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§ 4.7 理想気体の化学ポテンシャル

ドキュメント内 0 (Preliminary) F G T S pv (1) (ページ 127-130)

問題

35.

モル数が定数

n0

の理想気体の等温過程を考える

.

すなわち

,

一定温度

T0

のもとで

,

気体の圧力を

p0

から

p

まで変化させると

,

気体の化学ポテンシャルは

µ0

から

µ

まで変化した

.

このとき

, µ

を求めよ

. (

モルベースの

)

一般気体定数に

R0

を用いよ.

[解]

どのような問題であっても, 第一法則, すなわち, 熱力学恒等式

(4.13)

をまず立 てる

(

書き下す

)

ことには変わりない

625:

dG=−SdT +Vdp+µdn (4.13)

求めるべき化学ポテンシャル

µ

は,

G

と一定モル数

n0

を用いて,

dG= d(n0µ) =n0dµ (4.38)

とかけて

626, dn = 0

とおける

.

さらに

,

等温ゆえに

, dT = 0

でもある

627.

以上より, つぎの微分方程式を解く問題へと帰着する:

n0dµ=Vdp (4.39)

一見

,

変数分離形と勘違いしそうであるが

,

それは全くの誤りである

628.

右辺 において

,

変数

V

がどのように積分変数

p

に依存するのかがわからないがゆえ に, 積分できないからである. そこで, 理想気体という仮定のもと, 状態方程式

(Boyle–Charles

の法則) を書き下そう

629:

pV =n0R0T0 = V = n0R0T0

p (4.40)

6254種類の熱力学ポテンシャルの中からGを選んだのは,単に,化学ポテンシャルと関連深いから である. 本節の論法を振り返ればわかるだろう.

626化学ポテンシャルの定義式G==n0µにしたがった.

627このように,注意すべきは,モル数と温度が一定であることだけである.

628左辺だけは積分できるが.

629[2点注意] (i)質量ベースのpV =mRT ではなく,モル数ベールのpV =nR0T を用いた. ここ

に,R[J/(kg·K)]は質量ベースの気体定数で,R0[J/(mol·K)]は一般気体定数(モルベースの

気体定数で,気体の種類によらない“完全な”定数)であった. (ii)添え字の“0”のうち,R0は一 般気体定数を明示するためのゼロである一方で,p,n,T に添えられたゼロは題意のゼロであっ て,全く意味合いが異なるので, 混同してはならない.

これを

(4.39)

に代入すると

,

変数分離形の微分方程式

n0dµ=n0R0T0

dp

p (4.41)

に帰着できて

,

同時に

,

両辺の

n0

は相殺される

630.

その一般解は

,

不定積分

dµ=R0T0

∫ dp

p (4.42)

を実行して,

µ=R0T0lnp+C (4.43)

であるが

(C

は任意定数あるいは積分定数

),

題意の条件

631632

p=p0

µ=µ0 (4.44)

を用いると

,

定数

C

が確定する

:

C =µ0−R0T0lnp0 (4.45)

(4.45)

(4.43)

に戻す

.

求めるべき理想気体の化学ポテンシャルが導かれる

633: µ=µ0+R0T0lnp−R0T0lnp0 =µ0+R0T0ln

( p p0

)

=µ(p) (4.46)

導出後に

,

強度変数

µ

の関数形をよく眺めて

,

それが示量変数に依存しないこと

,

たしかに強度変数だけから構成されていることを確かめることが重要である

634.

630[重要]この事実は重要かつ当たり前である. 化学ポテンシャルはそもそも強度変数であって,モ ル数に依存するはずがないからである. 事実,以下のµの解を見ればわかるように,モル数を考 えていたにも関わらず,モル数が答えに含まれないし,モル数以外にも,いかなる示量変数も含 まない. µ の関数形は強度変数だけから構成される事実を,理由も含めて理解すべきである.

631[用語]これを初期条件だとか境界条件と呼んでもよいが,熱力学は時間も空間も扱わないので, 厳密には好ましくはない.

632不定積分ではなく,定積分とみなして,すなわち

µ µ0

および

p p0

の積分範囲を設定して,計算を 実行してもよい.

633結局,この場合のµ,pだけに依存する1変数関数µ(p)であるがゆえに,それを最右辺に明 示した.

634[別解] Gibbs–Duhemの式(4.10)の式を用いれば,もっと簡単に導出可能である(やってみよ).

