§ 3.1 エネルギーの方程式と Joule の法則
状態変数すなわち 2 変数関数としての熱容量 C の独立変数は ,
C =C(T,♠) (3.25)
のように
, 1つは絶対温度
Tである
.もう
1つの
♠は場合によるのだが
,代表的な
2例を挙げる
: (i)定
“圧
”熱容量
CPは
Tと
“圧
”力
pの
2変数関数であり
, (ii)定
“
容
”熱容量
CVは
Tと
“容
”積
Vの
2変数関数である
(理由は後述
):CP =CP(T, p), CV =CV(T, V) (3.26)
定義に移ろう
.一般的にも
,熱容量
Cは
,入熱
d′Qと温度変化
dTを用いて
d′Q=C(T,♠)
| {z }
注意!!
dT (3.27)
と定義される
†422†423.†419[本節では]熱容量だけを述べるが,比熱を扱う場合でも,論法に一切の差異はない(熱力学I).実
用上は,示量変数としての熱容量よりも, 強度変数としての比熱が圧倒的に多く用いられる. “ 単位質量あたり”で測らなければ,そもそも,エネルギーを数えることなど不可能だからである.
†420本節と次節の議論は, 結果だけ見れば, 単純極まりないと感じるかもしれない. しかしながら, その筋道は,大変に細かく厳密なものであることに注意を要する.
†421熱力学I講義資料§4.1を参照.
†422[注意]一見,理想気体の場合と変わらないように見える. しかし, いまは,C が定数ではなくて
“変数”である. ここが違うからこそ,引数(括弧の中)に独立変数を明示した. したがって,入熱 d′Qの影響が,温度変化 dT のみならず, 熱容量 C の変化にも寄与する.
†423[発展(§0.4.3–§0.4.4)]定義式(3.27)をつぎのように書いても,間違いとはいえない:
C= d′Q
dT (3.28)
しかしながら, 分子を見ればわかるように,これは厳密な意味での導関数(微分係数)ではなく て,単なる商である. §0.4.3で,微分演算子を見たならば,それを常にひとかたまりとみなすよ
熱力学
I (§4.3)では
,準静的の仮定のもとで
,理想気体の両熱容量
CPと
CVの 差をとり
,その差に気体定数
(気体固有の定数
)が含まれることを示した
(マイヤー の関係式
(Mayer’s relation))†424.これを一般化するとどうなるのか
.§3.2
の議論の見通しを明快にすべく, 先に結論を述べよう. 準静的な可逆過 程において
†425,つぎの
“一般的な”Mayerの関係式が成立する:
CP −CV =T (∂V
∂T )
p
(∂p
∂T )
V
(3.29)
§ 3.2.2
定容熱容量と定圧熱容量の独立変数
CP
と
CVの導入は
,いささかややこしい
†426.まずは
3つの道具を整理しよう
. (道具
1) 2変数関数としての熱容量
Cの定義を再掲しておく
:d′Q=C(T,♠)dT (3.27)
(道具2)
準静的過程
†427に対する第一法則を書き下す:
d′Q= dU +pdV (3.30)
馴染んできた可逆過程のエントロピー
Sが現れなくなったことを疑問視 するかもしれない. しかし, これは当然の伏線である. 熱容量の定義
(3.27)うに述べたが,d′/dT を演算子とみなすのは気持ち悪いとは感じないか. それよりも,分子d′Q と分母 dT を形式的にひとかたまりとみなす方がすっきりしないか. もちろん, これは1変数 関数だからこそ許される眺め方であった.
[さらに]右辺は,常微分記号dが用いられているがゆえに,温度T の1変数関数を連想させる.
しかし, これは左辺の熱容量がT 以外にも依存する2変数関数であるという定義にも反する.
[したがって]好ましい表記ではないので,本講義資料では使用を避けるが,多数の成書で用いら
れているがゆえに,間違いとはいえないのかもしれない. ここが熱力学の難しさである. もっと いえば, 微分係数としての有限量ではなく,微小量そのものを扱う難しさに端を発するだろう.
