならば

,

dG0 (5.54)

となり

,

熱力学的平衡状態において

, G

は極小値をとる

745.

過程の進行に伴い

, G

は必ず減少する

.

あるときに

,G

が極小値をとったなら ば

,

そのときが

,

それ以上変化の起こらない熱力学的平衡状態への到達を意味する

.

エントロピー

S

は増加するが

,

自由エネルギー

F

と自由エンタルピー

G

は ともに減少することに注意してほしい

746.

問題

39.

開いた系の準静的過程において成立する不等式

(5.20)(5.34)(5.57),

およ び

,H

に対する不等式

dH ≤TdS+Vdp+µdn (5.57)

をそれぞれ導け. また, 可逆過程, 不可逆過程の場合に, それぞれどうなるか.

問題

40. [発展,

多成分系]

N

成分からなる開いた系の準静的過程において成立す

744[種明かし]だからこそ,S,F,Gの順に論じたのである. どこかしら,熱力学の論理体系の首尾

一貫性や必然性を感じさせる箇所の1つである(確信はないが).

745[発展]熱平衡条件の表現において,変分法(variational method)の表記を用いることも多い:

δS= 0, δF = 0, δG= 0 (5.55)

微分記号dが傾き(勾配)を表すのに対して,変分記号δは傾きの移行方向(過程の終着点から わずかにずれたときの変化)を意味する. (5.55)は,終着点において変化しないことを意味する.

厳密には, 2次の変分も用いる必要がある. すなわち, 変化が, どのように変化するかを記述す るつぎの表現である:

δ2S <0, δ2F >0, δ2G >0 (5.56) たとえば,S が最大値という終着点に至った後に,仮にどこかに動くのならば,減少以外の選択 肢はないことを,不等号が教えてくれている. すなわち, 1次の変分δだけでは不十分で, 2次の 変分δ2を使って初めてS の概形が描ける. 本資料では,変分法の表現に深入りすることは控え る(重要でないという意味ではない).

746この意味で,むしろ, エントロピーの方が例外,言い換えれば, 難解であるということができる だろう.

る次式を導け

747:

dU ≤TdS−pdV +

N

i=1

µidni (5.58)

§ 5.3.2

定圧等温系の熱力学的平衡条件

§5.1.1

の問題を

§5.2.2

の問題よりも拡張し, 守備範囲を広げたい. すなわち,

系と外界は, 境界をとおして, 熱のみならず仕事のやりとりをも行うとする. その ためには

,

壁の動作を取り入れることが不可欠である

.

壁の一部

——

たとえば上 端

——

のみを可動壁とし

748749,

可動壁は準静的に動くとする

.

このとき

,

外界の 圧力と系の圧力は等しく保たれる

750.

それ以外の全ての壁は剛体壁である

.

外界と全体系

C

は等しい圧力にあると述べた

.

このとき

,

全体系

C

を構成す る部分系

A

と部分系

B

の圧力も等しくなければならない

.

したがって

,

力学的平衡 条件

pA =pB = const.≡pC (5.59)

の成立は自明といえる

.

さらに

,

前節と同様に

,

系と外界は等しい温度にもあるの で

751,

温度平衡条件

TA=TB = const.≡TC (5.60)

の成立も自明である

.

したがって

,

示すべき熱力学的平衡条件は

, A

B

の化学ポ テンシャルが等しいこと

(

化学的平衡条件

)

のみである

.

等温定圧系

,

すなわち

,

独立変数

T

p

に対する依存性

(

ふるまい

)

を教えてく れる示量変数

(熱力学ポテンシャル)

は何であったか. 自由エンタルピー

G(T, p, n)

の出番である. 一般には,

G

3

変数関数だが, 今回の系

C

は等温かつ定圧である

747取り組む必要はないが,実用上, 重要となる.

748系の膨張や圧縮によって, 外界にする仕事を考慮したいからである.

749壁であるので,外界と系の間での物質移動は,これまで通り考えない.

750外界が可動壁に課す力の大きさと系が可動壁に課す力の大きさが等しいことを意味する. 準静 的過程の定義を復習せよ(熱力学I).なお, 可動壁は外界と系の間にあるのだから, 可動壁は境 界とみなされる.

751系と外界の間の境界が透熱だからであった.