§ 5 熱力学的平衡条件と変化の方向

635

われわれは

,

これまでは熱力学を利用する立場にあった

.

熱力学は何を前提と するのか

.

それは

,

系が熱平衡にあることであった

636.

熱力学の目的は

,

ある熱平 衡状態と別の熱平衡状態を結ぶ過程に着目し

,

状態変数の変化や

,

熱と仕事のやり 取りを計算することにあった. 過程の途中は, 熱平衡になくともよかった.

熱平衡にないならば, われわれはどう対応すべきだろうか. そもそも, 熱平衡 とは何か

.

状態変数の変化とは何か

.

変化はどのような方向に進むのか

.

変化はど のようなときに止まるのか

.

本節は

,

これらの問いに対する最も基本的な解答を与 えることを目的とする

.

熱平衡を前提に

,

熱力学の一般関係式を論じていた

§1–§4

とは毛色が変わる

.

熱力学的平衡条件の考察をとおして

,

自由エネルギーの正体と自由エンタルピーの 正体も明らかとなる

.

§ 5.0.1

熱力学的平衡とは

互いに接触している

2

つの系を考える. このとき, 両系の温度が等しいことを 熱的平衡

(

温度平衡

)

という

637.

両系の圧力が等しいことを力学的平衡という

.

両 系の化学ポテンシャルが等しいことを化学的平衡という

.

熱的平衡と力学的平衡と 化学平衡の全てが満たされるとき

,

系は「熱力学的平衡」にあるという

.

したがっ て

,

熱的平衡とは

,

熱力学的平衡の一部である

638.

これを区別すべく

,

以後

,

「熱 平衡」ではなく「熱力学的平衡」という用語を用いる

639640.

本節で扱うのは

,

熱 的平衡の条件ではなく, 熱力学的平衡の条件である.

では, 熱力学的平衡の意味するところは

641,

そもそも何であったか. 互いに

635板書では,都合上,先に§5.1.7から説明する.

636これまで,前提たる熱平衡には, 形式的な定義で誤魔化してきたといっても過言ではない.

637これまでは,これを熱平衡とよんできた.

638系が熱力学的平衡にあるならば,その系は熱的平衡が満たされている. しかしながら,逆は成立 するとは限らない.

639これまで用いてきた用語「熱平衡(thermal equilibrium)」とは,「熱力学的平衡(thermodynamic equilibrium)」の意味合いで用いてきた.

640[注意]ここは, 単なる用語の更新と捉えて, 深く考えすぎる必要はない. 熱力学Iにおいて「熱 平衡」を定義した際には,言うまでもなく,化学ポテンシャルや化学的平衡を引き合いに出すた めの予備知識すらなかったからである. 以後の部分では,「熱平衡」と「熱力学的平衡」の区別 を求めるが,単に,より厳密な表現を用いるだけであって,用語を難しく捉える必要はない.

641ここでは,熱力学Iの「熱平衡」と本節の「熱力学的平衡」を同一視してよい.

接触している

2

つの系に何も変化が起こらなくなったとき

, 2

つの系は熱的につり 合ったといい

,

これが熱力学的平衡の定義である

642643.

2

つの系が熱力学的平衡状態にあるならば

,

それを示す何らかの尺度が定義で きて, そこから温度を定義した

(熱力学I).

温度の導入によって, 2 つの系の熱的つ り合いを言及できること, これが熱力学的平衡の概念の恩恵であった. 温度をはじ めとするさまざまな状態変数は熱力学的平衡を前提として定義されてきた

.

系を 特徴づける状態変数の導入によって

,

ようやく

,

状態の変化を論ずる

644

ことも可能 となったのである

.

熱力学的平衡の概念は

,

「変化しない」という言い回しからも推測されるよう

,

われわれの直感に基づく経験則に過ぎない

.

これまでの議論の全てを

,

熱力学

的平衡を前提に展開してきたが, 逆にいうと, 熱力学的平衡が破られるならば, こ

れまでの議論は意味をなさない

645.

ここでは, 経験則的な理解に頼ることなく, 熱

力学の法則

(

熱力学第

1

法則と第

2

法則

)

を道具として

,

「熱力学的平衡が満たさ

れる条件とは何か」

646

の問いに対する解答を数式表現する

.

ドキュメント内 0 (Preliminary) F G T S pv (1) (ページ 127-130)