†424[用語]厳密にいうと,両“比熱”の差をMayerの関係式とよび,両熱容量の差(や両モル比熱の差
など)には術語(学術用語)を与えない書物も多い——とはいえ,このような軽微な差異に拘る
ことに大きな意味はないので,本講義では,全てをMayerの関係式とよぶこととする. 試験で 出題する場合にも,このような用語で問うのではなく,数式を明確に表現する日本語を用意する.
†425ここで仮定を述べた理由を述べる. 諸君も予想しているように,やはり,準静的な可逆過程の第 一法則から出発するからである.
†426初見では,長ったらしく面くらうかもしれないが,一つ一つを丁寧に見てゆけば,驚くほどに単 純な議論である. ここでは,式変形の動機付けと整理がとくに重要である.
†427逆手に取れば,現時点では,可逆的でなくともよい(不可逆過程を含んでもよい).
には熱
d′Qが含まれているがゆえに
, d′Q=TdSのようにエントロピー を
(3.30)に持ち込んで熱を消してしまうと
,面倒となるからである
†428. (道具3)内部エネルギー
Uを, 独立変数
(T, V)の
2変数関数とみなす
†429.その動
機は単純極まりない: (i) 熱容量の定義
(3.27)右辺の
dTを見て,
Tを選 んだ
. (ii)第一法則
(3.30)右辺第
2項の
dVを眺めて
,Vを選んだ
†430†431.この他に
,微小量
d♠が現れていないのだから
,これ以外の選択肢はない と判断できる
†432.さて
,全微分を書き下しておく
:dU(T, V) = (∂U
∂T )
V
dT + (∂U
∂V )
T
dV (3.32)
なぜ全微分を書き下したのか
. dTと
dVが含まれるがゆえに
, (3.27)(3.30)と組み合わせれば
,整理できる見通しが立つからである
(以下で実証
).道具が整ったところで
, (3.27)(3.30)(3.32)それぞれの両辺の各項に
,定容すな わち
“Vを固定
”†433する条件を課して
,どのようになるかを調べてゆく
†434.†428持ち込むことが誤りというわけではない. 事実,可逆過程においては,
d′Q=CdT =TdS =⇒ CdT =TdS (3.31)
が成立する. しかし,本講義ではこの式を用いることはない.
†429[重要]なぜこの操作が必要なのか. ここまでで, dT, dV, dU という3変数が現れていることへ の不満を感じないだろうか. 熱力学の独立変数はわずか2変数でよかったからである. すなわ ち,3変数を2変数にまとめて簡単にしたいと思わないだろうか.
†430[直観的まとめ] (i)熱容量を論ずるのだから温度T 依存性は必須であって, さらに, (ii)定容を
議論したいのだから容積V 依存性も取り込まねばならない.
†431[うっかりと]「(3.30)右辺第1項のU を候補にしてはどうか」と思いそうにもなる. しかし,い
ま U を従属変数に選んだのだから,U を独立変数に選べるはずがない.
†432[要約]dT と dV しか現れていないのだから,U(T, V) 以外の選び方はありえない. もちろん, 熱力学のルールによれば, U(T, V)以外であってもよいが,ここでは無意味となる.
†433[重要注意(勘違いする者が多数)]V 固定とは, 偏微分する“瞬間”に限ってV を一定とみなす 操作である. 決して,独立変数の中からV が消えることを意味しない. 次式は誤りである:
dV →0 =⇒ U(T, V)→U(T)
| {z }
誤り
(3.33)
そうではなくて,V を固定しながら,片方の変数T に対する変化(率)を眺めるのである.
†434熱力学Iよりも厳密に注意深く観察せねばならない.
(
定容
1)熱容量の定義は
, (3.27)の両辺に添え字
Vがついて
, Cが
CVとなるだ けである
:d′Q|V =CVdT|V (3.34) (定容2)
第一法則
(3.30)からは, 右辺第
2項の
dVが消えるだけである
†435:d′Q|V = dU(T, V)|V (3.35)
ここで
, (3.32)すなわち
U(T, V)なる独立変数依存性を右辺に明示した
.定容すなわち
Vが一定
(dV = 0)でも
,Uの
V依存性は消えない
†436†437.†435熱力学I講義資料(§4)では,右辺のU につける添え字(V 固定)を省略した.