がゆえに

,

GC =GA(nA) +GB(nB) =GA(nA) +GB(nC −nA) = GC(nA)

| {z }

CAに注意

(5.61)

と書けて

752, 1

変数関数の取り扱いで閉じる

.

G

に対する不等式

(5.54)

が伏線である

.

熱力学的平衡状態においては

, dG= 0

が満たされる

.

以上より

, (i) GC

nA

で微分し

, (ii)

その微分係数が化学ポテン シャルに等しいことを利用し

753, (iii)

熱力学的平衡状態という仮定を根拠に等号 で結ぶ:

dGC(nA)

dnA = dGA(nA)

dnA +dGB(nC −nA) dnA

| {z }

合成関数公式から変形せよ

=µA−µB|{z}= 0

平衡

(5.63)

このように

,

化学的平衡条件が導かれた

.

定圧

等温系は

,

固体と液体で有用な

定容

等温系に比べて

,

常温常圧下での 空気の膨張といった気体の熱力学において遭遇することが多い. この意味で, 自由 エンタルピーは気体で有用といえる

754.

しかしながら, 熱力学を主に道具として 用いる立場にあるわれわれにとっては

,

応用上の用途

——

自由エンタルピーが

,

化 学ポテンシャルを介して

,

化学反応において多用されるという事実

——

のほうが

,

むしろ重要といえるだろう

†755.

問題

41.

定圧等温系における熱力学的平衡条件を導出せよ

.

752[注意1]温度と圧力が等しいことは既知であるから,すでに独立変数から除去した. [注意2]示 量変数ならではの相加性を用いて,部分系Aと部分系Bの和から全体系Cを構成した.

753Gnに対する微分係数は µであった(4.15):

µ= dG

dn (5.62)

[補足]今回は, 1変数関数の微分であるため,偏微分記号 ではなく常微分記号dを用いた.

754エンタルピーとは, “動く”エネルギーに例えられたことを思い返そう(熱力学I).

755[応用] 化学反応(chemical reaction)は, ふつう定圧等温下で行われるため, 自由エンタルピー

が威力を発揮する. 燃焼(combustion)や,燃料電池(fuel cell)内の化学反応計算などは,自由エ ンタルピーに支配される(燃焼は等温ではありえないが). だからこそ,自由エンタルピーと密 接な関係にあり,自由エンタルピーを「強度変数として」伝えてくれる化学ポテンシャルを,そ の足掛かりとして学んだのである.

§ 5.4 まとめ

熱力学によれば

,

過程の進行に伴って

,

次の条件が満足される

: (i)

孤立断熱系においては

,

エントロピー

S

は増加する

.

(ii)

温度が外界と等しく, 体積が不変の系

756

においては, 自由エネルギー

F

は 減少する.

(iii)

温度と圧力が外界と等しい系においては

,

自由エンタルピー

G

は減少する

.

過程とは

,

自発的かつ不可逆的に起こるものであり

,

やがて

, S

が最大

(

ある いは

F

G

が最小

)

の状態に至る

.

これらが極値に達することは

,

最も安定な熱 力学的平衡状態にあることを意味する

.

過程の進行の度合いを評価する状態変数 として, エントロピー, 自由エネルギー, 自由エンタルピーの役割の

1

つを, ここに 見出すことができる.

自由エネルギー

F,

自由エンタルピー

G

,

熱力学ポテンシャルになるとき

,

それぞれの独立変数は

, F(T, V, n), G(p, T, n)

であった

757.

熱力学ポテンシャル

F(T, V, n), G(p, T, n)

とは

,

特定の条件

——

定容等温

(

かつモル数不変

),

および

,

定圧等温

(

かつモル数不変

)——

の下で最小化されるように数学的に構成された状 態変数といえる

.

ここに

,

自由エネルギーと自由エンタルピーのもう一つの役割を も見出すことができる

.

756系の体積は一定値を保つが,系の体積は外界と等しくない. そもそも, 外界に体積という概念は ない. この勘違いを防ぐ意味で,項目2の体積と, 項目3の圧力について,意図的に表現の差異 を与えた.

757§1では,圧力と温度を独立変数とする熱力学ポテンシャルを作ることが目標であった. その解 答が自由エンタルピーであった(復習せよ).

ドキュメント内 0 (Preliminary) F G T S pv (1) (ページ 149-154)