†436ここを勘違いしてはならない. 以下の偏導関数の定義(†437)と類似の考え方である.
†437[再注意]偏導関数(∂f /∂x)y において,y を固定させるのは,xで偏微分する“瞬間”に限る. 偏 微分した“後”には,y は xと同じく独立変数であり続ける. y が定数なのではなく, 極限記号 から無視されているだけである. これでも理解できなければ, 具体例を書き出して理解するか (第3回講義板書),以下の偏導関数の定義式を数時間眺めよ(§0.4.2):
(∂f
∂x )
y
≡ lim
∆x→0
f(x+∆x, y)−f(x, y)
| ∆x{z }
yは動いていないが,定数ではなく変数
(0.35)
(
定容
3) Uの全微分
(3.32)に
V固定を課すこと
†438†439†440が肝である
: dU(T, V)|V =(∂U
∂T )
V
dT|V (3.36)
これら
(3.34)–(3.36)を組み合わせると, 定容熱容量を状態変数だけ
†441で表現 する式をうる
†442†443:CV = (∂U
∂T )
V
=CV(T, V) (3.37)
(3.26)
で天下り的に述べたように
,CV(T, V)という独立変数依存性が現れた
. (3.37)自身を定容熱容量の定義とみなすこともある
†444.ここまでは
,過程が準静的であ
†438[全微分(復習)]V 固定とは, dV = 0 を意味するので,速やかに右辺第2項は消える: dU(T, V) = dU(T, V)|V + dU(T, V)|T, ここに, dU(T, V)|V =
(∂U
∂T )
V
dT|V
†439[数学(§0.4.2)]自身が全微分を理解できているのかを自問自答してほしい. 熱力学で用いる数
学の知識はごく少数(解析IIの全微分と偏導関数,応用数学の偏微分方程式のごく一部)である が,細部を精確に理解できていなければ足をすくわれる. 定義と考え方だけが重要であるが, 定 義式を単に書き出せるだけは理解を意味しない. 多数の演習問題を解ける必要も全くない.
†440[重要]V 固定ならばU =U(T)なる1変数関数に帰着するという考えは誤りである. また, 偏 微分記号を∂ を勝手に常微分記号d に変更した次式も誤りである:
dU|V = dU dTdT
演算子∂/∂T でひとかたまりであるし,偏導関数∂U(T, V)/∂T でひとかたまりなのである. た とえ V を固定しても,U においても,U の偏導関数においても,U の V 依存性が消えることは ない(§0.4.2). [補足]偏導関数の定義(§0.4.2)に立ち戻ってもわかるように,また, (∂U/∂T)V
の添え字V をみてもわかるように,偏導関数ではV は元より固定されており,いま V を一定 と課したところで, 偏導関数は何も変わらない.
†441[重要]熱という非状態変数 d′Q が消滅した. ここが重要である. これで,数学的に格段に扱い やすくなり,自由に微積分できるからである.
†442一般市民や諸君の常識では,比熱(や熱容量)とは,普段より物性値として接することが多いだ ろう. それゆえ,本節冒頭で「熱容量は状態変数」と述べたときには,違和感を感じたに違いな い. しかし, (3.37)の右辺をみると,もはや熱容量が状態変数であることに疑う余地などない.
†443(3.37)の両辺に形式的に∂T を掛けて,つぎのように書くのは誤りである:
∂U =CV∂T, dU =CVdT
ただし, 後者は,理想気体においては成立する場合がある(後述および§0.4.3).
†444(3.37)は, 定義ではなくて結果ではないかと思うかもしれない. 結論からいうと,どちらでもよ
い. (3.37)を定容熱容量の定義として記憶してもよい. これに至るまでの議論が複雑であるこ とも理由の一つなのだが, 記憶を推奨するほどまでに有用かつ強力な公式であることもまた大